4話 祝福
アナウンスを聞いた僕とラータマの声が被った。急な事態に固まってしまった僕の下に、先ほどまで戦っていた勇者達が広場から出ようとして、僕を見つけたゼン先生がこちらに駆け寄ってきた。
「イアルージュ君!こんなところで見ていたんですね、大丈夫ですか?」
「ゼン先生待てくれ、その青年がもしかして先ほどのアナウンスの勇者か?成人しているのか?こんな若い子に対して影の試練は何を考えているのだ」
「本当ですよ、しかも彼は私の病院の患者さんです。つい昨日まで二週間も重体で入院していたので、身体もまだ慣れていません。主催者なんて言っていましたが、試練管理局に口出し出来るなんて、相当な権力者の仕業です。こんな横暴は許されません。フルイ村として冬の大告神祭にて神王様に直接、異議を申し上げるべきです。」
僕を取り囲んだ村の大人たちは騒ぎ立てている。その様子を見て少しだけ冷静に考えることが出来た。思い出すのは村を出る前の会話だった。
「お前は唯一の世界の外で生まれた人間だ。もしかしたら神王の試練を与えられないかも知れない」
与えられたのは想定外で異常な状況での影の試練だが、冒険者を目指しているのだから、これはむしろ喜ぶべきことだろう。それに試練はその人間に見合った内容が与えられる。僕は現在マワリが村を去ってからヤツ爺に教えられた、基礎的な剣術と徒手空拳しか使うことが出来ないけれど、無茶な内容にはならないだろう。
・・・準備が完了した勇者は広場へ入場を求めます。繰り返します・・・
アナウンスが入った。僕は覚悟を決めて立ち上がった。
「ラータマさんは、被害者なので戦闘中にでも巻き込まれるかもしれません。もう少し離れていてください。それからゼン先生に先ほどの勇者の皆さん。僕は冒険者志望なのであまり気にしないでください。ここで怯んではいられませんから」
「イア君、頑張ってね!勝っても、負けて死んでも、終わったらお昼を奢るよ!」
ラータマが微笑みながら僕の肩に手を置き、離れていった。
「イアルージュ君と言ったな?初めまして、僕はこの村の次期村長のヤノ・フルイだ。本来は免状が無いと帯剣は許されていないが、今回に限っては例外だろう。使えるなら俺の剣を貸すがどうだ?」
「ありがとうございます。ありがたくお借りします」
ヤノ・フルイから長剣を受け取った。久しぶりに持った剣は、過去に使っていた物より少し大きかったが、それでも手に馴染む感触があった。
*
僕は広場の中央まで歩き、馬車の上に立ったまま動かない商人に向き合った。いつの間にか、傍観者役を言い渡された、村の人たちが広場を取り囲むような形で見に来ていた。
・・影の試練を開始する・・
そう短く告げる声が響き渡る。僕は鞘から剣を抜き放ち構える。馬車の上に立つ商人へ最大限の警戒をしていたがやがて、そこに居た筈の商人の姿がブレて消えていった。
ヒヒイイーン!
突然、先ほどまで商人が立っていた、馬車を引く二匹の馬が嘶き、共鳴するようにもう一台の馬車を引く馬たちも嘶き、広場に爆音を轟かせた。
鳴き声を上げながら暴れだした、馬たちはやがて馬車の手綱から抜け出して、広場を駆け出した。馬が試練の相手だというのは分かった。恐らく、複数人の人を相手取るよりも一人で相対するには厄介な相手だ。そう思い、馬を目で追いながら警戒をしていたが、なぜか馬たちは僕に目をくれず、広場を駆け回るだけで、一向に攻撃を仕掛けてくる様子が無い。それに、少し様子もおかしく、嘶きながら、よだれをまき散らしながらがむしゃらに走り続けている。馬の感情は分からないがその様子はどこか狂気の滲むような光景だった。
ヒヒイイーン!
