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肌寒さを感じて、アーシュラは目を開いた。
寄りかかっていた荷馬車の縁がしっとりと露を含んでいた。
アーシュラが身じろぎすると、アーシュラに寄りかかっていたエレノアの身体がかしいでエレノアも目を開く。
アーシュラは周囲がすっかり明るくなっているのに気がついた。
男たちが、天幕から這い出して、天幕を片付け始めた。
アーシュラは、そろそろと荷馬車から降りようとする。
しかし、アーシュラに布の袋を投げつけることでアーシュラの動きを止めた。
アーシュラとっさに投げつけられたものを受けとる。
袋はアーシュラの手の中でかさかさと乾いた音を立てた。
「何だろ、これ」
危険物だろうかとおっかなびっくり摘み上げる。
エレノアはそろそろとアーシュラから離れようとする。
そんな二人の様子を怪訝そうな目で男たちは見ていた。
「それを食え」
どうやら本当にわかっていないようだと、判断した男たちの一人がようやくアーシュラにそう言った。
「食えって」
アーシュラは袋を探る、そして、袋の口を閉めている紐をおっかなびっくりという手つきで解いた。赤茶けた、どす黒い薄いもの。それが干し肉という保存食だと、アーシュラに判断がつかなかった。
男たちは、さっさとそれを自分たちの口に放り込むと黙々と租借し始める。
どうやら食べ物らしいと、アーシュラは判断し、できるだけ小さくちぎって口に入れる。
アーシュラの肩越しに覗き込んでいたエレノアにも同じものを差し出す。
エレノアも逡巡しながらも受け取った。
口に入れてみると、それは猛烈な塩辛さを感じた。エレノアの咽が動いたのを確かめてアーシュラは噛んでいるものを飲み込むことにした。
二人はほんの少量口にしただけで、咽を押さえた。しかし周囲を見回して、黙々と食べている男達を見て。それぞれ少しずつそれを食べていく。
天幕を片付け終えると、男たちは再び馬車を動かし始めた。
アーシュラとエレノアは、げんなりとした顔で、馬車の縁に掴まる。
それでも夕べより、周囲の景色に意識を移す余裕はあった。
背後に広大な森がまだ見えた。そして、まばらに樹木が生える広大な平原、その真ん中を自分たちは進んでいたのだと気づく。
そして、前方にまた違う景色があることに。ちらほらと、緑色の地面と、人工物と思しい建物が目に入った。
「毛布をかぶっていろ」
唐突な支持に、二人は戸惑った。
ほかの男が荷馬車の上の毛布を広げると二人に覆いかぶせた。
「そのまま身動きしないように」
そう言われて、二人は、毛布で視界をふさがれた状態でしばらく進むことになる。
「何であたしたちこんな扱いを受けなきゃならないんだろう」
アーシュラのぼやきにエレノアは無言だ。
「誰が口を聞いていいといった」
毛布の向こうで、誰かがすごんでいる。
アーシュラは、袖口から刃物を抜こうとした。
「アーシュラ、それはだめ、今はだめ、今のところ敵か味方かわかってないんだから」
エレノアが、アーシュラを押しとどめた。
今相手は複数、それもかなり多めにいる。
一人殺してどうこうなるような状態ではないし、警察官として、エレノアもアーシュラの暴走を止めようとしていた。
アーシュラも右も左もわからない状態で、周りの人間を害すれば事態が一段と悪くなることぐらいはわかっていた。