~ファイル56 ホンモノの早乙女小紅~
ドスンドスン ドスンドスン ジャラランジャララン
「小紅サン! この女、巨体とは裏腹に、足捌きにムダがありません!」
「澪は横に! あたしは正面から迎え撃つ! こいつは、武器は持ってないっぽいし!」
警察とデスアダーの真っ向対決が始まった頃、小紅と澪は、不気味な肥満体の女を相手に戦闘開始。
「ぶぶあぁー・・・・・・。ぐあひひひぃ! ぶぶぶー・・・・・・。ぎゃひひひ!」
ドスンドスン サササッ
女は、その巨体を揺らしながら、リズムの良いステップを踏み始めた。
頭を振りながら、丸い拳で顎と鼻の前を守るように、肘を折りたたんで構えている。
「いかれたやつのくせに、構えはしっかりしてる! 澪・・・・・・この構えってさぁ・・・・・・」
小紅は、女の正面で素速くジグザグに動き回りながら、間合いを取って様子を見る。
「これは・・・・・・。小紅サン! この女は『ピーカブー・スタイル』という構えです!」
「え! ピーカブー? ・・・・・・それって、ボクシングじゃん! 漫画で読んだことある!」
澪も、安定した重心を保ちながら高速移動。小紅とは別方向から、女を分析しながら構える。
「はい! この巨体の女、きっと、ボクサー崩れですよ! なぜこんな感じになっているのかは、わかりませんが・・・・・・」
「ボクサーか! ・・・・・・この身体じゃ、パンチ力はけっこうありそうだね!」
「ぎゃひひ・・・・・・。ぶおあぁーっ!」
「「 ! 」」
突然、女は一気に背を丸くするようにして猛突進。
まるで、重戦車が突進するかのように、腕を折りたたんで小紅に向かってきた。
そして、丸い石のような拳が、小紅の顔面を狙って真横からコンパクトに振られた。
・・・・・・サァッ! ぎゅばあぁーっ! ドッガシャアアァンッ! メシャアッ!
「・・・・・・ふぅ。無駄のないフォームだこと! 本当に、ボクシングやってたっぽいね!」
半歩後ろに下がり、冷静に紙一重で拳を躱した小紅は、相手の拳に動じることなく構え直す。
女の拳は、そのまま横に積まれていたドラム缶を直撃。その威力で、ドラム缶をめしゃめしゃに潰してしまった。
「う、うそっ! す、すごい破壊力。小紅サンだから避けられたようなものだけど・・・・・・」
「ふぅん・・・・・・。でも、あのブライアンって外国人のほうが、さすがにパワーはあったなー」
女のパワーに驚く澪だが、小紅は余裕の表情だった。
「ぎゃひひひぃ・・・・・・。ぶぶぁー・・・・・・。んぐふぅー・・・・・・」
さらに、女は頭をぐるんぐるんと振りながら、小紅にストレートパンチを繰り出す。
ぎゅばあぁーっ! ・・・・・・バァッチイィンッ!
「ぎゃひ? ぶふぅ?」
その体格差からパワー差は歴然のはずだが、小紅は女のパンチを真っ正面から両手で受け止めた。
「い、いったいなぁーっ! ・・・・・・このメタボ女めーっ!」
・・・・・・ササァッ ギュルンッ グイッ バキャアッ!
すると小紅は、足捌きを駆使して女の横へ回り込み、手首と肘を固めるように持ち、その腕を引っ張り込むと同時に女の膝を踵で踏み砕いた。
「ギュ、ギュベアアァーッ! ・・・・・・はひぃー・・・・・・はひぃー・・・・・・」
「あたしらは水穂を助けに来てるんだ! 邪魔すんなぁーっ!」
・・・・・・バシイイィィーッ! どさり
膝を砕かれて前のめりに倒れ込んだ女に、小紅の踵落としが後頭部に決まった。
女は、その場で、ぱたりと動かなくなり、意識を失って沈黙。
「すごい、小紅サン! こ、この巨体の相手を、膝を砕いてあっという間に!」
「ボクシングだろうが何だろうが、こんな太ってたらさぁ、足首や膝に負担がかかるのは当たり前でしょ? ・・・・・・でも、ひっさびさに、形の技が自然に出たなー」
小紅が相手に仕掛けた技は、長年修練を積んだ糸恩流空手を代表する形の技だったのだ。
「抜塞大の形に出てくる技でしたね、さっきのは。初段取るとき、小紅サンがわたしと水穂に、よく教えてくれましたよね?」
「そうねー。もう、何千回と繰り返した形だからかな。無意識に身体が動いたよ?」
「しかし、こんな門番がいるなんて、驚きました。さぁ、行きましょう!」
「よし! 澪! 蹴破るよ! いち・・・・・・にの・・・・・・さぁん!」
・・・・・・ドガアァンッ! バカァンッ!
小紅と澪は、勢いをつけた横蹴りで鉄の扉を蹴っ飛ばした。
すると扉が開いて粉塵が舞い上がり、穴の空いた屋根から差す光がそれに当たり、建屋内は一瞬、煙幕のように霞んでしまった。
蹴りの威力で下の蝶番が外れ、扉はぐらぐらと歪んで、そのまま開きっぱなしになった。
「水穂ーっ! 無事だったーっ? あたしたちが来たからには、もう、だいじだから!」
「よかった。水穂ー・・・・・・。あ! く、唇切ってるじゃないかっ! 鼻血も!」
「こ、小紅センパイ! ミオーっ! 私はだいじだよー。ちょっと、痛いけど・・・・・・」
舞い上がった粉塵の中を駆け、水穂は小紅たちのもとへ。
次第に粉塵の靄が薄くなると、その奥には、ゆっくりと立ち上がるジョーのシルエットが浮かび上がった。
小紅はそのシルエットに向かって、啖呵を切る。
「・・・・・・お前だったのか、水穂をさらったのは! ・・・・・・宇河宮でのあれ以来よね?」
「気をつけて、小紅センパイ・・・・・・。あのジョーって男、強いんだよぉ!」
「雰囲気が、危険な感じです! 小紅サン、あの男、ただ者じゃないです!」
「わかってる。あたし、あの男とは一度、対峙してるけど、あの時とは別物だ・・・・・・」
警備員の制服のような服装のジョーは、小さな五芒星のバッジをつけた帽子を指でくいっと直す。
そして、くわえていた葉っぱを、ぷっと吹き捨てた。
「来やがったか、ホンモノの早乙女小紅! ・・・・・・ザコ警察は、使えねぇ手下に任せるとして・・・・・・。オレは、任務を果たすとするか・・・・・・」
セメント袋の山から飛び降り、ジョーはゆっくりと、背中の刀をすらりと抜いた。
そして、その切っ先をぎらっと光らせ、小紅たちに向けて斜に構えた。その構えには、微塵も隙がない。
「さぁ・・・・・・始めようぜ? デスアダー、五行節のジョーこと、この水上丈が相手してやるぜ、早乙女小紅!」
・・・・・・ジジィィーーーーッ ギュギュゥーッ
左手に刀、右手にヨーヨー。静けさと鋭さを持ち合わせた危険な雰囲気の男、五行節のジョー。
「・・・・・・五行節。やっぱりか! 水穂をこんな目に遭わせて、許さないよ!」
小紅は、ジョーに対してきりっと目つきを変え、闘気を開放。
その拳を二つ、固く握って相手に向け、前傾姿勢で構えた。
五行節の一角であるジョーは、どれほどの実力者なのだろうか。




