第6話【汝が向かうは獣道なり】
気付いた時、マコトは横になった状態でトンネルの天井を眺めていた。
「俺は・・・確か・・・」
そこで起き上がろうとして目眩を感じ、マコトは頭を押さえる。
その時、ヌチャッとした湿り気を感じ、その手を見ると返り血で赤く濡れていた。
そして、ノイズ混じりの意識で思い出したのは自分が相手を食い殺すシーンであった。
精神では否定しているが身体が覚えていると言う感覚。相手の喉笛に噛み付き、首をへし折り、まだ息のある相手のはらわたを喰らった。
夢のような出来事だが、あまりにも現実的であり、そして、それは本当の事であったのだと自覚する──否、自覚させられる。
何故ならそこには自分の喰った相手の残骸が転がり、そのはらわたを不味そうに喰らうネロの姿があったからである。
「こいつも養殖だな・・・不味い」
「・・・ネロ」
マコトの声に気付いたのか、ネロは口からマコトの倒した相手のはらわたを咥えながら「よう」と軽く片手を上げる。
「化け物の仲間入りをした感想は改めて、どうだ?」
「・・・俺は・・・人間だ」
「まだ自覚なし、か・・・まあ、お前みたいな人間である事に固執する奴がいても良いかもな」
ネロは否定的なマコトに対して、そんな事を呟く。
それに対して、マコトは何も言わない。
「あんたは・・・なんで、そこまで詳しいんだよ」
「それは俺が最初の成功例──所謂、プロトタイプって奴だからだ」
ネロはマコトにそう返すと再び、はらわたを口にする。
「プロトタイプ・アルタード・コードネーム【ネロ】。それが俺に付けられた名前だ。お前達とは少し事情が異なる」
「あんたは逆にこの世界をどうにかしたいとかないのかよ?」
「ないな」
マコトの問いに即答するとネロは自分の手を眺める。
「プロトタイプには現代のナノマシンという技術以前の問題がある。俺は人造人間型のプロトタイプでな。お前くらいの時から戦場に出ていた。まあ、昔の話だ」
「あんたも苦労しているんだな?」
「まあ、現代には現代の問題がある。俺の悩みなんて捨てられた時代の問題だ。お前達に比べれば、まだマトモだろうさ」
「なら、AIをどうにかとか考えなかったのかよ?」
「それはお前が本当の人間の醜さを知らないからだ。AIの方がまだ合理的な判断が出来る。それに──」
そこまで言いかけ、ネロは口をつぐむ。何か話すのが気まずいのかまでは解らないが、何かを言うのをためらっているようにマコトには思えた。
「この話は腐る程して来た。今更、言う事でもないし、理解もされんだろう。だから、言わん」
「・・・そうかよ」
マコトはそれだけ言うと再び横になり、瞼を閉じる。
口では自分が人間であると否定したが、本能が化け物であると肯定しようとしているのがマコト自身が感じた事である。しかし、それを口にすれば自分に歯止めが利かなくなるだろう事もマコトは理解していた。
だから、その事を敢えて口にするのはやめた。
「俺はいつか、世界を壊すかも知れない」
「そうか」
「その時はあんたが殺してくれるんだろう?」
「まあな」
「その時は一思いに楽にしてくれよ?」
「贅沢な相談だ。まあ、その時が来たら考えてやるさ」
ネロとマコトは互いに笑い合うとマコトの殺した相手を残さず食い尽くす。
数年後、ニュースで新種の生物の育成に失敗し、警備隊に殺害されると話題になる。
男はただ、そんなニュースを聞く事もなく、野生の動物を生のまま喰らいながら、その少女を見据える。
「よう。化け物の仲間になった気分はどうだ?」
【第一部・完】
超急ですが、これにて第一部を完結。
流石に明日は仕事なので、ゆっくりしたいと言うのとまったり系日常ライフの話に力を入れたいと言うのがあって、申し訳ありませんがここで打ち止めにさせて頂きます。全力疾走の勢い思考処理はこの歳にはちと、キツい。
尚、この作品は若い時に作った私の創作作品のリメイク版みたいなものです。
ガラケーのサービスも終わっていると思うので履歴も残っているか怪しいところ。
ついでにいま話題の馬路まんじさんに影響されたのもあって勢いで書いています。
今度の話はほっこりする話が書きたいところ。
それではまたのお話で。