クエスト7-8 中継地点
夜を野宿で過ごし、朝を迎えた俺達は、再び山を登る。
朝から登って数時間、斜面は少し急になり、遠目ながら頂上が見えてきた。
とはいっても、その頂上は赤い煙のようなものに覆われているが……
「よし、もうすぐだな」
「ハァ……ハァ……やっとか……」
アイゼンは疲労しているにもかかわらず、何故かリズを背負っている。
「ねぇ、大丈夫? 降りた方がいいよね?」
「フッ……問題ありません……むしろ、こうしていないと保ちそうにないくらいです……」
クエスチョンマークを浮かべるリズに、アイゼンは振り向いてキメ顔を見せる。
余裕があるのか、痩せ我慢なのか……
「おい、あれを見ろ!」
そんな中、タンデが声を上げる。
「村だ!」
彼が指す方向を見てみると、民家と思われる建物がいくつか見える。
「あんなところに集落があったのか……」
「よーし、全速前進ー!」
「うおおおおおおお!!」
走り出したアイゼンを追いかけ、村へと向かう。
というかあいつの体力どうなってんだ……?
……………………
………………
「おやおや、こんなところに客人とは珍しい。ここはグレンの村じゃ」
村に辿り着いた俺達を出迎えたのは、1人の老人だった。
だがこの老人、デカい。
ヨボヨボとはいかないまでもかなり年を食ったと思われる顔付きなのだが、目算で190前後はある。
額にある鋭い角と合わせて、まさに鬼のような見た目だ。
「でけぇ……」
「デス……」
「お前のようなジジイがいるか……」
流石のタンデもそのデカさに圧倒され、アイゼンは小声で何だか聞き覚えのある台詞を話す。
ピスは興味の方が勝ってそうな声だが。
「あの……貴方は草原の民ですか? いやでもこんな感じの角は見たことないし……」
「ほっほっほ。わしは草原の民じゃありゃせんよ」
「ほえ?」
顎に手を当てて考えていたリズが素っ頓狂な声を上げる。
「わしだけではない、この村に住む者はみな炎の民と呼ばれる種族じゃ」
「炎の民!」
リズは驚き目を見開くが、俺達にはピンと来ない。
「なんだそれ」
「歴史の中でも数々の魔物や敵国の兵士を蹴散らしたと言われる、身体の大きな種族のこと。力の強さは随一……って習ったよ」
リズは人差し指を立て、若干自慢気に解説する。
「でも俺が読んだ本には炎の民も、その祖先であると推測される種族の記述も無かったぞ?」
「炎の民は原初の種族ではなく、変異によって生まれた種族じゃ。そのせいかは分からんが、原初の種族と違って中途半端な遺伝が起こる事も多くての。純血の炎の民の血筋を絶やさぬため、この村があるのじゃ」
「遺伝が中途半端……ってどういうことだ?」
隣にいるリズに聞いてみる。
「原初の種族……荒野の民、森の民、洞窟の民、草原の民は、違う種族同士で子供を産んでも種族同士の特徴が混じらず、必ずどっちかの種族の特徴のみを完全に引き継ぐんだ」
「フッ、つまりは荒野の民と森の民が子を成したとすれば、その子は荒野の民か森の民であり、両方の特徴を持つ子にはならない……ということですね」
「そのとーり!」
「急に割り込んでくるなよ……」
唐突に割り込んできたアイゼンにも特に動じず、リズは答えた。
要はハーフないしクォーターという概念が存在しないのか……いや、あっても外見には出ない、と言った方が正しいか?
