2章 黒蝶
あのバレンタインから数日がたった。
「はぁー...紫月も馴染んできたし、蓮もなんだかんだで面倒見はいいんだよな。」
「喧嘩ばっかりだけどねぇ〜」
「いいんだよそれで。一番良くお互いを知る方法だ。それに、喧嘩できる方が良い。」
「喧嘩って嫌なものじゃーん?なんでそう思うの菊ぅ〜?」
「嫌なことがあっても、よりお互いを知れるきっかけにはなるんだよ。まぁ、お前ら霊には到底わからないだろうけどな。」
「そっかぁ〜。人間って大変だしよくわからないねぇ〜」
話していると、さっきまで蓮と喧嘩をしていた紫月がすごい形相で追ってきた。
「あっ、菊!あなた今日は不吉な雰囲気が、死神の空気が漂っているわ。」
なにかと思って話を聞くと、いきなり理由のわからないことを言い出した。
「はぁ?何だそれ。」
「いいから、詳しいことは口外禁止なのよ。ただ、あなた今日、気をつけなさい。」
詳しいことは言えないけれどとにかく気をつけろ、そんなふわふわしたこと言われても
そんな様子で菊は聞く耳を持とうとしない。
「なにそれぇ〜?あ、死相ってやつ?」
一方で剣剥が面白そうなことを聞いたと言わんばかりに興味津々だった。
「剣剥、あなた、死ぬ気で菊を守りなさい。この色はやばいわよ。」
いつもの調子で流そうとした菊だったが、あまりの紫月の真剣さに菊は押し負ける。
「なんかマジだな。わかったよ気をつけるよ。」
「本当に、何があってもよ。じゃなきゃ...」
これ以上に長くなりそう、更には家からも出してもらえなくなりそうだった。
「あぁもう、わかったわかった。んじゃいってくる。」
紫月の忠告を振り切って菊はさっそうと家を出ていった。
「あ、三途川くん。一人で何してるんですか?」
剣剥と二人で歩いていると後ろから灰崎に声をかけられた。
※剣剥は灰崎には見えていません。
「プリントはもう、親に見せたのでしょう?あなたの進路がかかっているのですよ」
こないだのプリントを無視し続けていたのが回りに回って戻ってきた。
「げっ、灰崎...進路なんてどうでもいいだろ。それに、今日は学校じゃねぇ。」
極端に嫌そうな表情をみせ、菊はそのまま帰ろうとする、が
「そうやって投げやりでいると、必ず後悔するのですよ?一緒に、考えましょう?」
優しく包み込むような灰崎の一言。それが、今の菊にはどうしても耐えられなかった。
何も知らない、何も知ろうとしない三途川家と同じ目、口調。
(なんなんだ、どこに行っても、俺はなにかに縛られるのか)
その瞬間、菊の張り詰めていた糸が切れた。
「うるせぇなっ!灰崎に何がわかるんだよ。たかが教師だろ、一人や二人、お前には何も関係ない。わかったらもう学校でもそれ以外でも話しかけてくんな。」
菊は灰崎をおいて行ってしまった。
(今までの奴らは俺にかまっても来なかったのに、あいつは一体何なんだよ。平気で人のテリトリーに踏み込んできやがって、、、)
灰崎が見えなくなり、
「あぁ!だるすぎんだろっイライラする、紫月の言ってたことってまさかこれか?」
「まぁまぁ、先生なりの優しさ?ってやつじゃない?本当に人間て面倒だねぇ〜」
「お前はどこでそんな言葉を覚えたんだか。ま、いいや。早く帰るぞ」
「おっけぇ〜」
二人で帰路につこうとしたその時、黒をメインにしたモノクロの蝶が菊に近づいてきた。
「おぉ、なんだ、珍しいな。」
「この蝶、なんかかっこいいねぇ〜」
「指出したら、止まってきたりしてな。」
「たしかにぃ〜」
菊が蝶に向かって指を出すと、ふわふわと菊の指に止まった。
「近くでみると模様もあってきれいだな。」
その蝶には不思議な花の模様がついており、複雑に絡み合っていた。
「本当だぁ、もっと見して〜」
剣剥が蝶を覗き込もうとしたその時、菊の指に止まっていた蝶が口先を伸ばし、菊の指を刺した。
「いって、何だよ、蝶って刺す虫なのか?」
「えぇ〜どうなんだろ、見たことない蝶だったしね〜」
「まぁいいや、なんか今日は本当に嫌な日だなぁ。」
そして二人は家に向かって歩き出した。
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「そうか、うまく行ったみたいで良かったよ。お疲れ様。」
暗い部屋の中、何者かが蝶を手に微笑んでいる。
すると、蝶の周りを突然煙が囲み始めた。
徐々に煙は大きくなってゆき、その中に人影が現れる。
「ボス、ありがたきお言葉、感謝いたします。」
煙が晴れるのと同時に、眼の前にはさっきの蝶によく似た模様の女が立っていた。
女は横にあるモニターに照らされ、その美しい髪と顔立ちがよく見える。
黒い中華服には黒いユリの花の模様が描かれ、長い黒髪は後ろで結われている。
その上から真っ黒なブレザーを肩にかけ、ボスと呼ぶその男に跪いていた。
「まだ、計画は第一歩にも満たない。少しずつ少しずつ的確に進めるんだ。」
不敵な笑みを浮かべたように見えるその男に女は満足気にニヤリと笑った。
「はい、承知いたしました。」
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