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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
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第三十七話 ランチタイム

 





 激動の四時間の授業が終われば、一息つける昼食の時間がやってきた。


 ここまでの道のりで濃い時間を過ごした私はぐったりとしながらも、五郎とルークを連れて、二郎が授業していた教室の近くまで移動する。



 ガラッと扉が開けば、そこにいるのは二郎だ。


 ただ、その隣には目をキラキラさせている小さな女の子がいる。



「二郎先生、もっと私と一緒に授業のノウハウについて語り合いませんか!?」


「すみませんが、人を待たせてますので」


「後三分だけでいいのです!こんなに素晴らしい授業をできる人を見たのは初めてなんですよ!!」



 両手を顔の前で握って興奮している女の子を相手に、二郎はどう対応するか困っているようだった。


 基本的に敵意のない人間には紳士的に接している彼が邪険に扱うのは憚れるのだろう。



 膠着が続くと思われていたそれは、二郎がこちらを発見したことで、あっさりと終わった。



「華雪さん!わざわざ迎えに来てくれたのですね」


「今日のお弁当は私が作ってまだ渡してないからな。

 でも、邪魔をしてしまったみたいだな」



 女の子の報に視線を向ければ、ばっちりと視線が合ってしまう。


 彼女は何かを決意したかように、口元を固く結んでこちらにくる。



「あの、その、東雲華雪さんですよね!」


「いや、人違いだ。

 私は佐藤花子。東雲華雪という人物ではない」


「えっ!?人違いでしたか!?

