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僕の言葉がなぜか正解になる世界で ―無自覚の一言が、人も世界も動かしてしまう  作者: 三浦レン


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第3話 その一言で全部変わった

 逃げ場は、なかった。


「さっきの“守りの本質”について、もう少し教えてくれんか」


 村長の言葉に、周りの視線が一斉に集まる。

 さっきより人数が増えている気がするのは、たぶん気のせいじゃない。


「……そんな大したことじゃないですけど」


 そう前置きして、僕は少しだけ考える。


 でも、やっぱり難しいことは思いつかない。


「守るって、入られないことだと思うんです」


 自分でも、さっきとあまり変わらないことを言っている気がする。


「だから、無理に外に出るより、中を固めたほうがいいんじゃないかなって」


 言いながら、あれ、と思う。

 さっきと同じことを、言い直しているだけだ。


 でも――


「なるほど……!」


 村長が、目を見開いた。


「“守り”とは、外に向けたものではなく、内に築くもの……!」

「え?」

「つまり、我らが弱いのは“前へ出るから”ではなく、“中が甘いから”か!」


 違うと思う。

 いや、違わないのかもしれないけど、そこまでの話はしていない。


「いや、そこまでじゃなくて――」


「聞いたか、お前たち!」


 村長は僕の言葉を遮るように、周囲へ向き直った。


「我らは守りを履き違えていたのだ! ただ柵を置くだけでは足りん。中を固める。形を作るのだ!」


 ざわっと空気が動く。


「中を……固める?」

「荷車や木箱、全部使え! 通り道を絞れ! 広場も整理するぞ!」


 さっきの延長みたいな話になってきた。


 でも、誰も止めない。

 むしろ、どんどん納得していく。


「たしかに……さっきも、狭めたから押し返せた」

「広げるより、絞ったほうが強いのか」

「守りの形、か……!」


 僕は何もしていない。

 ただ、思ったことを言っただけだ。


 なのに、話がどんどん大きくなる。


「アオイ!」


 リナが隣で興奮している。


「やっぱりすごいよ! さっきよりレベル上がってる!」

「上がってない」

「上がってるって! なんかもう、戦い方そのものみたいな話になってるし!」

「そんなつもりはないんだけど」


 視線を横にやると、ミラが静かに頷いていた。


「いい流れね」

「いい流れなんですか、これ」

「ええ。言葉が“意味を持ち始めている”」


 さらっと怖いことを言う。


「さっきより、明らかに強いわ」

「強い?」

「同じことを言っているのに、受け取り方が変わっている」


 言われてみれば、そうかもしれない。


 さっきは“助言”だったのが、今は“考え方”になっている。


「それって、いいことなんですか」

「場合によるわね」


 ミラは視線を村人たちへ向けた。


「今は、いい方向に働いている」


 確かに、みんな動き出している。

 さっきの戦いの延長で、村の中を整え始めていた。


 荷車が動き、木箱が積まれ、通り道が整理されていく。

 ただの混乱だった空間が、少しずつ形になっていく。


「なんか……本当に変わってきてる」


 リナがぽつりと言った。


「さっきまでバラバラだったのに」

「うん」


 それは、たしかにそうだ。


 でも、それが僕の言葉のせいだとは、やっぱり思えない。


 ただ、きっかけになっただけだ。


 たぶん。


「アオイくん!」


 また呼ばれる。


 今度は若い男だ。さっき柵の前にいた一人。


「これ、どう思う?」


 指差された先には、荷車で作られた簡易の壁がある。

 さっきよりしっかりしているけど、隙間もある。


「どうって……」

「ここ、もう少し詰めたほうがいいか?」


 判断を求められている。


 でも、そんなのは――


「詰めすぎると、動きにくくなりますよ」


 思ったことを、そのまま言う。


「中で動けないと、逆に困ると思います」


「……なるほど」


 男は真剣に頷いた。


「“守りは固定じゃない”ってことか」

「え?」


「形を作るだけじゃなく、動ける余地を残す……か。深いな」


 まただ。


「深くないです」

「いや、深い」


 断言された。


 どうやら、もう止まらないらしい。


 男はそのまま周囲に声をかけ始めた。


「全部埋めるな! 動ける幅を残せ!」

「おう!」

「なるほど、ただ固めればいいわけじゃないのか」


 さっきよりも、動きが洗練されていく。

 試行錯誤というより、“考え方”が共有されている感じだ。


「……ねえ、アオイ」


 リナが少しだけ声を落とした。


「これさ、もう“偶然”じゃなくない?」

「え?」


「だって、さっきから全部うまくいってるじゃん」


 言われて、少し考える。


 確かに。

 言ったことが、そのまま“いい結果”になっている。


「でも、それはたまたまで――」


「たまたまが、何度も続くと思う?」


 言葉に詰まる。


 思わない。

 普通は。


「……わからない」


 正直に答えると、リナは少しだけ不安そうに笑った。


「私も」


 そのときだった。


 村の外、街道の方から、また人影が見えた。


「また来たのか!?」


 誰かが叫ぶ。


 全員の動きが止まる。


 でも、違った。

 さっきの野盗とは違う。


 もっと整った動き。

 鎧の光。

 旗。


「……兵士?」


 誰かが呟く。


 数は十人ほど。

 ゆっくりと、こちらに近づいてくる。


 村の入口で止まり、先頭の男が一歩前に出た。


「この村の代表はいるか」


 低い声。


 村長が前に出る。


「わしだが」

「我々は王都より派遣された調査隊だ」


 周囲がざわつく。


 王都。


 この辺りでは、めったに関わることのない場所だ。


「先ほど、この近辺で奇妙な報告があった」


 男の視線が、ゆっくりと村の中をなぞる。


「小規模な村が、野盗を戦術的に撃退した、と」


 その言い方に、少しだけ違和感があった。


「戦術的って……」

 誰かが小さく呟く。


「さらに」


 男は続ける。


「その中心に、“言葉で戦況を変えた人物”がいるとも聞いている」


 空気が、固まった。


 嫌な予感しかしない。


 ゆっくりと、全員の視線が動く。


 そして――


 僕のところで止まった。


「……彼か」


 男が言う。


 否定しようと口を開くより先に、村長が力強く頷いた。


「そうだ。このアオイくんが、我らを導いた!」


「違います」


 即答した。


 でも、誰も聞いていない。


 兵士の男は、まっすぐ僕を見る。


「話を聞かせてもらおう」


 その一言で、理解した。


 これは、さっきまでとは違う。


 村の中だけの話じゃない。


 僕の言葉が――


 外に出ている。

 村の中で収まっていたはずのものが、外に出ました。


 “言葉”は、思っているより遠くまで届くみたいです。

 次は、届いてしまった先の話になります。

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