表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#5 小紅、華蓮、みかん、三人のオンナノコ!
22/84

~ファイル22 美味いパーコー麺が台無しじゃないか~ 

  ・・・・・・じゅわわわ じゅわわわわー!  ずおー  がこんがこん!


「いい匂いだね・・・・・・。あたし、お腹空いた。早く食べたいー。エネルギー不足だー」

「そうねー。わたくしも、ラーメン大好きなのでー・・・・・・。これは、期待できるねーっ!」

「わ、私も、部活帰りだったから・・・・・・。空腹だなー・・・・・・。美味そうな匂いだな」


 路地裏にひっそりと建つ、こぢんまりとしたラーメン屋。

 新しい店だが美味しいとの口コミが多く、あっという間にその情報が広がったのか、店内は、お客さんでいっぱいだ。

 厨房では、丸い黒縁眼鏡をかけ、細長い三つ編み髪をした男性が、長い棒で麺を打っている。

 それは、無駄の無い職人の動き。あっという間の早さで調理し、一杯の美味しいラーメンに仕上げてゆく。

 小紅たち三人は、席が空くのを待合場で待っている。他のお客さんも、続々と店の外へ並ぶ。


「華蓮さー、この店、人気ありすぎじゃん。中華の本場の人が作ってるんだっけ?」

「そうらしいのー。神奈川の方から来たって聞いたけど、中華街からかな?」

「えーと、その・・・・・・。私は、何て呼べば・・・・・・」

「あっ、好きな呼び方でいいよ? わたくしは、みかんチャンって呼んでいいかなぁ?」

「み、みかんチャン・・・・・・。ま、まぁ、どうぞ。私は、三島さんと呼びますんでー」


 みかんは、初対面の華蓮と、さっきの体験の緊張からか、堅苦しい感じになっていた。


「それで、三島さん? この店のオススメは、何があるんですか?」

「『パーコー麺』なんだって! ほら、あの、トンカツみたいなお肉が乗ったラーメンよ! このお店の名前も、『排骨(パーコー)』だしね! それでねー・・・・・・」

「「 へー。美味しそう! 」」


 小紅とみかんは、目をきらっと輝かせ、華蓮の説明に聞き入っていた。

 しばらくして、三人は小上がりの席へ案内され、座った。

 程なくして店主が、三人分のどんぶりを運んできた。肉の旨味がたっぷりのパーコー麺を、女子三人は、幸せそうな顔ですする。


「(ずぞぞ)んーっ! (もぐもぐ)これは(ちゅるん)うまいね! ほんと、美味い!」

「よかったわぁ! 小紅チャン、こういう味、好み?」

「うん、まぁ、好きね! 柏沼市内にもさ、運動部御用達のラーメン屋があるんだけどね」

「早乙女。なんだ、その店は?」

「ゆみちゃんラーメン。あ、そこは、味についてはあたし、ノーコメントだから!」

「え? おいしくないの? でも、運動部御用達なんでしょう?」


 小紅は、華蓮やみかんよりも早いペースで麺をすすっている。


「なるほど・・・・・・。察しがついた。味より、質より、量がすごいとこだろ?」

「みかん、さすがねー。等星の主将だけあるわ。そうそう、そういう店よー」

「小紅チャンは、なんかそのお店で、たくさんラーメン頬張ってそうなイメージねー」

「三島さんと同じく、私もだ。早乙女、お前少し、肉付き良くなってないか? 太った?」


 華蓮とみかんの言葉を聞いて、小紅はメンマを咥えながら、無言でスープをすする。

 一気にスープを飲み干すと、どんっと音を立て、どんぶりをテーブルに置く。


「まったく、あんたら! あたしをどういうイメージで見てんだか! 失礼な!」

「あはははっ! 冗談よぉー、小紅チャンてばぁ!」

「・・・・・・ふふふっ。ははははっ!」


 その様子を見ていたみかんも、緊張の殻が破れ、華蓮と一緒に大笑いしていた。


「えーと、それで、みかんチャンは、小紅チャンと空手の知り合いなのよね?」

「あ、そうですね。早乙女とは、小学校の頃からライバルというか、何というかー」

「あたしは、みかんのこと、別にライバル視してなかったけどなー・・・・・・」


 小紅はいつの間にか、勝手にピータンを追加注文し、食べている。


「へーぇ。興味深いねー。それで? ・・・・・・どっちが強いのかなぁー?」


