仲は悪くないです
前話の表情がわからない話から思い浮かんだネタです。もし前話を読んでないならぜひそちらもよろしくお願いします。
小説家になろうの名前的にどうなんだと言う感じはしますが(何か警告来たら活動報告に移します)せっかくなのでどうぞ。一応スマホでも確認しましたが見辛かったらすみません
下に小話も書いてあります。
あたしは、「ちょっとオハナシしようか」とでも言いたげな不機嫌そう……とまでは見えない顔で、フレデリカさんに宿屋の部屋の外、人気のない廊下の隅にまで連れて行かれた。
フレデリカさんはキョロキョロと周囲を見回し、誰も居ないことを確認してから溜息と共に話を始める。
「はぁ……オマエたち姉妹は、本当、ある意味似ているな」
「えへへ、それほどでも」
と素直に喜んだら、「あまり褒めてない」といつもの眠たげな目で突っ込みを入れられた。
でもあたしからすれば、お姉ちゃんと似ているというのは嬉しいことだからね。
「……マリナも大概だが……シャルロット、何故わかった。……そんなに、わかり易かった、だろうか」
「うぅん、全然。多分、あたしだからわかることだと思うよ」
さっきのお姉ちゃんのアレが異常なだけで、この人の表情はひどく読み辛いと誰もが声を揃えるだろう。
いつも物憂げな瞳は知性と静謐さを湛え、乱れることはほとんどなく、いっそ無機質とも言えそうな。肌の白さとも相まって『氷のような』という形容詞を付けたくなる美貌。
自分で言うのも何だけど、あたしも色んな人から可愛いと言われてきたけれども、この人はまた別種のモノを備えている。ここまで綺麗な人にはなかなかお目に掛かれない。
これに笑顔が加われば最強なんじゃないかな? でも、この冷たさが良いという趣味の人も居そうだね。
……思考が変な方向に飛んで行きそうなので戻そう。
まぁ、そんな無表情さんが相手だとしても、あたしはお姉ちゃんに関することであれば敏感に察知してしまうのです。
……元々、ドラゴン騒動の時……より少し前から、そんな感じはしてたからね。
「……意外だな。オマエの気質からすれば、ワタシを排除……とまでは行かなくても、塩対応になりそう、と思っていた、のだが」
「あはは。あたし、そんなに性格悪そうに見えます?」
「……嫌いだとか、どうでもいい人間には、そうしそうだ」
おーっと? バレてる?
うーん……意外とあたしが猫かぶりとわかるくらいには観察してるのか、バレるくらいにあたしが油断しているのか。
……両方かな、多分だけど。
「ほぼ正解です。でもあたしはフレデリカさんのことを嫌いではありませんから」
「……?」
首を静かに傾げる様が、お姉ちゃんより年上なのにあたしより年下に見えて、少しだけ内心でクスリとしてしまう。
こういう仕草が妙に子どもっぽいからかな、お姉ちゃん、たまに『この人のことを年下だと思ってない?』ってフシがあるんだよね……。
「あたし調べによると、あたしよりお姉ちゃんに目を向ける人は百パー良い人なんです」
「……何だ、その基準は……。と言うか……その口ぶりからすると……他にも、居た、のか」
「えーっと、街に二人で住んでた頃は、近所の年上のお兄さんが。お祖父様の御屋敷では、新鋭気鋭のコックのお兄さんとか、洗濯係の女の子とか」
まぁお姉ちゃんのことだから、どれも全くもって気付いてなかったんですけれどもね!
