第十一話 ~王の覚悟~
第二章始まります。
ミカドレア王国中央にそびえたつ荘厳な建物――ミカドレア王城。
その一室で、円卓を囲んだ数十人の者たちが重苦しい空気の中、議論を交わしていた。
「被害が広がってきておるな」
「えぇ、このまま放っておくことはできますまい」
「フエル村にて起きた先の蛇竜事件といい、やはりあのものが関わっているとしか……」
「馬鹿な……奴は穏健派のはずだ」
「考えなど、何をきっかけに変わるか分からん! なんにせよ、奴は敵意を向けてきた。それは事実だ」
円卓を囲んで、皆それぞれの意見をぶつけ合う。議論は次第に熱を帯び、収集がつかなくなっていた。
「大臣たちよ、静まれ!!」
猛々しい声が室内に響き渡り、大臣たちは静まり返った。
円卓の席の中でもひと際大きくて豪華な席、その席に座っているのはミカドレア王国の国王その人であった。
黒上の短髪で、その強い意志を感じさせる美しい黒目。蓄えられた髭は丁寧に整えられ、その衣服の上からでも、体が程よく鍛えられていた。
「我が領土が攻撃を受けておる! これ以上民を犠牲には出来ん」
王は何かを決断し、重苦しい声で告げる。
「……蝕王フエニエル討伐隊を派遣する」
その言葉に空気が張り詰める。
すると、王の左隣に立っている男が静かに口を開いた。
「恐れながら我が王よ、蝕王に対抗できる軍勢を直ちに派遣することは難しいかと存じます。そうですよね、第一騎士団団長」
男は王をはさんで自分とは反対側――王の右側に立つもう一人の男に目線を向ける。
「……宰相ジル・ドレファンの言う通りです。我が国の誇る五つの騎士団のうち、第四、第五騎士団は外部任務中、今から呼び戻すとなると数日はかかるでしょう。第三騎士団も大型魔物の被害にあっている同盟国の救援に向かうため、第三王子、第三王女を王の名代として伴い、三日前にこの国を発ちました」
男は一度言葉を切り、険しい表情を浮かべる。
「残るは我が第一騎士団と第二騎士団のみ、これを放出してしまえば、王国の守りが手薄になりすぎます」
「第一王子、第一王女の特別師団は今別大陸にて旅をしておられますが、それこそ、電報を届けるのにどれだけかかるか分かったものではありません」
「もとより、あの子らを頼るつもりはない」
王は静かに首を横に振り、続ける。
「広い世界を見聞してこいといったのは儂であるしな。その邪魔はせん」
「では我が王、一体どうするおつもりですか?」
「いるではないか、この役目にぴったりなものが」
「ぴったりなもの?」
大臣たちは顔を見合わせ、何かわからないといった顔をしている。
「我が王よ、まさか……」
そんな中、ジル・ドレファンは何かに思い当たったのか、目を見開いている。
「この世界にも六人しかその実力に並ぶものはいない。さらに頭脳も明晰だ」
王は口元を少し緩める。
「ついでにジョークも一流」
「失礼ながら王よ」
ジル・ドレファンが少し不満そうな表情を浮かべる。
「冒険者にこの国の命運を預けるつもりですか?」
「それ以外の適任がおると? 儂には思いつかん」
「ヴァルカン殿ですか」
第一騎士団長レグスが蓄えたひげを撫でながら、うなづく。
「確かにあの者ならば、適任でしょうな」
「あなたまで……」
ジルは小さくため息を吐いたものの、すぐに冷静な面持ちに戻る。
「しかし、彼が引き受けるとも限りませんが」
「奴は必ず引き受ける」
王は一切迷うことなく断言した。
「この国と、そこに暮らす民のためならばな」
「……我が王がそこまでおっしゃるのであれば、仕方ありませんね。私も彼を信じてみましょう」
「うむ。皆も異論はないか?」
王が円卓を見渡すと、大臣たちが次々と頷く。
「では、国王として命ずる」
王は玉座から立ち上がり、その場にいるものに向けて宣言する。
「S級冒険者ヴァルカンを我がもとに連れてくるのだ!」
「「ははっ!!」」
集まった者たちは一斉に頭を下げる。
「まずは冒険者ギルドに取り次がなければなりませんね。準備いたします」
宰相はそう言って足早に部屋を出ていき、ほかの大臣も順々に部屋を出ていった。
部屋には国王とレグスだけが残った。
「大変なことになりましたな、王よ」
レグスがそう声をかけると、国王ゼレウスは露骨に嫌そうな顔をした。
「……二人きりの時は敬語をやめろと言っているだろう。むず痒くて仕方ない」
「ハハッ、分かったよ。ゼレウス」
「それでいい、レグス」
厳かな表情をしていたゼレウスの顔が少し綻ぶ。レグスもまた、第一騎士団としての威厳ある目つきから、長年の友人に向ける顔つきへと戻っていた。
「しかし、いくらヴァルカン殿を信頼しているとはいえ、国事を任せるとはな。お前とは子供のころからの長い付き合いだ。無茶苦茶なことをするのは今まで何度も見てきたが、今回のは流石に驚いたぞ」
「ヴァルカン……エドワードはこの前の腐食蛇竜も倒したと聞く。これほど心強いものはいないだろう?」
「それもそうか」
「それに、あの子を預けるにもちょうど良い人選だ」
「あの子? ゼレウス、お前もしかして……」
レグスははっとした表情になってゼレウスを見る。
「そのまさかだ」
「あの方まで旅立たれてしまっては、王城に残る王族はお前だけになるんだぞ?」
「かわいい子には旅をさせろと言うだろう? 今はこれでいいんだ」
「お前のことだ、どうせ何か考えがあるんだろうが、怖くはないのか?」
レグスの声から先ほどまでの軽さが消える。
「自分の目の届かぬところに子供たちが旅立っていくことが」
「怖いさ。でもそれは子供を縛り付ける理由にはならない」
ゼレウスは迷わず答えた。だが、その手は少し震えていた。
「……」
「それにな、俺も無鉄砲に子供たちを送り出してるわけじゃない」
ゼレウスは窓の外に視線を移し、遠くを見つめる。
「優秀な補佐官、強力な騎士をそれぞれつけている。そしてあの子には、このミカドレア王国最強の男を付ける」
「そうか……だが、もしお前に何かあれば……」
レグスはその先を言いよどんだ。
王族がすべて王都を離れ、残された国王のにもしものことがあれば、ミカドレア王国は一気に混乱に陥る。
しかし、ゼレウスは不安を見せるどころか、不適な笑みを浮かべる。
「それはない」
国王ゼレウス・ミカドレアは己が最も信頼する男、レグスの瞳をまっすぐ見る。
「お前が私を守るからな」
レグスは一瞬意表を突かれたように眼を丸くするが、すぐに口元に力強い笑みを浮かべる。
「それもそうだな。任せておけ、この俺にな」
二人はしばらく顔を見合わせたあと、どちらからともなく吹き出した。
その笑い声はミカドレア王国の空まで響き渡った―。
読んでいただきありがとうございました! 第二章突入です。
基本的にこれからも毎日21:00更新で行きます。(第二章以降はあとがきに書くことはもうしません、多分)
投稿できない場合、もしくは二話連続更新になる場合、投稿時間がずれる場合などはなるべく前話のあとがきで告知します。
Xを見ていただくのが一番確実かもしれません。




