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フィリダ国民無差別失踪事件(後編)

【ミキト ヴェルゼト寺院に通じる地下通路】

ひょんなことから、とあるおじいさんに出会ったボクらは、おじいさんに言われるがままついて行くと、そこはとんだ隠し通路だった。

「〈てか、こんなところに地下通路なんて、あったの?〉って、妹おろか、オレまでびっくりなんだけど!?」

イオがこの地方をボクらの中ではいちばん知っているのに、まさかこんなところは知らなかったらしい……。

「これは、昔からあってな。

もともとは、この地下通路から掘り出し、ここの寺院を少しずつ建て始め、中はとても魔力が強い人が整えたのじゃ。

その中で最も魔力が強かった人が、この寺院の教祖といわれておるのじゃ」

どうやら、全員初耳で|(ボクは何にも知らなかったから、アレだけど)、感嘆を得ていた。

「初めは、本当にいい教団だったのじゃが、いつからか、国王陛下同様に権力を持ち出して、今じゃ、我々国民ですら人を入れず、挙句には、逆らえないような体制まで取ったのじゃ」

おじいさんは、ボクらを案内しながら、ここの経緯を教えてくれた。

ここまで知っているのなら、もしかして、転生してから、相当長いということになる…のかな?

「そのおじいさん、もう何十年も前にさせた人よ」

「|(え、そうなの!?)」

リシャスがボクに教えてくれた時に、思わず声を出しそうになったが、なんとか想念だけで話すことができた。


―― でも、なんで助けなかったの……?


「私はどうするのか、様子を見てただけ。

それに、もし助けたとしたら、常に私に頼るだけで、努力や進歩なんてしないでしょ?」

それもそうだな……、もしボクが現実世界にいて、さらに絶望的な事があって、そこに神様が手を差し伸べたとしたら、努力なんてまったくしなくなるだろうな……。

「そうでしょ。

人間は楽な道を見つけてしまったら、そっちに走ろうとする。

それではダメなの、我々はその人々に越えられる壁を与えているだけ。

それを越えられず、逃げてばかりだと、今度は違う形で、壁を与えなきゃならない。

実にめんどくさい事よ」

なんか、そう言われると、本当に申し訳なくなってくる……。

「――なら、そうならないように、しなさい」

ボクの心の中で「はい」とつぶやいていると、おじいさんが急に立ち止まった。

「ここからは、魔物が巣くっておる。

お前たちの出番じゃ」

えっ、ま、魔物がいるなんて――、

しかも同時にうめき声が聞こえるし……!?

「ほら、さっさと戦いなさい!」

と、リシャスに活を入れられ、剣を引き抜き、ドゥルゲ達と共に向かっていった。



そ、それにしても、デカイ魔物だった……。

ボクを含め、ドゥルゲ、イオの3人が、息をぜーはー言わせて、若干しゃがみこんでいる。

「すまないのぉ、わしは戦うことはできんのじゃ」

「――てか、そんなもんで、息上がりすぎ」

おじいさんは申し訳なさそうにするのに対し、リシャスからは、厳しい意見……。

「これは……、俺たちの経験不足だ」

ドゥルゲが言う、その言葉は、リシャスにも、おじいさんにも言っているようだった。

みんな、自分のことで精いっぱいだし、おまけに治療できる人がいない。

それをゲームで例えるとなると、回復する人がいなけりゃ、なんとなくキツいよね……。

「こらミキト、今さらそんな事を思っても、仕方ないでしょ……!」


―― あ、はい、ごめんなさい。


なんだか、この短時間で、一気にヘタレになったような……。


ま、そこは置いといて。

ボクらはあの後、一時休憩を終えて、さらに地下通路を進んでいくと、今度は最奥部だろうか――――、

大きな木の扉|(というより、門に近い)に差し掛かった。

「すまない……、わしが案内できるのは、ここまでじゃ。

この門をくぐると、寺院の地下に続いており、様々な仕掛けから見事、突破すれば――、おそらく本当の闇を見ることができるじゃろう……」

ボクらはおじいさんにお礼を言って、彼と別れた。


『本当の闇』……。


ボクらはそこに立ち向かわなければならない、それを取り払わなければ、またみんなが不安な日々を過ごすことになる………。

そんな精神的な苦痛は、ボクたちしか取り払えないんだ……!!



