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前奏 獣間シンクロ

「おはようございます ワタクシ 特別保健師アンドロイド の 特命丸 と申します」


特命丸。小型の扇風機に可愛らしい顔と手足、そして下衆い人工知能を搭載した、この学校の中で唯一の特別保健師。サニーロや他の一部の生徒の「奉仕義務」の手助けを行えるのは彼だけだ。


「今日は 暑い ですね サニーロ 様 調子は 如何ですか」

「こ・・・こわいよ・・・」

今日のサニーロはいつにもまして落ち着きがない。何かを察知したように、ひたすら恐怖の波に踊っている。

「なあ特命、コイツいつもと違う気がする・・・」

「わかって いますよ この ロリータコンプレックス 青年 め」

下衆い。下衆すぎる。毒を吐きすぎだ。プログラマーは誰だ。ちょっと出てこい。


「なぁに 心配 いりません 下界 で 何事か 起きること を 予知して 苦しんでいる だけ です」

「心配だらけじゃねーか?」

「心配症 の ロリータコンプレックス など 魅力的 で ありません 御自分 の 心配を なさい」

What a poisonous.


特命丸の意見は容赦がない。俺は翻弄され、赤面するが、それながら楽しい時を自覚している。

和やかな時間は過ぎていく。ゆるやかに、穏やかに。


うつむき震えるオレンジの少女の泪を、隠すように。



・・・



非情にも、時計は止まってはくれなかった。


「さあ 迷える子狐 ご奉仕 の 時間です シンクロ を 開始 します 頑張って ください」


奉仕義務。彼女ら「獣間」には、人間のために勤労する義務がある。

サニーロに科せられた義務は、「シンクロ」。なんでも、俺たち人間にはわからないような苦しみを味わうらしい。


「い・・・いや」

か細い声は、未だ恐怖を受け入れない。

「これ は 命令 です さあ 迷える子狐 シン」

「いやだああああっっ!」


ダメだ、サニーロ。君には、逆らう権利が、ない。

あるのは、義務のみ。


鋼の機械は、君を苦しめようとしている。


「狐晶サニーロ の 最大伝達周波数 を 測定 しました 音波 を 発声 します ・・・ 脳内爆破 レベル 1」


「ぎゃん!?」


一瞬で動きを止めたセーラー服。微動だにしない。



この世界には、こんなひとつの掟があった。



『すべての世界は、人間のもの』





今日も少女は義務を遂行する。ただ真っ直ぐに、人間のために。



「では シンクロ 開始 まで 3」



それは、「獣間」として産み堕とされた宿命。



2



震え始める少女。手を握り締める青年。



1



哀れとも いうべき狐は 思おえで 身のいたずらに

サクヤコノハナ。




「開始」




「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!?」




痛みに慟哭したサニーロのポニーテールの隙間からは、


大きな狐の耳が、ぴょこんととび出ていた。





・・・戦記が始まる前の、最後の平和、だった。

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