ブルーライトニング 改訂版 第72章
プレスト海軍司令部では、ファントム各部隊からの報告をとりまとめ、すべてのテロ行為による被害が防げたことに、ひとまず安堵していた。目標になったのは海軍基地を含むダグラス本社とミネルバ学園。ミネルバ学園はライトニングが出撃し、ダグラス本社はその他のファントムのロボットたちが防衛した。
「それにしても、よくこれだけの兵器を調達したものだな」
スコットは報告書に目を通しながら、あきれたように言った。携帯型ロケット砲から手榴弾まで、セレクターズがテロ活動に常用する装備が一通りそろっていたのだ。スコットは副司令の川崎に向き直る。
「それより、情報局が活動を察知してくれたのはありがたかった。オルソン少将には、十分報いないといけませんな」
「そうですね。オルソン少将をはじめ、情報局のスタッフはよくやってくれました。テロ活動の前兆を捉えられたこと、襲撃場所をあらかじめ把握できたことは、今回の勝因ですな」
「しかし……おもしろいというか、なんというか、ライトニングファントムもずいぶん変わったものですな」
スコットが言うと、川崎は首をかしげた。
「何がです?」
「真っ先にミネルバ学園に出撃すると言ってきたんですよ。多分、あの娘がいるからでしょうな」
スコットの言葉に、川崎は笑みを浮かべて言った。
「そうですね。以前なら、命令しなければ行かなかったでしょうから」
「ピースメーカーも警察が抑えたし、後は防衛軍だけだな」
「ことが起こる前に防衛軍も抑えられればいいのですが、あの伊藤司令官のこと、そうは尻尾を出さないでしょう」
「出してほしいんだがな」
「そんなことができるのなら、西郷がとっくに仕掛けているでしょう」
「それもそうか……」
サム・ダグラス大佐はノーマを伴い、中央警察署を訪ねた。藤波が玄関で出迎える。
「いや、どうもありがとうございました」
開口一番、藤波が礼を言った。
「連中が武器を集積しているところを摘発しようとしたのですが、アクションが早くて襲撃を許してしまいました」
応接室のテーブルを挟んで、サムと藤波は向かい合わせに座る。
「とにかく、市民に被害がなくて良かったです」とサムが応じた。
「まあ、それが一番でしょう。今回は、ほぼ全軍を出撃させたのですか?」
「そうせざるを得ませんでした。守る対象が大きかったこともあり、ありったけの戦力を投入する必要がありました」
藤波が難しい顔になる。
「こちらの戦力を把握されてしまう、ということですか?」
「そうなりますね。ただ、航空戦力とそれ以外の戦力までは、わからないと思います。それが救いでしょう。それより本題です」
サムはノーマにデータの提示を指示した。ノーマは部屋のディスプレイに情報を投影する。
「襲撃者については、直接攻撃に参加した者、乗り物に乗っていた者はすべて抑えました。取り逃がした者はいないはずです。ただ、あらかじめ現場に見張りとして配置されていたらしい人間が、何人か確認されています」
ノーマは内蔵ライブラリから六名の顔写真をディスプレイに表示した。サムはそれを示しながら説明する。
「偶然かどうかはわかりませんが、ことが起こる前から現場にとどまっていた人間を、ファントムのロボットたちが捉えています。いずれもピースメーカーのメンバーです」
「なるほど。データのコピーをください。我々のほうで捜査します」
「よろしくお願いします。我々には捜査権がありませんので。それにしても、今回の騒ぎ、動機は何です? ダグラス社本社施設を攻撃するならわかります。重要な戦略目標ですからね。しかし、ミネルバ学園を狙った理由がどうにもわかりません」
藤波は薄く笑みを浮かべた。
「もし、戦略目的に基づいて指揮できる者がいれば、全戦力をダグラス本社に向けたでしょう。ですが、上からの指示でミネルバ学園を狙った、と供述している者がいます。その“上”が誰なのかは、まだわかっていません」
「どんな理由で戦力を分散させたのでしょう」
「”上のもの”が誰なのかわからない以上、動機はわかりません。しかし、分散させたとはいえ、学校は普段は防備が薄い。ファントムがいなければ、かなりの人命が失われたはずです。決して侮れませんよ」
初等部から高等部までの一貫校であることから生徒数も多い。教職員を含めれば五百人近くいる。
「海軍がファントムを動かしてくれたからこそ、被害がなくて済んだんです。しかし、よく連中の動きを察知しましたね」と藤波は感心する。
「情報局が連中のショートメッセージのやりとりをモニターしていたんです。こちらが傍受しているなど考えてもいなかったようです。ただ、団体本部に警察の捜査が入ることがわかって、慌てて攻撃の実行を決めたみたいですがね」
藤波は腕を組んだ。
「テロ対策部の動きがばれていたのか。警察内部にまだ内通者がいるのかな。意外に根が深いですな。それより、国際的な平和運動団体であるピースメーカーがこのような事件を起こしたことについて、各シティの警察から問い合わせが殺到しているんですよ。連中の活動が過激でしたから、どこの警察も結構手を焼いていたようですな」
サムは声を低めた。
「ノーマ、この部屋は盗聴されていないか?」
「大丈夫です」
「警部、ちょっと」
サムは藤波に、もう少し近くに来るよう促した。藤波は身を乗り出す。
「これを伝えるために、通信は使えませんでした。テロの黒幕ガバメント社は、ピースメーカーを見限ったようです。活動資金の支援も止まり、各シティのピースメーカーは、活動の維持ができないほど追い詰められているのが現状です」
「何ですと?」
「おそらく自暴自棄になった活動家が、過激な行動に出るかもしれません。各シティの警察に、それとなく警告を」
「わかりました」
「それから、これからのテロは、ロボットを中核としたものになるでしょう。出所不明のロボットの流入にも警戒してください。我々も警戒を強化します」
「ロボットをテロに使うのですか?」
「そうです。ロボットの製造ラインさえあれば、テロ用ロボットの生産は可能です。人間のテロリストを養成するよりも安上がりで、かつ確実です。これがピースメーカーが切り捨てられた理由でもあります」
「なるほど、そういうことでしたか……」
ピースメーカーも単なるテロの手駒でしかなかった。藤波はテロを画策するガバメント社のあくどさを考えずにはいられなかった。




