イベント前の日常
俺とメティスとミカさんがクランハウスに住み始めてから約1ヶ月ちょっとが過ぎた。
今日は8月13日(木曜日)だ。世間ではお盆休みが今日から始まる。そしてAWFでは大型イベントが始まる予定である。
イベント名は弾丸魚フェスティバル!なんか弾丸魚っていう魚を釣って、それを生産職が加工して弾丸を作るみたいなイベントだ。弾丸を作る時点で嫌な予感しかしないが⋯。
それはそうと、朝起きていつものルーティンをこなしてAWFにログインする前に、ナビと少し話す。
『あの戦闘ではなぜ、あの様な行動をとったのですか?』とか、『あの時はこういう動きをすれば良かったのではないですか?』とか色々質問をしてくる。最近は質問の数が少し減ったけど。
俺も協力すると言ったから、ナビの質問に対して真摯に答えてる。ナビとの挨拶が終わればAWFにログインする。
俺はクランハウスの自分の部屋で目を覚ます。1ヶ月前までは、俺の部屋にはほとんど何もなかったが、今では様代わりをしている。
まず壁には剣や槍等を飾る武器掛けが付けられている。もちろんまだ何も飾ってないが。
あとは木製の陳列台を部屋の中においてある。その上に柔らかい赤い布を敷いて、高級感を出している。布の上に指輪や装飾品を置くつもりだ。まだ二重呪文の指輪しか置けてないが、いつか全て埋めるつもりだ。
「さて、二人は⋯⋯」
メティスはログインしているけど、ミカさんはまだログインしていない。
俺がログインした時点でメティスの画面には通知が来ているだろうが、一応チャット送っておこう。
「おいっすー」
『ハローハローなのよ!』
いつもの元気な挨拶だ。メティスとはお昼や夕飯をよく一緒に食べに行っている。というか、勝手についてくる。まぁメティスの病気のこともあるし、ほっとけないってのがあるからいいのだが。
俺はクランハウスの二階から一階の大広間に行って、スタミナ補給という名の食事をする。俺の持っている料理のほとんどはクランの共有倉庫に入れてある。誰でもいつでも食べれるようにだ。
大広間にいるのは今のところ俺一人だが、賑やかになったもんだ。この広い部屋で食事をしている俺の近くでは、シルクちゃんの眷属とアイビーちゃんの眷属がのんびりしていたり、飛び回っていたりする。
恐らくミカさんの護衛なのだろう。ただミカさんは今部屋で寝ているからここで待機したりしているのだ。
食事をしていると――
「ハローハローなのよ!」
「おう、メティス!」
「今日から大型イベントなのよ!」
「ようやくって感じだな⋯」
俺はそう言ってゆっくりと立ち上がり、縁側に行って魔界樹を見上げる。そこには最初見た時とは大分違った魔界樹が聳え立っていた。
魔界樹の大きな一本の枝に、巨大な蜂の巣がぶら下がっているのが見える。アイビーちゃんに巣を作っていいと伝えたのだが、どうやら魔界樹の枝に作ったようだ。
竜の森にあった蜂の巣は地面に作られていたのに、アイビーちゃんはこういう形にしたみたいだ。
そして魔界樹の葉の所々に白い模様が見えるが、あれシルクちゃん達の蜘蛛の糸なのだとか。魔界樹とクランハウスの間に、大きな蜘蛛の巣が張っていることで、シルクちゃん達は魔界樹とクランハウスを簡単に行き来できるみたいだ。
シルクちゃん達は蜘蛛の巣に住んでいるわけではなく、主に魔界樹の枝に住んでいるらしい。蜘蛛の巣はクランハウスに行く為のショートカットだそうだ。
魔界樹を見てると、魔界樹よりも先の空から大量の何かがこちらに向かって飛んできている。また数が増えたかな?100匹以上いるなー。
信じられるかい?あれ全てアイビーちゃんの眷属だよ。しかも蜂眷属に抱きかかえられている蜘蛛眷属。その蜘蛛眷属の腹部から糸が垂れ下がり、その先に蜘蛛の糸で出来たボールみたいなのがくっついている。
そしてクランハウスの縁側に、蜘蛛の糸ボールが大量に置かれていく。クランハウスに滞在している蜘蛛眷属が糸ボールに近付き、蜘蛛糸を解いていく。これ俺達からすれば何をしているか分からないが、ミカさんの画面だとキラーアントの素材が大量に出てくるらしい。
「⋯⋯なぁメティス。やっぱこれチートすぎない?」
「そんなの今更なのよ。いいじゃない、この子達のおかげで、イベント前までにキラーアント十万体を倒せたのよ」
「まぁそれはそうなんだけどな」
そうなんだよ。十万匹のキラーアント討伐、期限は二ヶ月のところ、俺達三人だけで一ヶ月とちょっとで終わらした。主にミカさんのおかげだが。
最初は俺一人で討伐数をコツコツ稼いでいたのだが、半月ぐらいで五千匹狩れたぐらいだ。とても俺だけじゃ間に合わない。
ミカさんのシルクちゃんとアイビーちゃん、それと眷属のほとんどが巣作りで忙しかったからな。
