~ファイル20 いざ宇河宮! 女子たち集合!~
ドッパァンッ! スパアァーーーンッ! ババァンッ!
「「「「「 せぇああぁーっ! てぁぁーーっ! しゃあぁーーぃっ! 」」」」」
ズババババァンッ! パパァンッパパァンッ! ドオォンッ!
広く明るい板の間に、汗飛沫が飛ぶ。気合いが響く。闘気が爆ぜる。
床を強く踏む音と、激しい炸裂音が止まずに轟く。白い道着の部員たちが、一斉に激しくぶつかっている。
「気合いが足りないよーっ! そんなんで、勝てるかーっ! さぁ、もっと声出せーっ!」
みかんは、その部員たち全員に檄を飛ばし、一番活発に動いている。
「止めぇぃ! よし、今日の昼稽古は、終了! 安藤っ! 終礼の号令をかけぃ!」
「はい、監督! 全員ーっ、整列っ! 黙想ーっ! ・・・・・・止め! お互いに、礼!」
二十人が、汗で重くなった道着を身に纏い、正座をして黙想。そして、声を揃えてあいさつ。
座礼をするのも、一糸乱れぬ動きだ。
「「「「「 オースッ! ありがとうございましたぁーっ! 」」」」」
「よぉし! あとは、夜はまた、組手の続きだ! 全員、ここに夕方五時には戻れぃ!」
「「「「「 はい! 監督! ありがとうございましたぁーっ! 」」」」」
ここは、宇河宮市の中央に位置する、私立等星女子高校。
その空手道部の稽古場に、監督である瀧本熊夫の太く嗄れた声が響き、部員が軍隊のように一斉にあいさつをしていた。
等星女子高の部員たちは、清掃を終え、それぞれ寮の部屋や自宅に戻っていく。
部活に打ち込むために寮に入っている者もいれば、家から通っている者もいる。
夏休み中は、午前中の稽古時間と夜の稽古時間の以外は、全員が自由時間となる。
「お疲れさま。お前たち、夜の稽古準備よろしく頼むぞ。それまで自由時間だ」
「「「「「 はい、安藤主将! おつかれさまでした! 」」」」」
主将のみかんが、にこやかに後輩へ声をかけ、稽古場の施錠をした。
等星女子高の正門横には、バドミントン部や剣道部、バトントワリング部など、数々の運動部の全国入賞を讃える横断幕が掲げられている。
その中には、「空手道部三年 安藤みかん 祝! インターハイ準優勝」の文字も。
「ふぅ・・・・・・。今日で主将としての私も、引退か・・・・・・。早かったなぁ」
口元をふっと緩め、みかんは自分の掌を見つめる。スポーティーな髪型の前髪から、汗が一滴、ぽたりとそこへ落ちる。
「よし。たまには、一人で気晴らしにでも行くか。・・・・・・それも、ありだ!」
みかんは、スポーツバッグを背負い、青空に浮かぶ遠くの雲を見つめ、早足で宇河宮の中心街にあるアーケード商店街「オオイヌ通り」の方へ笑顔で向かっていった。
* * * * *
・・・・・・ガタゴトト ガタゴトト プアァーンッ・・・・・・
小紅は、一人で電車に乗っていた。今日も、三戦立ちで揺れに耐えながら。
やや腫らした目で、携帯電話の画面を見つめている。
「いいタイミングで、メールが来たもんだね。・・・・・・華蓮、県庁のイベント以来だなー」
揺れる電車内で、ふっと笑みをこぼす小紅。
源五郎に襖越しで声をかけられている時、小紅の携帯には華蓮からのメールが届いていたようだ。
―――『お久しぶり、小紅チャン。お互い夏休み最終日だね。ねぇ、よかったら今日、宇河宮で、会わない? わたくし、今日は一人なのよねー?』―――
「(一晩散々泣いて、なんかスッキリしたな。じーちゃんの言うとおりだし、今日は、デスアダーのことは忘れて、華蓮と気分転換しようっと! ナイスな誘いだね、華蓮!)」
華蓮からのメールは、小紅にとって、外に出るいいきっかけになったのかもしれない。
しばらくして、小紅を乗せた電車がJR宇河宮駅に到着。木曜日のお昼時だが、駅には多くの人が行き交っている。
「(さて・・・・・・華蓮はどこにいるのかな? あたしの方が早く着いちゃったかな?)」