 にこやかな笑顔で、さらっと言う華蓮。小紅とみかんの箸が、一瞬、ぴたっと止まった。


「いまは、みかんのが強いよね? インターハイ個人組手、準優勝でしょ?」

「だから、それは! 早乙女が私と真剣に勝負していれば、予選で結果が違っただろ?」

「くどいなー。あたしは真剣にやったってば! 競技としてはねー」

「絶対に手ぇ抜いただろ? 私は中学まで、お前に全く歯が立たなかったんだぞ?」

「中学は中学の話よー・・・・・・。今は、みかんが全国トップクラスの選手ってだけの話ー」

「お前なぁ。中学の時はそっちが全国トップレベルだったんだから、本気出せば・・・・・・」


 卓球のラリーのように、話を交わす二人。華蓮はその間で聞いていて、どこか楽しそう。


「えー? なになに? 小紅チャンとみかんチャンって、道場とかは同じなのー?」

「ちがうよ。あたしは、糸恩流って流派の、早風館道場だもん。みかんは、流派も別よ」

「私は元々、南柏沼にある松楓館(しょうふうかん)流という流派の、(せい)雲館(うんかん)道場というところで。自宅は宇河宮市なんですけど、道場は柏沼市で・・・・・・」

「流派が違うけど、ライバルだったんだ? いいなー。わたくしはそういうの、羨ましい」

「失礼ですが、三島さんは? 何か、武道を? ・・・・・・その、立ち姿とか雰囲気が・・・・・・」


 みかんは、座ったまま華蓮の頭の上から手先までを、目でゆっくりと撫でるように見る。


「みかん! すごいんだよ、華蓮は! 中国武術よ、中国武術! カンフー映画みたいの!」

「え? そ、そうなんですか? ぶ、武術!」

「そーんな、物騒なもの見るような目で見ないでー。わたくしは、美容と健康のためー」


 華蓮は、手元のプーアル茶を飲みながら、みかんに笑って話す。


「うそばっかー。あたしと同等の強さかそれ以上で、実戦慣れしてる感じのくせにー」

「さ、早乙女と同等の強さか、それ以上? しかも、じ、実戦慣れ? はぁー?」

「小紅チャン? ちょっと! みかんチャンが、フリーズしちゃったでしょうがー」

「え? おい、みかん! だいじだって! 普通の人だよ華蓮は! おい、お茶飲みな!」


 そんなざっくばらんに楽しい雰囲気で、時は過ぎていった。


「・・・・・・美味しかったです、大将ーっ。パーコー麺、あたし、気に入りました!」

「ハァイ。マタ来るよろし! ・・・・・・早乙女小紅さん。名前、しっかり覚えたアルよー」

「え? 名前? あ、そうか。華蓮やみかんが、あたしの名前連呼してたからなー・・・・・・」


 会計を済ませ、三人は店を出る。店主は厨房から、笑顔で見送っていた。

     


     * * * * *



 オオイヌ通りの横道を歩く三人。お腹も満たし、小紅は幸せそうな顔。


「あー、幸せ! 華蓮、ありがとね! 美味しかった! みかんも一緒に話が弾んだし!」

「わたくしも、普段は県北にいるから、こっちに友達増えるのは嬉しいよー」


 そう言って、華蓮はみかんに、以前小紅に渡したものと同じ連絡先の紙を渡した。


「もう敬語じゃなくていいよ? でもまぁ、敬語でお堅い感じも、みかんチャンぽいか!」

「あ、ありがとう。じゃあ、携帯に、登録しておきます。私も、今後ともよろしく・・・・・・」


 三人は、適当に街を歩きながら、それぞれの話をして楽しんだ。

 趣味、彼氏はいるのかいないのか、進路や将来の夢、嫌いな男のタイプ、ファッションやコスメ、よくMDに入れる歌、誕生日、好きなテレビ番組、全員蛇が嫌い、などなど。


   ・・・・・・ガラァン  ・・・・・・ギャリン  ・・・・・ガランガラン


 ふと、路地の奥で、金属を引きずるような音がした。小紅は、この音に聞き覚えがあった。


「! この音・・・・・・」


 一瞬で顔つきを変えた小紅の様子を見て、華蓮とみかんも、きりっと目つきを変えて辺りを見回す。


   ・・・・・・ザシュ  ・・・・・・ザッ

   ・・・・・・ザザザッ  ・・・・・・ザアッ


 すると、店と店の間や、電柱の影、別な路地の奥から、タトゥーをたくさん入れたガラの悪そうな男たちが十人、前後左右から現れた。いつの間にか三人は、男たちに囲まれそうになっていた。