「中途半端な遺伝……ということは、異常に背が高かったり、頭に角が生えていれば……」
「炎の民の血を受け継いでる、ということじゃ」
「なるほど……」
ということは、フィンと彼女の父親は炎の民の血を受け継いでいるかもしれないのか。
「さて、少し立ち話が過ぎましたな。神殿以外は特に何も無い村じゃが、ゆっくりしていってくだされ」
そう言って、老人は去っていった。
……………………
………………
老人と別れた俺たちは、宿屋を探して村を歩く。
この村は山の斜面に位置するためか橋や階段が多く、独特の景観を醸し出している。
だが、何より特徴的なのは建物の大きさだ。身体の大きさ故かひとつひとつが相応にデカい。
何だかミニチュアの人形にでもなった気分だ。
「小人族だ!」
「本当にいたんだな……」
村を散策していると、村人達が興味津々な様子で俺達を見ている。
言うまでもなく全員がデカいので、割と威圧感がある。
子供ですら俺達と同じくらいだし、成人に至ってはざっと2mを超える身長を持つ人だらけだ。
「ようこそ、小さな旅人さんよ。何かお探しかい?」
声をかけてきたのは、農具を担いだダンディな農夫のおじさん。
格好はただの農夫だが、農作業で鍛えたのであろう筋肉と炎の民特有の巨体の相乗効果で並の冒険者より強そうに見える。
「宿屋を探しているのですが……」
「宿屋ならあっちの方にあるぜ。久々の純粋な客だ、クヌギの奴も喜ぶだろうな。しかし、何だってこんな場所に来たんだ?」
「俺達は今、各地の大精霊に会いに行く旅をしています。この山には火の大精霊がいると聞きました」
「確かに、ここグレン村には大精霊様を祀る神殿があるが、見れるかは分からんぞ。実際、俺は生まれてから今まで、大精霊様の姿なんか拝んだことねぇ」
「構いません。神殿の場所はどちらです?」
「向こうの橋を渡ってそこを右に曲がると長い階段がある。その先が神殿だ。まあ、見りゃ分かるさ」
「ありがとうございます」
農夫のおじさんにお礼を言い、まずは宿屋へと向かう。
歴木亭と書かれた宿屋のドアを開けると、素朴な感じの内装と、受付で待機していたいかにもおばちゃんという言葉が似合う中年女性が出迎える。
「いらっしゃ……あらぁ見ない顔ね!? もしかして旅人かしら!? んまぁこんなところまでよく来たわねぇ! 冒険者? 冒険者でしょう? おばちゃんも昔冒険者やってたのよぉ! こう見えても昔は美人魔戦士で有名だったのよ〜! それにしても中々男前揃いじゃなぁい! お嬢ちゃんが羨ましいわぁ! おばちゃんもあと20歳若ければ……」
……………………
………………
「なんか……つかれたぜ……」
「何やったらあんなに舌が回るのやら……」
30分くらい女主人のマシンガントークに付き合わされつつも宿を取り、その後は村の広場へと足を運んだ。
「じゃあ、暫く自由行動にしよう。後でここに集合して、神殿へと向かう」
「フッ、いいだろう……」
「りょーかーい」
1度解散し軽く素振りを行った後、ある事に対する情報を集めようとした俺の肩を誰かが掴む。
振り向くと、そこにはアイゼンの姿があった。
「何だ」
「頼みがある。俺に武器を貸してくれ。もしくは金」
「……何故?」
「実はだな、お前と会う少し前に、魔物に武器を奪われてな……所持金もあんまり無くて……」
「先に言えよ! ったくしょうがねぇな……ピス」
「がってんデス! 歪みし時空に隠れし亜空の箱の扉よ、今こそ開け! ボックス!」
ピスは俺の意図を察し、ボックス専用の形態になって俺の前に現れる。
「とりあえず今貸せる武器は弓と剣とメイスと……スリングショットもあるな……あっ」
魔剣クロノス……ディアマンテ遺跡で手に入れたはいいが、使うことも売ることもできずに肥やしにしていた武器だ。
「シンヤ様、それを渡すのデスか?」
「いや、流石にこれは……」
「フッ、人が悪いぞ勇者シンヤよ。この俺におあつらえの武器を持っているじゃないか」
背後からの声に振り返ると、いつの間にか俺が手にしていた魔剣クロノスを手に取って眺めるアイゼンの姿があった。
「おい待て! その武器は危険だ!」
「フッ……宵闇の魔剣士アイゼンブルート・シュヴァルツに扱えぬ魔剣など……ぐっ!?」
アイゼンは突如膝をつき、左手で頭を押さえる。
魔剣の鍔の中心は紫色の禍々しい光を放ち、殆ど黒い金属塊だった魔剣クロノスに光と同じ色のラインが走る。
魔剣を握るアイゼンの右手は黒く染まり、紫色の光が血管のように浮き上がる。
それと同時に、アイゼンを……正確には魔剣クロノスを中心に風が巻き起こる。
「大丈夫か!?」
「フッ……案ずるな不屈の勇者シンヤよ、この程度の支配に俺は屈したりなど……うおおおおおおお!!」
アイゼンは咆哮を上げ、魔剣クロノスを構える。
「よく聞け! 魔剣クロノスよ! 我が名は宵闇の魔剣士、アイゼンブルート・シュヴァルツ! お前を使役し、支配する者だあああああああああああ!!!」
アイゼンは叫び、剣を高く掲げる。
少し経つと、魔剣とそれを握る手に走る光の線の色が紫色から赤色に変化し始める。
魔剣を抑え込んでいる……のか?
