~ファイル53 水穂ちゃん、頑張る~
「なっ、なにそれ! 水穂が後ろから袋を被せられて、連れ去られたぁ?」
「はい。『ブスジマさんに刃向かった罰だ』と・・・・・・男たちは言ってました」
「デ、デスアダーの仕業かっ! ・・・・・・あ! そ、そうか!」
「どうしたの、小紅ちゃん?」
小紅は唇をぎゅうっと噛み締め、表情を曇らせその場で考え込んでしまった。
「(あたしと間違えたんだ! なんてこった! ・・・・・・水穂。絶対に助けてあげるから!)」
考え込む小紅の顔を、優太が眉を曲げて見つめる。
「大丈夫? 小紅ちゃん?」
「・・・・・・何でもないよ、優太。・・・・・・澪! 何か、情報はないの?」
「小紅サン。場所は恐らく、板賀地区の廃墟群。警察もさっき、そこへ向かいました!」
「板賀の廃墟群? 昔、何回か、近くまで行って遊んだことがある場所だ! わかった! 警察も、そこへ向かったのね? ・・・・・・あたし、さすがに黙ってらんないよ、これ!」
「わたしもです。水穂が・・・・・・。わたしの幼馴染みが、ピンチなんですし!」
小紅と澪は、顔を見合わせて、その場で言葉なく頷いた。
「こ、小紅ちゃん。澪ちゃんも・・・・・・」
「ごめんね、優太。せっかくの誕生日なのに・・・・・・。これは、ほっとけなくてさ!」
優太に残念そうな表情を見せる小紅は、髪を一度解き、前髪をさあっとかき上げた。
両手の指先は再び紅色の髪留めを使って栗色の髪を束ね、あの見慣れた髪型に結い直した。
「やはり、小紅サンは、これが一番似合ってます!」
「小紅ちゃんも、澪ちゃんも、行くんだね? ・・・・・・ケガしないよう、気をつけてね?」
「うん! ありがと、優太! 澪、急いで家から自転車持ってこよう!」
「はい!」
「ふざけやがって、デスアダーめ! 水穂をさらうなんて、とんでもないわ!」
小紅は澪と、全力疾走で自宅の方へ駆けていった。
優太は、小紅からのプレゼントをぎゅっと抱え、二人の背中をずっと見守っていた。
* * * * *
・・・・・・ジィィーーーッ ギュギューーッ
鋼のヨーヨーが、音を立てては手から離れ、また、巻き戻りながら手に戻る。
「ご苦労だったな、おめぇら。・・・・・・うまくいったようだな。・・・・・・褒美だ!」
ジョーは、ヨーヨーを操りながら、男たちの前に、大量の札束をどさりどさりと、手荒く投げる。
「や、やったぜ! 金だぁ! 金だ、金だ! ひゃはは!」
「あ、あざぁっす。ジョーさん! 早乙女小紅、わかりやすかったっす!」
「見て下さいよ、ジョーさん! これ! 麻袋作戦、バッチリっす!」
水穂は、とある大きな廃墟の中に連れ込まれ、未だに袋を被せられたまま。
「(ど、どうしよう。ここで、小紅センパイじゃないよーって言っても、逆に、『秘密を知られたからには死んでもらう。フハハハハ』みたいなこともあるかもー。ひぃーっ!)」
「・・・・・・ところで、だ・・・・・・。なんでそいつは、動かない・・・・・・?」
「あ、なんか、ずっと静かなんすよ! 無抵抗で、ずっとこうしてますぜ?」
「・・・・・・ん? ・・・・・・なんだと? ・・・・・・無抵抗、だと?」
ジョーは、古ぼけた石灰袋とセメント袋が積まれた上に座っていたが、そこから一気に飛び降りた。
「妙だ・・・・・・。あの早乙女小紅が、まったくの無抵抗だと? ・・・・・・いくら丈夫な麻袋をかけられてるとは言え・・・・・・。・・・・・・おめぇら、その袋を一度、とれ!」
ジョーは、四つ葉のクローバーを口にくわえながら、手下の男たちに、びしっと指を向けて力強く命令した。
「(や、やっばぁーっ! バレちゃう! ・・・・・・こうなったら、できるだけ、私自身で工夫して、この場をやり過ごすしか・・・・・・)」
・・・・・・ざしゅっ ごろんごろんごろん だだんっ!
「「「 うおぉっ? 」」」
水穂はいきなり横に転がり、うまく両足を使って立ち上がった。男たちは、目の前で麻袋が唐突に動きまわったことに、びくっと驚く。
黄土色の袋が、まるで巨大な巾着袋のように立っている姿は、どこかシュールだ。
「・・・・・・ジョ、ジョーさん? こいつ、立ち上がりましたぜ!」
「へ、へんなやつだ! ホントに強えんですか、こいつ?」
「(この麻袋、目が粗いからか、布越しにでも意外と見える! 腕も・・・・・・これ、ボロい穴から、出せそう! ・・・・・・てやーっ!)」
・・・・・・ぎゅっ ばんっ! ばんっ!
