フィリダ国民無差別失踪事件(後編)
【ミキト ヴェルゼト寺院に通じる地下通路】
ひょんなことから、とあるおじいさんに出会ったボクらは、おじいさんに言われるがままついて行くと、そこはとんだ隠し通路だった。
「〈てか、こんなところに地下通路なんて、あったの?〉って、妹おろか、オレまでびっくりなんだけど!?」
イオがこの地方をボクらの中ではいちばん知っているのに、まさかこんなところは知らなかったらしい……。
「これは、昔からあってな。
もともとは、この地下通路から掘り出し、ここの寺院を少しずつ建て始め、中はとても魔力が強い人が整えたのじゃ。
その中で最も魔力が強かった人が、この寺院の教祖といわれておるのじゃ」
どうやら、全員初耳で|(ボクは何にも知らなかったから、アレだけど)、感嘆を得ていた。
「初めは、本当にいい教団だったのじゃが、いつからか、国王陛下同様に権力を持ち出して、今じゃ、我々国民ですら人を入れず、挙句には、逆らえないような体制まで取ったのじゃ」
おじいさんは、ボクらを案内しながら、ここの経緯を教えてくれた。
ここまで知っているのなら、もしかして、転生してから、相当長いということになる…のかな?
「そのおじいさん、もう何十年も前にさせた人よ」
「|(え、そうなの!?)」
リシャスがボクに教えてくれた時に、思わず声を出しそうになったが、なんとか想念だけで話すことができた。
―― でも、なんで助けなかったの……?
「私はどうするのか、様子を見てただけ。
それに、もし助けたとしたら、常に私に頼るだけで、努力や進歩なんてしないでしょ?」
それもそうだな……、もしボクが現実世界にいて、さらに絶望的な事があって、そこに神様が手を差し伸べたとしたら、努力なんてまったくしなくなるだろうな……。
「そうでしょ。
人間は楽な道を見つけてしまったら、そっちに走ろうとする。
それではダメなの、我々はその人々に越えられる壁を与えているだけ。
それを越えられず、逃げてばかりだと、今度は違う形で、壁を与えなきゃならない。
実にめんどくさい事よ」
なんか、そう言われると、本当に申し訳なくなってくる……。
「――なら、そうならないように、しなさい」
ボクの心の中で「はい」とつぶやいていると、おじいさんが急に立ち止まった。
「ここからは、魔物が巣くっておる。
お前たちの出番じゃ」
えっ、ま、魔物がいるなんて――、
しかも同時にうめき声が聞こえるし……!?
「ほら、さっさと戦いなさい!」
と、リシャスに活を入れられ、剣を引き抜き、ドゥルゲ達と共に向かっていった。
そ、それにしても、デカイ魔物だった……。
ボクを含め、ドゥルゲ、イオの3人が、息をぜーはー言わせて、若干しゃがみこんでいる。
「すまないのぉ、わしは戦うことはできんのじゃ」
「――てか、そんなもんで、息上がりすぎ」
おじいさんは申し訳なさそうにするのに対し、リシャスからは、厳しい意見……。
「これは……、俺たちの経験不足だ」
ドゥルゲが言う、その言葉は、リシャスにも、おじいさんにも言っているようだった。
みんな、自分のことで精いっぱいだし、おまけに治療できる人がいない。
それをゲームで例えるとなると、回復する人がいなけりゃ、なんとなくキツいよね……。
「こらミキト、今さらそんな事を思っても、仕方ないでしょ……!」
―― あ、はい、ごめんなさい。
なんだか、この短時間で、一気にヘタレになったような……。
ま、そこは置いといて。
ボクらはあの後、一時休憩を終えて、さらに地下通路を進んでいくと、今度は最奥部だろうか――――、
大きな木の扉|(というより、門に近い)に差し掛かった。
「すまない……、わしが案内できるのは、ここまでじゃ。
この門をくぐると、寺院の地下に続いており、様々な仕掛けから見事、突破すれば――、おそらく本当の闇を見ることができるじゃろう……」
ボクらはおじいさんにお礼を言って、彼と別れた。
『本当の闇』……。
ボクらはそこに立ち向かわなければならない、それを取り払わなければ、またみんなが不安な日々を過ごすことになる………。
そんな精神的な苦痛は、ボクたちしか取り払えないんだ……!!
