43. 大事件発生! ――
何だかんだあったけど、ダンジョン風お化け洞窟探検『オバーケ』は無事開業にこぎ着けた。
ここは、あくまでもお子様向けの施設であり、基本的に登場する眷属も最弱なものばかりだ。
おもに、子供連れの観光客に人気のスポットとなりつつあった。
王都の先生たちの間で口コミで話が広がったのか、団体客の受け入れについての問い合わせも増えていて、嬉しい悲鳴をあげている。
ただ、受け入れられる人数と日にちに限りがあり、すべての需要にすぐに応えることができないのが悩ましいところ。
そして、ルビーとドレファスさんからは、こんな相談も受けていた。
◇
「『オバーケ』を、冒険者ギルドが使用したい……ですか」
「『初心者向けの、対アンデッド用の訓練に使えないか?』と問い合わせをいただきまして、どうでしょうか?」
「ギルド職員の方が親子で体験をされて、これは面白い!とおっしゃってくださったの」
≪……父上、私は構わぬぞ。相手が大人ならば、多少強い眷属を召喚すればよいのであろう?≫
もう正体を知られているルビーとドレファスさんの前では、アンディも平気で顔を出してくる。
でもな、アンディ。
トーラだけでなく、なんで君までルビーの膝の上に座っているのかな?
一人と一匹が重なって、視覚的におかしなことになっているし……
ルビーの膝の定員は一人(一匹)だけなんだから、こういうときは、どちらかは別の椅子に座ろうな。
まあ、ルビーも慣れたものだけどね。
「そうだけど……これは遊びじゃないから、アンディの眷属たちが討伐されたり浄化されるかもしれないぞ」
≪何体でも召喚できるから、まったく問題はない≫
えっ、問題ないの?
アンディがそう言うなら、いいけど。
「ここで冒険者ギルドに恩を売っておけば、支部創設の足掛かりになるかもしれませんし……」
そうなんだよね。
俺が目標としている『トーアル村に、冒険者ギルドを誘致する』こと。
この村の有効性が示せれば、実現に向けてぐっと近づくもんな。
「よし、じゃあ他にも要望が上がっていた『大人向けオバーケ』を兼ねて作るか」
洞窟はまだまだ奥に続いているから、子供用と完全に分けてしまえばいい。
≪任せてくれ。そう簡単には攻略できぬものを、作るとしよう……フフッ≫
その悪だくみの顔、せっかくの美少年が台無しだぞ。
それと、今むくっと起き上がったトーラさん。
一緒に参加する気満々なところ悪いけど、君の『大人向けオバーケ』への参戦は絶対に認めません。
大人の参加者は張りぼてではなく模造刀か真剣を持つことになるから、大変危険です。
その代わり、大好評を得ている『戦闘に参加しない子たちを乗せて遊ぶ』ことは今後も許可するから、諦めてくれ。
⦅おぬしが大人向けのほうで『ラスボスの大魔王役』をやれば、儂も参加できるのにのう……⦆
マホーまで、何を残念そうに言っているんだ?
そんなことをしたら、ホントの大惨事になりかねないだろう。
俺は、武闘大会で学習したのだよ。
マホーを本気にさせると、本当に血の雨が降るかもしれないってね。
◇◇◇
観光客の増加に伴って増えるのは迷子と、そして、迷惑客だ。
最近の俺は、迷惑客の対応ではなく、ルビーと一緒に迷子の親を捜し出す(その逆もあり)専門家として活躍していた。
泣いている子をルビーが宥め、親の特徴を聞き出し、俺がその人物を探知するという連携プレーだ。
この日も無事に親を見つけ出し、ホッと息を吐いていた時だった。
「あの……奥様が落とし物をしてしまったのですが、届いていないでしょうか?」
ルビーに声をかけてきたのは、侍女の恰好をした若い女性だった。
聞けば、女主人がイヤリングをどこかに落としてしまい、探しているのだという。
「いえ、こちらには届いていないようです」
村の中心部にある観光案内所で確認をしたが、届いてはいなかった。
「もうすぐ閉門の時間なのに、どうすれば……」
村の営業は、あと一時間ほどで終了となる。
このまま帰れば、奥様が旦那様に叱責されてしまう…と、今にも泣き出しそうな女性。
俺がイヤリングの特徴を尋ねようとしたとき、警備担当者が慌てて案内所にやって来た。
向こうで観光客同士のケンカが始まって乱闘騒ぎになっているから、応援に来てほしいとのこと。
「カズキは、そっちへ行ってあげて。私は、彼女と一緒に探してみるわ」
「わかった。あっちが終わったら、すぐに合流する」
「うん、よろしくね」
ルビーとは、案内所の前で別れた。
それは、いつもと変わらない、ごくありふれた日常の光景だったはずなのに……
◇
ケンカは、冒険者パーティー同士のいざこざだった。
俺たちが駆けつけると、片方がすぐさま逃げ出し、乱闘騒ぎはあっけなく終了する。
残されたほうに事情を聴けば、すれ違ったときに肩が触れたとかで、相手が一方的にケンカを売りにきたから買っただけだと主張した。
ともかく、大したケガも物損もないことで、彼らも「冒険者同士では、よくあることだ」と帰っていった。
その後も、道を尋ねられたり、また迷子対応をしているうちに時間はどんどん過ぎていく。
ようやく落ち着き、ルビーと合流するかと居場所を探知しようとしたときだった。
「カズキくん、ルビーがどこに行ったか知らないかい?」
声をかけてきたのは、ゴウドさんだった。
彼の手には、ルビーの髪留めがある。
「これが馬車の駐車場に落ちていたと届けてくれたお客さんがいてね、さっきから探しているのだが……」
「ルビーなら、少し前にお客様が落とし物をされたとかで、一緒に探しに行ったはずですが」
⦅……うむ? 村には居らんようじゃぞ⦆
えっ!?
俺も慌てて探知したが、本当にどこにも姿が見当たらない。
なぜだ? どうして居ない?
さっきまで、村に居たはずなのに……
嫌な汗が吹き出てきて、胸騒ぎもする。
そわそわと落ち着かない。
「カズキくん、どうした?」
「……ルビーが、村に居ません。でも、俺が必ず探し出してきます!」
今は、一秒でも時間が惜しい。
ゴウドさんへの説明もそこそこに、俺は村の外へと駆け出した。
⦅まずは、探知魔法を広範囲へ広げるのじゃ!⦆
落ち着け、落ち着けと、必死に自分へ言い聞かせる。
迷子の探索で精度をあげた探知魔法を、今ここで活かせ!
そして、必ず見つけ出す!!
「居た! 高速で移動しているから、馬か馬車に乗っているのか?」
場所さえわかれば、こっちのもの。
すぐに転移魔法を発動しようとした俺を、マホーが慌てて引き留めた。
⦅あやつらも、一緒に連れていくのじゃ!⦆
アンディとトーラも?
なんでだ?
⦅いいから、儂の言うことを聞け。それと、言い忘れておったが、犯人に心当たりがあるぞい⦆
不届き者は、誰だ?
…………そうか。最初から、計画的だったんだな。
犯人はあいつだった。
そうとわかれば、今回ばかりは絶対に容赦しない。
村とルビーに手を出したことを、後悔させてやるからな……




