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俺は巨人というあだ名で、古くから恐れられている琉球家の一族だ。俺の家はあえてボロであり、山の上にある。俺が行う仕事である兵士は、つねに成績トップ。戦争では一回に100人は殺している。が、その俺が、何をしているうううう!?
「おじしゃん、髭はえてるー!かっこつけ?」
俺の家のソファーの上で、6歳ほどの女の子が笑う。髪はボサボサのボブ、服は茶色い。きゃっきゃっと頬を赤くして、口はぷるぷる。服は、山の上にきたとなると綺麗なほう。
いや、入れてはない。いれてはないのだ。が、俺が家のドアを開けたら、またの間からスルッと入り込んできたのだ。本当に、何処に住んでいたのかも分からないし、名前だって分からない。あ、いや、決してさらった訳じゃあないのだ。うむ。と、肩にかける袋に違和感を感じる。先程、食料の猪を運んでいたのだが、妙に軽い。ま、まさか………………!
「おい、お前。名はなんという?」
女の子がポカンとする。てにもつクッションが、よだれで染まると、白がネズミ色に変わった。
………と、女の子は手のひらをもうひとつの手で叩いた。
ぽん!
「ないよ!というか、忘れたの!おじしゃんは何て言うの?」
あぁん!?コイツゥ………!ふざけやがって!てか、おじしゃんじゃねぇし!お兄さんだし!
女の子の目が藍色に染まっているのを見て、俺は妙に違和感を感じた。もしかしたら、これはーー、コナツ族のものか?
「よし。俺は琉球・大学!お前は、コナツ。コナツという!」
コナツは、目を輝かせた。立ち上がる。
「聞いたことある!大学、物知りだね!でも私ねぇ、布に包まれて、頭打って、そこから前覚えてないの」
やはり、コナツ族だ。こいつは。
…………あぁ!?ぬ、布に包まれて…………?それは、まさか、猪だと思って俺がとってもって帰ったものは…………コナツ、だったのかぁあぁ!?
布のなかを確認する。が、すぐにコナツを誘拐してしまったと分かる。カラ、だ。中身が、ない。
「おい、コナツ。お前は、お母さんを分かるか?んー、ママ~、だ、ママ~」
コナツは大笑いをする。嬉しそうに足をばたつかせる。
ちょっと恥ずかしいが、我慢だな、我慢。琉球家のものなのに………恥だ!恥!
「コナツのママは大学だよ!」
………ん?コナツ、勘違いしてないか?
「いや、きっと山を降りたところに………」
コナツが目を潤ませる。マジで勘違いしているようだ。小さい手で目をこする。
「大学、コナツ嫌いなの?ううう………」
いや、嫌いでは………いかん!嫌いだ!嫌い…………嫌い?いや、嫌いではない。なんだろう?変わってしまったな…俺も。
「じゃあ、貼り紙をおくだけにしよう、それだけだ。嫌いではない。明日貼りに行こう」
コナツはなんとかうなずいた。目がつぶれていて、前が見えなさそうだった。
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あのあと、体を洗ってやり、温かい鹿のスープを好きなだけ飲ませ、歯はツルのような木を噛ませて綺麗にして、羊毛布団に包ませてやった。寝顔はまるで子猫のようで、少し可愛らしかった。
「大学、起きて!もう10時だよ。町へ出掛けよう」
コナツが大学の体をゆする。小さな手に、力を加える。俺があまりのしつこさにうなると、コナツは喜んでゆする手を速くした。
「コナツは猪の袋のなかに入れ」
俺が猪の袋を持ってきて見せると、コナツは首をかしげた。
「なんで?コナツ、歩けるよ」
まぁ、そう思うだろう。………だが、違うのだ。俺がコナツを猪の袋のなかに入れる。コナツはよく分からないがおとなしくしていた。
「俺は固いイメージでいるし、コナツを後輩が見たらどうするんだ。勘違いされるぞ。それにコナツの服ときたら。ボロいじゃないか。せめて町で服を買ってからにしろ」
コナツが猪の袋のなかで喜んで体をゆすった。コナツはタイクスワリをして、俺の顔を見つめる。
「じゃあ、服を着替えたらだしてね」
ん?言った意味が違う。が、コナツにそういうのがかわいそうだったので、そういうのはやめた。
ガヤガヤガヤガヤ
山を降りると、町は大変にぎわっていた。にぎわいは嫌いだ。早く家にもどろう。
服の店はたくさんあり、そのなかでも動きやすいスポーツタイプの店を選んだ。
「コナツ、どれにしたい」
コナツが猪の袋から顔を覗かせる。
「エメラルドグリーンがいいー!」
コナツが言ったものは、エメラルドグリーンの色に、短いスカートのついた、ワンピースのこと。俺はすぐさまそれを買って、コナツに着させた。コナツは嬉しそうにくるくるまわって、踊ったり歌ったりしていた。
町に貼り紙を貼り終えると、コナツは山の方を指差した。
「大学!帰ろ、帰ろ。鹿のスープ飲みたい!」
俺はやれやれと首を振った。コナツがなぜかと聞く。
「そんなもの、無限にあるわけではない。狩りをして捕ったものを食べる。それが絶対の自然のルールだ」
悲しそうな顔を期待する。と、コナツは満面の笑みになった。
「じゃあ、狩りいこう。コナツ、捕りたい!自然のルール、楽しそう!ねぇ、しかいがいもいるの?」
嬉しかった。コナツが、そういったから。他の兵士たちはスマホばっかいじって、ネットで買い物なんかをしてる。が、コナツは違う。ネットで買い物なんかをするよりは、狩りにいきたいのだ。
「コナツ、何を捕るんだ?鳥?鹿?猪?犬?猫?」
コナツが可愛らしく笑う。
「全部!」
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俺とコナツの二人は、迷彩柄の服に着替える。コナツの髪を束ねてやり、肩には予備の鉄砲と銃を持たせた。バッグにはパンを3つとチョコレートを8つ、虫除けスプレーもいれた。
「あー!見て、大学!可愛い、犬だよ。でも…痩せてる」
あれ?コナツ、狩りの気分か?可愛いって、情が移ってる!犬は、黒くて、目はオッドアイ。靴下を履いていて(あしのさきがしろい)、腹が白い。と、尾のさきも白くなっている。と、コナツが目の前の犬に手を伸ばす。
「危ない!!」
俺は噛まれると思った。コナツの手が。が、そんなことはなかった。コナツと犬は、話をするようにお互いを見つめあった。そして、コナツが銃を構える俺を見た。
「手当てしないと。もう、死んじゃう。栄養失調なんだって。というか、産まれたときからけっこうご飯が無いみたい。苦しいって泣いていたよ」
俺が銃を下ろす。コナツ…………動物の言葉がわかるのか?これは、コナツ族の特性のようなものだろうか。
ばくばくばくばく!
