9.そこにはニート以外立っていなかった
さて、2019/1/2ですね。今頃、未来の私はお年玉貰えているのでしょうか………。
気になります、はい。
どうも皆さん。好みの女の子を拾った新戸 風太郎です。今その女の子と会話していて興奮が冷めないです。ヒロイン来たか〜?とか思ってます。
◆◇◇◇◆
ゆっくりとだが、冷めないうちに焼飯を食べきった女の子は涙を流していた。
「ど、どうしたんだい?急に………」
「ごめんなさい、おじさん。料理はちゃんと美味しかった。ただ、お母さんが作ってくれた料理の味を思い出した。オコメを見たのも久しぶり」
「………なんだって?」
それはおかしい。この世界には確かに稲に似た植物が存在している。だが存在しているだけで食用に品種改良されていない。この世界ではパンが主食、その他の主食は麺しかない。
それに、この焼飯に使った調味料は塩コショウと醤油。塩コショウはこの娘が元貴族のご令嬢ならありえるが、醤油はない。
では、この娘の母親は………?知恵の源。
『はい、この娘の両親は被召喚体。つまり召喚勇者です。2人で買い物の帰りに召喚され、持っていた10㎏のお米や各種調味料も持ち越したようです。今は引退して先代と呼ばれていましたが、マスターがこちらの世界に来る約6ヶ月前、4大裏社会組織の1つ、《ハンター》により殺害されています』
………なんとまぁ。そんな娘を態々俺に救わせるとは、知恵の源も存外、食えない奴だ。しかしこの娘、瞳は黒いけど、髪が真っ白なのはなんでだ?両親はどちらとも黒髪か茶髪の筈だが。
『両親が髪の色が抜ける魔法を使って生てえる髪も生えてくる髪も真っ白になりました。黒髪は極西の小国、鬼族、そして勇者しかいません。「勇者でも無いくせに黒髪とかウゼェ」と、イジメの対象になります。それへの処置かと』
はぁ。どこにでも、イジメってあるもんだな。特に子供は本当にくだらなく、些細なことでイジメに発展する。おっと、女の子が考え込んでいる俺に不安げな視線を向けている。
「あぁ、ごめんね。オコメは珍しいから知っている人がいるとつい嬉しくなっちゃうんだ」
適当にごまかしておく。
「確かに、6ヶ月前に旅に出てから一度も見て無い」
「………かなり珍しい植物で、今は食べている者が片手の指で数えられるほどしかいないんだよ」
嘘は言っていない。俺と、この娘くらいだからね。
「そうなの」
女の子の目が物思いに耽っているようだった。お母さんはそんな珍しい物を食べてたのか、とか思ってるのだろう。
◆◇◇◇◆
「あ、俺の名前を言ってなかったね。俺はニートって言うんだ。よろしくね」
「そう言えば、ボ………私も自己紹介してない。私はミフネ・セキソウ。改めてありがと、おじさん」
少し微笑んだミフネちゃんはとても可愛く、一目惚れしている事を強く自覚した。なんて、文学的な思考をしてみる。それと「ボ」ってなんだろ。
「それで、どうする?ここは安全だからしばらくここにいてもいい。食べ物と住むところは保証する。ただあまり物には触らないでほしいかな。ここから出るなら金貨を、そうだな、5枚くらいあげるから自分で宿屋なり探すといい」
この可愛い子を手元で愛でたいのは山々だが、そんな事をして嫌われたら生きていける自信がないからな。
「私は…………」
迷ってる迷ってる。このまま残ってくれれば俺の気分は有頂天。お、決めたみたいだな。
「お願い、ここで匿って欲しい」
いぃぃぃやっふぉぉぉお!!いやー、有頂天だぜまったく。だが、表には出さない、それが変態紳士だ。
「わかった。これからよろしくね、ミフネちゃん」
◆◇◇◇◆
ひとまず、一目惚れした女の子との同棲と言う名誉を勝ち取ることに成功した俺は、その娘を飢えさせないためにニートを返上し、仕事をする。
草刈り、(薬草採取)害獣駆除(モンスター討伐)、パシリ(配達)、等々、依頼をこなした数は10個以降数えていないが、6時間程やっているので20はやったと思う。
『26です』
知恵の源が数えていたようだ。
「はい、集計終わりました。ニート様はこれでDランクからCランクに昇格となります。今後もご活躍ください」
また、ランクが上がった。早く最上級冒険者になれるといいな〜。
『ランクSはこの国で2人、全世界合の合計だと26人です。この世界の総人口数が約37億4000万程ですのでかなり少ないです』
そうか。しがらみが少なければSランクになってみたいな。最強の冒険者の一角とか、43にもなって未だにくすぶっている俺の厨二心が刺激される。
『3ヶ月あれば可能です』
あぁ、割と近い。
『本気でやれば、ですよ。ゆっくりやると3年かかります』
そんなに違うのか〜。まぁ、そのぐらいしかリアクションが湧いてこないが、本当にそうとしか思わない。
『マスター、そろそろ帰宅をした方がよろしいかと。ミフネ様が少し心配しておられます。6時間も帰っていませんから』
おっと、確かに。そう言われるとすぐにでも帰りたくなる。6時間も放置してるし。とりあえず、路地裏で能力を使うことにする。
◆◇◇◇◆
路地裏の人目につかないところで《自宅》に入ることした。だが予想していなかったわけではないが本当に絡まれるとは……
「よぉ、おっさん。通行料として有り金全部置いてってくれよ」
「お断りしても?」
「はぁ?いいとかいうわけねぇだろが。いいなら最初から通行料をせびりに来てねぇよ」
全くその通りだ。
「で、俺はお金を渡すつもりはないのですが、どうします?」
「そんなもん、実力行使だろ?常識的に考えて」
「そうですよね〜。まぁ、そちらがそのつもりなら出来る限りの抵抗をするまでです」
「【30秒後、そこにはニート以外立っていなかった】ってとこですかね」
そう、新戸は30秒足らずで7人いた路地裏の住人をのしたのだ。
「お、おっさん、つよ…く……ね?」
最後の1人がそう言って意識を失ったのを確認し、《自宅》に入る。
《自宅》に入るとミフネちゃんが、
「おかえり」
と言ってくれた。至福である。
「ただいま、ミフネちゃん。ごめんね、昼間ずっと放置しちゃって」
「いい。働いてるの分かってるから我慢できる」
よほど暇だったのだろう。《自宅》を出る前よりすんなり話してくれている感じが分かる。
「今、お夕飯作るから待っててね」
次回は1/3です