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ブルーライトニング  作者: toy


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53/121

ブルーライトニング 第53章

 捜査部刑事により、偽りの調書に署名を強要される玲子と恵。彼女たちを助けるため、アリス等が動き出す。

 移動中の車の後部座席で、アリス・ダグラスはダグラス・インダストリーの中央制御コンピューター〈ニック〉からの連絡を受けた。車にはフィリップ弁護士と高野長官が同乗している。ニックの報告は簡潔だった。

「アリス様、玲子様が刑事から調書への署名を強要されているようです」

 アリスは苦い表情をつくる。

「その調書の内容は?」

「会話から推測するに、玲子様たちを守ったロボットが“人間に暴行し、負傷させた”という筋立てです。取り調べ調書と思われます。玲子様は署名を拒否中ですが、“帰宅させない”と脅されているようです」

 スピーカーからの音声を聞きながら、フィリップが眉をひそめた。

「重大な人権侵害ですな。被害者側に捏造調書へ署名させるとは」

「以前の件も、襲撃がうやむやにされました。同じ意図でしょう。フィリップ先生、私個人として正式に依頼します。玲子たちを助けてください」

「承知しました。録音はありますか」

 〈ニック〉が即答する。

「会話はすべて明瞭に録音しております。ご指示があれば、証拠として音声とテキストデータを提供します」

 フィリップがアリスに頷く。

「ニック、直ちに先生へ送って」

「承知しました」

 黙って聞いていた高野が、口を開いた。

「私からも先生に依頼します。娘たちを頼みたい」

「わかりました。ただ、まずは現場のやり取りを把握したい。警察に向かう間に聴かせてください」

 フィリップのハンディ端末に録音データが届く。彼は耳に当て、会話内容の確認を始めた。高野も動く。

「今回の担当はテロ対策部のはず。あそこが、こんな小細工をするとは思えません。捜査課がもみ消しに動いている可能性が高いでしょう。テロ対策部にもこの事態を共有します」

「連絡は取れますか」

「今、当たります」

 高野はハンディでテロ対策部へ連絡を入れた。

「高野です。藤波警部、実は」

 状況説明が続く間、アリスは焦燥と怒りを押し殺しながら、車が警察署に着くのを待った。


 そのころ、ロボット用の留置場では、マルスたちがひとまとめにされていた。民間回線はジャミングで使えず、ユリは状況がつかめないまま不安を募らせる。そんなユリの肩に、ルーナがそっと手を置いた。

「大丈夫。あなたのお父様はもう動いてる。恵さんは玲子が守ってるわ。今は待ちましょう」

「どうしてわかるの? 通信は遮断されてるのに」

 ルーナは穏やかに微笑む。

「軍用回線はジャミングに強いの。私もマルスも海軍所属のロボット。恵さんを守るために学校にいたのよ。今、弁護士とお父様が動いてる。安心して」

 マルスが不安げにつぶやいた。

「でも、お姉ちゃんは知らないままだよね。それでも頑張ってる」

「マルス。ハンディの保護モードを起動したのは玲子自身よ。最初からダグラスさんを信じているの」


 取調室では、刑事はいら立っていた。どれだけ脅しても、玲子が署名しないからだ。

「さっさと署名しろ! しないならお前ら全員、牢屋にブチ込むぞ!」

 恵が不安げに玲子を見上げる。玲子は静かに言った。

「大丈夫。助けが来るわ。待ってて」

 刑事が手のひらを机に叩きつける。

「助け? 来るわけないだろ!」


 だが、助けは予想より早く来た。

 勢いよくドアが開き、警察の名札を付けた男が踏み込んできた。

「勝手に入るな! 取調べ中だ!」

 現れたのは、テロ対策部の藤波警部だった。

「静かにしろ。被害者を加害者に仕立てる。そんな真似、警察官がしていいと思っているのか」


 藤波は机上の調書を取り上げ、背後の人物へ渡す。フィリップ弁護士だ。

「返せ!」

 飛びかかる刑事を、藤波は強く突き飛ばした。刑事は椅子ごと無様に尻餅をつく。

「警察官による重大な人権侵害ですな。告発に値します」

 フィリップが冷静に告げ、その隣で藤波が続けた。

「連中はもう自白した。金で雇われて、高野氏の娘さんを襲ったとな。依頼時に受け取った写真データも押収済みだ。金の流れも押さえてある。6名はテロ行為で、こちらが立件する」

「弁護士のフィリップです。未成年への重大な人権侵害として、告発を行います。あなたが彼女たちに浴びせた暴言は、すべて録音済み。この捜査課の署名入り“調書”も、証拠として持ち帰ります」

「録音?」

「一言漏らさず。文書化して提出しますので、言い逃れは不可能です」

 フィリップは振り返り、少女たちへ柔らかく微笑んだ。

「さあ、帰りましょう。後始末は私が引き受けます。お父様方が待っておられます」

「弟たちも拘束されています」と玲子が訴えると、藤波がうなずく。

「彼らは私の部下が解放中だ。心配いらない。弁護士と一緒に行きなさい」

 フィリップは玲子と恵を促し、取調室を後にした。藤波は、うろたえる刑事を冷たくにらみつける。

「最低でも懲戒は覚悟しておけ」

 そう言い捨て、藤波は私服刑事を一人残して退室した。

2025年11月22日 加筆

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