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帰還

 ローマ市近郊のマルスの野で任を解かれた兵士らは、各々の足でローマ市内に帰還を果たした。ローマ市内には軍旅を解かずして決して入場してはならないという法があるが、これは武力による制圧を禁じ、ローマが民主国家であることの象徴でもあった。

 ローマ市内では多くの市民が帰還した兵士を出迎えた。すでに早馬によって今回の敗戦はローマ市民の知るところで、集まった市民は自分たちの待ち人の姿を懸命に探した。城門は帰ってきた兵士とそれを出迎えた市民らでごった返した。夫や息子、恋人が生きて戻ってきたことに安堵の涙を浮かべては抱擁を繰り返す者たちがいる一方で、最愛の人を失くして泣き崩れる者たちがいることは言うまでもない。無事に帰還したのは四万のうち一万五千にも満たない。帰ってきたローマ軍の中に自分の身内や恋人、友人の姿がないのを知った者たちが大勢であり、この時の市内には悲しみの涙と共に怨嗟の声が途切れなかった。

 プブリウスはローマ市内の入り口で、母ポンポニアと兄ルキウスらに出迎えられた。母はまずコルネリウスと抱擁し、負傷した夫の身体が順調に回復していることを聞いて安堵の表情を浮かべた。次に初陣から帰還した息子を抱擁したが、ポンポニアは出かかった言葉をぐっと飲み込んだ様子で、無事に帰ってきた息子に笑顔でただ頷くだけだった。

 温かい。プブリウスは母の心に触れ、やわらかな心地が全身に広がるのを感じた。その心地は安心感に他ならない。

 ルキウスは涙を浮かべて父と弟の無事を喜んだ。兄の涙もまたプブリウスの胸を温かくさせ、戦場から生きて帰ることの嬉しさを噛みしめさせた。

 戦争に赴く者よりも、送りだす者の方がはるかに気が重いのかもしれない。プブリウス自身も父の遠征の度に神殿に通い詰め、無事に帰還することを祈っていたのを思い出した。ローマに帰還してきた兵士らの中に父の姿を見つけたときの気持ちは、言葉では表せない。家族のために、ローマのために、平和のために戦地で働く父を誇らしくも思っていたが、今の自分ははたしてどう映っているのだろうか。プブリウスは到底、今の自分を誇る気持ちにはなれなかった。勇敢にそして国のため皆のために戦って死んでいった同胞らと比べ、トレビア川の戦いでは自分はただ見ていただけである。プブリウスは迎えにきた家族にどんな顔で接すればよいのかわからなかった。

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