第122話 アルカトル防衛戦⑧
【見切り】でモンスターの群勢による攻撃を効率的に捌きながら進むリッチェル。
多少のダメージは【深淵の闇】に吸収されるので、とにかくスピードを優先していく。
ただ、囲まれた状態では闇球をなかなか発動できないので、必要以上のダメージは受けないようにしなければならない。
モンスターたちも目的の鵺には近づけたくないようで、リッチェルの行く手を必死に阻む。
少し進んだところで、リッチェルの足は止まってしまった。
闇球を発動しようとするが、さっきのように他のメンバーにモンスターたちが気を取られているわけでなく、全員が自分に意識を向けている中ではやはり発動できない。
バフがかかっているため通常攻撃でも戦えているが、先へは進めない。
「[ダークネス]!」
リッチェルの周りの敵数体が暗闇状態となり、鵺を守るため一枚岩となっていたモンスターたちに綻びが生まれた。
「リッチェルさん、お願い!」
MPが回復してきたマーチの状態異常魔法が突破口を開く。
「ありがとう!
後でデートしよう!」
リッチェルは隙の生まれたモンスターたちに的確に急所攻撃を繰り出しながら、前へと進んだ。
ちなみに、コピーするスキルを変えたときに、武器を1番得意な剣に持ち替えている。
あえて暗闇状態のモンスターは残しながら倒していく。
これだけ密集した状態での[ダークネス]は効果抜群だ。
さして遠くない場所に、鵺はいた。
光を失ったモンスターが暴れて、周りが混乱している中、微動だにしていない。
「お前か!」
モンスターたちの混乱の隙をついて、闇球を発動するリッチェル。
鵺を倒せるだけのダメージは蓄積しているはず。
闇球が鵺を襲う。
「シャァぁア!」
しかし、鵺は倒れない。
【我慢強い】スキルによりダメージが10%軽減された上、異常個体でレベルが高かったため、想定よりダメージを与えられなかった。
「チッ!
思ったよりレベルが高かったか!」
すぐにトドメを刺そうと体を動かすリッチェル。
その目前に数体のマンティコアが!
「どけーー!!」
早くしなければ、鵺は【再生】により回復してしまう。
焦るリッチェルのマンティコアへの攻撃は、空を切る。
マンティコアの【影分身】だ。
分身体を囮として、本体がリッチェルに噛み付いてくる。
【深淵の闇】によりまだダメージは受けていないが、鵺を攻撃できない。
剣でマンティコアを振り払う。
マンティコアの本体がわかっているうちに追撃をしようとするリッチェル。
別のマンティコアが襲いかかってくるが、分身体と判断して意識をマンティコア本体に向ける。
「ぐあっ!?」
マンティコアの噛み付きがリッチェルの首に食い込んだ。
急所攻撃となり、急速にダメージの蓄積が増える。
影分身だと思わせて、別個体が潜んでいたのだ。
さらに、もう1体のマンティコアもリッチェルの腹部に噛み付いてきた。
振り払えず、声も出せない。
(これは…、やばい…っ!)
「リッチェル!!」
ダメージ蓄積量が限界を迎える寸前、リッチェルに食い込んでいたマンティコアたちの牙が力を失い、そして離れていった。
「グリゴ…リー…、アッサール、みんな!」
「おお。
首に噛みつかれても傷にならねえのか。
すげえな、【深淵の闇】。」
グリゴリーが緊張感なく、感想をもらす。
「おおおお!!」
アッサールが範囲攻撃の[武技]で鵺周辺の敵を蹴散らす。
「サンキュー!」
リッチェルが貯めていたダメージを闇球にかえ、鵺に放つ。
先ほどより大きな威力を秘めた闇球に鵺は耐えられず、爆散して消え去った。
「アッサール、鵺は倒せてなかったのに、【乗り移り】は!?」
息つく間も無くモンスターを相手しながら、問いかけるリッチェル。
「…突然、正気に戻った。
お前が倒してくれたのかと思った。」
「瀕死のダメージでも与えたんじゃねえか!?
倒さなくても使用者が危険を感じたら解除できるからな!」
「よかった…!
じゃあ急いで敵を倒そう!
実は、結構やばいことになってるんだ。」
「どうしたんだ!?」
「本陣がもう持たなそうなんだ!
ロックたちが本陣近くに戻って守ってるが、A級モンスターが集まってるからヤバいかもしれない!」
「…戻ろう。」
「…!
しかしアッサール!
君の【バーサーカー】は…!」
【バーサーカー】状態のアッサールは敵味方関係なく攻撃してしまう。
味方が近くにいる状態では発動できない。
かといって、発動しないと戦力は大幅に落ちる。
「…俺も、スキルを入れ替えてもらう。」
「アッサール…!
それなら、行こう!!」
仲間を殺めてしまった過去があり、贖罪のように1人で戦ってきたアッサール。
アッサールは【バーサーカー】を使い傷つきながらも1人で戦うことを、手放すことが怖かった。
スキルを入れ替えた方がいいことはわかっていても、罪を償っていると思える状況から変化することを受け入れられなかったのだ。
でも、自分でもわかっていた。
1人で戦っている状況は、罪を償っている「つもり」なだけだと。
本当に償う気があるなら、仲間と力を合わせて戦った方が良いのだと。
危機を脱した一行は、本陣へと急いだ。




