第23話 誤訳を使う者たち
正しさが、ぶつかる。
その感覚は、まだ残っていた。
「……」
崩れかけた壁の前。
人はもう散り始めている。
さっきまでの緊張が、ゆっくりとほどけていく。
「……アオイ」
リナが隣で小さく言う。
「今の……すごかったね」
「……そうですか?」
あまり実感はない。
「だって」
少しだけ笑う。
「止めるのも正しかったし、動かすのも正しかったのにさ」
「……」
「ちゃんと“間に合うほう”選んだじゃん」
「……たまたまです」
本当に、そうだと思う。
「……たまたま、ね」
リナはそれ以上言わなかった。
でも、その目は少しだけ違っていた。
前よりも。
「……」
レオンが近づいてくる。
「今の判断、悪くない」
「……ありがとうございます」
「だが」
一拍置く。
「再現性は低い」
「……」
その通りだ。
「感覚でやっている限り、安定しない」
「……はい」
「だから」
少しだけ目を細める。
「使う側の問題になる」
「……使う側?」
「お前だけじゃない」
周囲を見る。
「もう“使っている”人間がいる」
「……」
その言葉で、さっきの集落の話がよぎる。
“足元を見ろ”。
誰かが使った。
「……」
カイルが静かに言う。
「観測は一致している」
「外部での再現例、複数確認」
「……」
「つまり」
続ける。
「現象は拡散段階に入っている」
「……」
止められない。
もう、完全に。
「……なら」
ミラが軽く言う。
「見に行けばいいじゃない」
「……どこをですか」
「“使ってる人”」
楽しそうに笑う。
「一番わかりやすいでしょ?」
「……」
確かに。
「……いるのか」
レオンが王都の男に聞く。
「いる」
即答だった。
「近い」
「……」
嫌な予感がする。
「……案内する」
男はそれだけ言って、歩き出した。
迷いがない。
「……行くぞ」
レオンが続く。
「……はい」
僕も、歩き出す。
さっきよりも、少しだけ重い足取りで。
村の外。
少し離れた林の中。
人の気配がある。
「……あそこだ」
男が指さす。
木々の隙間。
数人の人影。
「……」
近づく。
声が聞こえる。
「だから言っただろ、“止まるな”って」
「……でも」
「止まったら終わりだ」
言葉。
強い言い方。
「……」
少しだけ、違和感がある。
止まるな?
さっきとは逆だ。
「……」
さらに近づく。
見える。
中心にいるのは――
一人の男。
「……」
周囲を見ている。
そして。
「動け」
短く言う。
その一言で。
全員が動く。
「……」
迷いがない。
完全に揃っている。
「……」
カイルが小さく言う。
「……強い」
「……」
僕も同じことを思った。
あの人の言葉は――
強すぎる。
「……誰だ」
レオンが聞く。
「……知らない」
王都の男が答える。
「だが」
一拍置く。
「“使っている”」
「……」
そのときだった。
「……誰だ?」
向こうの男が気づく。
こちらを見る。
鋭い視線。
「……」
一瞬、空気が張り詰める。
「……何してる」
男が聞く。
警戒している。
「……見ているだけだ」
レオンが答える。
短く。
「……」
男は、少しだけ目を細めた。
「……そうか」
軽く言う。
でも――
その視線は、僕に向いている。
「……お前」
ゆっくりと近づいてくる。
「……」
何も言えない。
「……使えるな?」
「……え?」
「言葉」
はっきりと言う。
「通るだろ?」
「……」
否定できない。
でも。
「……少しだけです」
曖昧に答える。
「……」
男は、少しだけ笑った。
「……同じだな」
「……」
同じ?
「……俺もだ」
言う。
「最初は、偶然だった」
一歩近づく。
「でも」
目が鋭くなる。
「使えるとわかれば、使うだろ」
「……」
言葉が出ない。
「……」
男は振り返る。
「動け」
また言う。
全員が動く。
迷いなく。
「……」
それを見て、はっきりする。
この人は――
“使っている”。
意図的に。
「……」
背筋が少しだけ冷たくなる。
「……」
男が、またこちらを見る。
「……お前」
少しだけ笑う。
「どっちだ?」
「……何がですか」
「使う側か」
一拍置く。
「使われる側か」
「……」
答えられない。
まだ、決めていない。
「……」
でも。
その問いは――
避けられない。
ついに「使う側」が出てきました。
ここからは、同じ力を持つ者同士の視点になります。
使うのか、使われるのか。
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次話、この選択が一気に動きます。




