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超越お姉さんに愛を伝えたい。  作者: 鳥木野 望


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イアルージュ、始まりの村

人間は大地に鎖で繋がれ、決して超えることの出来ぬ天蓋の下に生きる。さも真理のようなその昔の賢者のお言葉は今日、僕の敬愛する友人の下に覆された。

「イア君!大好きだったよ!けれど私どうしようもなく怒っているの。ごめんね。どうか忘れないで私は貴方を許さない事を。だから早く追いかけてきてね。じゃあ、ヤツ爺、イア君。お元気で!また会いましょう!」

”空”に最も近い場所に立ち、祝福の送り風を一身に受けながら大声を張り上げるのはマワリ・ヒターレシュ。天から彼女にめがけて光と共に大きな槍が降ってきた、しかしそんな”罰”も彼女に届く前に白く染まり消えてしまった。地の底より神話のヨルムンガンドと錯覚するような灰黒い巨大な鎖が空に近い彼女の下まで立ち上がった。押しつぶさんとするかのようにゆっくりと倒れ始めたその巨大な鎖は彼女のもとに届く前に白く染まり止まった。

そうして世界の外側から世界を目指したマワリはついに・・・.

マワリちゃんがこの村を出て行って、どれくらいの時間がたっただろうか。僕はあの日、全ての真実をヤツ爺から知らされることになった。知らされたその内容は意外にも驚きは少なく、まるでテストの答案用紙が返ってきて、一問ずつ丁寧に解説を聞いているような気分だった。

その日から僕の止まっていた時間が動き出した。重なった記憶の傷跡は相変わらず、判別が難しいほど大きく開いていた、未だにそれら繰り返す日々の子細を思い出すことは出来ずにいたが、しかし、それでもあの時から僕は目的と夢だけは忘れずに、今までひたすらに日々を重ねてきた。

「イア、本当にもう行くのか?せめて力の記憶くらいでも取り戻さないと、世界で暮らすには問題ないだろうが、イアの目標の一つである、試練の地や未踏破領域には未知の超越者が待ち構えていると聞く。特にお前はこの世界で唯一の世界の外で生まれた人間だ。神王の試練も与えられないかもしれないから、万が一のこともあるかも知れない。それでも行くのか?」

ヤツ爺が見送りに出てくれている。確かに僕は日々の生活での記憶の喪失する頻度は極めて低くなったが、依然として失われた記憶はマワリに関することしか思い出すことが出来ていない。その事をヤツ爺は心配しているけれど、僕の覚悟は決まっている。

「ヤツ爺、時間が無いんだ。今は順調に失った記憶と技術知識の学びなおしが出来ているけれど、いつ前みたいに記憶の重なりが始まるか分からない。それはヤツ爺も危惧していたでしょう?だから僕は行くよ。最後の問題も解決したし。翼ありがとうねヤツ爺」

空にどうやって近づくのか、それだけが問題だった。ヤツ爺はずっと力の記憶について言っていて取り戻せば空もお前のものだなどと嘯いていたけれど、結局僕の説得に負けて、翼をくれた。空を見上げれば頭上に開けた世界への入り口である“内空”にはこの暗い世界の外で憧れ続けた唯一の鮮やかな青の色彩が見える。感慨深いとはこの感情を指すのだろう。僕はこの感情の想起を懐かしく感じる。記憶には無いがきっと僕もどこかでこのように感慨の浸る時があったのだろう。けれど、もう忘れない。今日見た空とこの村の光景を死ぬまで覚えていよう。

「それじゃあ、ヤツ爺いってきます。もし会って今までの事をマワリが許してくれたら、きっとこの村に一度戻ってくるよ」

「ああ、気にするな。俺たちもお前のおかげで随分と後始末が進んだ。もう少しで世界に戻れそうだ。その時はお前が今度こそひっくり返るような衝撃の事実をお前の前に並べてやるよ。覚悟しとけ。では、またな。くれぐれも気を抜いて落ちるなよ?」

・・・人間は大地に鎖で繋がれ、決して超えることの出来ぬ天蓋の下に生きる。さも真理のようなその昔の学者のお言葉は人の可能性を知らない愚かな戯言であった。

”空”に最も近い場所に立ち、祝福の送り風を一身に受け、広がる空は変わらず青く、広く、眼下の海には神話の蛇のような巨大な“白い”鎖が沈んでいる。

世界の内側に至った、ただ一人の異邦者である彼は求める。刺激を。停滞を許さない激動の世界を、そうして刻み込まれる新しい記憶の傷を。

ぎゃあああああああ!!

