第270話 ロックvs皇帝
「【全能の権化】!」
全てのステータス値が30分間2倍となるユニークスキル。
ミラの【大魔術士】によるバフ効果と合わせて、ロックのステータスは2.5倍に。
「よし!」
剣を強く握り、力を集中するロック。
そして、【神速】で皇帝の死角へと移動する。
「な!?」
素早さが上がると、相対的に相手の動きも捉えられるようになる。
圧倒的な素早さを持つ皇帝が認識できない速さで移動したことで、完全に虚をつくことができた。
【神速】発動前に準備をしていた[武技]を皇帝に叩き込むロック。
「うゴォっ…!!」
【全能の権化】により大きく跳ね上がった攻撃力。
その上でユニークスキル【剣神】の[武技]を放てば、もはや先ほどまでとは別物。
流石に一撃で倒すほどの威力はないが、皇帝の2/3ほどのHPを削った。
追撃するロックだが、[武技]を放つほどの時間的余裕はない。
通常の剣戟を放つ。
「くっ…!」
それを間一髪避ける皇帝。
【全能の権化】を使っても、まだステータス値は皇帝の方が高いようだ。
皇帝はすかさず反撃を繰り出した。
「な…にっ!?」
その攻撃はロックにダメージを与えることはなかった。
【守護神の加護】の防御力は体力や魔力値に依存する。
つまり、ミラが使っていた時よりもはるかに強靭な加護となっているのだ。
【魔神化】した魔王の魔法ですら、今のロックには届かない。
ただ、彼らはロックたちの弱点を熟知している。
皇帝は標的をティナやミラたちに変える。
彼らの持っていたスキルをロックに渡したことを察したのだ。
仲間のことが自分よりも大切。
それがロックたちの弱点だと、皇帝は分かっていた。
【守護神の加護】がなければ、ロック以外の冒険者は敵ではない。
人質にとれば相手は何もできないし、殺せば動揺させることができる。
幸い弱点は何人もいる。
1人2人殺してから人質を取った方が効果的だろう。
もう魔族にするなんて言っている場合じゃない。
ただ、相手は【神速】を使ってくる。
それだけは気をつけなくてはならない。
気をつけていれば攻撃を防ぐことができる。
皇帝はそう考えてティナたちに襲いかかろうとした。
しかし、今のロックを振り切ることはできなかった。
ロックの分裂体が今までの倍近くに増える。
【全能の権化】を使ったことで魔力も上がり、50体近くの分裂体を生み出せるようになった。
皇帝の周りを分裂体で埋め尽くすロック。
その中にいる本体に攻撃を貰えば、ただでは済まない。
「あなたたちの考えそうなことなんて、分かってますよ。
あなたの…負けです。」
一方、他の魔族と冒険者の戦いも、冒険者側優勢のまま進んでいた。
スキル入れ替えや涅槃珠でパワーアップしたS級冒険者とロックの分裂体の力は大きく、相手を圧倒していた。
回復役が機能していれば、よほど力の差がある攻撃でない限り、死者はなかなか出ない。
【神の恩寵】の使い手がいる冒険者側は、回復役が十分に活躍できていた。
逆に魔族側はロックに【神の恩寵】を奪われたり、優先的に倒されたりして、すでにMPが枯渇している。
未だ押し寄せるモンスターたちの中に回復魔法の使い手がいるためなんとか保っているが、【神の恩寵】を使えるモンスターはいない。
魔族はMPを必要とするスキルが使えず、モンスターを盾にしながらなんとか生き延びているような状況だ。
そんな中、魔王の側にいたイライサが、混戦の中倒れた。
それをきっかけに、1人、また1人とS級魔族が倒れていく。
それに伴い、モンスターが減っていく。
勝負の大勢が決しようとしていた。
「…皇帝。
あなたはなにがしたかったんですか?」
観念した様子の皇帝に、ロックが語りかける。
「…過去形か…。
まだ諦めたわけではないんだけどな…。
…と言っても、この状況では…絶望的か…。
いいだろう。
聞きたいなら…聞かせてやる。
その前に、モンスターをどうにかしよう。
もうこれ以上戦ってもしょうがあるまい。」
「…やけに素直ですね…。
怪しい動きをすれば、容赦はしませんよ。
こちらには【神の恩寵】があるので、ステータスUPのスキルもまだ使えますから。」
「なんとなく察しがついているだろう?
俺は別にこの世を力で征服したいわけじゃないんだ。
そのつもりならとっくにやっている。
…今回の作戦も、できれば避けたかったんだ。」
その言葉は皇帝の本心に聞こえた。
実際、魔王や魔族の力に加え、世界一の大国バルキアの権力があれば、皇帝がこの世を支配することは難しくなかったはずだ。
「…無駄な戦いはこちらも望むことではありません。」
皇帝が魔王の方へと歩き出す。
ロックは警戒を緩めず、いつでも皇帝に攻撃できる位置をキープしながら、その動向を注視する。
魔王の側に立つ皇帝。
魔族も魔王の周りに集まった。
「…魔王よ、モンスターを退かせろ。」
「な!?
そ、それは…!」
「…もう、どうしようもないんだ…。」
「…ぐ…!
……お前ら。」
魔王が魔族たちに目配せすると、モンスターたちが生息域に戻り始めた。
モンスターが引き上げたことで、歓声をあげる冒険者たち。
残っている魔族たちを見て、戦闘を継続しようとする冒険者がいたが、ロックが事情を話し、S級冒険者たちが場を収めてくれた。
A級以下の冒険者たちには、怪我人の手当て、他の2ヶ所の砦の戦況確認、万が一に備えての警戒体制を整えることなどを頼んだ。
そして、皇帝、魔王、魔族とロックたちS級冒険者だけが残った。
「話を聞く前に、念の為残ったスキルを奪わせてもらいます。
いいですね?」
ロックが皇帝に確認する。
「…ああ。
だが、俺と魔王のユニークスキルを奪うかどうかは、話を聞いてから判断してもらえないか。
俺のやりたいことを理解できなかったら、その時は奪って構わない。」
皇帝と魔王はユニークスキルしか残っていないので、倒すか同意を得なければ奪うことができない。
本当に観念したなら同意を得られると思ったが、皇帝は条件を出してきた。
「ロック、危険じゃねえか?」
「そうね。
その2人のスキルが残っていれば、こちらにとっての脅威は消えない。」
「でも、魔王のスキルを同意を得て奪うことができれば…魔族を人間に戻せるかどうかをリスクなしに試すことができる。
倒してから奪うのは…一か八かになっちゃうから…。」
「…ではこれでいいだろう。」
皇帝が自分の指を切り落とし、ミラへと投げた。
「うぎゃっ!!
な、なんなの!?」
「お前は【大魔術士】で[呪い]の状態異常を使えるのだろう?
それで俺の自由を奪えばいい。
力の差があっても、それだけの媒体なら可能だろう。
…魔王は髪の毛で勘弁してやってくれ。」
痛みに顔をしかめながら話す皇帝。
「…分かった。」
ロックはみんなに目で確認し、肯定する。
魔王が髪の一部を差し出す。
「話に支障が出ないよう、動きの制限は弱めにしてもらえると助かる。」
「うええぇぇ…。
嫌だよぉ…。」
恐る恐る指と髪を持ちながら、[呪い]をかけるミラ。
「…うっ…。」
無事2人に[呪い]がかかったようだ。
ロックは魔族たちのスキルを奪った。
「では、話そう。」