【ミキト ヴェルゼト寺院内】

木の門は、あまり使われていないせいか、いとも簡単に開けることができた。

外観よりも、中は思いのほか広く、複雑だった。

ボクとドゥルゲの眼では見えないのに、やはり魔力が高いメンバーである、イオとリシャスには、はっきりと『結界』が見えているようだ……。

「……思ったより、厳重ね」

誰もいないことを確認して、リシャスは姿を現した。

「――結界を消さないと……」

 彼女がさらに続けて言う。

「――でも、仕掛けなんだろ?

何かあるはず。

|〈何かスイッチとか、あるのかな?〉

って……、妹が訊いてるけど、オレにもわかんねーって!」

遂にイオとレダまで、自問自答しちゃってるし……。

「――!!

しーっ、待って。

いい? いなくなるまで、絶対に喋っちゃダメだよ!」

突然、リシャスが誰かの気配を察知し、ボクらの姿を気配ごと隠した!


リシャスの後ろ辺りから靴音が歩いてくる……、それも2人。

ここの巫者ふしゃだろうか、白と茶色っぽい法衣を纏って、辺りを見回しながら、近くの結界の壁に向かって、何か詠唱した。

解錠アンロック

すると、巫者の目の前にあった結界が、スーっと、消えていく……。

〈〈〈あ〜、そういう事かー〉〉〉

みんな、声に出さないように、口をぽっかり開け、首を上下に振りながら、感嘆していた。



巫者がいなくなるのを確認して、リシャスはボクらを元に戻す。

「――さてと、誰かこれを真似できるかしら?」

「〈アタシには無理かな〉って、妹はお手上げで~す……」

魔法がほぼ専門のイオとレダでさえ、ダメなら、ボクとドゥルゲは魔法が使えないし……。

「……なら、私がやるしかないね」

リシャスは冷静に結界の前に進み、両手を前に出し、何も詠唱言葉を発せず、いとも簡単に消した……!

「え、えー!?」

思わず、ビックリしちゃったボクに対し、振り向きざまにリシャスはこう言った。

「――私を誰だと思ってるの!?

何にもない世界に、様々な街を作らせたのは、私よ」

そ、そういや……、『リシャスはこの世界の神様だ』、ということを忘れてたぁ……。

「――そんな事より、行くわよ」

「あ……、はい」


――やっぱり、神様はすごい……。 ――


と思いつつ、ボクらは結界の向こうへ進む。



【ミキト ヴェルゼト寺院内 書庫(?)】

この部屋に入ったのはいいけど……、周りはどこもかしこも本棚だらけ。

ビッシリ本が入っているし、ひょっとして、図書室か、何かかな?

それにしても、謎の本ばかりだし、何だろう……? これ……。

本を手に取ろうとすると、リシャスに制止された。

「――ダメよ、むやみに触っちゃ。

でも……、何か仕掛けがありそうだわ」

ボクを制止した否や、一部の本棚を間接的に動かしながら、魔力で、ある本をグッと、押した。

すると――、

鍵が開いたような音と、本棚のすべてが動き出す音がせめぎあい、ひとつの通路と化した。

「リ、リシャスさん……、どうしてこんな事まで……?」

純粋にボクは訊いてるんだけど、リシャスとボク以外、呆然としている。


『たぶん、みんな同じ意見なのかもしれない……』、と思う。


「――だから、私を誰だと思っているの?

分かってることを皆まで言わせないで。

私にどんな仕掛けや何だろうと掛けられても、見えない物なんてないわ」

「さすが……、リシャス様……。」

ドゥルゲはリシャスを褒め称えるように、跪く。

「――さ、こんな事している場合じゃないわ。

さっさと行きましょう」

()()()()褒め称える言動を、しれっと交わすかのように、隠し通路の先へ行こうとし、ボクらもそれについて行った。



【ミキト ヴェルゼト寺院内 謎の部屋】

ドアを開けた先は、階段だけしかなく、奥深い地下へ続いているようだった。

おまけに薄気味悪く、ある程度にたいまつが灯されているぐらいで、『こんな寺院に、なぜ地下室があるのだろうか……?』、不思議でしょうがない。

「おそらく……、私が思うには、地下牢ね」

ボクらが階段を進んでいる時に、リシャスがつぶやく。

「でもなんで、寺院に地下牢なんか必要あるのか?」

「さて、何でしょうね……?」

「――そんな、はぐらかさず、言ってくださいよ!?

