~ファイル60 木・土・金・水、残る1つは~
「・・・・・・うるるぉぉあっしゃぁーっ!」
ズダァンッ!
「ぐええぇー・・・・・・」
「はぁはぁ、はぁはぁ・・・・・・。だ、大丈夫か、みんな! ・・・・・・く、久保巡査っ!」
二斗刑事が、久保巡査に駆け寄る。
「だ・・・・・・大丈夫です。・・・・・・だいぶ、手傷を負いましたが・・・・・・。ぐっ・・・・・・」
廃墟の外では、二斗刑事と久保巡査がボロボロになりながら、デスアダーの雑兵を何とか倒し、取り押さえていた。
最後の一人を、二斗刑事は柔道の「払い腰」で投げ飛ばし、そのまま倒したのだ。
本署に応援も呼び、パトカーがさらに数台現場に訪れていた。
次々と手錠をかけられ、公務執行妨害と殺人未遂の現行犯逮捕で、雑兵の男たちは大型パトカーに乗せられている。
「大丈夫ですか、二斗刑事! 久保巡査!」
応援に駆けつけた若い刑事が、二人に駆け寄ってきた。
「私は大丈夫だが、やられて倒れている仲間の傷は深い! す、すぐに救急車を!」
「わかりました! ただちに!」
市街地の方から、サイレンがいくつも鳴り、二斗刑事たちのもとへに向かってくる。
久保巡査は立ち上がり、小紅たちのいる廃墟へ目を向ける。
「二斗刑事。中から、破壊音や叫び声も先程から聞こえます! ・・・・・・行きましょう!」
「しかし久保巡査、その傷では! 君はあくまでも交番勤務。ここは・・・・・・私が行こう!」
「す、すみません。・・・・・・私ももっと、逮捕術に磨きをかけねばなりませんね。ははっ」
久保巡査は苦笑いし、脇腹と膝を押さえながら、よろよろと二斗刑事に敬礼をした。
二斗刑事も、左腕を押さえながら、右足をやや引きずり、若い刑事とともに廃墟へと足を進めていった。
* * * * *
「足、フラフラじゃねぇか。・・・・・・オレの剣を、下がって躱してばかりだからだろうな・・・・・・」
「うっさいな! ・・・・・・あんたをこの手で倒すまで、あたしは、何でもやるっての!」
「ふん・・・・・・。確かに毒島さんが、消したがるわけだぜ。・・・・・・しつけぇ女だ・・・・・・」
ジョーは小刀を軽くぽんと宙に放って、また片手で受け止める。
「あたしたちが・・・・・・必ずここでお前を倒す! お前の刀は、半歩下がれば躱せるんだ!」
「(こ、小紅センパイーっ! それ言っちゃ・・・・・・や、やばいでしょーっ!)」
心配そうに見つめる、水穂。澪も、ごくりと生唾を飲み込み、身構えている。
「ふん・・・・・・。早乙女小紅ぃ! おめぇの動きは、もう、分析済みだぜ!」
点のように黒目を小さくし、ジョーは目尻を吊り上げて一気に小紅へ小刀を振るう。
真横に振られた刃を、小紅は半歩退いて躱す。
その返しの刃が、首の血管を狙って斜め上から振り降ろされる。
しかし小紅は再び、前足で床を蹴り、バックステップで下がって紙一重で躱していた。
・・・・・・バシイッ がくうんっ!
「え! そ、そんなっ・・・・・・」
ジョーは、小紅が後ろへ下がるのを読んでいた。
バックステップする際の前足を、真横から力強く蹴り、払い飛ばした。
姿勢を崩されてしまい、その場で腰が落ちる小紅。
ジョーはにやりと笑い、まるでスイカを割るかのように、真上から一直線に白刃を頭へ振り降ろした。
「(にやっ!)」
「・・・・・・ん!」
だが、小紅も同じくにやりと笑っていた。白刃を振り降ろすジョーの眉が、一瞬、ぴくりと動く。
「引っかかったね、ヨーヨー野郎! ・・・・・・この攻撃をあたしは、誘い出したんだっ!」
ガシイイィッ!
