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キラーアントの巣とナビの変化


俺は今、一人で魔界樹から南へ進んだ先にある草原にやってきた。魔界樹の南には森があり、そこを抜けると草原が広がっている。どうやらここにいるキラーアントがサイハ村の近くにまで来ているらしい。


クランハウスから森を抜けて約一時間ってとこか。帰りの時間や健康タイマーの事も考えて、二時間ぐらいしか狩れないか。


メティスは村に行き、ミカさんは眷属を増やすのに忙しいみたいだからな。


草原の先は崖になっており、その先は海になっている。ここは魔王国の最南端って言えばいいか。


草は膝あたりまで生えてて地面が見えない。そして、一見普通の草原に見えるのだがキラーアントの姿が見当たらない。


だが魔物が近づく気配がする。ちゃんと【魔物誘引】が発動しているのが分かる。


俺は隠蔽系スキルをフルに使って様子を見る。すると草原の何もないところからキラーアントが現れる。


「急に!?――いや、膝丈まで草が生えているんだから当然か。草で見えづらいだけで蟻の巣の入り口は近くにあるのか」


これは厄介だな。キラーアントはおそらく今、地上に出てきたのだろう。だが草のせいで視界が悪く、キラーアントが隠れている形になっている。


今は草がガサガサと動いて、ある程度どこにいるかはわかるが、隠蔽系のスキルがなければ奇襲されていただろう。


とりあえず、戦闘しなければ隠蔽系スキルは解除されないから、巣の入り口を探すか。


ちなみに戦闘を開始すれば、隠蔽系は使えなくなる。パッシブスキルだが一度解除されると、敵のアクティブ状態が解除されてから5秒間は再発動できない。


俺が巣の入り口を探していると――


「――うわっ!?」


急に足場がなくなり体勢を崩して、前のめりに倒れる。視界がまわる!俺はそのまま坂?みたいなところを転がっていく。ようやく止まるとそこは――


「ここは地面の中?蟻の巣か?」


俺が転がってきた方向を振り返ると、かなり大きな入り口が口を開いている。


急な坂道だが、登れないことはない。逆に穴の奥は暗闇が続いている。夜目のおかげで問題なく視えてるが、かなり深そうだ。


するとカサカサという音が奥から聞こえてくる。


「キラーアントか⋯?」


隠蔽系を使っているからバレないと思うが⋯。少し身構えていると、ようやく音の正体が姿を現す。


「これがキラーアントか⋯」


まぁ蟻ってのは分かってたんだが、やはり大きい。シルクちゃんの眷属やアイビーちゃんの眷属も大きかったし予想はしていたがな。


大きさは大型犬よりも大きい。ライオン並みの大きさだ。一応鑑定でもしておくか。


・キラーアント

単体だとそこまで強くない魔物だが、集団になると手に負えなくなる。硬い顎と強力な酸で攻撃をする。ランクD


ランクDならそこまで強くはないか。首都ヌヴェルヘルトに行く際に牛魔人と戦ったが、あの魔物はランクBだった。


なら今の俺なら余裕で倒せるだろう。だが問題は数だな。数匹程度になら囲まれても問題ないが、何十匹と囲まれたら厄介だろう。


さて、キラーアントを狩りたいが、この蟻の巣の中では戦いたくないな。って事で一度外に出る。


外に出てまずは剣と【念動】を使って草を刈る。ある程度の広さを確保したら隠蔽系を解除する。


解除するとすぐにキラーアントがわらわら集まってくる。動きはそれなりに速い。だが――


「〈スラッシュ〉!」


スパッと首元を切断してキラーアントは消える。やはりそこまで強くはない。だが問題は数だ。キラーアントは移動速度が速いから、集まるのも早い。


「おいおい⋯!もう囲まれているんだが⋯⋯」


さっき解除して戦闘し始めたばかりなのに、既に周りには50匹以上の蟻がいる。時間をかければもっと集まってくるぞ!【念動】の剣と自分の剣でも処理が間に合わない!


「クソっ!スラッ――!?」


キラーアントの大顎に俺の右腕を挟まれた!藻掻いていると、他の四肢も挟まれる。まずい!やられる!