【ミキト ヴェルゼト寺院内】
木の門は、あまり使われていないせいか、いとも簡単に開けることができた。
外観よりも、中は思いのほか広く、複雑だった。
ボクとドゥルゲの眼では見えないのに、やはり魔力が高いメンバーである、イオとリシャスには、はっきりと『結界』が見えているようだ……。
「……思ったより、厳重ね」
誰もいないことを確認して、リシャスは姿を現した。
「――結界を消さないと……」
彼女がさらに続けて言う。
「――でも、仕掛けなんだろ?
何かあるはず。
|〈何かスイッチとか、あるのかな?〉
って……、妹が訊いてるけど、オレにもわかんねーって!」
遂にイオとレダまで、自問自答しちゃってるし……。
「――!!
しーっ、待って。
いい? いなくなるまで、絶対に喋っちゃダメだよ!」
突然、リシャスが誰かの気配を察知し、ボクらの姿を気配ごと隠した!
リシャスの後ろ辺りから靴音が歩いてくる……、それも2人。
ここの巫者だろうか、白と茶色っぽい法衣を纏って、辺りを見回しながら、近くの結界の壁に向かって、何か詠唱した。
「解錠」
すると、巫者の目の前にあった結界が、スーっと、消えていく……。
〈〈〈あ〜、そういう事かー〉〉〉
みんな、声に出さないように、口をぽっかり開け、首を上下に振りながら、感嘆していた。
巫者がいなくなるのを確認して、リシャスはボクらを元に戻す。
「――さてと、誰かこれを真似できるかしら?」
「〈アタシには無理かな〉って、妹はお手上げで~す……」
魔法がほぼ専門のイオとレダでさえ、ダメなら、ボクとドゥルゲは魔法が使えないし……。
「……なら、私がやるしかないね」
リシャスは冷静に結界の前に進み、両手を前に出し、何も詠唱言葉を発せず、いとも簡単に消した……!
「え、えー!?」
思わず、ビックリしちゃったボクに対し、振り向きざまにリシャスはこう言った。
「――私を誰だと思ってるの!?
何にもない世界に、様々な街を作らせたのは、私よ」
そ、そういや……、『リシャスはこの世界の神様だ』、ということを忘れてたぁ……。
「――そんな事より、行くわよ」
「あ……、はい」
――やっぱり、神様はすごい……。 ――
と思いつつ、ボクらは結界の向こうへ進む。
【ミキト ヴェルゼト寺院内 書庫(?)】
この部屋に入ったのはいいけど……、周りはどこもかしこも本棚だらけ。
ビッシリ本が入っているし、ひょっとして、図書室か、何かかな?
それにしても、謎の本ばかりだし、何だろう……? これ……。
本を手に取ろうとすると、リシャスに制止された。
「――ダメよ、むやみに触っちゃ。
でも……、何か仕掛けがありそうだわ」
ボクを制止した否や、一部の本棚を間接的に動かしながら、魔力で、ある本をグッと、押した。
すると――、
鍵が開いたような音と、本棚のすべてが動き出す音がせめぎあい、ひとつの通路と化した。
「リ、リシャスさん……、どうしてこんな事まで……?」
純粋にボクは訊いてるんだけど、リシャスとボク以外、呆然としている。
『たぶん、みんな同じ意見なのかもしれない……』、と思う。
「――だから、私を誰だと思っているの?
分かってることを皆まで言わせないで。
私にどんな仕掛けや何だろうと掛けられても、見えない物なんてないわ」
「さすが……、リシャス様……。」
ドゥルゲはリシャスを褒め称えるように、跪く。
「――さ、こんな事している場合じゃないわ。
さっさと行きましょう」
さっきの褒め称える言動を、しれっと交わすかのように、隠し通路の先へ行こうとし、ボクらもそれについて行った。
【ミキト ヴェルゼト寺院内 謎の部屋】
ドアを開けた先は、階段だけしかなく、奥深い地下へ続いているようだった。
おまけに薄気味悪く、ある程度にたいまつが灯されているぐらいで、『こんな寺院に、なぜ地下室があるのだろうか……?』、不思議でしょうがない。
「おそらく……、私が思うには、地下牢ね」
ボクらが階段を進んでいる時に、リシャスがつぶやく。
「でもなんで、寺院に地下牢なんか必要あるのか?」
「さて、何でしょうね……?」
「――そんな、はぐらかさず、言ってくださいよ!?
