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第3話【異形処刑】

今回はグロ注意。急転直下型なので突発過ぎて混乱されるでしょうが、御容赦をば。

 そして、下校の時間となる。今日も今日とて何事もなく、平凡で退屈な日々が終わろうとしていた。


 マコトは帰り道を真っ直ぐ帰ろうとする。

 異臭を感じたのは次の瞬間であった。


 鉄のような何かの臭い。普段は感じないであろう得体の知れない臭い。

 その臭いの方向を向けば、赤いペンキをぶちまけたような痕跡があった。


 そこで一人の男がしゃがんで何かを喰らっていた。それが絶滅危惧種の鳥だと気付いたのは一拍遅れてからだった。男は鳥を食っている。


「・・・・・・おえっ」


 思わず、こみ上げる吐き気に呻くと男が動きを止め、ゆっくりとマコトの方へ振り返る。

 前髪を無造作に掻き上げたような髪に黒いジャケット──そして、男のギラギラした瞳は明らかに異質であった。男はその瞳でマコトを見据え、口の周りを血で濡らしていた。よく見れば、鳥の前足が口の端からはみ出ている。

 男はペッとそれを吐き出すと鳥の死骸を捨てて、マコトに近付く。


 マコトは恐怖を感じた。あまりにも現実離れした光景に声も出せない。


「・・・お前、金持っているか?」


 そんなマコトの事など知らぬかのように男がマコトに尋ねる。マコトは口を開閉させるが声が出せない。あまりの光景に思考がついていかないのだ。男は言葉を続ける。


「言葉が通じなかったか? 俺は金を持っているか聞いているんだが?」

「も、持ってます!」


 ようやく、出てきた言葉にするとマコトは答えると男はニヤリと笑う。明らかに恐喝なのだが、何故か電脳ネットにアクセスが出来ない。

 原因は明らかに目の前の男に何かあるのだろうが、理由までは理解出来ない。


「ああ。すまんな。言葉が足らなかった。俺は電脳マネーだったか?──あれが使えない体質でな。こうやって食い扶持を自給自足で生活しているんだが、如何せん生ものばっかりで少々飽きていたところだ。なんでも良いからマトモな飯が食いたいところなんだが、頼めるか?」


 男は血に染まった顔でそんな事を告げる。電脳ネットが使えない人間など聞いた事がないが、この時代にかなり苦労している人間なのは解る。

 電脳世界へのバイパスのない肉体と言うのが気になったが、このままでは自分にも危害を加えてくるかも知れないと思ったマコトは急いで近くのコンビニで適当な弁当を買ってくる。

 そこまでしてからマコトはふと、いまなら逃げられるのでは?と思い、男とは反対の方角へと駆け出す。


 男が追ってくる気配はない。しかし、あまりに得体の知れない何かに遭遇し、マコトは混乱した。

 深呼吸してなんとか心を落ち着けると早速、電脳ネットにアクセスし、得体の知れない男に恐喝されている事を通報する。


「承認したよ。安全な近隣エリアへのマップを表示するから早く避難してね?」


 こんな時でも優しく接してくれるAI教師に安堵しつつ、マコトは表示されたそのエリアを目指して走る。

 そこで近くを通り掛かった同じ学生服の女子生徒に気付く。

 このままでは自分の代わりにこの女子生徒が標的にされると思い、マコトは女子生徒に駆け寄ろうとする。


「おい」


 そこで再び聞きたくない声を聞く事となる。あの男が追ってきたのだ。

 男はギラギラした瞳でマコトを見据え、一歩一歩近付く。男は血で濡れた顔で笑う。


 そして──


「人間のフリしているつもりだろうが臭いは誤魔化せないぞ」


 女子生徒にあらん限りの力で拳を叩き込む。

 女子生徒は奇声のような悲鳴を上げ、男の拳で胴体を貫かれるが上半身と下半身が分裂し、カサカサと逃げていく。


 男は逃げる女子生徒の下半身からまず、仕留めようと助走をつけて跳躍し、体重と勢いをつけて女子生徒の分断された下半身をグチャリと踏み潰す。

 そこから眼球や脳髄、内臓がぶちまけられるがマコトは最早、思考を放棄し、ただ、その場で呆然としていた。

 上半身だけになった女子生徒が下半身を失った怒りから変貌したのは次の瞬間であった。


 手長と呼ばれる古き怪物であるそれは相方を失い、怒りに身を任せて男に襲い掛かる。

 男はガードするが、手長と呼ばれる怪物の鋭い爪で腕に引っ掻き傷が出来る。


 明らかに異質なその化け物に男は愉快げに笑う。マコトはただ傍観する事しか出来なかった。手長がもう一度、腕を振るう。


「おっるあああぁぁぁっっ!!」


 男は吠えると振るわれる手長の腕を掴み、ゴキンと鈍い音を立てて、へし折る。

 手長から絶叫が上がる。明らかに人間のそれではない悲鳴。

 それを無視して男はもだえる手長の腕を掴み、手長の背中に足を添えて力任せに引っ張り出す。

 激痛にもだえる手長。その手長を愉快げにいたぶる男。

 そして、ついに手長の腕が限界を超え、鈍い音と共に引き千切られる。


 両腕を失って、芋虫の如く這う手長に男はゆっくりと歩み寄り、手長の後頭部を掴んでアスファルトの地面に何度も叩き付ける。

 その間、男は血に酔うかのように愉快げに笑い続けた。やがて、顔面が原型を留めていない手長が脱力する。

 眼球がはみ出し、下に向かってズルリとこぼれる。その眼球を引き千切ると男はあろう事か、それを口に含み、咀嚼して飲み込む。


「不味いな。やっぱり、失敗した養殖なだけあるか・・・」


 男は独り呟くとグチュリと音を立てて手長の頭部を叩き潰し、呆然とするマコトに歩み寄る。

 そして、マコトが持っていたコンビニ袋を奪うとマコトの肩を軽く叩いて「ありがとうな」と呟いてから、その場を去って行く。

 残されたマコトは未だに理解が追い着いていなかった。追い着ける訳もない。

 遠くでサイレンが鳴り響き、ようやく嵐が去ったのに気付くとマコトはその場で胃の中のものを吐き出した。何もかもが現実離れしている。


 謎の男による異形生物の公開処刑。観客は平凡な高校生のマコト一人。

 異質な空間に残され、現実から非現実だと思っていた事を目撃し、マコトの中でドロドロとした感情がこみ上げてくる。


 機械仕掛けの神の悪戯か、それとも悪魔の囁きか・・・マコトの平凡で退屈な日常はその日、些細な出会いにより心のトラウマを残して音を立てて崩れるのであった。


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