 その集団は、鉄パイプや金属バット、メリケンサック、木刀やチェーンなども持っている


「な、なんだ、この人たち? 私たちを狙ってる? ・・・・・・ほ、本気なのか?」

「なんでいい気分で楽しい時に、こーなんのよー。ほんっと、やだ! 逃げたいわー」

「小紅チャンが逃げたいなんて、意外ー。状況的に、きつそうだけどさ!」

「じーちゃんにも言われてるし、自粛したいのに・・・・・・。まいったなぁー・・・・・・」


 みかんは、戦慄の表情。小紅は、やれやれと困った表情。華蓮は、気合いの入った表情。


「おぅおぅ、てめー。早乙女小紅だな? ここにいんのは、知ってたぜ! 筒抜けだ!」

「(? あたしの居場所が筒抜け? こいつら、デスアダー? でも、なんでここが?)」

「他は誰だかわかんねーが、早乙女小紅と一緒にいるやつも、拉致ってこいとの命令だ!」


 木刀を背負った男が、舌をチロチロと出して、華蓮やみかんを威嚇。

 小紅は三人の中心で、戦い方よりもまず、逃げて事なきを得る手法を模索していた。

 横では華蓮が、近くに置いてある竹の棒を見ている。隣のみかんは、冷や汗ダラダラだ。


「(あたし一人なら逃げるけど、二人を連れてこの状況で逃げ出すのは、きつい・・・・・・)」

「さぁて、覚悟しろぉ! 早乙女小紅ぃーっ! 全員、やっちまえぇーっ!」

「「「「「 ウオオオオオオオオー 」」」」」


 小紅が考えているうちに、男たちは一斉に凶器を振りかざし、動き出した。

 咄嗟に、華蓮は竹の棒を手に取る。みかんは、拳をやや震わせながら、構えた。


「なんで、こーなんのよぉっ! あたしは、静かに過ごしたいんだ! さっきの美味しいパーコー麺が台無しじゃんか、ろくでなしーっ!」


   グイッ!  グイッ!


「「 ! 」」


 小紅は、逃げ道を確保できないと判断し、戦う選択をした。

 華蓮とみかんの襟首を引っ張り、ブロック塀を背にして、男たち全員を視野の中に納める。


「ちょ、ちょっと! 早乙女! 何をするんだ? これじゃ、後ろが・・・・・・」

「そうか!・・・・・・考えたね、小紅チャン!」

「・・・・・・まぁね。この状況は、こーするしかないっ!」


 中央に小紅、斜め左向きにみかん、斜め右向きに華蓮。

 三人は、目の前からじりじりと近寄る男たちを、しっかりと見ている。


「(そ、そうか! これは、そういうこと? 早乙女の実戦での判断力、すごい!)」


 みかんは、はっとした表情をして、小紅を橫目でちらりと見る。


「ヒャーハハハ! バカだぜ、こいつ! わざわざハマったような感じになってんの!」

「早乙女小紅、どんな女かと思ったら、ケンカは大したことねーんじゃねーかぁ? 顔はマブだし、胸もでけぇ! やっちまおうぜ、全員で!」

「こっちの、アイドルみたいなワンピース女も、マブだぜ!」

「こいつ、どこの制服だ? こいつも、なかなかじゃねーか! 拉致っぺ!」


 男たちは、小紅たちが塀を背にしている状況を見て、既に余裕で勝ち誇っている感じだ。

 その中で、一番後ろにいる小柄な男は、ヨーヨーを操りながら、真顔で全体の状況を見ている。


「(バカ共が。・・・・・・これが早乙女小紅か。あの瞬間、一瞬でこの状況を作る判断力とは。戦闘センスは、計り知れねーな・・・・・・。俺の子分たちじゃ、これは勝てねーか・・・・・・)」

「オラァ、どうした? 怖くて、動けねーのかぁ?」


 小紅は、鉄パイプを持って威嚇する男へ、ふっと笑って余裕の表情を見せる。


「『顔はマブだし、胸もでけぇ! やっちまおうぜ、全員で!』ってさぁ、ダサい顔したあんたにぴったりな、赤点レベルの語彙じゃん? しかもリズム七五調だし、まるで標語じゃないの?」

