第279話 ティナからの手紙
「…ティナだ……。」
「………えっ…?」
「ティナからの手紙って…どういうこと?」
言葉に詰まった僕に代わって、ミラが聞いてくれた。
混乱して、意味がわからない。
「フェニックスを倒した後にな…、預かってたらしい。
…きっと、あの魔法を使うことを予感してたんだろうな…。」
ファルクが差し出した手紙を、恐る恐る受け取るロック。
受け取ると、一瞬のためらいの後、思い切って封を開けた。
そこには、紛れもない、愛するティナの言葉が綴られていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロックへ。
この手紙をあなたが読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのよね。
でも、読んでいるということは、生きて帰ってこれたってことね。
生き伸びてくれて、ありがとう。
あなたと出会う前、私の世界は真っ暗だったわ。
人とまともに接することもできず、人に親切にされればされるほど、その人を傷つける自分を呪った。
何度死のうと思ったかわからないわ。
ずっと1人で生きていかなければならないくらいなら、いっそ…。
そんなことばかり考えていたの。
そんな私を救ってくれたのが、あなたよ、ロック。
最初見た時は、私のおっぱいで鼻の下が伸びてて、なんなのこの人、って思ったけど。
ふふっ、冗談よ?(半分は本当だけど。)
でも、あなたのおかげで、私の世界は一気に明るくなった。
その時から、私はあなたのことが好きだったんだと思う。
絶体絶命のピンチに助けてくれる白馬の王子様なんて、好きになっちゃうわよね。
あ、本当に王子様だったのよね。
あれはびっくりしたわ。
それから、何度も言い合ったわよね。
守りたいあなたに、役に立ちたい私。
結局どんどん強くなるあなたに頼ってばかりだったけど。
だから、【大聖者】の魔法に[慈愛の女神]があった時、この手紙を書こうと思ったの。
もちろん、最初から死ぬつもりはなかったわよ?
あなたと結婚して、思う存分むっつりなロックの願望を受け止めて、子供を産んで。
そんな幸せな未来を想い描いていたから。
だけど、その未来は幸せだけじゃなかったの。
私にとって、大事な人が辛い思いをすることがわかっていたから。
それはね、ミラよ。
抜け駆けみたいにあなたと寝てしまったこと、後悔はしてないけど、ミラに対して申し訳ないって気持ちはずっと拭えない。
私が幸せな未来をあなたと築いたら、その時ミラは…?
そう思うと、胸が痛かった。
だから、その時はミラも一緒に結婚すればいいなって思ったの!
好きな女の子2人をどっちも愛せる生活…、最高でしょ?
ただ、この手紙を読んでるってことは、私はいない。
まあ、それはそれで悪く無いかな。
私はあなたの役に立ちたい。
恩を返したい。
もしこの手紙を読んでいるなら、私は役に立つことができて、大好きなミラとあなたが一緒にいるはず。
一緒にいられなくて辛い気持ちもあるけど、嬉しい気持ちもたくさんあるの。
だからロック。
ミラを幸せにしてあげて?
きっと私に気を遣って、ミラと一緒になろうとはしてないんじゃない?
私のことを思うなら、ミラと幸せになってほしい。
ミラを泣かせたら、承知しないわよ?
これが私の最後のお願い。
愛してるわ、ロック。
幸せになってね。
ティナ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
仲間たちが見ていることも忘れて、僕は泣き崩れた。
声を出して、大きな声で泣き続けた。
ティナを助けたんじゃない、助けてもらったのに。
今もまた助けてもらった。
ティナが望んで死んでいったことを知って、少しだけ救われたんだ。
だけど、やっぱり忘れられない。
なんで彼女は人の幸せばかり願うんだ。
自分の命を投げ打ってまで…。
生きていて欲しかった。
ずっと一緒にいたかった。
ぎゅっ
泣きじゃくる僕を、温かくて柔らかい何かが、優しく包んでくれた。
ミラだ。
ティナが死んでから、ミラは側にいてもスキンシップを全くしなくなった。
僕が辛くなるのをわかってくれてたんだろう。
でも、3年たった今、なぜかミラは抱きしめてくれた。
ミラも涙を流している。
「ロック…。
わたしもちょっと前に手紙をもらったの。
ティナからの…。」
「…っく……ひっく…っ。
み…ミラ…っく……も…?」
「うん…。
ロックを…お願いね…って。
幸せになってね……って…。」
僕はミラを見た。
「死んだ後のことまで心配して…。
優しすぎるよね…ティナは…。」
「…っく………うん…。」
手紙を渡したファルクが口を開く。
「…お前が…前を向けるようになったら渡してくれと…頼まれていたんだと。
すぐに渡しても、受け入れられないからって。
…ティナの気持ち…、受け止めてやれよ?」
「……う…うぅ…。
ティナ…。
ティナーーーーーーー!!!」
これだけティナが僕のことを想って手紙まで書いてくれていたのに、すぐには受け止めることができなかった。
でも、ミラのスキンシップは少しずつ昔みたいになってきて、次第に受け入れられるようになってきた。
そして…。
「ティナの分まで幸せになろうね…、ロック。」
「うん…。
ミラと幸せになることを、ティナに誓うよ。」
僕とミラの結婚式。
式には、僕たちにとって大切な人たちが数え切れないくらい参列してくれている。
そして、初めて触れ合う僕とミラの唇…。
顔を離して見つめ合うと、なんだか照れ臭い。
「ロック…。」
「ミラ…。」
ミラが僕の耳元にかわいい口を近づけてきた。
そして、囁く。
「新婚初夜…楽しみだね!」
「え?!
な、何言って……」
「えへへ!
あんまり想像すると、みんなにむっつり顔がバレるよ!」
「ミラ!」
怒りながらしっかりいやらしい顔をしていた僕。
だって、むっつりだからしょうがないじゃん!
いつまでもむっつりな顔をしていられるこの平和な時間を、僕はずっと守っていきたい。
〜物語 完〜