まさか・・・僕はこの異常な光景の行き着く先が分かった気がした。絶えず観察している馬たちの様子を見ていると、彼らは一歩駆け出すごとに、体中の筋肉が脈動し少しづつ肥大化しているのが見えた。気が付いたときには僕の知っている馬よりも一回りは大きくなり、まるで岩山のように隆起した筋骨隆々の馬が出来上がっていた。
「っ!やばい!」
僕は一直線に馬の進行上へ飛び出し、正面から、丸太のように太くなった馬の脚部へと横薙ぎの一閃を打ち放ち、勢いが余った馬もどきとの正面衝突を避けるように、身体を横へ流れるように移動させた。同時に大きな嘶きが聞こえた気がしたが、既に集中と緊張の渦中で音も空間も少しぼやけて感じられた。先ずは一頭、随分と遅れた先手になってしまったが確実に足を切り放すことに成功し、無力化できた。しかし、次はそうはいかなそうだった。先ほどまでの狂気じみた足音と嘶き声は一気にきこえなくなり。既に三メートルは優に超える背丈にボコボコとした筋骨と成長し馬とは思えない怪物となった残りの三頭の馬たちは、僕を取り囲むように位置して、ぶるるう、ぶるるう、とこれまた爆音の荒い鼻息をしていた。地面を蹴り上げながら今か今かと、様子を見ている馬たちを見ていて僕は唯一考え付いた作戦を実行に移すことにした。一頭の馬の方へ向かい、直ぐに後ろから追いかけてくる二頭の馬と前足を高く蹴り上げてきた、前方の馬を避けて、後ろにあった馬車の荷台の上へとよじ登った。直ぐに、二頭の怪馬が二台へ向けて突撃してきてひっくり返されそうになった。その瞬間に僕は一頭の怪馬の頭を踏みつぶしその背へ飛び乗った。両足で立てるほどの背の広さは幸運だった。そのまま一気に馬の首へと剣を打ちおろした筋肉に阻まれ叩き切ることは出来なかったがそれでも確実に致命傷が入った。僕は倒れる馬と、当たり前だけれど一切動じずに突進をしてきた残りの怪馬を正面から迎えた。ここからはアドリブ、イチかバチかタイミングはシビアだった。怪馬が目の前に迫り、次に足を上げたら僕の顔へあたり間違いなくへこむほどの威力が想定されるそんな危機的刹那に後ろへと大きく飛びのいた。そこには先ほど打ち取った巨大な怪馬が横たえていて僕はその体に足を取られてそのまま横の方へ転倒してしまった。そして、その瞬間、僕は作戦の成功を目にした。僕が飛びのいたおかげで、怪馬たちは勢いを止めることが出来ず、目の前の横たえた死体に足を取られて盛大に転倒していた。僕は直ぐに態勢を立て直し、簡単には起き上がれずパニック状態の怪馬たちへそれぞれ致命に至りそうな場所へ剣を打ちおろした。
「やっぱり、怪物の様相を呈していたけれど、中身は馬のままだった」
・・・影の試練の終了を宣告。克服者、イアルージュへ祝福を、被害者へ粗品を。
次いで、前回の試練の清算も同時に行う。勇者四人被害者二十人へ、褒賞を与える。・・・
・・・克服者、イアルージュへ、主催者より言伝を伝える。「異邦者イアルージュ君。この世界は君を歓迎する。それと、もしなにかの切っ掛けが欲しければ神王国で権力者と沢山出会って私を探しなさい。きっと、私に会えば何かのヒントやら、特別なマクガフィンとかそれに準ずる何かが貰える筈だよ。では私のこれから執筆する予定の作品で主人公になる君へ、激動と混沌の祝福があらんことを」以上、主催者からの言伝になります。・・
*
アナウンスと共に僕の目の前に一枚の大きな紙が現れた。目線の高さに淡い光を放ちながら浮かぶその紙を手に取ると、それは白紙の紙で、裏表を見ても何も書かれていなかった。
「イアくーん!お疲れさまー!凄いね!あんな大きな馬を四頭も倒しちゃうなんて。」
ラータマが大きい包みを抱えながら、こちらに駆け寄ってきた。
「ありがとうございます。途中かなり危険な賭けをしてしまいましたが、何とか勝てました。あ、もしかしてその手に持っている包みってアナウンスで言っていた粗品ですか?」
