ブルーライトニング 第52章
玲子から警察に行くと聞き、アリスは警察の動きに疑念を抱く。二度とあのようなことはさせないと、フィリップ弁護士とともに警察に行くことを決意する。
ダグラス・インダストリー経営監視委員会の議長アリス・ダグラスは、顧問弁護士フィリップと向き合っていた。最高裁の判決が迫る、ソレイユ解体を求める訴訟の最終確認だ。
「最悪にはなりませんよ。法的には何ら問題ありません。一審判決が少々奇妙だっただけです」
「いろいろご苦労をかけました。嫌がらせも多かったでしょう」
「ピースメーカーとかいう連中がね。ですが法的対処は完璧です。貸与いただいたセキュリティも優秀でしたから。あれでは嫌がらせする側が根負けしますよ」
電話応答システムと護衛ロボットを含む一式は、ダグラス社からフィリップに提供されている。
そのとき、アリスのハンディが鳴った。
「おばさん、玲子です」
「まあ、どうしたの?」
「今、いいですか」
「もちろん。何かあったの?」
「さっき暴漢に襲われたの」
「まあ!」
「大丈夫です。私たちにケガはありません。マルスもいましたから」
「それは良かった。マルスがいれば、あなたに手を出せる人はいないわね」
(マルスの前で玲子に危害など、ただでは済まない)とアリスは思う。
「これから中央警察署へ行きます。だから、お宅に伺うのが、少し遅れます」
「いいのよ。私が迎えに行くわ。署で待っていなさい。いい? 何かあったらすぐ私に連絡を」
「はい」
通話を切ったアリスは、ダグラス社中枢コンピュータ「ニック」を呼び出した。
「ニック、アリス・ダグラスです」
「はい、アリス様」
「被保護者・敷島玲子のハンディを保護モードに。音声と位置をモニターして、変化があれば私に即時通知を」
「承知しました。なお、すでに玲子様ご自身が保護モードを起動済みです。現状、顕著な脅威は検知されていません。以後は最優先で監視します」
「お願い」
難しい表情のアリスに、フィリップが首をかしげる。
「何か?」
「以前、玲子が襲われた際、警察は書類を偽造して彼女に署名させ、事件を『なかったこと』にしました」
「その話は聞きましたよ。ずいぶん無茶をやりましたね。ご依頼くだされば、告発でも何でもやったのに」
「保護者が事を荒立てるのを望まなかったのです。玲子も襲撃者にケガを負わせていましたから」
「そんなの正当防衛でしょう」
「そこを突かれて、警察に署名させられたの。彼女は当時14歳。刑事に脅かされれば、無理もありません」
「今回も、同じことを?」
「ええ。警察は信用できません」
プレスト海軍長官室。ノックの音に、「入れ」と高野が言う。姿を見せたのは西郷だった。
「君か」
「先ほど、お嬢様が暴漢に襲われましたが、護衛のルーナとマルスが制圧。ご無事です」
高野の眉がぴくりと吊り上がる。だが、努めて平静に応じた。
「そうか」
「至急、お迎えに向かわれるべきかと。できればアリス・ダグラス氏もご同伴を」
「なぜダグラスさんを?」
「敷島博士のお嬢さんも巻き込まれました。いま中央警察署に向かっています」
情報源はルーナとマルスだ。高野の声に、わずかな怒気が混じる。
「まさか、娘だけでなく玲子さんまで巻き込んだのか?」
「意図はしておりません」
(だが予見はしていたはずだ。でなければ、すぐにアリスの名は出てこない)と高野は胸の高ぶりを抑え、私用で早退すると部下に告げた。
「アリス・ダグラスさんと連絡を取り、一緒に向かう」
「はい」
「娘が無事で何よりだ。マルスだけでなくルーナをつけてくれたこと、感謝する」
「とんでもありません。こちらこそ作戦のためにお嬢様を危険に晒し、申し訳ありませんでした」
中央警察署では、玲子と恵、マルス、ルーナ、ユリが同席で聴取を受けていた。
「ご協力ありがとう。また必要があれば連絡します」
刑事の言葉に、玲子はほっと息をつく。念のため起動していたハンディの保護モードも、この様子なら出番はなさそうに思えた。
「ホールまで部下に送らせます。お迎えをそこで。おい、お嬢さん方を案内して」
年配刑事の指示で、若手が先導する。そこへ別の私服刑事が近づいてきた。
「こちらでも事情を伺いたいので、少しお二人に話を聞いてもいいですか」
「ああ、君たち、もう少し付き合ってくれるかい?」
うなずく二人に、若手が言う。
「終わったらホールへご案内を」
「わかった。では、こちらへ」
しばらく進むと、別の刑事が現れた。
「ロボットはこっちだ」
ルーナ、マルス、ユリが連れられていく。
「ユリ!」
恵が声を上げかけ、玲子がそっと制した。
「大丈夫。心配しないで」
玲子はハンディの保護レベルを一段引き上げる。これで保護者のアリスにも緊急通知が飛ぶ。ダグラス社の社員が持つハンディの特殊機能の一つ、中枢コンピュータ「ニック」が所有者をモニターする仕組みだ。
やがて玲子と恵は、小部屋に通された。
「さあ、お嬢さん方、この書類に署名を」
玲子は書類を一瞥し、即座に押し返した。
「できません」
2025/11/22 加筆




