47. 事情聴取……
誘拐事件の翌日、トーアル村にやって来たのは第二騎士団団長のサパス・グスカーベルさんだった。
グスカーベルさんが部下を一人だけ伴っての来訪の目的は、もちろん事情聴取のため。
部下がゴウドさんたちへ話を聞いている間、俺とルビーは別室で直々にグスカーベルさんから聴取を受けていた。
「……そうだったのか。怖い思いをしたのだな」
騎士団長自らが誘拐事件の事情聴取をしているのは、ルビーの件については表沙汰にしないでほしいという村からの要望を受けてのこと。
武闘大会のようなイベントはいいが、こういった事件が起こると、民衆の関心を惹こうと過激に書き立てる瓦版もある。
被害者であるルビーのことまで面白おかしく扱われないように、世間の好奇の目から彼女を守るために、ゴウドさんたちが手を回したのだ。
「それで、君がモホー殿の協力を得て、ルビー嬢を救出したというわけだ」
「そうです。モホーさんの召喚獣と、眷属もお借りしました」
犯人たちが、取り調べでどこまで話をしているのかわからない。
やつらを馬車に詰め込んだのはスケルトンたちだから、念のため、アンデッドもモホーの眷属ということでルビーとは口裏を合わせてある。
あと、ゴウドさん、ドレファスさん、ジェイコブさんだけには、モホーの正体が俺であることも昨夜話した。
正体を隠した理由としては、修行中にこのような大会へ参加したことが師匠へバレたら困ること。
村人たちへ、トーラがメガタイガーだと知られないようにするため。
国から目を付けられて、宮廷へ勧誘されないようにするため……など、つらつらと『ウソ』に『ホント』を織り交ぜて言い訳を並べておいた。
ゴウドさんとジェイコブさんからは「もう君に関しては、何を聞いても驚かない」と真顔で言われ、ドレファスさんからは「私は、正体に気付いていましたよ」と驚きの発言が飛び出したのだった。
「ということは、王都で話題になっている『オバーケ』に登場するアンデッドたちも、すべて……」
「はい。モホーさんが協力してくださっています」
「ははは……それは、すごいな」
グスカーベルさんが『オバーケ』のことを知っていたのは意外だけど、それだけ口コミで広がっているってことだから、有り難いね。
「このことは、どうぞ内密に願います」
「もちろん、心得ている。商売上の秘密を明かすことは、絶対にしない」
ルビーのお願いにグスカーベルさんが頷いたところで、事情聴取は終わった。
二人で退室しようとしたら、「カズキには、別件で話がある」と呼び止められる。
不安げな表情を浮かべたルビーへ「大丈夫だ」と声をかけ、改めて向き直った。
グスカーベルさんにはいろいろと見透かされそうだから、ちょっと緊張するな……
「実は、君について少し調べさせてもらった」
「……えっ?」
「入国時の記録を確認したのだが……結論から言うと、君に該当する人物が見当たらなかった」
前置きもなく、いきなりストレートに告げられる。
「旅人で身分証明書のない人物は、存外少ない。入国税が、かなり高額だからな。特に君は、我が国では目立つ黒髪・黒目だから、入国記録にはその特徴が必ず明記されるはずなのだ」
「…………」
記録がないのは、当然だ。
だって、俺は入国手続きを一切やっていないのだから。
書類を確認しながら、グスカーベルさんは淡々と事実を述べていく。
「記録がない理由として考えられるのは、入国時にはきちんと身分証明書を提示したが、ここでは何らかの理由でその身分を隠しているから。あるいは……」
書類をパタンと閉じたグスカーベルさんは、一旦言葉を区切ると俺へ視線を向ける。
「……正規の入国手続きを踏んでいないから。つまり、不法入国ということだ」
(!?)
⦅……ふむ⦆
グスカーベルさんがおもむろに取り出したのは、布にくるまれた物体――水晶玉だった。
「私は騎士団長として、この国の治安を守る使命がある。だから、どんな些細な不安要素も解消しておきたいのだよ」
目の前に置かれたということは、鑑定をさせろということだよな。
どうする?
ここで拒否したら、不審者として王都まで連行されるのか?
「君の正体を教えてほしい。ただ、これは強制ではなく任意だ。この村は、もう国の直轄領ではないからな……」
そうだった。
トーアル村は『トーアル村村長の領地』だから、騎士団の捜査権は及ばない。
今回の乗っ取り・誘拐事件については、王命に背いた貴族の犯罪ということで、村から国へ代理処罰を要請した形になっている。
俺のことも、ゴウドさんたちが「怪しい人物だから、調査を!」と依頼すれば可能だが、これはグスカーベルさんの独断専行っぽい。
「カズキ、どうだろうか?」
「……わかりました。鑑定に応じます」
⦅よいのか? こやつに『召喚勇者』だと知られてしまうぞ⦆
遅かれ早かれ、グスカーベルさんには見破られていたと思うぞ。
それに、いつまでも疑いをかけられているのも嫌だしな。
⦅おぬしが決めたことならば、儂は反対せぬ⦆
「村長のゴウドに立会人を務めてもらおうと思うが、構わないか?」
「はい。問題ありません」
ゴウドさんはこの村の村長だから、この機会に彼にも俺の正体を明かすことを決めた。
この決断が、果たして吉と出るか凶と出るか……




