223 魔法青年は棚に上げる
よろしくお願いいたします。
ヘクターとブリタニーの結婚式は、王城の近くにあるナトゥーラ教会で行われた。
プラーテンス王国の王族は王太子夫妻が出席しており、同じく主賓席にはズマッリ王国の王弟夫妻が座っていた。
その一つ後ろにヘクターの両親とブリタニーの両親が配されていて、ものすごく恐縮していた。
子爵家と男爵家なので、王族などせいぜい年に一回の社交界で遠くから目礼する程度だろう。
ヘクターの両親は商売をしているからか、表面的には取り繕えている感がある。
しかし、ブリタニーの両親はもはや可哀想なほどだ。
母親の方は化粧で誤魔化しているが呼吸が浅いし、父親の方は明らかに顔が白い。
しかも、極度に緊張しているのをわかっているのだろう、リラックスさせようと王族たちはにこやかに彼らに挨拶をして話しかけている。
逆効果だ。
そんな、両親にとってはとんでもない晴れ舞台となった教会で、ヘクターとブリタニーの二人は結婚式を行った。
ちなみに、ヘクターたちのきょうだいも呼ばれているが、主賓ではないということで席次は少し後ろだ。
彼らが両親に向けて、同情するような表情を向けていたのをちらりと見た。
しかしこの後の披露宴では結局両親と同じ立場になってしまい、王族を前にして固まっていた。
一方、主役の二人は慣れたもので、敬意を払いつつも肩の力を抜いていた。
王太子夫妻に対する方が、ズマッリ王国の王弟に話すよりも少しかしこまっていたくらいだろうか。
もっとも、ヘクターとブリタニーは多くの招待客と話さなくてはいけないので、最初に王族と歓談してからはそちらに気を使うことも難しいようだった。
「おめでとう、二人とも」
「おめでとうございます。カトラル准男爵、准男爵夫人」
そう、今回の結婚にあたり、国交をも担う研究者として、ヘクターは准男爵位を貰ったのだ。
今後役割が増えた場合には、新しい家名を貰って男爵位か、子爵位を授かるかもしれないらしい。
「てか、さすがに陞爵はコゥの方が早いと思うけど」
「確かに、コゥが先に貰わないとおかしいよね」
ヘクターのところへは、スタンリーたちとタイミングを合わせて挨拶に来た。
カーヤは、ブリタニーとチェルシーに混ざって談笑している。
チェルシーは生後半年になる息子を連れているが、今は控室で眠っているらしい。
そんな華やかな女性が集まるところには、視線も集まっていた。
「僕は、この前その話を断ったから」
「まったく。コゥらしいといえばらしいけどさ。オレは貰えるなら遠慮しないぜ。交渉にも有利だからな」
呆れたような視線を向けてくるヘクターは、コーディを軽く小突いた。
「まぁ、コゥにとってはそんなにうま味もないのかな?責任が増える可能性があるなら、むしろ邪魔にすらなるかも」
スタンリーは、少し首をかしげた。
「うん、そう思ったから断った感じ。あとは色々めんどくさくて」
「いやそれ絶対めんどくさいが一番のやつ」
当然だが、主役と気安くやり取りしている彼らも注目を浴びていた。
「カーヤ、そろそろ王族席に挨拶に行こうか」
「そうですね、まいりましょう」
王太子夫妻と王弟は、警備の関係もあって披露宴では半個室のようなところに席を作ってあり、随時参加者が挨拶に向かっていた。
ヘクターたちに挨拶を済ませて、休憩を兼ねて食事スペースで休み、ちょうど王族席にいる人が途切れたところで席を立った。
カーヤをエスコートして歩くと、いくつかの視線もついてくる。
「そういえば、魔法学園の恩師も先ほど見かけたので、王族の皆さんにご挨拶したらあちらに声をかけに行ってもいいですか?」
「もちろんです。わたくしも、ぜひお話を伺ってみたいです」
王都で式を行うからか、学園長とコルトハードも来ていた。