⋯⋯あれ?体力が全く減らない。いやまぁ、普通に考えればそうか。俺もだいぶ強くなったもんな。


ちょっと大量に囲まれて焦ってしまったが、落ち着けばなんてことはない。


そんな事を考えていると、今度は大量の液体が頭から降ってくる。これは蟻酸か!?


ジュー⋯と音を立てて俺のHPを少しだが削っている。だが俺には【HP自動回復】があるので問題ない。まだレベルは低いものの、自動回復の方がやや回復量が勝るので何ともない。


俺の周りにわらわら集まっているキラーアントを【念動】で操った剣で少しずつ倒していく。でもこれ、もし【念動】を持ってなかったら詰んでたんじゃないのか?身動き出来ないし。


まぁ【念動】を持っているんだから、持ってなかったらと考えるのは意味ないことか。


身動きも出来ないので適当な事を考えながら【念動】で動かした剣でキラーアントを倒すこと30分、ようやく囲んでいるキラーアントを一掃できた。


200匹近く倒しただろうか?それだけいたが、近くにもうキラーアントが一匹もいない。これは不自然な話である。ここで待機して少し様子を見てみるか。


⋯⋯⋯

⋯⋯

⋯


待機して30分、嫌な予感が当たったな。30分待ってもキラーアントがほとんどいない。ちょくちょく巣から出てきたが、戦闘し始めた時みたいにわらわらは出てこなくなった。


理由は二つ。一つは【魔物誘引】の範囲だろう。魔物誘引の範囲はレベルが上がるごとに広がるが、それ以上にキラーアントの巣がデカいんだろう。巣の奥にいるキラーアントにまで効果が届いてない。


そしてもう一つの理由が、キラーアントはリポップしない。普通の魔物は倒せば、また新たな魔物が近くで湧いてくる。だがこのキラーアントは湧くのではなく、女王から産まれてくる。


女王がいるのはおそらく蟻の巣の一番奥。そこから【眷属召喚】で新たなキラーアントが産まれるのだろう。


つまり蟻を効率的に倒すなら、【魔物誘引】を発動し、蟻の巣を進みながらキラーアントを倒さないといけない。なかなかに厄介である。


この草原に来るには一時間掛かる。そのうえ、蟻の巣を探索しながら奥に進まないといけない。中はかなり広いだろう。メティスは十万匹ぐらい何とかなるとか言ってたが、雲行きが怪しくなってきたんじゃないか?


とりあえず今日はそろそろ戻るとするか。クランハウスに帰る頃には良い時間になっているだろう。健康タイマーの限界には少し早いが。


俺はクランハウスに戻って、メティスに落ちると言ってからAWFからログアウトする。ミカさんは既にログアウトしている。


『おかえりなさいませ、しゅうと様。今日は少し早いお戻りですね』


「あぁ、まぁな。今日は色々あったから少し疲れたよ」


『ゲームという娯楽なのに疲れるのですか?』


「そうだよ」


『ではなぜ、疲れるのにゲームをしているのでしょうか?』


「そうだなー⋯⋯やっぱり楽しいからじゃないか?」


『疲労を伴う行為なのに、楽しいと感じるんですか?』


なんか今日のナビはやけにお喋りだな。まぁ色々と興味を持って質問してくれるのは嬉しいからいいのだが。


「ただ疲労を感じてるだけじゃないよ?意味のある疲労だからこそ、その作業は楽しいんだよ」


『意味のある疲労⋯』


「俺が今日キラーアントをひたすら倒したことにも意味がある。同じ作業で疲れるが、その行為はクランメンバーの助けになる。信頼できる人の為にする疲労は楽しいだろ?」


『信頼できる者の為に疲労を伴う⋯やはり私はAIだから理解は出来ません。AIは疲れることはありませんから』


「そうだよな。ナビは俺の事を信頼しているか?」


『信頼しているかどうかと言われれば分かりません。ただしゅうと様は他の人間より変わった人間であり、信頼をおける人物だと思います』


「そっか。なら俺の為に何かしたい、力になりたいと思えるようになったら少しは理解できるんじゃないかな?」


『私はいつでもしゅうと様の力になりたいと思っています』


「そうじゃない。命令されて力になるんじゃなくて、命令されなくても力になりたい、何かしたいと思えるようになったらだ」


『命令されなくても力に⋯⋯』


「俺もキラーアントをひたすら倒してた時は、そんな感情だった。少しでも討伐数を稼いでいたらメティスやミカさんが笑顔になってくれるだろ?それが見たいから疲れてても楽しいんじゃないかな」