〈リシャス様、何か知っている〉って、妹が気になっているじゃないですか!?」

「そんなの……、私が説明しなくとも、じきにわかるわ」


――神様だから、いちいち説明せず、自分でわからせようとしているのか……?

あるいは、全部説明してしまえば、ひどいショックを受けかねないから、わざとはぐらかしているのか……。

まぁ、どちらにせよ、裏を知ってしまえば、リシャスからとんでもない仕打ちが待ち構えるのかも……しれない、かな? ――


あーもう、やめようやめよう、変な事考えるの。

そんな考え事を一瞬で、断ち切らせるかのような物音が聞こえる……!

「「「!!」」」

全員、立ち止まり、辺りを見回す。

ガタガタガタガタ……ッ!!

なんだか、金網を揺するような音だ……。

「……すけてくれ!」

え……? 誰かいるの……?

「誰かたすけてくれ〜!!」

ボクらは、その声がする方へ急ぐ。

すると――、

地下牢でボクらが見たものは……。

老若男女問わず、あらゆる人が、今まで行方不明になっていた人達が、ここに収容されていたのだ……!

げっそりと痩せた人、怯えた老人、大声で「出してくれ」と叫ぶ人達に、何をされるのか意味がわからないまま、泣き叫ぶ子供達まで……。

リシャスがある意味、わざとはぐらかしていた理由が、わかってしまった。


これは――――、何かの実験……!?


「おお、これは……!

偉大なるリシャス様!」

リシャスを見つけた男の人が、うやうやしくそう呼んだ。

近寄ってみると、その男は……、髪とヒゲがぼうぼうに、区別がつかないぐらい程生え、衣服はボロボロ、とあるスラム街にいてもおかしくないような姿で、鉄格子を掴み、こちらを見ている。

「この人、最初に連れ去られた人だわ」

リシャスが想念で、ボクらに伝えてきた。

「リシャス様、助けてください!

我々は、何も悪いことなんて、してないのです」

男は助けを乞うように、こちらに言ってきた。

「それはどういうことなの……?」

「我々はみんな、ただただある者に、魅せられてここへ来たのに、こんな仕打ちだなんて……」

そこからボクらに、とんだ経緯を話してくれた――――。




【とある男の話】

――俺はこの街に住む住人であった。

今まで、ごく普通に平穏に暮らしていた、あのカルト教団さえ、ついて行くまでは。


ある晩、俺はあの時、仕事の付き合いで、飲んでいたので、若干酔っ払っていた。

「うぃ〜……」

千鳥足ながらも、意識はあった。

その時だ、目の前に変な光があってな。


ぼんやりと、紫のような光について行くと、不思議な感覚に包まれたんだ。

何やら、ピエロが踊りおどけて、おまけに俺を誘ってくるんだ。

訳分からず、そのまま誘われるままに行けば……、気がついたら、地下牢(ここ)にいてたんだ。


――そこで俺は、このカルト教団の裏を知ってしまった。


地下牢(ここ)に来てからいうもの、毎日のように拷問やら、モンスターに喰われないように、逃げ惑ったりなど……と、いろんなひどいことをされてきた。


――すべては、カルト教団らの実験のために――


それから日ごとに人は増え始め、中にはモンスターに喰われちまった奴や、酷い飢えに耐えきれず死んじまった奴、特に若い女なんか、強姦されまくって、殺されたりと……。

とにかく多種多様で、大勢死んじまった。


――オモテ面では、ありがたい事言っている割には、何なんだ、この有り様は!? ――


王国は、ごまんと助けを乞う人で溢れかえってるくせに、あのカルト教団に弱みをつけられているせいで、一向にも踏み出せない。


このまま俺は、泣き寝入りしながら死んでいくのかな……?

もしそうなら、リシャス様にまず、謝らなきゃいけないな……。


――せっかくこの世界に生かしてくださったのに、申し訳なかった―― と。



【ミキト ヴェルゼト寺院内 地下牢】

いつの間にかボクは、この男の人の話を聞いて、涙を流していた。

『どこへ行っても……、悪は消えないのだ……』と、そう感じてしまった。


だがそれとは逆に、リシャスは両手を握り締め、震え上がらせていた。

「ゆるせない……っ!!」

そう言った直後、両手を天にかざし、とても白く眩い光を出し、鉄格子に向けて放った……!!