振り降ろされるジョーの手を、小紅は両手首を交差させ、立ち上がりながら挟み込むようにして受け止めた。だが小紅が止めたのは小刀ではなく、ジョーの腕の方だったのだ。
「・・・・・・誘い出した、だと?」
「あたしの動きやクセを、よーく読んでたんでしょ? だったら、あたしの前足を崩して斬り込んでくるだろうと思ったよ! だから、わざと何度も、バックステップしてたの!」
・・・・・・クルンッ ギュルッ ベキイィィーーッ! ・・・・・・カラァンッ
そのまま小紅は、ジョーの手首を右手で掴み、捻り込みながら引っ張る。同時に、顔面へ強烈な左の肘当てを打ち込んだ。小刀は、ジョーの手からゆっくりと落ちる。
「ぐ、ぐあぁっ! ・・・・・・オ、オレが、こんな女に、駆け引きでやられるだと・・・・・・」
「観念しろ! デスアダーっ! このろくでなしめーっ!」
・・・・・・シュバアッ バキャアァッ!
肘当てを叩き込んだ顔面を、さらに小紅は真下から思い切り蹴り上げた。
ジョーは、口から折れた歯と赤い飛沫を噴き出し、そのまま後ろに吹き飛んで倒れた。しかしすぐに、よろよろと立ち上がり、腕をだらりと下げた後、前屈みになって拳を握りって構える。
「く・・・・・・くそぅ・・・・・・。やりやがった・・・・・・な・・・・・・。・・・・・・まだだ! 倒れねぇぞ!」
覚束ない足取りで、一歩前へ踏み出すジョー。
小紅の蹴りでかなりのダメージを負い、膝ががくがくと震えている。
「・・・・・・澪っ! 水穂ーっ! 二人とも、これで最後だよ! 一気にやろうっ!」
「「 は、はいっ! 」」
小紅、澪、水穂の三人は並んで腰を落とし、右拳をぐうっと握り混み、大きく引き絞った。
「あたしたちの連携力、思い知れーっ! デスアダーめーっ!」
ドシュンッ! バシュンッ! ズッドオンッ! ・・・・・・ドグアッシャァンッ!
三人同時に踏み込み、ジョーの左脇腹、胸、右脇腹へ強烈な中段突きが叩き込まれた。
ジョーは朽ちた木の板を突き破り、石灰袋が乱雑に積まれた中へ吹き飛ばされ、意識を失って沈黙した。
「はぁー・・・・・・はぁー・・・・・・。や、やったね! あたしたちの勝ちだ! ・・・・・・どうだ!」
「・・・・・・あの男、完全に意識失ってます。今度こそ、やりましたね!」
「小紅センパイ! 早く、止血しなきゃ! うわわわぁー」
「なーに・・・・・・。だいじだって! こうしてれば、だいじ!」
小紅は右手で、左腕をぎゅっと握り、水穂へ笑顔を見せた。
「それにしても、水穂・・・・・・ごめんね? あたしと間違われて連れ去られたなんてー」
「ううん。いーんです! 私も、ちょっとヒヤヒヤしたけど、小紅センパイが助けに来てくれるって、何となく信じてたしー。・・・・・・ある意味、いろいろ勉強になったなー」
水穂はハンカチで小紅の左手をごしごしと拭く。すると突然、頭の青いヘアゴムを外し、いつもの下げ髪に結い直した。
「えへ! 私、やっぱりこっちのがいーかな?」
「うん! 水穂はやっぱり、このほうがかわいいよ。あたしの髪型にして、いろいろと大変だったでしょ?」
「うーん。まぁ、ねー・・・・・・。それよりも私、小紅センパイのモノマネは、やっぱり上手にできないみたい。バレバレだったんだもん。だから、やめるー」
「は? なにそれ? まぁ、本当に、無事だったからよかったよー」
澪は、水穂と小紅を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「小紅サン。・・・・・・あっちに転がってる、あの女は・・・・・・」
「倒したヨーヨー野郎が言ってたのが本当なら、とんでもなく可哀想な人だ。無理矢理に連れ去られ、まさか、薬漬けの実験台にされた姿なんて・・・・・・。ぞっとするよ・・・・・・」
澪と小紅は、石灰とセメントまみれになった多加田を見て、目を震わせていた。
水穂は、多加田を見るとまた鳥肌を立たせ、ぶるぶると震えている。小紅と澪に「はやく帰ろう」と促しているが、それを小紅は優しく頭を撫でて宥める。
「だ、大丈夫かねっ! ・・・・・・ん! さ、早乙女さん! なぜ君がここにっ!」
傷を負った二斗刑事が、若い刑事と建屋内に姿を見せた。