〈リシャス様、何か知っている〉って、妹が気になっているじゃないですか!?」
「そんなの……、私が説明しなくとも、じきにわかるわ」
――神様だから、いちいち説明せず、自分でわからせようとしているのか……?
あるいは、全部説明してしまえば、ひどいショックを受けかねないから、わざとはぐらかしているのか……。
まぁ、どちらにせよ、裏を知ってしまえば、リシャスからとんでもない仕打ちが待ち構えるのかも……しれない、かな? ――
あーもう、やめようやめよう、変な事考えるの。
そんな考え事を一瞬で、断ち切らせるかのような物音が聞こえる……!
「「「!!」」」
全員、立ち止まり、辺りを見回す。
ガタガタガタガタ……ッ!!
なんだか、金網を揺するような音だ……。
「……すけてくれ!」
え……? 誰かいるの……?
「誰かたすけてくれ〜!!」
ボクらは、その声がする方へ急ぐ。
すると――、
地下牢でボクらが見たものは……。
老若男女問わず、あらゆる人が、今まで行方不明になっていた人達が、ここに収容されていたのだ……!
げっそりと痩せた人、怯えた老人、大声で「出してくれ」と叫ぶ人達に、何をされるのか意味がわからないまま、泣き叫ぶ子供達まで……。
リシャスがある意味、わざとはぐらかしていた理由が、わかってしまった。
これは――――、何かの実験……!?
「おお、これは……!
偉大なるリシャス様!」
リシャスを見つけた男の人が、恭しくそう呼んだ。
近寄ってみると、その男は……、髪とヒゲがぼうぼうに、区別がつかないぐらい程生え、衣服はボロボロ、とあるスラム街にいてもおかしくないような姿で、鉄格子を掴み、こちらを見ている。
「この人、最初に連れ去られた人だわ」
リシャスが想念で、ボクらに伝えてきた。
「リシャス様、助けてください!
我々は、何も悪いことなんて、してないのです」
男は助けを乞うように、こちらに言ってきた。
「それはどういうことなの……?」
「我々はみんな、ただただある者に、魅せられてここへ来たのに、こんな仕打ちだなんて……」
そこからボクらに、とんだ経緯を話してくれた――――。
【とある男の話】
――俺はこの街に住む住人であった。
今まで、ごく普通に平穏に暮らしていた、あのカルト教団さえ、ついて行くまでは。
ある晩、俺はあの時、仕事の付き合いで、飲んでいたので、若干酔っ払っていた。
「うぃ〜……」
千鳥足ながらも、意識はあった。
その時だ、目の前に変な光があってな。
ぼんやりと、紫のような光について行くと、不思議な感覚に包まれたんだ。
何やら、ピエロが踊りおどけて、おまけに俺を誘ってくるんだ。
訳分からず、そのまま誘われるままに行けば……、気がついたら、地下牢にいてたんだ。
――そこで俺は、このカルト教団の裏を知ってしまった。
地下牢に来てからいうもの、毎日のように拷問やら、モンスターに喰われないように、逃げ惑ったりなど……と、いろんな酷いことをされてきた。
――すべては、カルト教団らの実験のために――
それから日ごとに人は増え始め、中にはモンスターに喰われちまった奴や、酷い飢えに耐えきれず死んじまった奴、特に若い女なんか、強姦されまくって、殺されたりと……。
とにかく多種多様で、大勢死んじまった。
――オモテ面では、ありがたい事言っている割には、何なんだ、この有り様は!? ――
王国は、ごまんと助けを乞う人で溢れかえってるくせに、あのカルト教団に弱みをつけられているせいで、一向にも踏み出せない。
このまま俺は、泣き寝入りしながら死んでいくのかな……?
もしそうなら、リシャス様にまず、謝らなきゃいけないな……。
――せっかくこの世界に生かしてくださったのに、申し訳なかった―― と。
【ミキト ヴェルゼト寺院内 地下牢】
いつの間にかボクは、この男の人の話を聞いて、涙を流していた。
『どこへ行っても……、悪は消えないのだ……』と、そう感じてしまった。
だがそれとは逆に、リシャスは両手を握り締め、震え上がらせていた。
「ゆるせない……っ!!」
そう言った直後、両手を天にかざし、とても白く眩い光を出し、鉄格子に向けて放った……!!