袋の縫い目がほつれている部分から、水穂は両腕を出した。
それは茶巾袋から黒い腕が生えたようで、ますます奇妙な姿になった。
「なっ、なんだぁ、こいつぁ? ふざけたやつだ! ひゃははははは!」
「(うひぃー。私、ほんとにこういう状況なんだぁ! ・・・・・・相手は、目の前に三人、か。確か、小紅センパイなら、こういう時、両端のどちらかをまず、一気にやるんだっけ)」
水穂は布越しに男たちの様子を窺っている。そして、腰を落として重心を下げ、すうっと構えた。
「早乙女小紅の実力を疑ってんなら、おめぇら自身で体験しろ! ・・・・・・やれぇ!」
ジョーが、男たちに指示を出した。それを合図に、一気に男たちは、水穂に襲いかかる。
「「「 ひゃあっはははははぁーっ! 」」」
「(き、来たぁーっ! こうなりゃ、私は、小紅センパイになる! やってやるーっ!)」
ダダダダッ! バチンッ! バキャッ! ドカドカドカ!
「う、うぐおぁぁっ・・・・・・」
まずは右側の男に水穂は猛ダッシュ。
足首を横から刈り払うようにして蹴ったことで男がバランスを崩すと、左の肘当てと中段突きを三発打ち込む。男は、たまらずその場に倒れた。
「く、くそがーっ!」
ドカンッ! ベシンッ! バシバシバシ! バキャッ! ドカンッ!
残り二人も一気にかかってきたが、水穂は前蹴りで突き飛ばし、まずは一人の顎に手刀打ちを叩き込み、さらに上段突きを三発。
もう一人には、膝の横へ蹴りを入れ、そのまま前蹴りで顎を蹴っ飛ばした。
シュールな姿の麻袋に倒された男三人。それをジョーは、黙って見つめ、しばらく時間を置いてから拍手を始めた。
「・・・・・・すげぇぜ。はっはっは。いやぁ、すげぇ・・・・・・。たいしたもんだ」
「(よ、よかったー。ふぃー。バレてないっぽいじゃんー・・・・・・)」
「・・・・・・で? 誰なんだ、おめぇは? ・・・・・・早乙女小紅じゃねぇな。・・・・・・誰だよ?」
「(い! な、なんでぇ! 私のモノマネ、下手なのかな? や、やばぁーっ!)」
麻袋の中で、冷や汗を垂らしまくる水穂。ジョーには、なぜか、バレているようだ。
「な・・・・・・なんのこと? 私は、早乙女小紅だよ! ほら、強いでしょ!」
「・・・・・・オレが、そんなクソ芝居に、騙されると思ってんのか?」
「・・・・・・うぅ!」
「・・・・・・変なことはしねぇ。・・・・・・袋を脱げ。・・・・・・誰なんだ、おめぇは・・・・・・?」
しばらく黙っていたが、水穂は、ゆっくりと麻袋を脱ぎ捨てた。
「あ・・・・・・? そうか。・・・・・・つくづく使えねぇやつらだぜ。・・・・・・間違えやがったな!」
ジョーは溜め息をついて、セメント袋の山に寄りかかった。
「あ、あのさー・・・・・・。なんで、私が、小紅センパイじゃないってわかったの!」
「小紅・・・・・・センパイだと? ・・・・・・おめぇ、早乙女小紅と、直接の知り合いか・・・・・・。やれやれだぜ・・・・・・。いいか! よく聞け、パチモン娘!」
「パ、パチモン娘って! なによそれーっ! おいーっ!」
「うるせぇよ・・・・・・。いいか? 早乙女小紅なら、恐らく、この廃墟内の地の利を活かす。そのまま素手で戦おうとは、しねぇだろうな・・・・・・」
水穂は、ジョーの冷静な分析に目をぱちくりさせる。
「(うっ! こ、この警備員みたいな人、小紅センパイの特性を・・・・・・分析済みってことぉ?)」
「それに、威力と速さだ! ・・・・・・おめぇも並以上には強ぇが・・・・・・早乙女小紅は、そんなもんじゃねぇぜ? ・・・・・・もっと強ぇし、もっと速ぇ! ・・・・・・そういうことだ」
「す、すごっ! 小紅センパイを、そこまで分析してるなんて!」
「うるせぇやつだ。だが、これで確信したぜ。人違いで、後輩を拉致ったってことは・・・・・・あいつは、おめぇを助けに、必ずここに来るってな! ・・・・・・良いエサだ、おめぇはよ」
ジョーは、帽子をぐいっと被り直し、クールな笑みを浮かべる。
背中には、太くて長い刀のような物を背負い、手には鋼のヨーヨーを装備しているのが見える。
「こ、このやろー。ここは、この私が、鉄拳制裁をー・・・・・・」
・・・・・・シュバアァッ シャキイィィーンッ! ぎらりっ
「うあ・・・・・・ぁっ! えぇ・・・・・・っ?」
水穂がジョーに正拳を叩き込もうと動き出した瞬間、背中の刀が抜かれ、水穂の喉元に切っ先が突き立てられた。
技の起こる動きを一瞬で止められた水穂は、へたりとその場に座り込む。
「・・・・・・突き刺して殺すくらいは、簡単だ・・・・・・。まぁ、黙ってな・・・・・・」
静かに、ジョーは刀を鞘に収める。
水穂は、その時を見逃さず、再度、「このやろー」と叫んで拳をジョーに向け、振り上げた。