「・・・・・・水穂は、無事でした。・・・・・・そっちの男も、そこの女も、とんでもないやつでしたが、今は意識を失ってます。・・・・・・あー、痛ぁい! 疲れたぁーっ・・・・・・」
小紅は首をこきんと左右に鳴らし、深く溜め息をついた。
「君たち、あちこちケガをしてるじゃないか! いったい、どういうことだ?」
若い刑事は、小紅たち三人に、詳しくこれまでの状況を聞いた。
ジョーの持っていた武器は警察にその場で押収され、多加田が着ているライダースーツのポケットからは、白い粉の入った小袋が複数見つかった。
刑事がこれを特殊な検出機器と液体で調べると、液体の色が青色に変わった。
多加田はその場で、覚せい剤所持使用の疑いにより、緊急逮捕となった。
ジョーは、未成年誘拐、銃刀法違反と殺人未遂の容疑により、同じく逮捕となった。
「はぁー。・・・・・・強敵だったなぁ・・・・・・」
さすがの小紅も、身体のあちこちに傷を負い、ダメージはそこそこにあるようだ。
板賀地区での死闘は、こうして幕を閉じたのだった。
* * * * *
・・・・・・ファンファンファン パァーオパァーオパァオ ファンファンファン
「三人とも、傷の手当てが応急処置で申し訳ない。すぐに、病院で治療を受けてくれ」
「平気ですって、二斗刑事! あたしは慣れてますから。ケガも、大したことありません。それよりも、デスアダーの手口や犯行が、ますます過激になってるみたいですね?」
「うむ・・・・・・。今回の手口も過激だが、暴力団の事務所すら簡単に奴らは襲うようだ。一刻も早く、毒島仁英を見つけ出し、根絶やしにしなくてはならない・・・・・・」
二斗刑事は、小紅たち三人の顔をそれぞれ見て、渋い顔をして空を見上げる。
「今日逮捕したあのジョーって男への取り調べで、親玉の毒島仁英のこと、わかりそうですか?」
澪が、眼鏡をくいっと指で直し、真顔で二斗刑事に問いかけた。
「いや、どうなるかはわからん。・・・・・・だが、必ず聞き出すとしよう! 先日逮捕した覆面の男や、宇河宮で逮捕された外国人が、デスアダーという組織の中でも特別な五人の『五行節』というのはわかった! 今日逮捕した男も、その一人なんだね?」
「五行節のジョーって言ってました。あたし・・・・・・これで五行節に狙われたの三回目です。もう四人倒したけど、また必ず、あたしを狙ってくると思います!」
小紅は、傷を負った自分の左手を見つめながら、ぐっと口を横一文字に結んだ。
「とにかく、気をつけよう。危険を感じたら、みなさんはすぐに必ず警察へ連絡を! 奴らを捕まえて組織ごと根絶やしにするために、我々も日々、捜査をしますので」
「二斗刑事、そろそろ・・・・・・」
若い刑事が、大型パトカーに二斗刑事を呼んだ。「うむ」と返事をし、三人に向かってさっと手を挙げ、二斗刑事はパトカーに乗り込んでゆく。
「では、稲葉さんは私がパトカーで家まで送るよ。二人はここまで、何を使って来たの?」
久保巡査は、パトカーに水穂を乗せ、小紅と澪に声をかけた。
「あたしと澪は、むこうに自転車停めてあるんでー。ゆっくり帰りますよー」
「その手のケガで、大丈夫かい? なんなら、他のパトカーに自転車を積んで・・・・・・」
「いいのいいの! はい、久保さん、水穂をよろしくね! あたしは澪と帰るからー」
「そ、そう? じゃ、十分に気をつけて!」
「はぁい。ありがとうございますー。久保さんも、気をつけて!」
「小紅センパイ。それじゃ、お先にー。澪も、センパイも、帰り道気をつけてねーっ?」
パトカーの後部座席から手を振る水穂。小紅と澪は、笑いながら、手を振って見送った。
その後、二人はまた、自転車を停めていた場所へ戻り、ゆっくりとペダルをこいでいった。
「痛った! やっぱ、痛いや・・・・・・。ねぇ、澪ー。制服って、どうやって縫えばいい?」
「さぁ? わたしも、制服は縫ったことないです。早乙女師範に新品を頼むしか・・・・・・」
「えぇ? じーちゃんに言えるわけないよ! ・・・・・・来週、パジャマで学校行こうかなー」
まるで、普通に学校から帰るような雰囲気で、夕空の下を二台の自転車は進んでいった。
茜色の空には、夕日をバックに雁の群れがシルエットになって浮かび上がっていた。