一体何が起こったのだろう、そして、どこから気を失っていたのだろうか。目を覚ました時には、僕は身体に気が狂うほどの疼痛と燃えるような全身の痛みを受けた。発狂、まさに誰が見ても正気には見えないほどの叫び声を挙げ、どこか分からない砂の上でのたうち待った。

「っ、だ、大丈夫ですか!?ああ、まずい、どうしよう!イア君!とにかくこれを飲んでください!」

「ぐうああ」

誰かが無理やり僕の身体を抑えたことで全身に走った激痛にうめき声が漏れた、それと同時に口の中に何か冷たい液体が流し込まれた、僕は首の中の空洞にも溜まっている熱を少しでも抑えるために、その得体の知れない液体を飲み込んだ。すると、次第に体の感覚が遠のいてきた、燃えるような熱さも、狂えるほどの疼痛も、感じなくなった。次第に意識も遠のいていき、僕はそのまま気を失った。

目を覚ますと知らない部屋に居た、クリーム色を基調とした大部屋には僕の寝ているベッドの他に五台のベッドが等間隔に置かれており、それぞれ、区切るためのカーテンが天井に取り付けられていた。しかし、どうやら僕以外の人間はいないようで、カーテンは全て開かれていた。部屋の内装と少しの消毒の香りから、推察するに僕はどこかの病院に運び込まれたようだった。身体を起こすと一瞬ギクッっと、大きな違和感と同時に、強烈な疼痛を全身に感じた。僕は自分の身体の状況を触って、見て、良く確認してみると、どうも見る限りの傷や身体の異常は見受けられなかった。やがて、先ほどまで、ジクジクと体中でうずいていた痛みや違和感は収まっていった。

さて、どうしようかと思考を巡らせるにあたって、強烈な喉の渇きを自覚した。どこかに水を求めて視線を彷徨わせると、ベッドの脇に置かれた小さなテーブルに水の瓶が置かれているのに気づいた。しかし、コップが無い。僕は堪らずその大きな水の瓶を掴んで直接飲み干してしまった。水は喉の渇きを潤して、全身に染み渡る感覚があった。ふう、っと息をついて、水瓶をテーブルに戻すと、そのテーブルに小さな紙と金色の手持ちベルが置いてあることに気づいた。最初から置かれていたのだろう、けれど、先ほどまでの僕は喉の渇きに動かされ水瓶しか目に入ってなかったようだ。書置きにはこう書かれていた。

(起きたとき、もしも誰も居なかったら、診療所の方に居ると思うからこのベルで呼んで欲しい。フルイ村病院・院長 ゼン)

僕の考えた通りここは病院で間違いないようだった。フルイ村というのは知らない村だが、どうやら、あの絶望の渦中にあった身体を救ってこの村まで運び込んでくれた人がいたようだ、最後に気を失う前に聞こえた声は若い女性の声だったような気がする。僕は少し考えると、ベルを振ってみることにした。どうもこのようにベルで人を呼び出すのは貴族の所作に思えて忌避感を感じたが、勝手の知らない場所で歩き回るのも、書置きを無視して患者がいらぬ気遣い、遠慮をするよりも良いと思った。診療所がどこにあるのかは分からないが、初めに少し控えめにベルを二度振り鳴らしてみた。閑静な病室に空気を引き締めるような音が響き渡る。しばらく様子を見るが、反応は特になかった。僕はこうなっては仕方ないと、がむしゃらにベルをかき鳴らしてみた。そうする後に、大部屋の奥にある扉の方から誰かが駆け上がってくる音が聞こえてきた。

バンッ!扉が勢いよく開け放たれた。開け放たれた扉からは白衣を纏った、若い黒髪の青年が少し息を切らしながらこちらを見ていた。

「おお、おはようございます。よくお目覚めになられたね。私はこの病院の院長、ゼンです。」

随分と若い、恐らく二十の代であろうことが見て取れる青年は多少の感傷を顔ににじませぼっくのベッドの前まで来た。

「初めまして、僕の名前はイアルージュと言います。気を失う前の記憶は明確に覚えています。僕はてっきり、もう死んでしまうものかと考えていたのです。治療、本当にありがとうございました。」

「完治おめでとうございます。本当に良くあそこから完治まで出来たものです。イア君がこちらの病院に運び込まれてきたときの容態を簡単に説明しますね。それから完治に至るまでの経過も説明します。まず、全身に深度最大の火傷を受けていました。心臓や脳などの急所は無事だといっても、想像を絶する痛みを受け、ショックで心臓が止まっていなかったことが信じられないほど重篤な状態でした。私が行った治療ですが、基本的には火傷の治療に効く軟膏と皮膚の保湿、それから睡眠薬と麻痺薬の投薬それのみです。正直、治療なんて言える行為ではありません。それでも、まるで祝福された人のように異常な回復速度で完治にまで至ったのは、ひとえに、あなたの生命の力と言えるでしょう。よく頑張りました。」

ゼンと名乗った医者はそう言って私に握手を求めてきた。

「イア君、早速ですが医者として、大人としてどうしても聞かないといけないことがあるのですが、もし思い出したくない、辛い事でしたら無理に話さなくても大丈夫です。君は一体どうしてそれほどの火傷を負っていたのですか?」