すると、

鉄格子に穴が開き、各々の人がすっと通れるような大きさに拡大していく。

その中にいた人らは、戸惑いと喜びが混じりあった感情で、ざわつき出す。

「みんな、ここから出て!」

囚われていた人達が一斉に、ボクらの元に集まり出してきた。

さらにリシャスは、今までに見たことのない顔つきで、こう言った。

「みんな、集まったね。

私がここから外へ出してあげるから、あとはすぐに逃げなさい!」


――さすが、リシャスだ……。 ――


神様の言葉となると、みんな素直に頷いた。

そこからリシャスの魔力で、囚われた人達1人も残さず、この建物の外へ送り出していった。


「ふー」

リシャスはホッとしているようだし、みんなも安堵の様子を浮かべていた。

ボクにとっては知らない世界だらけで、どれがどうなっているのかまで、わからないけど――、

『どこへ行っても、人間の善悪があるのは変わらない』、という事を痛感してしまった。

「今度は、悪を裁く番。

さて、この奥には何があるでしょうね?」

リシャスは冷静に言っているようだが、その一言からは、とてつもない燃えたぎった、青い炎をまとうような怒りが感じられた。


牢の奥には、いったい何が行われているのだろうか……。




【ミキト ヴェルゼト寺院 謎の部屋 最奥部】

牢の奥……、みんなで思い切って扉を開けると、そこには見た事ある人物が喚いていた……!

「やめろ! 僕が何をしたっていうんだ!?」

「――イルノス!!」

おそらく、巫者であろう人達が、1人の少年に何人もの囲みつつ、イルノスを羽交い締めにしている。

「……ッ、 イオ!?

助けてくれ、僕がいろいろできる限りの事をしようとしたら、コイツらに捕まってしまったんだ!」

「――黙れ、小僧!」

1人の巫者が、持っていた杖でイルノスのお腹を殴る……!

「うぐッ……!?」


()()()さっきから見ていたリシャスが、隠していた姿を現し、ものすごい形相でボクらの前に立つ。

「あなた達……、何やっているの?

こんな事をして、許されると思うの!?」


すると、巫者達の後ろから、1人の男が現れる。

「ククククク……。

これはこれは、転生神であり、エイヴリーテの創造神でもあるリシャス様が、直々に現れるとは」

「教祖、リュウザ……!

どうもご丁寧な紹介、ありがとう。

――っていうより、()()()どういうことなのか、説明してもらうかしら?」

リシャスはやはり、すべての転生した人達を、ちゃんと覚えているようだ。

それにしても、『どうもご丁寧な紹介』っていうところは、とても嫌そうに言っていたような……。

「ククククク……。

『これは』って、人を魔物に変える儀式ですよ。魔力や拷問、あらゆる業を加えて、人の恨みを纏わせ、悪を芽生えさせる。

そして、そこから生まれたモノは、偉大なるアベル様のご貢献となるであろう!」

リュウザは、勝ち誇った如く、高らかに笑い続けるが、それを聞いていたリシャスにとっては、怒りの頂点に達しないわけがない。

「アベル……、ですって?

 あなたがその様なことをさせるために、エイヴリーテここへ転生した覚えがないし、

そもそも――、なぜ邪神アベルの名を知ってるの!?」

「『なぜ?』って、それは直接会ったのですから。

 私はいろいろな書物を読み漁っているうちに、アベル様の名を知りましてね。

興味を引かれいくうちに、夢の中で会うことができたのです。

そして、こう仰せられたのです……。

『人はただ住んでるだけでは、つまらないだろう。

ならば我と協力をし、「闇」を創ろうではないか』……と」


 だから、この世界に魔物もいれば、その討伐を許した部分もあるのか……。


――とはいえ、ボクとしては、このまま放っておける事実でもなければ、許されることでもない。

なんせ、この世界での人はみんな、『人生をやり直しに来ているのであり、そこで幸せに暮らしたい』という、願いで来たのに、そんな一方的なやり方で命を潰されるのも、あんまりだ。

「そんなの……、そんなの、許されるわけじゃない!

そこまで、私の意思に背くのなら、それなりの罪を背負ってもらうわ――――、

ミキト、ドゥルゲ、イオにレダ、リュウザを浄化させなさい!」


 ――えっ、()()!?