すると、
鉄格子に穴が開き、各々の人がすっと通れるような大きさに拡大していく。
その中にいた人らは、戸惑いと喜びが混じりあった感情で、ざわつき出す。
「みんな、ここから出て!」
囚われていた人達が一斉に、ボクらの元に集まり出してきた。
さらにリシャスは、今までに見たことのない顔つきで、こう言った。
「みんな、集まったね。
私がここから外へ出してあげるから、あとはすぐに逃げなさい!」
――さすが、リシャスだ……。 ――
神様の言葉となると、みんな素直に頷いた。
そこからリシャスの魔力で、囚われた人達1人も残さず、この建物の外へ送り出していった。
「ふー」
リシャスはホッとしているようだし、みんなも安堵の様子を浮かべていた。
ボクにとっては知らない世界だらけで、どれがどうなっているのかまで、わからないけど――、
『どこへ行っても、人間の善悪があるのは変わらない』、という事を痛感してしまった。
「今度は、悪を裁く番。
さて、この奥には何があるでしょうね?」
リシャスは冷静に言っているようだが、その一言からは、とてつもない燃えたぎった、青い炎を纏うような怒りが感じられた。
牢の奥には、いったい何が行われているのだろうか……。
【ミキト ヴェルゼト寺院 謎の部屋 最奥部】
牢の奥……、みんなで思い切って扉を開けると、そこには見た事ある人物が喚いていた……!
「やめろ! 僕が何をしたっていうんだ!?」
「――イルノス!!」
おそらく、巫者であろう人達が、1人の少年に何人もの囲みつつ、イルノスを羽交い締めにしている。
「……ッ、 イオ!?
助けてくれ、僕がいろいろできる限りの事をしようとしたら、コイツらに捕まってしまったんだ!」
「――黙れ、小僧!」
1人の巫者が、持っていた杖でイルノスのお腹を殴る……!
「うぐッ……!?」
それをさっきから見ていたリシャスが、隠していた姿を現し、ものすごい形相でボクらの前に立つ。
「あなた達……、何やっているの?
こんな事をして、許されると思うの!?」
すると、巫者達の後ろから、1人の男が現れる。
「ククククク……。
これはこれは、転生神であり、エイヴリーテの創造神でもあるリシャス様が、直々に現れるとは」
「教祖、リュウザ……!
どうもご丁寧な紹介、ありがとう。
――っていうより、これはどういうことなのか、説明してもらうかしら?」
リシャスはやはり、すべての転生した人達を、ちゃんと覚えているようだ。
それにしても、『どうもご丁寧な紹介』っていうところは、とても嫌そうに言っていたような……。
「ククククク……。
『これは』って、人を魔物に変える儀式ですよ。魔力や拷問、あらゆる業を加えて、人の恨みを纏わせ、悪を芽生えさせる。
そして、そこから生まれたモノは、偉大なるアベル様のご貢献となるであろう!」
リュウザは、勝ち誇った如く、高らかに笑い続けるが、それを聞いていたリシャスにとっては、怒りの頂点に達しないわけがない。
「アベル……、ですって?
あなたがその様なことをさせるために、エイヴリーテへ転生した覚えがないし、
そもそも――、なぜ邪神アベルの名を知ってるの!?」
「『なぜ?』って、それは直接会ったのですから。
私はいろいろな書物を読み漁っているうちに、アベル様の名を知りましてね。
興味を引かれいくうちに、夢の中で会うことができたのです。
そして、こう仰せられたのです……。
『人はただ住んでるだけでは、つまらないだろう。
ならば我と協力をし、「闇」を創ろうではないか』……と」
だから、この世界に魔物もいれば、その討伐を許した部分もあるのか……。
――とはいえ、ボクとしては、このまま放っておける事実でもなければ、許されることでもない。
なんせ、この世界での人はみんな、『人生をやり直しに来ているのであり、そこで幸せに暮らしたい』という、願いで来たのに、そんな一方的なやり方で命を潰されるのも、あんまりだ。
「そんなの……、そんなの、許されるわけじゃない!
そこまで、私の意思に背くのなら、それなりの罪を背負ってもらうわ――――、
ミキト、ドゥルゲ、イオにレダ、リュウザを浄化させなさい!」
――えっ、浄化!?