「半月経っても討伐数がまだ五千匹は、流石にメティスも焦ってたよな」
「そ、そんな事ないのよ!」
ただ、半月も経てば巣作りは完成した。そしてそこからは、キラーアント討伐が凄まじく加速した。
まず巣作りをしていた蜂と蜘蛛の眷属を大量にキラーアントの巣に送り込んでいた。キラーアントの巣も大きいから、巣の中で蜂も問題なく飛び回っていたな。
そしてミカさんが、蜂に抱きかかえられるメティスを見て、「それいいですね!」ってなって蜂に抱えられる蜘蛛が完成した。
そして俺が何気ない一言、「キラーアントを大量に倒すことは出来るかもしれないが、ドロップ品が勿体ないなー」と。
そしたら蜘蛛眷属がドロップ品を一塊にして、蜘蛛糸ボールで回収してくる様になった。ドロップ品の光の玉を動かそうなんて考えもしなかったから、まさか光の玉を運搬出来るとは思わなかった。
ただ敵を倒した際に出るドロップ品の光の玉は、俺達三人それぞれに別々のものが現れる。ドロップ品の取り合いを防ぐ為の措置である。なので回収出来るドロップ品はミカさんの分だけである。
そして30分経てばドロップ品は消えるので、ミカさんがログインしてこなかったら、回収してきたドロップ品は消えちゃうとのこと。
とはいえ、ミカさんがログインしている間は自動討伐&自動回収システムが機能するんだから、やっぱチートだよな⋯。
そんな感じで俺達が寝ている時間も常にキラーアントを狩り続けているから、討伐数が凄い勢いであがり、一ヶ月ちょっとで十万匹を達成した。おかげで大型イベントに心置きなく参加できる。
ちなみに、ミカさんのシルクちゃんとアイビーちゃんは、キラーアントとの戦いで種族進化したとか言ってたな。
シルクちゃんはテイムした時は、フォレストクイーンスパイダーだったのが、希少進化?という普通とは少し違う進化をして、スカウトクイーンスパイダー、そして今は三進化目のハイドクイーンスパイダーとの事だ。
アイビーちゃんはテイムした時から二進化目の状態で、キラークイーンビーだったのが、希少進化してアサルトクイーンビーに進化したらしい。
シルクちゃんとアイビーちゃんの能力もかなり上がって、眷属がめっちゃ強くなってたな。
「そういえば大型イベントは13時からだったな」
「そうなのよ!お昼をいっぱい食べてイベントに挑めるのよ!」
「眠気は大丈夫なのか?」
「そこは調節したから大丈夫なのよ」
昨日までログインしてなかったからな。そんな話をしていると俺の画面に通知が来る。
「おっ、ミカさんがログインしたみたいだ。もうすぐここにくるな」
俺がそう言うと、すぐに二階から降りてきたミカさんが姿を現す。
「みなさん!今日から大型イベントですよ!」
「はしゃいじゃって蟻ちゃんは相当楽しみなのね?」
「そういうメティスも、はしゃいでたぞ?ミカさんと同じ事を言っている」
「ちょっ!?なんでそんな事をバラすのよ!」
「いや今更クール系でいっても似合わないぞ?」
「メティスちゃんも楽しみだったんですね!」
「はぁー!?そ、そんなの⋯⋯当たり前じゃないのよ。だって⋯⋯この三人で初めての大型イベントなのよ?」
俺とミカさんはその言葉を聞いて笑い出す。
「な、なんなのよ!何かおかしいことでも言ったの?」
「いいや、言ってないぞ?むしろその通りだ!」
「ですね!私も昨日からずっとワクワクしてましたもん!」
「俺もだな。この三人で挑む初めてのイベントを存分に楽しもうな?」
「ふ、ふん!そんなの当たり前なのよ!なんならランキング上位を目指してやるのよ!」
「いやランキング上位って。俺達三人だぞ?」
「クランのランキングで上位になるのは難しいかもしれないけど、個人やパーティならまだ何とかなるかもしれないのよ?」
「どうせなら狙ってみたいですね!」
「無理⋯⋯いやどうせならやってみるか。まぁ最優先はみんなで楽しむって事だけどな」
「そんなの当然なのよ!」
「はい!」
本当はランキング上位なんて無理だろって思ったが、もしランキング上位でしか手に入らない物があったらと考えた時、あの時本気でやっとけばよかったと後悔するのはいやだからな。なら最初から全力でやって楽しんでみようかな。
そんな他愛もない話をしながらお昼まで過ごす。こういう時間もいいな。
最近はクランハウスの事で蒐集活動が出来なかったが、イベント後にまたレア装備を集めに、旅に出るのもありだ。
とりあえず近場のダンジョンやボスから集めていくか。さて、今は先の事より目の前のことだ!
さぁ!全力でイベントを楽しむぞ!
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m