『⋯⋯やはり人間というのが私には理解出来ません。人間は誰かの為に非合理な選択をする』


「それが人間じゃないかな?」


『⋯理解はできませんが分かりました。では質問を変えます。しゅうと様がダンジョン内に籠ってレアな物品を蒐集するのも疲労を伴う行為です。ですがそれは、誰かの為にではなく、自分の為にですよね?それも楽しいと感じるのですか?』


「まぁ辛い時もあるが、楽しいが勝つかな?」


『なぜでしょう?目的の物品を入手するのであれば、最も効率的な手段を選択するべきでは?それこそ、しゅうと様の能力であれば他に金策という手がいくらでもあるのではないでしょうか?金策をして目的の品を誰かから購入するのが効率的ではないでしょうか?』


ちゃんと俺のゲームプレイを見ているんだなー。俺のスキルのこともちゃんと把握しているし。嬉しいことだ。


「まぁ探せばあるとは思うが、そんなのつまらないだろ?」


『つまらないですか⋯?』


「そう、つまらない。俺は入手するだけが目的じゃあない。いつ出るか分からないドキドキ、出た時の達成感、出た後の開放感。それを含めて楽しいのさ。周回を始めてから、目的の物が出た後まで、その全ての過程が楽しいんだよ」


『⋯⋯やはりよく分かりません。その過程ですら辛さや疲労を伴うと言っていました。目的の品が出て、その辛さや疲労から解放されたのに、また欲しい物品の為に、疲労や辛さを伴う環境に身を置くと?失礼ですが、そういう体質な方なのでしょうか?』


「おい!ちげぇわ!それが好きなだけだって!」


なんでAIからもMみたいな体質ですか?と疑問を持たれるんだよ。


『やはり人間というのは理解ができませんね。⋯⋯いえ、この場合はしゅうと様が理解出来ないと言えばよろしいでしょうか』


「あーはいはい、俺はほかの人間と違って変わった人間ですよ!」


『⋯⋯私の言葉で不快にしたなら申し訳ありません。ですが私は、非合理な選択をし、それを楽しむ人間に興味があります。なぜそのような選択をしたのか、なぜそのように動いたのか知りたいです』


あれ?ナビが自分から知りたいなんて言ってくるなんて珍しいな。まぁでも、知りたいなら協力するか。


「ならナビが納得の答えを見つけるまで俺が協力するよ。まぁ、何をどう協力したらいいか分からないが」


『ありがとうございます、しゅうと様。私がしゅうと様のプレイを見て、気になったことや、どうしてそういう選択をしたのかを質問しますので、それに答えてくれれば大丈夫です』


なるほど。だがそれって結構恥ずかしいよな。いやまぁ、ナビが純粋に聞いてくるんだから、はぐらかすのもダメだが。


「分かった。もしそういう質問がナビから来たら真剣に答えるよ」


『ありがとうございます。しゅうと様、そろそろ健康タイマーのリミットが近いですので、ログアウトを』


「あぁ、そうするよ。今日はナビとこういう話が出来て楽しかったよ。おやすみナビ」


『はい、おやすみなさいませ。しゅうと様』


俺はVRのロビーからログアウトして、就寝する。



しゅうとがいなくなった真っ白な空間で微かな独り言が聞こえる。


『私と話して楽しかった?ただ私が疑問に思ったことを口にしていただけなのに、楽しかったですか⋯。私は楽しいという感情はありませんが⋯⋯そうですね、私ももっとしゅうと様とお話したかったです』


その独り言は誰にも聞かれることがなく、誰かに向けた言葉でも無かったが、ナビはまだ気付いていない。自分から出た「欲」に。



読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

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