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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第74話~混沌とした状況~

や、やっと書けた………コレ書くのに結構試行錯誤しましたよ(数回程やり直しました)

 エーリヒと太助達による話し合いが行われている頃、神影達が隠れていた部屋は沈黙に支配されていた。


「……………」


 ドアの貼り紙を無視して入ったゴルトに続いて足を踏み入れたブルームは、もう2度と会う事は無いと思っていた存在とのまさかの再会に驚いているのか、目を大きく見開いたまま動かない。


「あ……あぁ………」

「……………」


 エリスとエミリアは、いきなり押し入ってきた2人の男に怯え、抱き合って震えている。


「(クソッ、このアホ共は何て事してくれてんだ!せっかく2人を落ち着かせたのに、また怯え始めたじゃねぇかよ!)」


 その様子をチラリと見た神影は、いきなり入ってきた2人組の男を心底恨んだ。

 ドアにはしっかり貼り紙があるため、彼等はそれを無視して入ってきたと言う事になる。


「その服装………成る程、どうやらその娘達、奴隷みたいだねぇ」

「………だったら何だ?」


 『立入禁止』と書かれた貼り紙を平気で無視して入ると言う図々しさ満載の行動を取っておきながら、自分達に怯える2人の美少女に鼻の下を伸ばすと言う不躾な態度を取るゴルトに、神影はぶっきらぼうに聞き返す。


「その2人、ぼくちんが貰っても良いよね?首輪もしてないから、今のところは誰の奴隷でもないんだろ?」


 一方的にそう言って神影の脇をすり抜け、エリス達に近づいていくゴルト。

 たかが奴隷の女如きが貴族の自分に逆らえる訳が無いと言う何の根拠も無い自信が、彼を動かしていた。


「ち、近づかないでッ!!」


 だが、そんな浅はかな自信は大きく裏切られた。

 気持ち悪い表情で近づいてくるゴルトに怯えたエリスが、風属性の攻撃魔法"真空波"を発動させて彼を吹き飛ばし、ちょうど後ろに居たブルームにぶつけたのだ。

 そのまま床に落下したゴルトは再び頭をぶつけ、気絶したのかその場で動かなくなる。


「んごぉっ………!?」

 

 思わぬ二次被害を受けたブルームだが幸いにも持ちこたえ、ゴルトの後頭部が直撃したために鼻血を出しながらも、何とか後ろに倒れる事だけは免れた。

 それに安堵の溜め息をついた後、自分をこのような目に遭わせた張本人であるエリスを睨んだブルームの顔は、次の瞬間驚愕の色に染まった。


 "真空波"の発動で起こった突風によってエリスの長い白髪が翻り、エルフの特徴の1つとも言える長くて先の尖った耳が露になってしまったのだ。


「そ、その耳は………」

「え…………ッ!?」


 ブルームが思わず呟いた一言に反応したエリスは、反射的に両手で自分の耳を隠す。

 だが、その行動は何の役にも立たず、逆に自分がヒューマン族ではない事を示すと言う最悪な結果を生み出してしまった。


「貴様………亜人族の分際で、我々に楯突いたと言うのか!」


 今まで自分達より格下だと思っていた種族に、間接的とは言え傷を負わされた事に激怒したブルームが、鼻血を拭って鞘から長剣を抜く。


「ヒッ!?」


 鞘と擦れ合う音を小さく響かせながら姿を現した銀色に光る刀身に、エリスの顔が真っ青に染まった。


 

──殺される。



 そう思い、怯えて動けないエミリアを庇うように抱き締めるエリスだったが、剣が振り下ろされる音どころか、ブルームが寄ってくる足音すら聞こえなかった。


「…………?」


 恐る恐る顔を向けると、其所には自分達を守るように立っている神影の姿があった。


「………其所を退け。その礼儀知らず共に躾をしてやる」


 剣先をエリス達に向け、何時ものような命令口調での要求を叩きつけるブルームだが、神影は鋭い眼差しを向けたまま1歩も退く様子を見せない。


「礼儀知らずはそっちだ。大体お前、立入禁止の部屋に勝手に入ってきた上に女の子怖がらせといて『すいません』の一言もねぇのかよ?」


 神影に言い返されたブルームは、剣先をエリス達から神影に向けた。

 行き過ぎたプライドを持つ者は、ちょっと言い返されただけでも直ぐに怒りを見せるものなのだ。


「貴様、調子に乗るのも大概にしておけよ。これ以上大口を叩くなら、貴様から斬り伏せるぞ」


 威圧するような、低い声で言い放つブルーム。その台詞は、逆に言えば『今引き下がれば見逃してやる』と言う事になる。

 プライドの高さ故に、今まで格下として扱っていた存在に反抗される事を兎に角嫌っているブルームは脅すような言葉を使ってでも優位に立とうとするが、当の神影は、その脅し文句を何処吹く風とばかりに受け流していた。