犬がもうスピードで肉(羊)を食べる。見た目は、ザ・狼だ。コナツは、犬の頭を撫で回している。
「このこ、くろけんちゃんっていうんだって。くろけんちゃん、飼おうよ。一緒に暮らそう。狩りにも役に立つかも」
くろけんちゃんが首を傾ける。
「でも、餌はどうするんだ。俺たちの分もあるのに」
コナツは問題ないと笑う。たしかに、くろけんちゃんに捕らせれば良いし、山から捕れば良い。ということで、俺はくろけんちゃんを飼ってみることにした。
「くろけんちゃん、いいか?これは、試験だ。制限時間以内に動物を一匹とってこい。30分。30分、やる!!!」
くろけんちゃんがうなずいて山の中へと駆けていく。今更だが、くろけんちゃんって女か。とか、大きさはコナツレベルだ。コナツのお母さん感覚だから、世話もしてくれるだろう。
30分後。山の中から出てくる、くろけんちゃん。その背中には、お見事。鹿と、猪を2頭、兎を5羽、鳥はあわせて8羽。おお、これなら一週間………そうか、三人いたか、三日ほどだな。くろけんちゃん、合格!合格だ!
コナツをくろけんちゃんが背に乗せる。フッ。俺の出番は終わりかな?なんだか、悲しいものだ…………ん?コナツがくろけんちゃんを俺のもとに誘導する。
「どうしたの?大学、帰ろ。帰ってご飯食べよう。鹿のスープがいい。作り方知らないから、大学やって!コナツ、野菜とってきた!菜の花もあるよ、サラダ作るの」
この時の俺にはなぜか、コナツの言葉が心にジーンとくるのだった。
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「コナツ、野菜を庭から採ってくれるか?ピーマンだ、緑色のやつ」
申し遅れたが、庭とは、畑のことだ。中には、ジャガイモも、ニンジンも、キャベツも、ピーマンも、その他モロモロある畑。俺が自然のなかで育てた超絶品もの。
「ぴぃまん?」
コナツは一部分の記憶がない。例えば、キャベツは分かるとする。が、ニンジンは分からない、ということ。としても、難しいものが分かり、簡単なものが分からずということも。本当に不思議なヤツだ。コナツは。
「はい!大学、これでいい?」
コナツが出したものは、キュウリ。…………可愛い。やっぱり分からないのか、コナツは。だが、俺は決して怒らないのだ。それは、決して(二回目)コナツを怒るのが可哀想という理由からではない、ないのだ。
「コナツ、ちょっとこい。間違えてるぞ」
普通の子ならビクッとするだろう。けれどコナツは、嬉しそうにして俺に肩車をしてもらう。そして、庭に連れていけと催促する。ということは、コナツは俺と外にでるのが好きということである。あ、これは予想ではなく、本当に、だ。まぁ、念のため(怒られないように)、くろけんちゃんがコナツについていくのだが。
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「…………へぇ!ぴぃまんって、あれか!きゅーりが、これ」
俺がコナツの頭を撫でて、くしゃくしゃにする。コナツは嬉しそうにして、笑った。
「そだ。あれがピーマン、これがキュウリ。よくできたな」
俺は、これが琉球家の恥とは思わない。むしろ、良い方にとらえれるんじゃあないかと思えてる。←絶対的自信
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「さぁ、出来たぞ!!今日は、新鮮な川の水もあるし、大盛りの鹿のスープ。それに、庭でできたピーマン、キュウリ←(結局いれてあげた)、コナツの採ってきた菜の花を入れた、サラダもある!!これは豪華だぞ、くろけんちゃんに感謝しよう」
俺たちは、歓声を挙げて豪華なご飯にかぶりついた。三人で食べる食卓は、いつもの一人以上に輝いていたため、俺はとても喜ばしい気持ちになった。
このときよ、止まってしまえ
ーーそう言わんばかりの、喜ばしい気持ちであった。