 ごめんなさい、間違いちゃいました!!」



 がばっと頭を下げてくる彼女は、人の話を鵜呑みにする馬鹿・・・・・・もとい、素直でいい子なのだろう。


 私の嘘を疑うことなく受け取った彼女は、二郎にまた今度お話しましょうと言って、去っていった。



「あんなに馬鹿な奴っているんだな」


「ボクにもあれぐらい素直な時があったなぁ。

 あー、やだやだ。大人になんかなりたくなかったよ」


「何、寝言言ってるんですか、ルークさん。

 貴方に子ども時代どころか素直な時なんて一プランク時間もないじゃないですか」



 一プランク時間とは、測定できる最小の時間であり、二郎はそんな時間は全くなかったと隠喩しているのだ。



 皮肉を言われていることに気がついたルークは、二郎に笑顔で近づく。


 しかし、その目は冷たい鋼鉄の輝きを帯びている。



「あはは。喧嘩売っているのかな、二郎は」


「いえいえ。私がルークさんに喧嘩を売るわけないじゃないですか。

 例え、あの女性二人の後始末を全て押し付けられようとも、華雪さんと関係ない授業に派遣されたとしても、全く気にしてませんから」


「めちゃくちゃ気にして苛立っているじゃないか」



 五郎は呆れたようにそう言って、二人の間に割って入った。



「喧嘩するなら後にしろ。

 俺は腹が減っているし、華雪も疲れているから休ませてやりたい」


「確かに、さっきの授業は大変だったからね。華雪も疲れただろう」



 そういえば、ルークは魔法で森の全てを見ていたんだった。


 あの女も馬鹿王子の行動も見ていたということだ。



 二郎ははっとして、私に頭を下げてくる。



「華雪さん、すみません。

 ちょっとストレスが溜まっていたというか、疲れていたというか・・・・・・」


「二郎がそこまで疲れるのは珍しいな。私の血でも飲むか?」



 ぐったりとしている私よりも疲れているような二郎が心配になった。


 私にできるのは血を飲ませるぐらいしかできないので、そう提案する。



「いえ、人の少ない所でゆっくりさせていただければ大丈夫ですから」


「とりあえず、移動するか」



 こんな所では落ち着いて話もできなければ、ご飯すら食べれない。


 二郎の希望に沿って、人気がないながらもご飯が食べれる場所に移動した。











 学園の端にある、小さな池にちょっとした食事スペースがあることを、私はパンフレットで前もって知っていた。


 そこは一番近い校舎からも徒歩で五分ぐらいかかる上に、その校舎を使う人達はめったに外に出ないとあって、穴場的スポットなのだ。



 誰もいないパラソル付きのテーブルに腰を降ろし、昼食をマジックボックスから出す。


 温かいのは温かいのはままで、冷たいのは冷たいままで楽に出せるので、とても重宝している。



「二郎、二郎。ちょっと手を貸してくれ」



 二人に先に食べておくように言い、二郎にちょいちょいと話しかける。


 彼は首を傾げながらも、私の両手の上に右手を乗せた。



 その手を両手で包み、自分の魔力を分けるイメージで、右手の契約印に力を込めた。


 ジワジワと黒い逆十字が浮き上がり、そこを経由した私の魔力が二郎に流れる。



「これは・・・・・・」


「どうだ?ちょっとは元気出たか?」



 彼の原動力は人の生気や魔力などのエネルギーだ。


 視覚化することか難しいそれらを得るために二郎は血を飲んでいる。



 そこで、あまり血を飲んで欲しくない私が考えたのがこれだ。


 契約印という見えないパイプで繋がっているという事を利用し、そこから栄養になりえるエネルギーを流せないかという試みをした。


 ぶっつけ本番で、理論上は可能だということしか根拠がなかったか、成功して良かった。



 顔色が少しも良くなり、手を握って感触を確かめる二郎に安心する。



「全身で華雪さんを堪能したようで、とても気持ち良かったです。

 まるで、華雪さんと一つになったような」


「ズルい!!華雪、ボクもボクも!!」



 とても幸せそうな二郎に、それを独り占めするなんて許せないとルークが騒ぐ。



「んー?ルークもできるかな?」



 彼からもらった力を一応宿しているので、不可能ということはないかもしれない。


 ただ、二郎とは繋がり方が違う上に、ルークからもらった力はほぼ私と門にして鍵と混ざり合ってしまっているので、絶対に繋がっているとは言えない。



「ダメ元でいいから、お願い」


「じゃあ、手を貸してくれ」



 二郎と同じように手を握り、今度は自分の心臓に当たる部分に集中する。


 力の源といえば、そこしか思い付かないのだ。



 彼から与えられた宝玉から力を流すようなイメージをすれば、二郎と同じように力がルークに伝わる。



「わぁ。本当に華雪と一体化したような感じだ」


「ルークさんは別にエネルギーいらないですよね。

 なのに、華雪さんの貴重な魔力などを流してもらうのはやめてくれませんか」


「それはそうだけど、二郎がそういうふうに言うから、ボクも華雪を感じたくなったんだ。

 こんな感覚初めてだよ。これが人間で言うところの母親に抱かれた時のような安心感ってやつかな?」



 存在した時から神であるルークに母親というものはいない。


 そんな彼にしてみれば、新鮮な感覚だったのだろう。



 目をキラキラさせて、私の手を握っているルークは子どものように見えた。



「味は感じられないですが、この感覚も捨てがたいものがありますね。

 華雪さん、また今度やってもらっていいですか?」


「二郎のお腹が減ってどうしようもなかったらな」



 血を飲まれるマシだと思い、承諾する。


 この学園で人を襲うのも難しいだろうし、これなら私の負担も少ない。



「華雪、それは俺にはできないのか?」


「五郎にか?」



 繋がりというのなら、指輪がある。


 だが、私はできないと首を横に振った。



「無理だな」


「何故だ?繋がりというのなら、指輪があるだろ?」



 五郎も指輪という繋がりを知っていて、問いかけてくる。



「五郎の体がそれを受け入れられるようにできてない。

 人間の体に無理やり注入しようとすれば、体が耐えきれないで爆発四散する」


「怖っ。そういうことなら諦める」


「うんうん。五郎は経口からエネルギーを摂取してくれ。

 私の昼食の味はどうだ?二郎ほど美味くはないだろうが、けっこう気合い入れて作ったんだぞ」



 話をご飯に戻す。



 今日は初めてのお弁当ということでオーソドックスなものだ。


 唐揚げ・ウインナー・アスパラの豚バラ巻き・厚焼き玉子と彩りにレタスやプチトマトを入れている。


 ご飯は食べやすいようにおにぎりにし、具材は鮭・明太子・ツナ・肉そぼろ・混ぜご飯にした。



 どれぐらい食べるか分からなかったので、おかずはともかく、おにぎりは沢山作った。


 アイテムボックスのおかげで腐ったりしないので、余っても問題ない。



「俺は華雪が作ったご飯のほうが好きだ。

 華雪からの愛情が感じられるからな」


「おや。私からの愛情を感じてくれてないのですか?」


「お前の料理にこもっているのは華雪への愛情だけだろ」



 最近、一緒にいる時間が長いせいか、五郎と二郎の仲が良さそうだ。


 厳密に言うなら、仲がいいというよりも距離が近くなったというか。


 昔のような近すぎず遠すぎず、されど協力するときは息がピッタリみたいな。



 私がいない間に河原で喧嘩でもしたのか?