ボクは一瞬、戸惑ってしまった。
それはいったい、どういうことなのか。 でも、空気的に『この人を倒せ!』って、ことでいいのか?
え、待って? 本当に殺めていいの!?
困惑しているボクを見て、ドゥルゲがリシャスにひとつ質問する。
「リシャス様、本当にこの者を殺めて――――」
「いいわ。 私が許可する、そういう場合はあなたたちに、罪を背負う必要はないわ!
――とにかくまずは、イルノスを解放させなさい……!」
リシャスの真剣な言葉でボクはハッとし、リュウザに刃を向ける……。
――この人は、悪に魅了され、染まりきってしまった――
ならば、ボク達の光で、その悪を消してしまおう……。
「ほう、やはりリシャス様とは分かり合えないですね――、
ていうか、そんなつもりなんて、さらさらないけど。
野郎共、やってしまいなさい!」
リュウザの一言で、取り巻きの巫者がボクらに襲い掛かってくる。
そしてボクの「行くぞ!」の声で、臨戦態勢に入った……!
「電撃!」
イオが魔法で、捕らわれているイルノスを解放させ、逃がした――!
逃げたイルノスは、イオを抱きしめる。
「大丈夫か!?」
「イオ……、こわかったよう」
ドゥルゲとボクは、取り巻きを蹴散らしながら、リュウザを追い詰める……!
とはいえ、そこまで思うように行かず、どんどん放ってくる、魔法と魔物にかなり苦しめられ、
一度は追い詰めたのに、また引き離されてしまった……。
「ハッハッハッハ……!
偉大なるリシャス様の駒は、その程度ですか!?
それなら、アベル様にこのまま、ひれ伏されるがいい!」
リュウザは杖を高々と掲げ、闇の魔力をどんどん大きくさせていく―――!
――ボクがもっと強かったら……、ドゥルゲの足を引っ張らなくていいのに……――
なんて、弱気になっていると、イオの声が聞こえてくる……!
「イルノス、こんな魔力、オレ達ふたりで吹き飛ばしておうぜ!」
「――おう、こんな奴も呑み込んでしまうほどに、ハデにな!」
すると、ふたりでそれぞれ別の|(?)魔法を詠唱し始める。
リュウザも、それ見て、巨大な魔弾放ち、ボクとドゥルゲを先に打ちのめそうとする……!
「爆発!」
先に、とてつもない詠唱の早さで、イルノスが魔弾を打ち消し、
「氷結!」
イオがその爆風をリュウザに送り返した!
「ぐわっ……!?」
おかげで、リュウザがひるみ、ボクらに士気がよみがえってくる―――!
「<今よ! アイツを打ちめして!>って、オレも行くぜ!」
その声で再び、ボクとドゥルゲは立ち向かい、さらにイオもロッドを魔力でフルーレのような鋭利に尖らせ、加勢してきた!
「あなたの償いは――、
霊界にて、きっちり清算してもらうわよ……!」
「ミキト、俺が強襲するから、その間にお前が引きつけるんだ」
「そんじゃ、オレはミキトと一緒に、ぶっ飛ばしてやる……!」
「――うん、わかった!」
一瞬、1度しかないチャンス……。
ボクは、ドゥルゲとイオの顔を見合わせながら頷き、イオと共に、リュウザの元へ立ち向かう……!
同時に、ドゥルゲも――、
凄まじいジャンプで、ボクの視界から消し、空を舞う……!
「「「はぁーーーーーッ!!」」」
イオが魔法を放ったせいか、妙な光に包まれ、リュウザの悲鳴が聞こえた。
「ウオォォォ……ッ!!」
今のは奇跡の一撃だっただろうか……。
ボクとイオ、そしてジャンプをキメた、ドゥルゲ……、見事同時にリュウザを致命傷へ追い込んでいた……。
「ぐはっ……」
よろめき、右腕を抑えながら倒れ込む、リュウザ。
さらにドゥルゲは、『抵抗しても無駄だ』と言わんばかりに、持っていた槍で、顎を持ち上げた。
「フン、俺が少々手加減したからいいものの――、もし本気なら、テメーの命なんざ、木っ端微塵だぜ?」
「あらまぁ、そこまで計算してたなんて。
ま、潰させるには、荷が重すぎたかしら?」
元ドラゴンと転生神……、いろんな意味で変なふうに黒いのは、気の所為かな……?