「やれるモンならやってみろ。保身のためにあの2人を差し出す程、俺は落ちぶれちゃいねぇんだよ」


 そう言った神影は、視線をエリス達に向ける。

 彼女等は相変わらず怯えており、部屋の隅で小さくなり、身を寄せて震えていた。


「…………」


 神影は無言で2人に近づくと、その場にしゃがみこんで2人の頭を優しく撫でた。


「大丈夫だ。お前等には絶対手出しさせない」


 そう言って再び立ち上がり、神影はブルームの方へと向き直った。


「さて………良いかナルシスト野郎。もしお前等が、この2人に手を出そうってんなら………」

「………ど、どうする──!?」


 『どうするつもりだ?』と言おうとしたブルームだが、その言葉が最後まで出る事は無かった。

 何故なら、先程まで3、4メートル程離れていた神影が瞬きした次の瞬間には目の前に居て、ブルームが放り出した長剣の先を彼の喉元に突きつけていたのだから。


「俺は、遠慮無くお前等を叩き潰す」

「ぐっ………!」


 ずっと格下だと思っていた相手からの思わぬ反撃に歯軋りするブルームは、床で倒れているゴルトに目を向けた。

 エリスに吹き飛ばされてからと言うもの、ゴルトは相変わらず気を失っており、起きる気配は見られない。

 いや、仮に意識を取り戻して神影を攻撃しようとしても、ブルームに一瞬で詰め寄って剣を突きつけてしまうような神影には到底敵わないだろう。

 今の状況は、完全に神影が優位に立っていた。


「き、貴様………まさか、その亜人族の肩を持つつもりか………?」

「どっちに味方しようと俺の勝手だろうが。他人風情が口出しすんじゃねぇよ」


 その言葉が放たれた瞬間、神影の殺気が膨れ上がる。

 今や神影の全身は、その殺意の濃さを表したかのようなドス黒いオーラで包まれており、黒いオーラの中で光る金色の瞳がブルームの恐怖心を煽る。


「お前等が束になって来ようが俺の意見は変わらねぇぞ。俺は、あの2人に味方する。1度助けた奴を保身のために途中で放り出すなんて事しようモンなら……………相棒達に顔向け出来ないんでなぁ!!」


 最後に一際大きな声を響かせた神影は長剣を放り捨て、強烈な右ストレートを叩き込む。 

 拳と言う名の砲弾を顔面に喰らったブルームは、悲鳴を上げる事すら無く血を吐きながら後方に吹っ飛ばされ、部屋のドアに激突した反動で廊下へと放り出された。

 その衝撃でドアは外れて床に倒れ、大きな音を響かせる。


「ミカゲ!一体何があったの!?」


 すると、何とも絶妙なタイミングでエーリヒが部屋へ飛び込んできた。

 太助や奏との話し合いを終えて家に戻ってきた彼は、化粧室に向かった筈のブルームとゴルトが何時まで経っても戻ってこないとイリーナが呟いていたのを聞き、大急ぎで飛んできたのだ。

 

「…………おお、エーリヒか」


 誰が入ってきたのかと警戒の眼差しを向けていた神影だが、入ってきたのが自分の相棒である事を確認すると、何時もの表情に戻る。


「グースさん達の話し合いは済んだのか?」

「いや、今は休憩中で…………って、そんな事はどうでも良い!どういう事なの?なんでコイツ等が部屋に居るのさ!?」


 エーリヒは床に転がっていたゴルトを邪魔だと言わんばかりに後方へ蹴り飛ばし、神影に詰め寄る。


「あ、ああ。コレはな………」


 後ろで縮こまっているエリス達を気にしながらも経緯を説明しようとする神影だが、廊下からドタドタと忙しない足音が響いてきた。

 それも1人や2人程度ではない。10人近くの足音だった。


「(おいおい、マジかよ。勘弁してくれよ………これ以上来られたら堪ったモンじゃねぇんだよ)」


 苦虫を噛み潰したような表情で内心呟く神影。

 だが、そんな彼の心情など意に介さず、その集団は来てしまった。


「一体何の騒ぎだ!」


 真っ先に部屋へ突入してきたイリーナが、部屋全体にその声を響かせる。

 それからソフィアや数人の騎士が続き、勇者組もワラワラと部屋に入ってきた。


「悪い、ちょっと離れてくれ」


 エーリヒを引き剥がした神影は、エリス達の傍に寄る。

 

「大丈夫だ、絶対に手出しさせないから。な?」


 次から次へと知らない人間が増えていくと言う状況でパニックに陥り、今にも錯乱しそうな2人をキツく抱き締め、神影は優しく言い聞かせる。


「古代!」

「古代君!」


 だが、そんな彼の背中に暫くぶりの声がぶつけられた。


「……………」


 油の切れたロボットのようなぎこちない動きで振り向くと、其所には太助と奏の姿があった。


「(うっわぁ………もうタイミング悪すぎだろコレ………)」


 ゴルト達によって、落ち着きを取り戻し始めていたエリス達が再び怯えてしまった事に加え、最悪のタイミングで訪れた親友との再会。


 自分の今日の運勢を占えば、間違いなく最悪と言われるだろうなと内心呟きながら、神影は憂鬱そうに天井を仰ぐのだった。

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