「うん!そうだよー遺物局が商品化した遺物の中から取り扱いに資格が必要の無い物で好きな物を選んで貰えるの。私は荷物を軽くできる遺物の軽包みを貰ったの。これで、荷物が嵩張っても持ち運びが楽になるわ」
ラータマは満面の笑みでとても嬉しそうだった。どうやら、粗品というのは汎用化され商品化している遺物のことらしい、僕はそれがどれくらい貴重な物かは分からなかったが、オバーテクノロジーなのに尖った性能で使い勝手の悪い遺物が汎用化されたというだけでもかなり魅力的な商品に感じる。
「イアルージュ君達、おめでとうございます!見ていましたよ!凄い戦い方でしたね。」
今度はゼン先生と次期村長ヤノ・フルイの二人がこちらに駆けてきた。
僕は二人に軽くお辞儀をして、ヤノ・フルイへ剣を返した。
「ありがとうございます。この剣とても役に立ちました。あ、でもごめんなさい、本当は掃除と手入れしてから返すべきなのですが、僕、まだ手入れする道具持ってなくて。」
影の試練は終了と同時にその痕跡は全て消える為、剣には先ほどまで付着していた血や肉片は付着していないけれど、礼儀として手入れは行うべきなのだが、今の僕にはただ歯痒い思いをするしかなかった。
「ああ、気にしないでくれ。それよりも良い戦い方だったな。あんな怪物が出て来るなんて思わなかったが、君の対処と機転が早く、まさに完璧な戦闘だったよ、これは試練の祝福次第では一流冒険者どころか挑戦者まで目指すことが可能かもしれない。ところで、イアルージュ君はなんの祝福を貰ったんだ?」
「あっ!そうだ!ヤノさん、聞きたいのですが、試練って普通は祝福授与後に直接、脳内に祝福の内容がアナウンスされると聞いたことあるのですが、僕は特にそういうアナウンスが無くてですね、代わりにこの白紙の紙が目の前に光りながら現れたのですが、何か知っていなすか?」
僕は先ほどまで散々いじくりまわして、考えるのをあきらめかけていた、謎の白紙について聞いてみることにした。謎の紙にはかなり厄介な巻き癖がついているので、両手で紙を広げてヤノさんに見えるようにした。
「これは。そうか、多分だが選択式の祝福だな。本来、祝福は神王様や試練管理局によって、各人の最善の祝福が与えられることになっているのだが、稀にその最善が判別できない時があり、そういう時にはこうやって、選択式で祝福が与えられることがあるのだ。けれど……これは少し困ったな。自分の人生に大きく影響するだろう祝福を自由に選ぶというのは意外に辛いことで、選択式を与えられた人間の中には選べないで他人に選択を委ねる者も居るくらいだ。」
そうだ、そういえばそんな話もどこかの書物で読んだ覚えがあるが、ヤノさんの話を聞くまで完全に忘れていた。僕の読んだ本を完全に記憶している特技は年々、知識の保管庫の鍵が錆びついて上手く開かないことが増えてきた。まあ、その分のリソースを普段の私生活の記憶の保管に使っているということであれば願ったりかなったりだ。それより、思い出すことに成功したが、それでもまだ不思議なことがこの件に関しては残っていた。
「そういえば、そんな話も本で読んだことあります宇。でも僕の紙は選択できるものが何もないみたいなんですけど。これってどういうことなのでしょうか?僕の読んだ本では確か、紙には本人しか見えない文字で選択肢が表示されていて、選択したい能力を呼んだあとに、光りだす紙を燃やすと祝福が完了するという内容でしたけど」
僕はもう一度、手に持った祝福の紙を観察しながら、ヤノさんへ疑問を投げかけた。
「うん?そのようなやり方は聞いたことないな。俺の冒険者時代に聞いた話だと、白紙の紙が来たら、紙の一部に自分の血を垂らすと祝福の選択が可能になるらしいな、それで選んだら祝福が与えられて紙は白紙に戻ってしまうらしい。もちろん一度選んだ後に白紙になった紙はもうそれきり何にも利用することが出来ない。ちなみにこれは噂だけど、かなり希少品だから、鑑定の遺物がある取引所に行くと、高値で買い取って貰えるらしいから、捨てないで取っておくといいだろう。」
