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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第1章 Colorful×Vampire

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Death×Or×Vampire04

 ヤツはもう一度右手首を噛みちぎり、アタシの顔の上に手をかざした。金髪のお兄さんの左手が、紫頭のお兄さんの右手が、青い髪のお兄さんの左手が、アタシの顔に影を作る。そして、彼らの手首が彼らの反対の手によって切られた。彼らの血が、吸血鬼の血が、アタシの顔に落ちてくる。


「あ……」


 真っ赤な液体が口の中に注ぎ込まれた。喉がビックリして跳ねる。鉄の匂いがする。酸っぱくてしょっぱくて舌の奥がキーンとする。


 アタシ、今、血を飲んでいる。嫌悪で全身に鳥肌が立った。


 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。こんなもの、喉を通るわけがない!


 アタシは喉を開かないように意識しながらヤツの手から逃れようと必死に暴れた。


 吐き出したい。これが喉を通る前に吐き出したい!


「うぐっ!?」


 突然ヤツの右手がアタシの口を塞いだ。ぬる、とねっとりした液体の感覚がアタシの顔を包み込む。それからヤツはそのまま手を動かしてアタシの顔を上に向けた。そんなことされたら口の中のものが喉の奥に入ってくるじゃないか!


「むむー!!」


 ヤツの手を力いっぱい掻きむしって抵抗する。でもやっぱり全然動かない!


 嫌! 嫌!! 血なんて飲みたくない!


 涙が頬を伝うのが分かった。耐えきれなくなった喉が動く。液体が喉を通っていくのが分かった。鼻から鉄の匂いが抜けていく。


 吸血鬼の血を飲んでしまった……。


 瞬間、ドクン、と大きく心臓が拍動した。緊張やそこらでの拍動ではない。今までに感じたことのない、とても大きな拍動だった。まるで内側から心臓が飛び出そうとしているような。いや、心臓が爆発したような感覚だった。


 苦しい……!


 ヤツがアタシの顔を放した。アタシは心臓を押さえ、身体を折って床に額をつけた。


「あ、ぐ、ああああああ!!」


 痛い! 胸が内側から押さえつけられている。肋骨が折れそう。痛い!


 ちくしょう! なんでアタシがこんな目に合わなきゃいけないんだ……! 最悪だ!!


 アタシは下からヤツを睨みつけてやった。ヤツは口角を上げてニヤリと笑っている。ちくしょう……殴ってやりたい。その顔面、思い切り殴ってやりたい!


 そう思った途端、今度は全身が燃えるように熱くなってきた。炎の中で焼かれているような感覚だ!


「あつッ……!!」


 アタシはその場で悶えた。胸を、足を、喉を掻きむしった。


 熱い! 全身が燃えている!! 熱い!!


 のたうち回りながら喉を掻きむしった。爪が皮膚を割り、血がにじむ感覚がしてもお構いなしに掻いた。


 頭が焼けている。何も考えられなくなってくる。焦げ臭いにおいがする気がする。


 喉が焼けている。カラカラだ。水が欲しい……! 何か、飲むものが欲しい!!


「ああああああ!!!!」


 もう嫌!! なんでアタシがこんな目に合わなきゃいけないの!? それもこれも全部、ヤツの所為だ!!


 アタシは夢中で床を蹴った。ニヤニヤ顔でアタシを見つめている顔に飛びつこうとした。しかし、アタシは思い切り頭を床に押さえつけられてしまった。ゴッという音が頭の中でこだまして、赤いものが目の前に流れてきた。


「面白いなぁ」


 ヤツが笑う。アタシは奥歯を噛みしめた。全身の熱が頭を焼く。頭が、焼き切れる……!


「ホノカ?」


 焼き切れそうだった思考が止まった。


 この声は、この低くもなく高くもない中性的な声は……!


「ア……ゼ……!」


 ろれつが回らない。


 目を動かしてみると彼の姿があった。白髪が風に揺れている。青い目を大きく開いてアタシを見ている。咄嗟にこんな姿は見られたくなかったと思ってしまった。


「お前ら、何をしたんだ?」


 アイゼンバーグが淡々とした声を出した。


「血を飲ませただけだ。俺とこいつらの全部」


 頭の上から声が降ってくる。ヤツがアイゼンバーグの質問に答えたんだ。


「……そうか」


 アイゼンバーグは一言だけ答えた。そして、ゆっくりとアタシに近づいてきた。ヤツがアタシを押さえつけていた手を離して後退する。頭の痛みが少しだけ和らいだ気がした。けれど、全身の焼けるような痛みはまだ残っている。ホントに暴れたいほど身体が痛い。でも不思議と身体は暴れようとしなかった。


「ホノカ」


 アイゼンバーグが膝をつき、アタシの頬にかかった髪を耳の後ろにもっていった。顔には表情がなかったけど、アタシはどこか安心して、同時に悲しくなって泣いた。


「ア……!」


 声が出てこない。言葉にならない。彼の名さえ呼べない。


 嫌だ。嫌……こんなの嫌だ。涙がとめどなく溢れてくる。


「……吸血鬼は嫌なのか?」


「や……」


「……そうか」


 アイゼンバーグがおもむろに左腕を出した。シャツをめくり、右手の人差し指を掌につける。そしてその鋭い爪で皮膚を割いた。赤い血が掌に滲む。


「なら、死ね」


 アイゼンバーグがアタシの口の中に右手の親指を突っ込み、口を開けさせた。口の中はカラカラで唾液も出ない。


 それからアイゼンバーグは左手を近づけてきて強く拳を握った。小指から一筋の赤い液体が流れてきてアタシの舌に乗る。じわ、と乾ききった舌に液体が染みこんだ。乾いた喉が液体を求めてごくりと鳴る。


 舌を伝った液体が喉を通っていった。


「あ……」


 途端に身体が冷めていった。燃えるように熱かった身体が今度は冷凍庫に入れられたように冷めていく。全身が震えた。寒い。吐息を吐いたら白くなった。寒い。


 全身が凍っていく。硬くなっていく。指一つ、瞬き一つ、出来なくなっていく。


 怖、い……。アタシは恐怖で埋め尽くされた。死という単語が頭の中に浮かぶ。しかし、その頭にもしだいに白い靄がかかっていった。


 頭の中が固まっていく。何も考えられなくなる。大きく拍動していた心臓が……止ま……。


「……鼻がもげそうだ。頭がおかしくなっちまう」


「相変わらずお前は美味そうな匂いだなぁ、アイゼンバーグ」


「私はこの匂い、好きか嫌いかで分ければ嫌いです。頭が熱くなる、喉が渇く、理性が飛びそうになるそそられる匂いだということは認めますが、好きではありません。むしろ嗅ぎたくない匂いですね。軽率な行動はしないようにしてもらいたいです。アイゼンバーグ、青の王。貴方はいささか傷を負うのが多すぎます」


「……お前ら、もうすぐ夜明けだろ。また俺の勝ちだな」


「さぁ、どうだろうなぁ」

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