「・・・・・・ぷっ」

「ふふっ・・・・・・」


 小紅の発した言葉を聞いて、思わず、華蓮とみかんは笑ってしまった。


「「「「「 や、やっちめーっ! 」」」」」


 一気に前三方向から、怒りを露わにしてかかってくる男たち。


「来た! 華蓮! みかん! 自分の身と命優先で! 戦闘じゃなく、これは、護身だ!」

「わたくしも、そのつもりよ!」

「も、もう、やるしかないのか! くそぉーっ!」


   ブンッ  ガガガガガッ・・・・・・  ヒュバッ!  ドギャアッ!  どさっ


 小紅の目の前から、鉄パイプを振りかざした男。しかし、後ろのブロック塀が邪魔をして、うまく振り下ろせず、セメントの粉が舞うだけ。小紅の前蹴り一発で、後ろに吹き飛ぶ。


「ハァァーッ! ハイィ! ハァァィィーッ!」


   ヒュヒュヒュルウンッ  パパパパパパパァンッ!  ガシッ  パカァァンッ!


 右では、華蓮に向かってきた金属バットと金槌を持った男が、鮮やかな棒捌きの華蓮に叩きのめされ、手に持っていた凶器ごと、薙ぎ払われた。


「ウラァーッ! くたばりやがれーっ!」

「観念して、俺らとイイコトしようやー」

「・・・・・・くっ! 落ち着け。これは、試合じゃない。踏み込みを、深くっ!」


   ガッ  パァンッ!  ダァッ  バシイッ  バシイィーーッ!  ・・・・・・どさっ


 左では、メリケンサックとシルバーの指輪をはめた男二人が、みかんに殴りかかった。

 みかんは、小紅から受けた話を省みながら対処。深く踏み込み、一瞬で男二人の顎先へ、高速の正拳連突きを叩き入れる。インターハイ準優勝のレベルは、伊達ではなかったようだ。


「やるじゃん、みかん! ・・・・・・どう? これが、実戦のヒリつく緊張感だよ!」

「やっぱり私は競技のがいい! ・・・・・・でも、なぜかこの感覚、クセになりそうかも」


 人数で勝る男たちだったが、どんどん三人の女子に倒されてゆく。


「ハアィィ! ハイィーヤッ!」


   クルンクルン  パパパパァンッ  パキャアンッ!


「せえぇやあぁーーーーーっ!」


   ガガッ! シュバアッ  バシイィーーッ!


「てえぇあああぁーーーーっ!」


   ギュンッ!  ドギャアッ!  バキイッ!  バカァァンッ!


 あっという間に、男たちは残り二人にまでなっていた。


「な、なんでこんなあっさりと・・・・・・。ジョ、ジョーさんっ・・・・・・」

「それは、おめぇらの戦闘センスがねぇからだ。・・・・・・噂に聞いていたが、まさか、こんなずば抜けたセンスだったとはな・・・・・・。おめぇじゃ、かなわねぇ・・・・・・。寝てな!」


   ・・・・・・ビシュイッ!  カキョッ!  どさっ


 ジョーと呼ばれるその男は、一人だけ小柄で、普通の警備員のような服装をしている。

 左手のヨーヨーを器用に操ったかと思うと、それで子分の男の顎先を打ち抜き、その場に昏倒させた。


「すげぇぜ、早乙女小紅。偵察も兼ねて来てみたが、さすがだ。・・・・・・お前、囲まれて後ろから襲われないために、塀を背にしたんだろ?」

「! ・・・・・・わかってるんだ? あんたは、ちょっと、違うね?」

「(や、やっぱり早乙女、そういう作戦だったんだ! それを、一瞬で判断したのか)」


 得意げな表情の小紅と、横で驚いた表情のみかん。そして、男に対し棒を構える華蓮。


「やめだ! 勝てねぇよ。これ以上は無駄さ。俺は帰らせてもらう。・・・・・・またな!」


 そう告げて、男は凄まじい俊足で、路地を走って立ち去ってしまった。


「なんだったんだ、あいつ? あー・・・・・・。あたしの、せっかくの気晴らしが・・・・・」

「まぁまぁ、小紅チャン! 気持ち切り替えて、パフェでも食べに行こーよ!」


 拗ねる小紅を笑顔で誘う、華蓮。しかし、その横でただ一人、みかんだけは震えが止まらず緊張が解けていないようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