Look×For×Vampire08
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お屋敷を出て痕跡が途絶えたところまで移動している間に空が茜色になった。
影絵のような真っ黒な家々の隙間からオレンジ色の光が差している。太陽に近い部分は黄金に輝いて見えてとても綺麗だ。
「二手に分かれて青の王を探しましょう。私は小娘と行動します。その方が良いでしょう、レオ。青の王を見つけたら合流しましょう。銃を一丁貸します。これで知らせてください」
ハイネグリフが腰に巻き付けていたホルスターから銀色の拳銃を出し、レオに手渡した。レオは拳銃を見つめて何か考えているようだったが、諦めたように「OK」と口に出した。
アタシが夕日に見とれている間に業務連絡が終了していた。どうやら二手に分かれてアイゼンバーグを探すことになったらしいのだが、なんとアタシはレオではなくハイネグリフと共に行動することになったようだ。
無言でハイネグリフを見上げると、ちょっと眉をしかめて嫌そうな顔をされた。そんな顔しなくてもいいのに。ちょっと傷つく。そんなに嫌ならアタシと行動しなければいいのに。それでもアタシと行動するのはどうしてなのだろう。意味があるのだろうか。
「それじゃ、ホノカ。また後で。ハイネにムカツクこと言われてもハイネの傍を離れちゃダメだからね。殴るだけにしときなよ」
「うん、心配してくれてありがとう。気をつけてね、レオ」
レオはにこりと笑い、屋根を蹴って地面に飛び降りるとあっと言う間に家々の間に消えてしまった。
アタシはハイネグリフと二人きりになった。
何となく、気まずいようなそうでないような不思議な空気が流れている。居心地が悪いようなそうでないような。会話したいようなしたくないような。何とも言えない空気だ。
探るようにハイネグリフの顔を見上げてみた。するとすぐに気づかれ、鬱陶しそうな顔をされた。ホントなんでそんな顔するの? ハイネグリフは美形だから余計に悲しくなるのだけど。
「何か用ですか」
語尾は疑問形だが、質問している声色ではない。吐いて捨てたような言い方だった。
「別に。何でハイネグリフがここにいるのかな、と思っただけ」
協力してくれることには感謝している。けど、アタシにはハイネグリフがここにいる理由を見つけられなかった。
アタシはサンダーさんに関わらないよう言われてお屋敷を出て来た。サンダーさんがアタシを追い出したのは、ハイネグリフやフェリックスさんやレオを危険な目に遭わせないためだ。サンダーさんは特に弟であるハイネグリフのことを何が何でも守りたいはずで、アタシと関わらせないようにするはずだ。アタシのところへ行くことを反対しただろう。レオだって、アタシのところに来るために二人を説得したと言っていた。だったらハイネグリフもフェリックスさんとサンダーさんを説得したはずだ。レオがどうやって二人を説得したのかも気になるけれど、ハイネグリフがどうやって説得したのかも気になる。この吸血鬼はすぐ顔をしかめたり鬱陶しそうな声を出したりするくらいアタシのことを良く思っていないのに、どうして協力してくれるのか。
「協力してほしくないなら帰ります」
ハイネグリフはくるりと踵を返した。な、なんですと!?
「いや! 待って待って! 協力してほしい! アナタが必要です! アタシ一人じゃ何も出来ないから!」
咄嗟に後ろからハイネグリフの腰を掴んで引き留めようと足を踏ん張った。
「触らないでください。折るつもりですか」
「折らないよ!」
すぐ手を離した。
ハイネグリフが振り向く。また眉間にしわが寄った、鬱陶しそうな顔をしているのかと思ったけれど表情は比較的穏やかだった。比較的。仏頂面ではある。
「小娘。軽率に触らないようにしなさい。特に腰を掴むのはやめなさい」
「はい、ごめんなさい……」
「もう少し頭を使って行動しなさい。一時の感情に振り回されないように」
「はい、分かりました……」
先生に怒られているみたいだ……。レオはお兄ちゃんみたいだけど、ハイネグリフは先生だ……。
「口だけにしないでくださいよ。貴方は感情に流されて無謀なことをしがちなようですから。勝手に自滅してくれるだけなら良いですが、巻き込まれたくないので」
つんとした態度で言い放ち、ハイネグリフは屋根を蹴って隣の家へ飛び移った。
完全に影が落ちて真っ黒になった家々と群青色の空が背景になっている。
日が沈んだ。吸血鬼の王が起き始める時間だ。身体がざわつくのは夜の闇がアタシの中の吸血鬼の血を蠢かせているからだろうか。
「何してるんですか。早く来なさい」
面倒くさそうな声が飛んで来て、アタシは慌ててハイネグリフの隣に並んだ。結局ハイネグリフがアタシに協力してくれる理由は分からない。はぐらかされたのかも。まぁいいや。また機会があったら聞いてみよう。
ハイネグリフは何も言わず再び屋根を蹴って走り始めたので、アタシもそれに倣った。ぴったり隣にくっついて、屋根の上を移動する。
「青の王も起きた頃でしょう。注意して探してください」
「うん。今度は痕跡も見逃さないようにする」
「そういうことではありません。小娘なら距離が近くなれば否応なしに分かるでしょう。注意すべきは青の王ではなく、他の吸血鬼たちです」
「他の吸血鬼? どうして?」
ハイネグリフは呆れたように「頭を使いなさいと言ったばかりでしょう」と余計な一言を言ってから続けた。
「貴方は青の吸血鬼です。何百年もの間、青の吸血鬼は青の王たった一人でした。そのたった一人の青の吸血鬼を巡って、我々吸血鬼は互いに争いながら彼を我が物にしようと追い回しているのです。貴方が青の吸血鬼と知られれば青の王の二の舞です。吸血鬼たちに追いかけられるのは嫌でしょう」
「嫌!」
即答した。吸血鬼に追いかけ回されるなんてもうこりごりだ。
「極力他の吸血鬼たちに事情を知られないよう避けるつもりですが、避けられない場合は仕方がないので自衛してください。特にその目を見られないように。余計なことを勘ぐられても面倒ですから」
「分かった」
こくりと頷くとハイネグリフは数秒口を閉じてアタシをじっと見つめてからもう一度口を開いた。
「……本来なら眷族や雑種はオリジナルの王と違い、血を薄めた劣化品なので軽視されるのですが、場合によっては王よりも小娘の方が重宝されるかもしれません」
「どうして?」
劣化品というひどい言い方が気になったが、それよりも血が濃くて効果抜群なアイゼンバーグよりもアタシの方が重宝するというハイネグリフの考えが気になって聞き返した。
ハイネグリフの金色の瞳がアタシを見る。その瞳がギラリと光ったように見えて、肺がキュッとなった。
「貴方が、女だからですよ」
女だから何だと言うんだ。
そう言い返してやりたかったけど声が出なかった。アタシを見るハイネグリフの瞳が、獲物を見つめる獣のようだったからだ。
ぞっとして身体が縮こまる。以前も感じたことのある感覚だ。
この感覚は、レオが「美味しそう」と言ってアタシに銀色の牙を見せた時と……アイツがアタシの血を舐めてこっちを見た時に感じたものと同じだった。
アタシは吸血鬼もどきになっても食べられる側なのかもしれない。




