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年下天使な幼なじみから、君からの贈り物はもういらないと拒否されてしまった  作者: 悠木 源基


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第17章 意外な一面


 ギフティーがリーチェの留学を知ったのは、彼女が屋敷を出た二日後のことだった。

 これまでは二日と顔を出さない日がなかったのに、四日も現れなかったので心配はしていた。

 しかし珍しく喧嘩してしまった。その気まずさで旅行にでもでかけたのだろうと思っていた。

 彼女が屋敷に居ないことは何となく分かっていたから。


 ところがプレセント家の執事がこれまで長らくお世話になった礼だと言って、プラチナ製の竜の像を持参してやって来た。

 そのとき初めて彼女の留学を知らされて愕然とした。

 何を言っているのか、彼のずば抜けて優秀な頭でも到底処理仕切れなかった。

 なぜ自分に何の相談もなく突然留学してしまったのか、全く理解できなかった。


 執事は男爵からの手紙をオーウェン夫妻に手渡し、短い間やり取りをした後、深々と頭を下げて出て行った。

 夫妻は息子の様子をちらっと見た後で、二人で何やら話し合った。それから、夫人が徐にこう口を開いた。


「プレセント家では、貴方が入学したら何かと騒がしくなるだろうことを危惧して、リーチェちゃんを留学させることにしたそうよ。

 それに隣国の王家との婚約話がなくなったことで、アイリス王女がかなり苛立っているみたいなの。だから、何をされるか分からないって。

 たしかに、お仲間のマランディア侯爵令嬢もいなくなってしまったし、さらに荒れそうよね」


 王弟の娘であるアイリス王女は、国内の有力貴族から軒並み婚約を拒まれてしまったため、他国の王家と縁を結ぼうと試みた。

 さすがに王太子とは無理だと分かっていたので、将来は臣籍降下すると確定している王子に狙いを定めた。

 しかし「幸運を自ら手放した王女」などという縁起の悪い二つ名など持つ者を王女を迎えようとする王家があるわけがない。

 人は高い地位にあればあるほど、むしろ縁起を担ぐものなのだ。

 その上、そもそも評判の悪い王女だと知れ渡っていたのだから。

 一週間前、最後の望みと思っていたとある小国の、平民との間に生まれた王子への申し込みさえ断わられてしまった。

 弱小国のくせに生意気だと王弟は怒り狂った。しかし


「小国だからこそ出来の悪い妃など娶ったら国が立ち行かなくなる。

 いっとき苦しい状況に陥ろうとも、断るに決まっている。それが社会の摂理というものだ。

 拒否されたからといって我が国が文句を言える立場ではない。

 自国民からも避けられているような者を受け入れろと強制する、そのような恥ずかしい真似はできないからな」


 兄である国王に淡々とそう言われて絶句しかけたが、彼は娘の無能さを認められなかった。

 だからこう言ったという。


「娘が悪いわけではありません。全てあのデタラメな噂のせいです。

 つまり例の男爵令嬢が悪いのです」


 しかし、それを聞いた国王は怒りを爆発させたそうだ。


「男爵令嬢は王女の幸せを祈って贈り物をしただけだ。それを捨てたのは王女自身であろう。

 アイリスを娶ろうする者は皆無だというのに、それを付与された侍女は、今では伯爵家の妻に望まれて幸せに暮らしているのだから、噂ではなく真実だ。

 逆恨みをするなんて以ての外だ。

 もし、あの男爵家の者に危害を与えるような、そんな恥さらしの真似をしたら承知しないぞ!」


 この話は瞬く間に王城内に広まった。それを男爵夫妻も耳にしたのだろうと子爵が言った。



「リーチェを迎えに行きます」


 ギフティーがそう言うと、フルーラ夫人はアルカイックスマイルを浮かべて訊ねた。


「迎えに行ってどうするの? 懸念事項を払拭できないまま行っても、プレセント男爵の心配がなくなるわけじゃないでしょ」


「僕が全身全霊で守ります」


「貴方らしくないわね。そんなことできるわけがないでしょう。学年が違うのだから。

 もっともたとえ同じクラスだったとしても四六時中一緒にいるわけにはいかないし、相手がどんな手を使ってくるか分からないのだから、それは不可能よ」


「・・・・・・」


「そもそも貴方にそんなことを言う資格はないでしょ。単なる幼なじみに過ぎないのだから」


「彼女と婚約します。成人したらするつもりでした。母上達もそのつもりだったのでしょう?」


「ええ、まあね。リーチェ以外の者が貴方の妻になれるとは思っていないわ。でも、今のあの子にはまだその自覚がないし、覚悟ができるとも思えないの。

 だからまだ婚約するには早過ぎるわね。時期が来るまで待ちなさない。

 本当に結ばれる運命ならば、数年離れたくらいで駄目になったりしないわ」


「そんな悠長なことを言ってはいられません。

 たしかにこの国の学園は安全とは言い切れません。かといって、他所の国なら安全というわけでもありません。

 男爵夫妻は相変わらず各国を飛び回っているわけだし、今後も彼女を守れないでしょう?」


 ギフティーは怒りと焦りが入り混じり合ったような形相で、必死にこう言い募った。


(知らない外国で令嬢が一人暮らしをするなんて危険過ぎる。この国にいるときだって、多くの男どもに狙われていたというのに)


 普段感情を出さずに淡々としている息子の初めて見せる慌てぶりに、夫人は目を細めた。


(この子を人間らしくしてくれてありがとう、リーチェちゃん。

 お礼に二年間だけこの面倒臭い息子から解放してあげるわ)


 心の中でそう呟いた。そして再び息子にこう言った。


「あの子の行き先は分かっているわよね?

 運がいいことに、その国には頼りになる人が複数いるのよ。その彼らに守ってもらうことにするから心配ないわ。

 貴方は貴方で、この国でやらなくてはいけないことがあるでしょ?

 分かっているとは思うけれど、それはリーチェちゃんがここで安全に暮らせるための準備。それをきっちり整えておくことよ。

 このまま()()()()を野放しにしていたら、いつまで経ってもこの国に戻れないわ。それに他の多くの人々もずっと迷惑することになるでしょ。

 だからしっかり計画を立てて、合法的にあの方々を追い払い、二度と表舞台に上がれないようにしてあげましょうね」


 それを聞いたギフティーは、思わず母親の顔をガン見してしまった。

 それは、おっとりまったりした穏やかな性格だと思っていた母親の、今まで知らなかった一面を知ったからだった。

 

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