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年下天使な幼なじみから、君からの贈り物はもういらないと拒否されてしまった  作者: 悠木 源基


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第30章 愛の白龍


 リーチェの二つの木箱の中には、たくさんの土産品が入っていた。しかしその大半はギフティーへの物だった。

 画集、図鑑、歴史書、時計、置物、アクセサリー、筆記具、タイ、手袋、帽子……

 どれもギフティーが一目で気に入るような品々ばかりだった。

 まあ、それだけでもリーチェのギフティーへの愛は明白だったが、それでも彼は彼女に日記を見せて欲しいと言った。


 婚約者だから、愛しているからといって、相手のプライバシーを覗きたいと要求するなんて、人としてあるまじき行為である。相手に嫌われても仕方ない。

 ところが、リーチェは自分の日記を彼に手渡した。

 それは嫌われたくないからとか、命令されたからという理由ではなかった。


「僕の知らない君の二年間を知りたい。もちろん、僕の二年間も知ってもらいたい」


 そう言ってまず彼の日記を手渡されたからだった。二人は互いの日記を読み合った。

 ギフティーの日記には、リーチェへの溢れるほどの愛の言葉が綴られてあった。そして、会えない寂しさや哀しさ、それから彼女を心配する言葉が。

 それはまさに、彼女の日記の内容とほぼ同じだった。


 読み続けるうちに、リーチェの頬に涙が静かに流れ落ちて行った。それをギフティーが胸元からハンカチを取り出して拭った。

 それは二年前、彼が彼女の手から振り払ってしまった入学祝いの品だった。

 最初にもらったハンカチ、そしてこのハンカチは彼にとって宝物で、肌身離さず持っていた。ただし、それを一度も使用したことはなかった。

 まず最初は彼女のために使いたい、そう思っていたからだ。

 彼女を泣かすのも涙を拭うのも自分でありたい、そう彼は思っていた。それが自分勝手な欲求だとは分かっていたが。


「もう君と離れたくない」


 リーチェを抱きしめてギフティーがそう言うと、彼女も頷いた。


「私も。でも、貴方は卒業式を終えたらアルペディア王国へ行ってしまうのでしょう? 

 早くても半年くらいは帰れないのよね?

 寂しいわ。やっと会えたのに。私が悪いのだけれど」


 彼女は彼の胸の中で、くぐもった声でそう言った。涙がまた溢れてきて彼のシャツにシミを作った。

 すると、そんな彼女の頭を優しく撫でながら彼はこう言った。


「君のせいじゃないよ。それに半年はかからないと思う。

 アルドン先生に相談したら、可愛い教え子二人のために一肌脱いでやろうと言ってくださったからね」


「えっ? アルドン先生?」


 アルドン卿は元王家のお抱えの教師で、二人の家庭教師をしてくれていた学者だ。

 ギフティーは学園に入学してからも、彼の主催する歴史研究会に入会して交流を続けていた。

 そして帰国後すぐに、リーチェが準備していた土産を勝手に持ち出して、彼の下を訪れたのだ。

 そして「これは極秘情報なのですが」と前置きした上で、アルペディア王国の金印を見つけたのがリーチェだと伝えたら、アルドン卿は大喜びをした。

 しかし、そのせいで教え子二人の結婚式が延期になる恐れがあると知り、そのような事態にならずに済むように協力しよう、と言ってくれたのだ。


 ギフティーがアルペディア王国へ渡るとき、なんとアルドン卿や研究会の仲間も彼に同行して、論文をまとめる手伝いをしてくれることになったという。

 彼らは皆、国際的にも有名な歴史学者達ばかりだったのだ。


「それとね、君が先生に買ってきたお土産のペーパーウエイトなんだけど、あれ、彼の国の建国時代に作られた物らしいよ。

 おそらく王宮で使われていたんじゃないかと言ってらした。

 先生、感動していた。国宝級の品だって。

 だけどそれを手放すつもりはないから、そのお詫びも兼ねて、論文作成くらいは協力しないといけないだろうって」


「・・・・・・」


(あのペーパーウエイトは、大昔に遺跡から盗難にあった物なのかもしれないわ。それが巡り巡って蚤の市で売られていたのね。

 たしかに私がそれを買わなかったら、あれはこらからもずっとただの古い重しに過ぎなかったはずだわ。

 けれど、もし私がそのまま自分の手元に置いていたら、同じく単なる私のお気に入りのペーパーウエイトのままだった。

 アルドン先生に贈ったからこそ、その真の価値が判明したのよね)


 振り返って考えてみれば、ギフティーに初めて贈った物は、古代白竜の化石だった。だからこそ彼を泣かせてしまったにも関わらず、子爵に許してもらえたのだ。

 しかしリーチェは、それを白蛇の脱け殻だと思って贈ったのだ。

 もしそれをオーウェン家の家令ロバートが古代白竜の化石だと見抜いてくれなかったら、即立ち入り禁止となっていたはずだ。

 そうなっていたら、子爵家の令息と想い合う仲になるなんてありえなかったはずだ。


(私には審美眼があると言われた。けれどやっぱり違うような気がするわ。

 ただ単にその品物自体が持つ力に、私が引き寄せられているだけなのかも)


 ふと、ニーチェはそんなことを思った。

 ギフティーやフルーラ夫人、家令ロバート、そしてマリアンやポーラに贈った物が、実際の値段以上の価値があるとわかったのも、そもそも彼女達にその価値が見抜く力があったからなのだから。

