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第5話【血肉を喰らい、汝は地獄を進む】

 街道を抜けた先にある薄暗いトンネルを二人して歩きながらネロは説明を続けた。


「通常のアルタード化する人間は管理AIによって決まっている。大抵の場合、成人して軍事利用や環境適応実験などに使われる」

「なら、なんで俺はアルタード化したんだ?」

「言ったろう。お前はイレギュラーなんだ。未成年がアルタードに接触した場合、接触者はアルタード化して処分の対象になる」


 ネロはそう言って笑い、更に先頭を進む。


「誰がそんな事を決めたって言うんだよ?」

「お前の大好きなAIだ。人間は主導権をAIに譲って科学紀元に入ってから、この世界は一定の秩序を保つ為に成り立っている」

「・・・・・・そんな」

「人間の頭はとっくの昔に自分で考える事を否定した。その結果がこれだ。実際、体内のナノマシンによる電脳ネットとやらは快適だったのだろう?」


 その問いを否定するだけの答えをマコトは持ち合わせていない。ネロの言う通り、平凡で退屈な生活はAIによって守られていたのは事実である。

 二人はその後、語り合うでもなく、黙々とトンネル内を歩いて行く。


 そして、その先には倒れている人間が存在した。

 マコトが安否を確認しようとするとネロが片手で制し、ゆっくりと振り返る。


「例外が存在するとさっき言ったな。結論から言えば、成人するまで俺の真似事をするしかない」

「おい。それって、まさか──」

「あそこにいるイレギュラーを処分しろ」


 その言葉にマコトは思わず、一歩下がる。そんなマコトをネロは黙って見据える。


「どうした? やれよ?」

「そんな・・・出来る訳ないだろう!」

「お前に拒否権はない。この世界に踏み込んだ以上は同じイレギュラーを潰す他にないんだよ」

「でも・・・」


 その言葉にネロはしばらく何も言わずにマコトを見るとフッと笑う。


「・・・わかったよ」

「え?」


 意外に簡単に引き下がるネロにマコトは困惑しつつ、彼を見る。ネロからは殺気らしい殺気を感じない。

 本当に見逃す気なのであろうかと考えながらも警戒しているとネロは愉快げに笑う。


「まあ、誰だって、そうだよな。 いきなり、世界の真実を知って共食いしろってのが、無理のある話だ」

「・・・ネロ」

「だからな──現実を見せてやる」


 安心しきったマコトに対してネロは一転して冷ややかに告げると布一部をマコトの顔に押し当てる。それは生臭く、ドロドロとした赤い液体が付着していた。

 マコトの心臓が高ぶり、ドクンと音を立てて身体が熱くなる。


「お前が殺した生徒のものだ。お前自身に自覚があるかは解らんが、相手は同じイレギュラーだ」

「なん──」

「まだ解らないか?・・・お前の手はとっくに他人の血で濡れてんだよ」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 聞きたくなかった真実がそうであったかのようにフラッシュバックが起こり、マコトの意識がどす黒い何かに沈む。


 ───


 ──


 ─


 意識が沈む。深く。深く。

 ただ、意識の世界から離れていく。

 その先に何かがいた。それは狼のような影であった。

 影は此方に気が付くと一歩一歩近付いてくる。

 精神が恐怖を覚えた。あれに触れてはならない。

 何故かは解らないが、本能とも呼べる何かがそう叫んでいた。


 狼の影が更に近付く。


 いやだ! 俺はまだ人間でいたいんだ!


 気が付くと一筋の光を感じた。そこに救いを求めるように走る。

 狼の影が追ってくる事はない。


 そうだ。これこそが救いの光だ。




 そして、俺は









 地獄へと落ちる。


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