それはとても単純な事だった。僕が初めてこの世界に旅へ出たあの日、南海の果て赤い海の上で偶然の不幸が重なって、海に落ちてしまったのだ。そこからは覚えていない。ただ、全身の火傷というのだから、あの赤い海にまつわるお伽噺は本当だったということだろう。しかし、困った事に私は自分の事やあの日何が起きたかをこの医者に語ることは出来ない。それが見ず知らずの人間をここまで治療してくれた医者に対する、不義理だということも分かっている。そのように考えているうちに私は少し言葉に詰まってしまっていた。その様子をどのように捉えたのか、医者は痛ましい存在を見るようにこちらを伺ってきた。

「いえ、大丈夫です。話せないのであれば無理には聞きません。ただ一つ聞きたいのはあなたが、今現時点で誰かに命を狙われているなどという心配は無いのですね?」

「はい、それはありません。船旅の途中に誤って赤界外海に入ってしまったのですが、そこで運が悪く座礁してしまい、船が沈没してしまったのです。」

僕は多少嘘を混ぜたが、概ね怪我の理由は説明した通りだった。

「赤界外海に落ちたのか!?それでよく生きていたな。信じられない。君はもしかして試練を与えられたことがあるのかい?」

僕の話を受けて、医者の顔色が変わった。驚くのも無理はない、赤色外海で漂流または座礁した船の生還率はゼロだ。神話では神を食らった巨大な毒蛇の遺骸が沈められた海だと言われていて、過って落ちればたちまち全身が溶けてなくなってしまうという噂があった。しかし、誰も確かめたりすることは無いし、そもそも海産物も一切採れない南海の果てまで踏み入れる者は居ない。そこから極めて重度の火傷を負いながら波に運ばれ浜辺にたどり着いたなんていっても信じられないだろう。けれど、別に信じてもらう必要もないと言えば無い。僕は開き直って、気になっていることを聞くことにした。

「いえ、僕はまだ15歳です。試練は与えられたことも、試練の地で受けたこともありません。今回は本当に運がよかったみたいです。それで、ゼンさん。最後の記憶で僕の事を見つけて助けてくれた女性の方が居たように思うのですが、どなたかご存じですか?」

発狂してもんどおりをうつ僕に駆け寄ってきてくれた人がいた筈だ。僕は記憶を掘り起こすが、やはり顔までは思い出すことが出来なかったが、声は優しい女性の声だったのを覚えている。

「ああ、言ってなかったね。そうだよ、重篤な状態の君を背負ってここまで運んでくれた人がいたんだ。彼女は確か別の村から来ていて、今もまだ宿に泊まっていたはずだよ。そうだ、君の荷物もその女性から預かっていたんだ。同じ日に浜辺でいくつか所持品らしき物が見つかったんだって。一応、君の物か確認してもらえるかな?」

そう言ってゼンは入り口付近にあるタンスの所まで行き、麻袋を持ってきた。渡されるまま、中身を改めたが、間違いない村を出るときにヤツ爺から渡された、僕の持ち物だった。ただ一つだけ、貴重品が足りなかったが、それはどちらにせよこの村に着いたことで役目は終えていたし、持っていても使えない無用の長物になっていただろうから諦めることにした。今頃、赤界で溶けているか、藻屑として沈んでいるだろう。

「はい、これは僕の持ち物で間違いありません。もともと少ない持ち物ですがそれぞれとても大事なものだったので、こうして見つかって本当に僕って運がいいみたいです。」

「本当に豪運だと思いますよ、旧神時代の加護を受けているのかと、一瞬考えてしまいました。ああ、あと着用していた服ですが、ボロボロの状態で局部すら隠せないような状態でした、一応保管していますが、どうしますか?」

「ああ、処分しちゃって大丈夫です。それで、あの、治療の代金なんですけど。」

僕は持ち物を改めたときに自信の財布が入っているのを確認が出来たので、少し安心した。もともとは村を出るときにヤツ爺が餞別にくれたお金だったが、数か月分の生活費を賄うくらいにはまとまった額が入っていた。

「ああ、今まで病院に掛かったことが無いのですね。お代は神王国の社会保障の一旦で国負担なんです。ただ、数年前から医学会で決められた責任代だけ患者の皆様には頂戴しているので、千イエンになりますね。」

そういえば神王国の制度や法律については勉強していたが、随分と前の事で覚えていなかった。しかし、治療代が外食の代金とほぼ同じとは実感として驚くほかない。二週間ほどか、僕の命を救いその後の経過に責任を持った医者にそれだけしか払わないのは少し気が引けるけれど、僕の目的地に向かうにはかなり出費を切り詰めていかないといけないので、正直助かった。

僕は麻袋から白い布製の財布を取り出すと、この場で千イエンを医者に渡した。

「ありがとございます。それでは、念のため後遺症や身体機能に問題が無いか最後に簡単に検査をしましょう。特に問題が無いようでしたら、明日には退院が出来るでしょう。」

***

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