「……最後のは何なんだ……」
「それ、あたしたちに突っ込む権利あると思います?」
即返しすると、そっと目を逸らされた。うん、ちゃんと自覚はしてるようだね。
「まぁ、この基準は置いておくとしても。あたし自身の判断でも、フレデリカさんは良い人だなぁ、と思ってますよ? いや本当に」
「……オマエに、特別なコトをした覚えは、ないのだが……」
「そう、それです」
フレデリカさんの良い点は『勇者であるあたしに興味がない』と言う所。
つまり、肩書関係なく、あたしを見てくれている、ということなのです。
勇者に媚びへつらうこともなく、利用してやろうという下心もなく。こんな小娘が勇者なんて眉唾だ、なんて実力を認めてないわけでもなく。
……あたしが普通に冒険者やってた頃みたいに、『男の人に人気があるから』って嫉妬を向けてくることもなく、あることないこと言い触らすこともなく。
もちろん、他のパーティの人たちも打ち解けてきてからは、皆良い人だとは思ってるけどね。何だかんだで恵まれていたのかも。
そのようなことを伝えたら、フレデリカさんは少しだけ目を伏せた。
「……気のせい、だ。ワタシは、そこまで、考えてない」
「意識せずにそうなら、尚更貴重だと思いません?」
黙りこくるフレデリカさんをあたしがじーっと見つめていると、やがて根負けしたかのように深く息を吐き出した。
「……変に人を褒める所は、本当に、似てるな、オマエたち」
「お姉ちゃんには勝てる気しないよ?」
あたしは分かってて言ってるけど、お姉ちゃんは特に意識することなく天然でそれをやるからね……。
二人して小さく笑った所で、「さて」と話を少し前に戻す。
「と言うことで、あたしはフレデリカさんのことは嫌いじゃないですし、むしろ好きな方ですよ。……応援とかは絶対にしませんけどね」
「……その割には、さっきのアレ……」
「だって、ヘタレて止めてくると思ってましたもん」
あたしがあえて意地の悪い顔でそんなことを言ったら、フレデリカさんはあたしにも分かるくらいに目を見開いて驚愕していた。
そして額を押さえて俯く。文句を言いたいけれど、否定が出来なくて我慢している感じ、かな。
……まぁあそこであたしが「お姉ちゃんのこと考えてるみたいだよ」と言った所で、お姉ちゃんは「そうなの?」くらいしか反応しないだろうけどね……。
キッパリハッキリ告げてやっとのことで分かってくれる、と言うくらいには鈍いから……どうしてあぁなっちゃったんだろう……。
などと大きな謎に考えを巡らせていたら、フレデリカさんは復活したのか顔を上げて、静かに、こう言った。
「……とにかく。ワタシは、伝える気は、一切ない。だから、オマエからも、絶対に漏らさないでくれ」
「え、言わないの?」
言われた言葉を理解するのに時間が掛かってしまい、咀嚼する間もなくあたしの口からスルっと出てきたのがこれだった。
あたしの返答が埒外だったのか、フレデリカさんは目を瞬かせる。……うん、正直あたし自身もこんな答えを出すとは思ってなかった。
「……オマエは、喜びそうだと、思ってたのだが」
「いや、うん、言わないでくれるに越したことはないんですけどね?」
うーんうーんと自分の胸の内に潜り込み、どういうことなんだろうとあちこち探り始める。
そうして、しばらくの後に掘り起こされた答えは。
「あたしは、お姉ちゃんが幸せになることを願っています」
「……? それは、そうだろう?」
幸せにするのは、あたしの手で。決して他の誰にも委ねたくない。
その立場を取られそうになってしまったら、いっそのこと隠して閉じ込めてしまいたいくらい。
……そこ、「ウワァ」ってドン引きしないでよ。あたしの独占欲は既に知ってるんでしょう? 知ってるけど改めて引いた? あ、そう……。
けれども……けれども。
もし、もしも、あたしより、お姉ちゃんを幸せに出来る誰かが居るのだとしたら。
あたしが、その可能性を勝手にシャットアウトしてしまうのは、間違っている、気がして。
「だから……あたしがその場に居たら止めるだろうけれど、そうでない時に、言われたなら……」
……そして、お姉ちゃんが、それを受け入れたならば。
あたしは、お姉ちゃんのその意思を受け入れる、
の、だろうか?
あたしは……その時、どうするのだろう。
諦めきれないのは容易に推測できる。けれども、その結末を壊すのも、何かが、違う。
想像するだけで、血の気が引いて、頭がクラクラしてきた。立っていられなくなり、体がフラリと揺れる。
倒れる――
「……そんな顔を、するな」
「――」
前に。そっと、肩を支えてくれた。
……触れられた箇所が温かい。
何を当たり前のことを、と言う感じだけれども……冷たそうに見えても、ちゃんと血が通っている人なんだな、って。今更ながら思った。
「オマエが悲しんだら、マリナも悲しむ。……少なくとも、ワタシは、そんなモノ……望まない」
あたしが倒れたことで、耳元で囁かれるように零された声は。支えてくれる手は。
冷えたあたしの心を、少し温めてくれた。
あぁ……やっぱりこの人は、良い人だなぁ……。
「……話が長くなったな。そろそろ、戻るか」
「……うん、そだね」
フレデリカさんはあたしがシャンと立てるようになるまで待っていてくれて。手を離すなりそう提案した。
確かに、ちょっとだけだと思ってたのに、すごく長くなってしまった。お姉ちゃんはどうしてるだろうか。
部屋に戻るため、フレデリカさんは背を向け……ようとしたのだが、改めてあたしに向き直って。
「あぁ、忘れていた」
「?」
「……シャルロット。オマエのことは、嫌いではない」
一瞬だけあたしと目を合わせてから、恥ずかしかったのかフイっと逸らした。
……うん、あたしにも少しずつだけど、分かるようになってきたかも。ちょっと面白い。
あまりの律儀さに何となくからかいたくなって、こんなことを言ったら。
「素直に好きと言ってくれてもいいんですよ?」
「……その言葉を一番最初に言うのは、オマエが相手では、ない」
返ってきた答えに、面を食らって。
譲る気は全くないのだけれども……余計なこと、しちゃったかなぁ……?
これで言ってたらifルートとか入るんでしょうね。
ちょっとした小ネタのつもりが長くなってしまいました…。