小紅は、駅構内で華蓮を探してきょろきょろ。
いつもの髪型に薄い紺色のジーンズと赤いスニーカー、白いTシャツにパイル生地で桜色の薄い一枚を重ねた、ラフな私服。
適当な制服姿とは違い、随所に女の子らしさのある姿。もちろん、あの紅色の髪留めも二つ、いつもどおりにつけている。
・・・・・・どんっ
「え? あ! ご、ごめんね。だいじだった? ・・・・・・ケガはないかな? ごめんね!」
「いたぁい。・・・・・・おねーちゃんこそ、だいじ? アタシ、よそ見しちゃってたー」
家族四人で歩いていた小学二年生くらいの女の子が、小紅の腰元にぶつかった。
「あららら、すみませんー。ほら、まなみ! あんたはもー、落ち着きがないからぁー」
「おねーさんにもう一回、ちゃんと謝りな、まなみ! やんないと、りえ、怒るよ!」
「・・・・・・ごめんなさい、もう、ぶつかりません。おねーちゃん、いたかった?」
「だいじだよ! あたし、身体は強いから! あたしこそ、ぼーっとしててごめんね!」
小紅はその子に目線を合わせ、頭を数回優しく撫でた。そしてお互い、にこっと笑う。
女の子は小紅へ、ちょこんとしたポニーテールを揺らし、もう一度頭を下げる。
その両親とお姉ちゃんらしき子も、一緒に頭を下げ、東の出口へ歩いて行った。
その家族の後ろ姿を、小紅は、目元を少しだけ潤ませながら、しばらく見つめていた。
「おひさしーっ! 会うの二回目だねーっ、小紅チャンっ! 待ったー?」
逆方向にある改札口から、白いワンピースに身を包み、すみれ色のオシャレなポーチを持った華蓮が、元気よく出てきた。
「華蓮-っ! ・・・・・・うーん、相変わらず、眩しいね! あたしとえらい違いだなー」
「そんなことないって! 小紅チャンの私服も、いいじゃない。わたくしは、そういう服を持ってないから、羨ましいなー」
「そぉ? まぁ、そー言ってくれるなら、いいけどさー」
「可愛いと思うよ? 少しだけボーイッシュだけど、カラーリングは女子的でー。素敵!」
「華蓮みたいなワンピースは、あたしには似合わないなー。あたし、脚、太いしなー」
お互いの姿を見て評価し合い、笑みをこぼす小紅と華蓮。
「小紅チャンは、空手で鍛えてきた脚でしょ? あの時見たけど、蹴り技、得意でしょ?」
「足クセ悪くて、蹴っ飛ばしちゃうだけ。華蓮は、中国武術の美容効果できれいなのね?」
「わたくしはそれもあるけど、栄養バランスかな。・・・・・・ねぇ、宇河宮に最近、美味しいラーメン屋さん出来たって、知ってる? 今日は、一緒に、そこでお昼にしない?」
「栄養バランスと言っておきながら、いきなりラーメンの話って・・・・・・。しかし、このラーメンや餃子などの、中華料理激戦区の宇河宮に新店ねー。美味しいの、そこ?」
「なんかね、神奈川のほうから来た、本場中国の人が出店したんだって。宇河宮のPR大使の子が教えてくれたのーっ! 量もあるみたいで、わたくし一人じゃ、なんかー・・・・・・」
「なるほどー・・・・・・。だからあたしに声かけたのぉ? あたし、そんな大食いに見えんのかなぁ? まぁ、昨日からちょっといろいろあって、お腹は空いてるんだけどねー」
「よかった! でもわたくし、ラーメンだけの目的じゃなく、小紅チャンともっと話してみたいことがあるから、誘ったんだよ? 今日はめいっぱい、楽しんじゃおうよ!」
「そーね。せっかく来たんだしね。じゃ、オオイヌ通りでも、行こっか?」
そんな雑談を交えながら、小紅と華蓮は二人で西の出口へ向かった。
・・・・・・ピーン ポォーン・・・・・・ 三番線にはー・・・・・・
駅構内のアナウンス音が、小紅たちの後ろから響く。
高校生にとって夏休みの最終日だからか、小紅たち以外にもさまざまな学校の制服を着た子や、同年代の子たちが行き交う姿が見える。
今日も、宇河宮には様々な人たちが集まってきているようだ。




