第1話~異世界召喚~
神影が恐る恐る目を開けると、其所は石造りの大広間と思わしき空間だった。
自分達は台座のような場所に立っているようで、周囲よりも高い位置に居た。
神影は自分達の状況を確認するべく、辺りを見回す。
教室で意識を失ってからこうして目を開けるまで、立ったまま気絶していたかもしれないとか、そんな事を悠長に考えている場合ではなかった。
「(どうやら俺を含めて、あの時教室に居た奴等は全員この空間に連れてこられたみたいだな…………)」
一通り辺りを見回すと、神影はそのように結論を出した。
クラスメイトや、教室に入ってきていた他のクラスの生徒達は、呆然とした様子で辺りを見回している。
「あっ、古代。気がついたんだな」
「怪我は無いか?」
其処へ、太助と幸雄が声を掛けてきた。
「ああ、何とかな…………お前等は?」
「おう。俺様は何ともないぜ」
「私も同じく、何ともないよ」
2人はそう答えた。
それから改めて辺りを見回したところ、地面に座り込んでいる者こそ居れど怪我人は誰も居ないらしく、3人は安堵の表情を浮かべた。
「それにしても、コレは一体どういう状況なんだ?私達は先程まで教室に居た筈なのに、何故このような場所に居る?」
太助が尤もな疑問を口にした。
幸雄も何故なのかと頭を捻っているが、神影はそのような様子は見せず、自分達が立っている台座の前で跪いている40人近くの黒いローブ姿の人物達へと視線を向けていた。
他の面々も彼等の存在に気づき、パラパラと視線を向けていく。
そんな中、紫色の法衣らしき服に身を包んだ60~70代の老人が、この集団を代表するかのように歩み寄って恭しく一礼した。
「エーデルラントへようこそお越しくださいました、異世界より招かれし勇者の皆様。私は、このヴィステリア王国宰相をしております、カミングス・セルゼンと申します。以後、お見知りおきを」
そう名乗ったその老人は、頭を上げて微笑を浮かべた。
「え、エーデルラント?何それ、何処かの地名?」
「ヴィステリア王国……………だっけ?そんな国聞いた事無いぞ」
「大体、異世界より招かれし勇者ってどういう意味だよ?ドッキリにしては手が込みすぎてるだろ」
カミングスの自己紹介など最初から聞いていないとばかりに、生徒達は口々に喋り始める。
だが、そんな生徒達に構わず、彼は広間に声を響かせた。
「突然の事で動揺していらっしゃる方も多いでしょうから、先ずは場所を移しましょう。どうぞ此方へ」
そう言ったカミングスは、広間の出口へ向けて歩き出し、ローブ姿の人物達は、ちょうど2つに分かれて一本道を作った。
だが、生徒達は互いに顔を見合わせるばかりで、1歩も動かない。
「どうされました?さあ、此方へ」
生徒達がついてきていない事に気づいたカミングスは出口付近で振り向き、再度ついてくるように促した。
「………皆、取り敢えず彼についていきましょう。今のところ私達には、それ以外の選択肢は無いわ」
教師であるシロナの一言を受け、彼等はゆっくり歩き出した。
漸く追い付いてきた事に満足げな笑みを浮かべたカミングスは、シロナを含む30人近くの異世界人達を引き連れて、その大広間を後にするのだった。