学園長はともかく、きちんとした格好のコルトハードなど初めて見たので、誰かわかるまでに数秒を要した。
卒業式ですらすぐにでも動ける恰好をしていたが、さすがに王族も来る結婚式となると正装せざるを得ないようだ。
ゆったりと歩いて、王族席の前までやって来た。
「コーディ・タルコット准騎士爵と、妻のカーヤ・タルコットです」
王族たちはすぐそこにいるのだが、まずは控えている侍従に声をかける。
警備として侍従と騎士を兼ねているのだろう、彼は剣こそ持っていなかったが綺麗に魔力をまとっていた。
どちらかというと、騎士が本業なのかもしれない。
「かしこまりました。キャメロン殿下、王太子殿下、王太子妃殿下。タルコット准騎士爵夫妻がお見えです」
キャメロンというのが、ズマッリ王国の王弟らしい。
主賓として王弟が上席に着き、続けて王太子と王太子妃が座っている。
コーディの名前を聞いて、王弟は面白いものを見つけたように口角を上げた。
「ズマッリ王国王弟殿下、王太子殿下、王太子妃殿下にご挨拶申し上げます。トリフォーリアム・プラーテンス王国にて准騎士爵をいただき、魔塔所属ともなっておりますコーディ・タルコットと申します。こちらは妻のカーヤ・タルコットでございます」
一応何度か練習した礼を取ると、カーヤもその隣で優雅にカーテシーをした。
「楽にしてくれ。カトラル夫妻の同級生とも聞いたが、すでに魔塔で活躍していて、国にもその技術をもたらしてくれていると報告を受けている。本来ならせめて伯爵位か、侯爵位あたりが相当のはずなのだがな」
陞爵を断った場には、王太子も同席していた。
当て擦るような言い方だが、表情は穏やかなので話題に出しただけだろう。
「ほう。ズマッリでは、魔塔所属になると自動的に侯爵になるぞ。そのあたりは法整備しないのか?」
王弟は、のんびりとした様子でそう言った。
「そろそろ確定するところだよ。タルコットの様子を見て、国内の身分とは別にすることになってね。そのうち話がいくたろうけど、さすがにそれは断らないでくれよ」
王太子は、前半を王弟に、後半をコーディに向かって言った。
二人の様子を見るに、国交という意味でも今回の結婚式は良いように働いているらしい。
陞爵だか叙爵だかはわからないが、さすがに断れないだろう。
なんにしてもめんどくさそうだ。
コーディがどう答えようか一瞬迷っていると、カーヤが隣で口を開いた。
「魔法爵のような、新しい爵位を用意なさるということでしょうか」
「ええ。一代限りですけれど、国内における義務はない代わり、政治に関わる権利も持たない身分を準備しているところだそうよ」
カーヤの疑問に、王太子妃が答えた。
王太子がうなずいていて、王弟はそれを聞いてふむ、と腕を組んだ。
「なるほど。魔塔に所属するような人物には、その方が魅力的かもしれないな」
にやり、と笑って見せた王弟に、コーディは軽く頭を下げた。
「そういえば、ヘクターが持ち込んだ魔法陣はタルコット卿が渡してくれたと聞いたのだが」
「現代語を使った手紙の転送でしょうか」
「それだ。いやあれにはさすがに驚いてな――」
そこからは、王弟とコーディを中心に魔法談義になった。
カーヤはもちろん、王太子と王太子妃も加わって、思ったよりも楽しい時間になった。
プラーテンス王国では、必要であれば王族も魔獣と戦うのである。
当然、知識も実力もある人たちなのだ。
―― やはり、この国は防衛に関して特に脳筋なんじゃのぅ。
コーディは、自分のことは棚に上げて、のんびりとそう思った。
読了ありがとうございました。
続きます。
★お知らせ
大変お待たせして申し訳ありませんが、次回の更新は5月7日になる予定です。