ボクは一瞬、戸惑ってしまった。

 それはいったい、どういうことなのか。 でも、空気的に『この人を倒せ!』って、ことでいいのか?

え、待って? 本当に殺めていいの!?

 困惑しているボクを見て、ドゥルゲがリシャスにひとつ質問する。

「リシャス様、本当にこの者を殺めて――――」

「いいわ。 私が許可する、そういう場合はあなたたちに、罪を背負う必要はないわ!

――とにかくまずは、イルノスを解放させなさい……!」

リシャスの真剣な言葉でボクはハッとし、リュウザに刃を向ける……。


――この人は、悪に魅了され、染まりきってしまった――

ならば、ボク達の光で、その悪を消してしまおう……。


「ほう、やはりリシャス様とは分かり合えないですね――、

ていうか、そんなつもりなんて、さらさらないけど。

野郎共、やってしまいなさい!」

 リュウザの一言で、取り巻きの巫者がボクらに襲い掛かってくる。

 そしてボクの「行くぞ!」の声で、臨戦態勢に入った……!



電撃スパーク!」

 イオが魔法で、捕らわれているイルノスを解放させ、逃がした――!

逃げたイルノスは、イオを抱きしめる。

「大丈夫か!?」

「イオ……、こわかったよう」


 ドゥルゲとボクは、取り巻きを蹴散らしながら、リュウザを追い詰める……!

とはいえ、そこまで思うように行かず、どんどん放ってくる、魔法と魔物にかなり苦しめられ、

一度は追い詰めたのに、また引き離されてしまった……。


「ハッハッハッハ……!

偉大なるリシャス様の駒は、その程度ですか!?

それなら、アベル様にこのまま、ひれ伏されるがいい!」

 リュウザは杖を高々と掲げ、闇の魔力をどんどん大きくさせていく―――!


 ――ボクがもっと強かったら……、ドゥルゲの足を引っ張らなくていいのに……――


なんて、弱気になっていると、イオの声が聞こえてくる……!


「イルノス、こんな魔力、オレ達ふたりで吹き飛ばしておうぜ!」

「――おう、こんな奴も呑み込んでしまうほどに、ハデにな!」

 すると、ふたりでそれぞれ別の|(?)魔法を詠唱し始める。

リュウザも、それ見て、巨大な魔弾放ち、ボクとドゥルゲを先に打ちのめそうとする……!

爆発エクスプロージョン!」

先に、とてつもない詠唱の早さで、イルノスが魔弾を打ち消し、

氷結フリージング!」

イオがその爆風をリュウザに送り返した!


「ぐわっ……!?」

おかげで、リュウザがひるみ、ボクらに士気がよみがえってくる―――!

「<今よ! アイツを打ちめして!>って、オレも行くぜ!」

その声で再び、ボクとドゥルゲは立ち向かい、さらにイオもロッドを魔力でフルーレのような鋭利に尖らせ、加勢してきた!


「あなたの償いは――、

霊界にて、きっちり清算してもらうわよ……!」

「ミキト、俺が強襲するから、その間にお前が引きつけるんだ」

「そんじゃ、オレはミキトと一緒に、ぶっ飛ばしてやる……!」

「――うん、わかった!」


一瞬、1度しかないチャンス……。


ボクは、ドゥルゲとイオの顔を見合わせながら頷き、イオと共に、リュウザの元へ立ち向かう……!

同時に、ドゥルゲも――、

凄まじいジャンプで、ボクの視界から消し、空を舞う……!

「「「はぁーーーーーッ!!」」」


イオが魔法を放ったせいか、妙な光に包まれ、リュウザの悲鳴が聞こえた。

「ウオォォォ……ッ!!」


今のは奇跡の一撃だっただろうか……。


ボクとイオ、そしてジャンプをキメた、ドゥルゲ……、見事同時にリュウザを致命傷へ追い込んでいた……。

「ぐはっ……」

よろめき、右腕を抑えながら倒れ込む、リュウザ。


さらにドゥルゲは、『抵抗しても無駄だ』と言わんばかりに、持っていた槍で、顎を持ち上げた。

「フン、俺が少々手加減したからいいものの――、もし本気なら、テメーの命なんざ、木っ端微塵だぜ?」

「あらまぁ、そこまで計算してたなんて。

ま、潰させるには、荷が重すぎたかしら?」


元ドラゴンと転生神……、いろんな意味で変なふうに黒いのは、気の所為せいかな……?