 あの金印も、キースがその存在を知っていたからこそ、もしや?と調べてみた結果、本物だと判明したのだ。


「引き寄せられているんじゃなく、君が引き寄せているんだよ。

 君はいつも贈る相手のことを考えて品を選んでいる。だからこそ品物の方が我こそは!と君にアピールしてくるんだ」


(やっぱりギフティーはリアリストではなくロマンチストなんだわ)

 

 婚約者の言葉を聞いたリーチェはそう思った。

 しかしギフティーからしてみれば、至極真っ当な正論を述べたに過ぎなかった。

 彼女はギフティー一筋で、他の男になんて興味がないのは丸わかりだ。

 それなのに、自国だろうが他所の国だろうが、彼女に近付こうする男がわんさか現れる。

 その原因は彼女が密かに囁かれている、飛び抜けた審美眼の持ち主、幸運を呼ぶ令嬢。そんな噂のせいだけではないはずだ。


 なぜなら、彼女が引き寄せている対象は品物や男性だけの話じゃなかったからだ。

 一筋縄ではいかないフルーラ子爵夫人や、気難しいマリアン、国母であるイザベル王妃、才媛と名高いグロリア公爵夫人。

 リーチェは、そんな錚々たる高貴な女性にまで愛されているのだ。

 そして彼女には間違いなく審美眼がある。

 ただしその力は、純粋な心で相手に相応しい贈り物を選びたい、そう願っている場合にのみ発動されていたのだ。

 

(まあ、自分が狙われやすいのだということを彼女が自覚して、注意するようになっただけでもまだマシか)


 そう思ったギフティーだった。


 そして学園の卒業式。

 ギフティー=オルウェンは歴代で最も優秀だったという栄誉と共に、人より一年早く卒業した。

 そして学園の教師や卒業生達はこの日初めて、クールビューティな彼の、心からの笑顔を見た。

 ダンスを踊りながら、彼は絶えず婚約者に向けて、幸福そうな眩い微笑みを浮かべていたのだ。



 ✽✽✽✽✽✽✽



 学園の卒業式から半年後。

 王都の大通りにある大聖堂には多くの人々が集まっていた。

 今月に入って三度目の結婚式だった。


 第一週目の休日には、博士号とアルペディア王国名誉国民勲章を授賞したばかりの若き侯爵と、才色兼備と名高い伯爵令嬢。

 第二週目の休日に、は、ドラコーン王国の希望の星と呼ばれる王太子と、淑女の鑑と呼ばれている公爵令嬢。

 第四週目の今日は、既に四つの博士号を取得し、アルペディア王国からも感謝状を授与されている若き天才の子爵令息と、同じく感謝状を授与された、学芸員の資格を持つ男爵令嬢だ。


 実の母親であるプレセント男爵夫人、今日から義母となるオーウェン子爵夫人、国母であるイザベル王妃、そしてアルペディア王国での母だったグロリア公爵夫人……

 リーチェは四人の母からあれやこれやと世話を焼かれて、完全にお人形状態だった。


 そして、まるで別人にしか見えない完璧な花嫁人形になったところで、ほんの少し前に挙式したばかりのマリアンとポーラから頭を下げられた。


「私達は貴女にブライズメイドをしてもらったのに、貴女には何もしてあげられなくてごめんなさい」と。

 しかし未婚でないとブライズメイドにはなれないのだからしかたがないことだった。

 それにリーチェは、親友二人にはこれまで散々お世話になり、心配をかけてけたのだ。そのお礼がしたくて、彼女達の結婚式の手伝いをしたのだ。


「これからもずっと友達でいてください」


「「当たり前よ。私達の友情は永遠よ」」


 三人は手を繋いで微笑み合ったのだった。


 やがて時間になった。

 リーチェは半泣きしている父であるプレセント男爵に手を引かれ、籠から花を撒くフラワーボーイとフラワーガールに先導されて、ヴァージン・ロードを進んだ。

 そのフラワーボーイは新婦の可愛い甥っ子だった。

 そして、彼の横を歩くその愛らしいフラワーガールの胸元には、赤い珊瑚で作られた()()()()()()()()()()()()()()が付いていた。

 それは少女が母親である伯爵夫人から譲られたものだった。

 

 リーチェはその愛らしい天使達の後ろ姿を微笑みながら見つめていたが、やがて、さらに美しい大天使へと視線を移し、彼の横に立った。

 ギフティーの白い礼服の胸元に挿してある真っ白のポケットチーフには、見えてはいないが銀色の白竜の刺繍がある。

 彼がこれからも幸せであるようにと、リーチェが祈りを込めて新たに刺したものだった。

 そして誓いの言葉の後に交換した二人のプラチナの指輪にも、細かな龍のデザインが彫り込まれてあった。

 それは新郎が自らの手で掘り入れたものだった。


「さすがにこんなことまでできるとは思っていなかったわ。

 私の夫は本当に何でもできるのね。すごいわね」

 

 思わずそう感嘆の声を挙げたリーチェに、ギフティーは極上の微笑みを浮かべ


「愛する妻のためならば、なんだってできるよ」


 と言って、新妻に誓いのキスをしたのだった。

 これで完結となります。

 最後まで読んでくださり、ブックマーク、評価、リアクション、くださった皆様ありがとうございました。励みになりました。

 誤字脱字報告も感謝しています。


 昨日、短めの連載も完結しました。こちらも読んでもらえると嬉しいです。

「悪女の称号を承り感謝いたします」

https://ncode.syosetu.com/n3725mc/

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