第13話 選ばれた理由がわからない
三日。
その言葉だけが、頭の中に残っていた。
「三日で結果を出せ」
あの男の声が、何度も繰り返される。
でも――
「……何をすればいいんですか」
思わず口に出ていた。
誰に向けたわけでもない。
ただ、出た。
「いい質問だな」
レオンがすぐに答える。
いつの間にか、すぐ近くにいた。
「で、答えは?」
「知らん」
「……ですよね」
少しだけ安心する。
レオンでもわからないなら、仕方ない。
「ただ」
レオンは続ける。
「やることは一つだ」
「何ですか」
「試す」
シンプルすぎる答えだった。
「……それだけですか」
「それだけだ」
迷いがない。
「お前の言葉が、どこまで通るか」
それを確かめる。
「三日もある」
レオンは周囲を見る。
「十分だ」
そう言い切る。
その自信が、少しだけ羨ましかった。
「……アオイ」
カイルが声をかけてくる。
「記録は継続する」
「はい……」
「今回の目的は明確だ」
「明確、ですか」
「再現性の確認」
やっぱりそこだ。
「条件の切り分けと、影響範囲の測定」
言葉が難しい。
「簡単に言うと?」
「どこまで通るか、どこで通らないか」
レオンと同じことを、別の言葉で言っている。
「……」
逃げ場がない。
やるしかない、という流れができている。
「ねえ」
リナが横から小さく言う。
「ほんとにやるの?」
「……やらないとダメっぽい」
「だよね……」
小さくため息をつく。
「でもさ」
リナが少しだけ顔を近づける。
「なんか、納得いかなくない?」
「……はい」
かなり。
「なんでアオイなのか、って」
それは――
一番わからないところだった。
「たまたま、ですよね」
自分で言う。
でも、その言葉に自信はない。
「……どうだろうな」
レオンが割り込む。
「少なくとも、“選ばれている”のは事実だ」
「選ばれてるって……」
その言い方は、あまり好きじゃない。
「お前が何もしていなくてもな」
そう付け加えられる。
余計に複雑だ。
「……ミラさんは、どう思いますか」
聞いてみる。
ミラは少しだけ考えた。
「選ばれている、というより」
ゆっくり言う。
「“集まっている”感じね」
「集まってる?」
「意味が」
さらっと言う。
「あなたの言葉に」
「……」
それは、よくわからない。
「だから、選ばれているように見えるだけ」
「……それって」
余計にわからなくなる。
「気にしなくていいわ」
ミラは軽く笑う。
「どうせ止まらないから」
その言い方が、少しだけ怖い。
「……じゃあ」
僕は深く息を吐く。
「やることは一つですね」
「何だ」
レオンが聞く。
「試す」
さっきと同じ言葉を返す。
レオンは少しだけ口元を緩めた。
「いいな」
短く言う。
「で、どう試す」
そこが問題だ。
「……」
考える。
でも、何も思いつかない。
そのときだった。
「ちょうどいい」
カイルが言う。
「何がですか」
「状況がある」
視線の先。
村の中央。
何人かが集まっている。
少しだけ、揉めているようだった。
「……あれ?」
リナも気づく。
「なんか、ケンカしてる?」
近づく。
「だから、こっちだって言ってるだろ!」
「いや、こっちのほうが安全だ!」
どうやら、道の選択で揉めているらしい。
森の中を通るか、遠回りするか。
どちらも一理ある。
だから、決まらない。
「……なるほど」
レオンが小さく言う。
「迷ってるな」
「はい」
条件が揃っている。
不確実。
判断が分かれる。
「やるか」
レオンが僕を見る。
「……はい」
少しだけ緊張する。
でも、やるしかない。
「……えっと」
言葉を探す。
でも、考えすぎると出てこない。
だから――
「どっちでもいいなら、戻れるほうがいいと思います」
思ったまま言う。
「危なかったら、すぐ戻れるので」
それだけ。
シンプルに。
「……」
一瞬、静かになる。
またダメか、と思った。
でも――
「……確かに」
「戻れるほうがいいか」
小さな声が広がる。
「じゃあ、森はやめるか」
「遠回りだな」
少しずつ、揃っていく。
「……」
通った。
今度は、ちゃんと。
「……いい」
カイルが小さく呟く。
「記録する」
いつもの流れ。
でも――
「……アオイ」
リナが小さく言う。
「今の、すごく自然だった」
「……そうですか?」
「うん」
さっきまでと違う。
無理に考えていない。
ただ、言っただけ。
「……なるほどな」
レオンが言う。
「お前は“考えすぎると外す”タイプだ」
「……それ、あまり嬉しくないです」
「事実だ」
否定できない。
「でも」
レオンは続ける。
「それなら、それでいい」
「え?」
「無理に合わせる必要はない」
少しだけ、意外だった。
「お前のやり方でやれ」
そう言われると、少しだけ楽になる。
「……はい」
小さく頷く。
でも、そのときだった。
「――やはり」
低い声が入る。
全員が振り向く。
さっきの男だ。
王都から来た。
「偶然ではないな」
その一言で、空気が変わる。
「……見てたんですか」
思わず聞く。
「当然だ」
短い答え。
「三日あると言ったが」
一歩前に出る。
「すでに十分な結果が出ている」
「……え?」
早すぎる。
まだ何もしていない。
「移送の準備を進める」
淡々と言う。
「本日中に」
「……ちょっと待ってください」
思わず声が出る。
「三日って言いましたよね」
「言った」
「じゃあ――」
「必要がなくなった」
その一言で、全部がひっくり返る。
「……」
言葉が出ない。
まだ何も決めていないのに。
まだ何もわかっていないのに。
「……アオイ」
リナが不安そうに言う。
「これ、まずくない?」
「……まずいですね」
かなり。
レオンが、静かに前に出る。
「待て」
短く言う。
その一言で、空気が止まる。
「三日だと言ったはずだ」
男を見る。
「それを覆す理由は」
「十分なデータが取れた」
「足りていない」
即答だった。
「……」
二人の間に、緊張が走る。
初めての“正面の対立”。
「……」
僕は、その間に立たされている。
どちらにも動けない。
でも――
どちらかが、決める。
その流れは、もう止まらない。
「三日」のはずが、もう終わりにされそうです。
ここで止まるのか、それとも――。
初めての“正面の対立”が始まります。
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次話は、この対立が一気に動きます。