 昭和のドラマのようなことを思い浮かべてしまった。



 が、あまりにも似合わなかったので、早急に脳内から追い出した。



「人間の食べ物ってすごいよね。

 ボク達なんて、そのままか火を通すぐらいしかしないよ」


「ルーク達みたいに食べなくてもいい奴らならそうかもしれないが、人間は毎日食べなければならない種族だから、飽きがこないように考えたんだ」


「今度、僕も料理をしてみようかな。

 細かいことは好きじゃないけど、華雪の体内に入るならやってみる価値はあるし」


「華雪さんに食べさせる前に私を通してからにしてくださいね。

 変なものを彼女に食べさせたくないので」



 苦々しい顔をしている二郎の脳裏には、きっと桐生の料理が再生されているのだろう。



 大抵のことは常人以上にこなす桐生だが、何故か料理は駄目なのだ。


 なにか神話生物でも絡んでいるのかと疑いたくなるほど、一瞬目を離したうちにダークマターを生成する。


 その彼女の料理を食べれる程度に成長させた二郎は、ルークも同じような事になるのだろうと予想している。



 ちなみにその成長した料理は目玉焼きで、私の誕生日の時に美味しく頂いた。



「僕としても華雪に変なものは食べさせたくないから、試食は頼んだよ」


「やるときは言ってくださいね。材料と心の準備があるので」


「まぁ、今は教師が忙しいから、それが終わってからかな。

 その時になれば二郎も暇になってるだろうし」


「さぁ?分かりませんよ。

 その頃にはまた新たな仕事を抱えているかもしれませんし」



 二郎は優秀過ぎる上に、人間に対する態度も完璧なので、お城にいる時はちょいちょい雑用を任されていた。



 教員という仕事がなくなっても、多分同じように忙しそうにするんだろうな、と簡単に予想できる。



 何だかんだ言ってても、二郎はワーカーホリックのような所があるのだ。


 逆に暇になったりしたら、仕事を見つけてきて自分を忙しくするのだろう。



「二郎はあれだな。最近流行っている社蓄というやつだな」


「誰が社蓄ですか。

 華雪さんのお世話をするという仕事ならいくらでもしますが、他のは嫌々やっているんですよ」


「私、自分の事は自分でできるし」



 仕事さえなければ四六時中傍に仕えたい、と力説する二郎に、もう少し自分のために生きてくれと思う私。


 それを口に出さないのは、言っても聞かない時の顔をしているからだ。






 会話をしつつ食事を楽しむと、あっという間におにぎりも含めて全部五郎達の腹の中に収まった。


 彼らにつられて食べ過ぎてしまった私は、消化を促すためにゆっくりと歩きつつ、ついでに煙草を吸う。



「食後の一服は格別だな」


「それは良かったですね」



 五郎とルークを残し、二郎だけ散歩についてきた。


 足の短い私に歩調を器用に合わせる二郎は、景色ではなく、私をじっと見ている。



「何か言いたいことでもあるのか?」


「華雪さんは今の山口五郎が何に見えますか?」



 変な質問をされる。


 だが、二郎の顔はこの上なく真面目だ。


 ナゾナゾとかではなく、純粋に聞いている。



「私にはそのままの山口五郎に見える。

 愛した彼ではないが、人間としては好ましい性格をしていて、大切にはしたい」


「本当に愛した山口五郎でも他の者ではないんですね?」


「どういうことだ?」



 記憶がない時点で彼は私の愛した山口五郎ではないし、指輪が拒絶なしに指に嵌まっているので、別人というわけでもない。


 何より、私が、私自身が彼を愛した山口五郎の魂を持つ山口五郎だと確信している。



 だというのに、二郎は難しい顔をしている。



「いえ。私の気のせいのようです。

 忘れてください。疲れている神話生物の戯言など」


「・・・・・・分かった」






 小さな池を一周して、私達は彼らの元に帰った。



「おかえり、華雪」


「煙草はもういいのか?」



 二人は私にそう言ってくる。


 それに返事を返しながらも、頭の中にはさっき言われたことがぐるぐると回っている。



 目の前の山口五郎は誰だ?



「華雪?どうかしたのか?」



 心配そうに見てくる五郎を私は真正面からきちんと向き合う。



「・・・・・・いや、明日の弁当のおかずを何にしようかと思ってな」


「華雪が面倒でなければ、ハンバーグを食べてみたい」


「オッケー。ハンバーグだな」


「そろそろ五時限目が始まるなぁ。

 華雪のお弁当を食べたから、もう一頑張りするとしよう」



 怠そうなルークと、その彼を立たせようと手を貸す二郎。


 そして、明日の弁当の中身がハンバーグということに喜ぶ彼。



 平和そのもので、何もおかしくない風景のはずなのに、未だに頭に残っている言葉のせいでどこか歪んで見える。



 私の気のせいだ。


 五郎は私の愛した彼ではないし、他の誰でもない。



 言い聞かせるように心の内で呟き、次の授業に向かうために空になった弁当箱の後片付けを始めた。


 中身のなくなったプラスチックの箱が私の顔を曖昧に映し出し、本当に?とそれが問いかけてきたが、それもまた気のせいだ。






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