「……で、身柄どうします?」
ボクが若干困り気味で質問すると、イオが答えてくれた。
「国王様に、引き渡そう。
ちょうど、いろいろ困っているだろうから」
「……ですね」
【ミキト一行 フィリダ城内】
あれから、リシャスが城門までワープさせてくれた後、『国王には、私がいろいろ関わってた――、とかなんて、言うんじゃないわよ?』と言い残して消え去ってしまった。
門番から国王の説明まで、つじつま合わせが少し大変だったけど、イルノスがいろいろと事情を話してくれたから、それにやや便乗するような形で、なんとか納得してくれた。
「――陛下、そういう事なので、然るべき処罰をそちらにお任せします」
イオが跪きながら言いつつ、ドゥルゲが相当ガチガチに巻き付けたんだろね……、縛り付けられたリュウザを衛兵に引き渡した。
「皆のもの、ご苦労であった。
コヤツらに、弱みを突きつけられ、捜査もできないまま、困っていたところだった。
そなたたちに、褒美をやろう」
国王が大臣に顎で指示すると、持ってきたのは――。
イルノスは魔術書|(この辺りには手に入らない、代物らしい)、
イオは特別な素材でできた、帽子とローブに腕輪、
ドゥルゲは勲章と新しい槍|(しかも両刃で、豪華なデザインの槍!!)。
「うほーッ、コイツが欲しかったんだよな!」
凄く喜んでる……、 こんな武器を扱うなんて、さすがだな……。
でも、あのジャンプ……、もっと間近で見たかったなぁ……。
あの時は、夢中で向かってて、しかも一瞬の一撃だったもんで、いつの間にか着地していたし。
まぁそれは置いといて、ボクの報酬はというと――、
ドゥルゲと色違いで、青の勲章とこちらも蒼を基調とした、とてもカッコイイ鎧、そして綺麗な輝きを放つ、ルビーのような宝飾がされた、長めの剣だった。
「おおッ、エーデルフランベルジェじゃないか!?
スゲーな!」
イオが意外にも、こんなに早く反応するとは……。
ボクがキョトンとしていると、イオが興奮しながら、説明する。
「この武器は、フィリダで偉大な名誉をおさめた証だよ!
――つまりミキトは、選ばれた英雄なんだよ!」
ボクが……、英雄……!?
そ、そんなボクには、荷が重すぎるし、早すぎるよ……!
「そなたはミキトと言ったな?」
国王がボクに訊いてきた。
そこにどうしたらいいかわからず、おろおろするボクを、イオは跪かせ|(ほぼ無理矢理)、同時にドゥルゲは、肩をバシバシ叩くので、ボクはされるがままになった。
「あ、ハイ!
み、ミキト・イグランシェです。
まだ転生したてで、何がなんだかわからないですけど――」
「そうか……。
そなたは本当に、偉大なる神【リシャス】様に選ばれた者じゃ。
これから行く先々、様々な仲間と出会い、そしてやるべき事が、きっと見つかるだろう。
その道中は、もしかすれば、いろんな壁にぶち当たるかもしれん。
そんな時は、心の自分とそばにいる仲間を信じてみるがいい。
そうすればきっと、自ずと答えが導いてくれるだろう…、そなたはいい名を与えてくださったのじゃな……!」
「ハイ、ありがたき言葉を…!」
この言葉は、いつの間にか自然と出てきていた。
最後に、国王はいい事を教えてくれた。
「ここから北の海を渡ると、自然に囲まれた教会がある。
その者に、そなたたちに同行してくれる人を頼んでみてはどうじゃ?
我からも、紹介状を書いておこう。」
ボクらは国王にお礼を言って、この城を後にし、
イルノスとは別れた。
さらに、イオは『この先、いろいろな世界を見て回りたいから』と言うので、ボクらの正式な仲間となった。
あとでドゥルゲに聞いたのだが、自然に囲まれた教会は、『レイセル』という国で、僧侶を目指す人や回復術を覚えたい人は、ここで修行するらしく、教会とその周辺の集落以外は、本当に山に囲まれてるから、とのことだ。
ここでいいヒーラーを探さないと、こんなんじゃ、先が思いやられそうだ。
明日、レイセル行きの定期船に乗る。
それまで、ゆっくり休んでいよぉっと……。