第12話 王都からの命令
対応が来る。
その言葉が、思ったより早く現実になった。
翌朝だった。
まだ日が完全に昇りきる前、村の入口に人影が現れた。
「……来たな」
カイルが小さく言う。
その声で、嫌な予感がはっきりと形になる。
見張り台の上から声が落ちてきた。
「昨日の連中だ! また来たぞ!」
ざわっと空気が揺れる。
でも、今回は違う。
誰も慌てない。
昨日の“準備”が、村に残っている。
「位置につけ」
レオンが短く言う。
それだけで、動きが揃う。
荷車、木箱、通路の調整。
自然に体が動く。
「……」
僕は、その流れの外に立っていた。
やろうと思えば動ける。
でも、今回は違う。
“やらなくても回る”状況だ。
それが少しだけ、安心でもあり、少しだけ怖かった。
「来るぞ」
誰かが言う。
入口の向こうから、整った足音が近づいてくる。
昨日と同じ。
でも、明らかに違う。
数が増えている。
十人。
いや、もっといる。
その中で、ひときわ目立つ人物が前に出た。
長い外套。
装飾の入った鎧。
そして――
無駄のない立ち方。
「この村の代表はいるか」
低く、通る声。
昨日の兵士とは違う。
“上”だ。
「わしだ」
村長が前に出る。
「報告を受けた」
男はそれだけ言った。
余計な言葉はない。
「言葉によって状況を制御する者がいる、と」
空気が一段階、重くなる。
誰もが、その意味を理解している。
「……それは」
村長が言いかける。
でも、男は視線を動かした。
ゆっくりと。
迷いなく。
そして――
僕のところで止まる。
「君か」
確信している。
確認ではない。
断定だ。
「……違います」
とりあえず言う。
「違うのか」
「違います」
でも、説得力がない。
周囲の視線が、それを裏切る。
「なるほど」
男は小さく頷いた。
「自覚がない、という報告は正しかったか」
報告されている。
全部。
「……」
言葉が出ない。
「名は」
「アオイです」
「姓は」
「ありません」
昨日と同じやり取り。
でも、重みが違う。
「アオイ」
名前を呼ばれる。
それだけで、逃げ場がなくなる。
「命令を伝える」
短い言葉。
でも、それで十分だった。
「本日より、君を王都へ移送する」
静かに、はっきりと。
断定される。
「……嫌です」
反射的に言う。
考えるより先に、口が動いた。
でも――
「却下する」
即答だった。
迷いも、間もない。
「……理由は」
それでも聞く。
聞かないと、何もできない気がした。
「君はすでに、現象の中心にいる」
男は淡々と言う。
「それを放置することはできない」
「でも、僕は何も――」
「関係ない」
遮られる。
「結果が出ている」
それだけで、十分らしい。
「……」
何も言えない。
それは、事実だからだ。
「……待ってください!」
リナが前に出る。
「本人が嫌だって言ってるんですけど!」
「感情は考慮しない」
冷たい答え。
「これは管理の問題だ」
「管理って……!」
「力は、制御されるべきだ」
男は一歩も引かない。
その姿勢が、余計に現実を突きつける。
「……アオイ」
レオンが静かに言う。
振り向く。
「選べ」
「……」
「ここで抵抗するか、従うか」
またそれだ。
二択。
でも、今回は少し違う。
“選ばされている”感じが強い。
「……」
考える。
でも、答えは出ない。
逃げたい。
でも、逃げられない。
「……」
そのときだった。
「一つ、確認を」
カイルが口を開いた。
全員の視線がそちらに向く。
「なんだ」
男が答える。
「この移送の目的は」
「検証と管理」
即答。
「ならば」
カイルは一歩前に出る。
「現地での追加観察を提案する」
「理由は」
「条件が揃っている」
カイルは周囲を見る。
「言葉が通る環境が、すでに形成されている」
確かに。
村は、もう“準備された状態”だ。
「王都では、再現に時間がかかる」
理屈は通っている。
男は少しだけ考えた。
「……どれくらいだ」
「三日」
短い。
でも、それが逆に現実的だった。
「三日で、追加データを取る」
静かに言う。
「その後、移送する」
条件付きだ。
でも――
「……いいだろう」
男が頷いた。
あっさりと。
「三日だ」
その一言で、流れが変わる。
「その間に結果を出せ」
僕を見る。
「出なければ、即時移送する」
選択肢は、ほぼない。
でも――
“時間”だけはできた。
「……」
少しだけ、息ができる。
完全な解決じゃない。
でも、止まってはいない。
「三日、か」
レオンが小さく呟く。
「十分だな」
何かを決めたような声だった。
ミラは、少しだけ楽しそうに笑っている。
「面白くなってきたわね」
僕だけが、少し遅れて理解する。
三日。
その間に、何かを“証明”しないといけない。
でも、何をどうすればいいのか。
まだ、何もわかっていない。
逃げられない状況になりました。
でも、少しだけ時間ができました。
この三日で何が起きるのか、何を選ぶのか。
ここから一気に物語が動きます。
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次話は、この「三日間」の始まりです。