なるほど、そうか僕が“砂の本”で読んだ本は確かに全てかなり古い書物なのだ、それもそのはずだ、ずっとあの世界の外にある村の書斎に置いてあったのだから、少なくとも村の興りと同じほどの時間は経っているはずだ。
しかし、やり方は幸運にもヤノさんが知っていたので判明したが、“血”か、僕は普段は痛いのが嫌いだし血も嫌いなんだ。戦闘中は極度の集中状態でまったく気にならないが、いざこの場で指を噛み切って血を出すと思うと、恐ろしくて出来ない。
「ん?どうしたのイア君。祝福受け取らないの?」
ラータマさんがそわそわとこちらの様子を見てきた。
「いえ、ちょっと…あのー血がちょっと」
「え!?イア君ってもしかして血が苦手なの?でもさっきはあんなに強いじゃない?いままで結構、過酷な訓練とかして来たんじゃないの?」
僕はラータマさんの反応に凄く居たたまれない気持ちになった。情けない話なのは自覚しているけど、僕は普段はかなり臆病なタイプで、覚悟を決めてこの世界に来たのに未だにその本質は変わっていなかった。
「ああ、そうだよな、俺はイアルージュ君の気持ち分かるぞ。例え指の先っちょでも、やっぱり自傷するのはかなり気分悪いからな、」
ヤノさんはそう言って、僕の肩を軽く叩いて励ましてくれた。
「それでは、イアルージュ君。唾液ではどうでしょうか?私はその選択式祝福の事は存じ上げませんでしたが、とある契約の遺物についての研究結果については聞いたことがあります。学者の資格が無いと利用できない資料ですので、詳しい内容は省きますが、その遺物を使用するには使用者の体液が必要になるらしいのです。それで、諸々の共通点を加味すればもしかしたら、その遺物とその祝福の紙は関係しているかもしれません。試してみてはどうでしょうか?」
終始頷きながら話を聞いていた、ゼン先生がそう提案してきた。確かに、このような特殊な物は大抵は遺物由来のもので、試してみてもいいかなと思った。僕は少し考えて、親指をペロッと、舐めて紙の中央部に押し当ててみた。すると、まるで最初からそこに記されていたかのようにいつの間にか、先ほどまでの白紙の紙に文字が現れていた。
「これは!さすがゼン先生ですね。まさか本当に成功するとは思いませんでした」
ヤノさんは、恐らく成功しないと考えていたのだろう、少し後ろに立っているゼン先生の方を振り返って、感心を露にした。ただ、当のゼン先生は少し鼻白んでいる様子で、もしかしたらゼン先生も内心では、成功するとは思っていなかったのかも知れない。
「えーっと。よかったですね。イアルージュ君。それで、多少は例外的なやり方になってしまったかもしれませんが、内容は変わった事は書いていないですか?もちろん詳しい祝福の内容はこれから先の重要な個人情報になるので隠していた方がいいですよ」
僕はゼン先生や先ほどからソワソワしているラータマさんの好奇の目線を受けながら、少し気合を入れて、思い切って祝福の内容を確認した。その紙には三つの祝福が記されていた。
祝福・導き手の加護。
効果・力の記憶とそれに伴う経験の記憶を段階的に取り戻す。この祝福獲得時に即時、第一解除とし、今後、試練の克服するたびに解除されていく。
祝福・悲劇の乙女の祝福。
効果・世界という舞台において唯一の破壊者になれる。世界の外という舞台で三千大世界の破壊者になれる。
祝福・友人へ贈る祝福と祈念。
効果・身体能力の微向上。炎操作(炎の疑似魔術の使用が可能)炎の加護(高熱に対する耐性)歪み遣い(汎用化されていない、遺物の使い方を知ることができる)
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