「……で、身柄どうします?」

ボクが若干困り気味で質問すると、イオが答えてくれた。

「国王様に、引き渡そう。

ちょうど、いろいろ困っているだろうから」

「……ですね」




【ミキト一行 フィリダ城内】

あれから、リシャスが城門までワープさせてくれた後、『国王には、私がいろいろ関わってた――、とかなんて、言うんじゃないわよ?』と言い残して消え去ってしまった。


門番から国王の説明まで、つじつま合わせが少し大変だったけど、イルノスがいろいろと事情を話してくれたから、それにやや便乗するような形で、なんとか納得してくれた。


「――陛下、そういう事なので、然るべき処罰をそちらにお任せします」

イオが跪きながら言いつつ、ドゥルゲが相当ガチガチに巻き付けたんだろね……、縛り付けられたリュウザを衛兵に引き渡した。

「皆のもの、ご苦労であった。

コヤツらに、弱みを突きつけられ、捜査もできないまま、困っていたところだった。

そなたたちに、褒美をやろう」


国王が大臣に顎で指示すると、持ってきたのは――。

イルノスは魔術書|(この辺りには手に入らない、代物らしい)、

イオは特別な素材でできた、帽子とローブに腕輪、

ドゥルゲは勲章と新しい槍|(しかも両刃で、豪華なデザインの槍!!)。


「うほーッ、コイツが欲しかったんだよな!」


凄く喜んでる……、 こんな武器を扱うなんて、さすがだな……。


でも、あのジャンプ……、もっと間近で見たかったなぁ……。


あの時は、夢中で向かってて、しかも一瞬の一撃だったもんで、いつの間にか着地していたし。


まぁそれは置いといて、ボクの報酬はというと――、

ドゥルゲと色違いで、青の勲章とこちらも蒼を基調とした、とてもカッコイイ鎧、そして綺麗な輝きを放つ、ルビーのような宝飾がされた、長めの剣だった。

「おおッ、エーデルフランベルジェじゃないか!?

スゲーな!」

イオが意外にも、こんなに早く反応するとは……。

ボクがキョトンとしていると、イオが興奮しながら、説明する。

「この武器は、フィリダで偉大な名誉をおさめた証だよ!

――つまりミキトは、選ばれた英雄なんだよ!」


ボクが……、英雄……!?

そ、そんなボクには、荷が重すぎるし、早すぎるよ……!


「そなたはミキトと言ったな?」

国王がボクに訊いてきた。


そこにどうしたらいいかわからず、おろおろするボクを、イオは跪かせ|(ほぼ無理矢理)、同時にドゥルゲは、肩をバシバシ叩くので、ボクはされるがままになった。

「あ、ハイ!

み、ミキト・イグランシェです。

まだ転生したてで、何がなんだかわからないですけど――」

「そうか……。

そなたは本当に、偉大なる神【リシャス】様に選ばれた者じゃ。

これから行く先々、様々な仲間と出会い、そしてやるべき事が、きっと見つかるだろう。

その道中は、もしかすれば、いろんな壁にぶち当たるかもしれん。


そんな時は、心の自分とそばにいる仲間を信じてみるがいい。

そうすればきっと、自ずと答えが導いてくれるだろう…、そなたはいい名を与えてくださったのじゃな……!」


「ハイ、ありがたき言葉を…!」

この言葉は、いつの間にか自然と出てきていた。


最後に、国王はいい事を教えてくれた。

「ここから北の海を渡ると、自然に囲まれた教会がある。

その者に、そなたたちに同行してくれる人を頼んでみてはどうじゃ?

我からも、紹介状を書いておこう。」

ボクらは国王にお礼を言って、この城を後にし、

イルノスとは別れた。


さらに、イオは『この先、いろいろな世界を見て回りたいから』と言うので、ボクらの正式な仲間となった。


あとでドゥルゲに聞いたのだが、自然に囲まれた教会は、『レイセル』という国で、僧侶を目指す人や回復術を覚えたい人は、ここで修行するらしく、教会とその周辺の集落以外は、本当に山に囲まれてるから、とのことだ。


ここでいいヒーラーを探さないと、こんなんじゃ、先が思いやられそうだ。

明日、レイセル行きの定期船に乗る。

それまで、ゆっくり休んでいよぉっと……。




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