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Altemia~アルテミア~  作者: 荒巻郁
Pkankton
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45.守れなかった過去

「ユーセイ、どうか気をつけて……ちゃんと帰ってきてね。」

 クウナの短い金髪の頭は俺の胸元にふっと入り込んで、寂しさを押し殺した声で静かにささやいた。

 強く抱きしめてやりたかったが、着込んだ鎧が当たって痛かろうと……かといって、彼女への慰みとして口づけをしてやるほど、男になれなかった。

 俺はクウナに作ってもらったフードを被り、戦友たちから刺さる羨望の視線から表情を隠し、そっと彼女の頭を撫でながら……。

「今回の遠征が終われば、ウィラメットにしばらくの平和が訪れる。やがて義勇軍も要らなくなる。本当の平和を得られてから一緒に暮らすのが一番いいんだ。それまでみんなと一生懸命戦ってきた。俺だけ途中で離れるなんて出来ないんだ。本当にごめん。」

「わかってるよ、そういうのが男の人の世界なんでしょ?女よりも戦場を選ぶのがカッコいいんでしょ?わかってるよ……だから、帰ってきてからはカッコつけなくていい……ユーセイの素の顔を見せてよ。」

「怒ってる?」

「正直、」

「ごめん、かっこつけて」

 彼女は大きな瞳に涙を今にも溢れそうなぐらい溜めながら、頬を膨らせて歯を食いしばって震えている。

 

 俺が二回目に味わった絶望とは、幸せを目の前にして世間体の為に己の命を散らし、大切な人を傷つけ……悲しみに暮れさせてしまったことだ。あの時、死ぬとわかっていてもなくても、周りにどう言われても、俺のことを本気で慕い好きになってくれたクウナに寄り添うべきだった。

 責任感、正義感、正直さが今よりも強くて、その為に判断を誤った。

 当時のキバユーセイには絶大な戦闘力があり、並大抵の戦争では絶対に死なない自信と驕りがそうさせたのか、それとも単に気恥ずかしかっただけか。どちらにせよ、俺はクウナの愛を受け止めるだけの器を持つ人間じゃなかった。

 彼女は純粋だ。それ故に、絶望の恐怖から……死に損ないの意識を持つ俺には眩しすぎて。



「では、行ってくる。すぐに帰ってくる。」

 クウナに淡白な別れの言葉をかけてから、義勇軍の同士が詰められている荷台に乗り込む。

 荷台が馬に牽かれ、見送り衆から離れていく……。

 俺はずっと手を振っていた。クウナは泣いていた。

 しかし、クウナには同じくらいの年の娘が三人ほど取り巻いていて、涙ぐみながらお互いに慰めあっていた。

 俺がいなくても彼女はきっと元気にやっていける。

 どんなに寂しくとも、悲しくとも、一時の心の充足があれば日々を生きていける。

 俺はその光景を見て悟った。






 確かにその悟り、考え方は正しかった。

 だが、同時に残酷な結論を自ら打ち出してしまう。



「俺はキバユーセイ、お前の深層意識だ。つまり、今まで自問自答してきた批判の意識だ。」

 リニルスレッグ族との戦いに敗れ、首をはねられてから数分後の意識空間で、俺は自分の深層意識の主と出会った。その時、俺は藍色の鎧を着てフードを被っていたのに対し、彼は中学時代の学ランを着ていて、体の左半分が鉛筆で乱暴に殴り書きしたように霞んでいた。

「お前は不幸な運命を背負わされた可哀想な人間だ。だが、生まれ持った運命に言い訳はできない、処理できないのは紛れもなくお前のせいだ。神様に頼んだって、その世界の人間がお前を不幸の掃き溜めにする限り、どんな判断をしたって間違い間違いだ。可哀想に、間違うというのは辛いことだ。間違いを無視して生きる人間が多いばかりに、キバユーセイのような神経質な人間が生まれ、汚れ役を強いられる。」

「深層意識、何が言いたい。俺は一生懸命生きた。それの何が悪いというんだ。」

「つまりはお前が間違い続け、不幸をこの世界にまきちらし……お前自身も不幸になり続ける限り、キバユーセイは永遠に救われない。だが、お前は間違い続け不幸になることを運命づけられている。恨めよ、世界を、俺を、意味が解らないだろう?何故俺だけがこんな目に?リーシャが同じことをやっても、うまくいくと思うよな。じゃあそのIFを見せてやるよ。」


 俺は友人のリーシャが俺の人生を歩むイメージを見せられて、やがてクウナと幸せに結ばれる結末を知った。容姿、考え方、行動全て同じ、唯一違うのが名前だけ。なのに、明確に「違う存在」が入れ替わっているだけで、こんなにも未来が変わるのか。

「だが、お前の場合はこうだ。」

 そして、俺が死んだ後のクウナの人生を見せられた。

 戦争が終わった後、確かに平和は訪れたが、ウィラメットで俺は裏切り者として処理されていた。

 心当たりは全くない。

 それからクウナは周囲から裏切り者の婚約者として周囲から冷ややかな目で見られ、あの時慰めてくれていた友人たちも離れ、果てしない孤独の中を生きていた。


 二年後、彼女は父親のわからない子を身籠っていた。


 五年後、二人目の子供を身籠っていた所で、町はずれに小さな牧場を構える羊飼いと結婚した。


 十六年後、一番目の男の子が何故か俺に似てきた。間もなくクウナは精神を病んで寝たきりとなり、彼を「ユーセイ」と呼んで度々発狂するようになった。


「自分が幸せになろうと、他人を幸せにしようと、お前が生きている限り、不幸は下の代に連鎖していく。お前が『生きるエゴ』を持つ限り、不幸は続いていく。自殺しても無駄だ。お前が『神様』と名付けた連中のエゴに踊らされて、お前は無間地獄を味わう。」

「じゃあこれからどうすればいい?俺は生きる意味を見失った。早く意識を消してしまいたい。」

「それはお前が『不幸の便所』であり続ければいい。そして、不幸を幸せだと思えるように錯覚したまま死ねればいい。できるか?」

「覚えてれば、やってみる。」

「本当に可哀想なやつ。それじゃあ頑張れよ。」

 深層意識は消えた。

 だが、今でもたびたびハスィやマルクやエチルに化けて現れる。

 

 

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