「うおおおおおお!! お前に支配など、されるものかああああああ!!!」
やがて全ての光の線は赤色に染まり、風が止んだ。
「アイゼン様……デスよね?」
「ああ、無論だ」
「魔剣を抑え込んだ……のか?」
「まあ、そんな感じだ。言っただろう? この宵闇の魔剣士アイゼンブルート・シュヴァルツに扱えぬ魔剣など無いと」
ドヤ顔を決めるアイゼンであったが、正直なところ、魔剣に触っても何も反応が無かったので何とも言えない。
まあ、フィンの説明を思い出す限りでは普通は出来ないであろうということは想像がつくが……
「フッ……魔剣クロノスよ、中々どうして芸達者ではないか」
魔剣クロノスはどうやら2つの剣が合体して両手剣になっていたらしく、アイゼンは長めの剣と短めの剣に分けたり双刃の剣(漫画やアニメ、ゲームでたまに見る柄の両側に刃の付いた、剣とも槍ともつかないアレ)にしたり、最初の両手剣に戻したりている。
アイゼンああいうの好きそうだしなぁ。顔輝いてるし。
「それ、気に入ったならあげようか? 俺には使えないし」
「いいのか!? 感謝する! この恩は必ず返そう!」
「はいはい、どっかでな。じゃ俺はやる事あるからまた後ほど」
アイゼンに背を向け、改めて情報収集へと赴く。
…………………
……………
村人に聞いたのは、主に赤い霧について。
月蛍亭の主人から要注意項目として聞かされていたが、実際のところそれらしきものとは遭遇していない。
運良く遭遇しなかった……といえばそうなのかもしれないが、それはそれで下山時に遭遇する可能性もあるし、伝聞が昔のもので今は存在しない事もあるかもしれない。聞いておいて損は無いだろう。
結論から言うと、赤い霧は存在はするものの頂上付近でしか出現しない、との事だった。
赤い霧はエンキ山の火口付近で発生する毒性のある高熱の霧だが、火口付近を覆っているだけでそれより下には来ないらしい。
一通りの聞き込みを終えた俺は、ピスと共に村の広場へ足を運ぶ。
おっと、俺が最後だったか。
「んだよ、遅いじゃねぇか」
「悪いな、少し調べたい事があって聞き込みをしていたんだ。それじゃあ、行こうか」
村の広場を抜け、神殿へと向かう。
「あれか」
農夫が言った通り、神殿のある場所はすぐに見つかった。
山の中、あるいは森の奥……とにかく人里離れた場所にある神社のような雰囲気を持つ……というよりそういった神社にありそうな古びた鳥居らしきものが、長い長い階段の先に見える。
「おーい、早くしろよ」
猫の力を持つだけあってか、タンデは軽々と登って見せる。
ピスも飛行できるので余裕綽々だ。
「お前ほど早くは登れねぇよ」
とは言ったものの、これまでの旅と特訓の成果か俺も意外とスムーズに登れている。
最も、リズとアイゼンはそうはいかなかったようだが。
「つ……疲れた……」
「ゼェ……ハァ……休憩……」
アイゼンのやつ、登山の時は平気だったのに何で階段でヘトヘトになってるんだ?
それはさておき、階段を登った先に待ち構えていたのは、寂れた神社という表現がぴったりな建物。
賽銭箱などは無く、木々の中に神社における拝殿に値するであろう建物がただそこにあるだけ。
建物の前には、巫女服姿の女性が立っている。
「ようこそ……火の大精霊、カグヤ様の力を求める者よ……」
桜色のショートヘアに、緑色の瞳。
額には紅色の角が2本生え、凛とした顔立ちの背の高い女性だ。
胸も豊か……それはどうでもいいか。
「まだ何も言ってないのに目的がバレたのデス……これはもしや予知能力デスかッ!?」
「いえ……ここに来る人は……そういう人しかいないので……」
「あ、そうデスか……」
まあ、こんな険しい山をわざわざ登ってここに来る人なんてそうそういないだろうし……
「それで、そのカグヤサマとやらはどこにいるんだ?」
「炎の道……この建物の裏手にある道を行った先……そこにカグヤ様がいます……カグヤ様に認められることができれば……力を借りることもできるでしょう」
「だってよ、シンヤ」
「ありがとうございます。よし、早速……」
「お待ちください」
早速出向こうとした俺達を、巫女さんが引き止める。
「炎の道を行く者にはお祓いを行うしきたりがあります……こちらへ……」
「それ受けないとどうなんだ?」
「死にます……」
「マジか……」
俺達は巫女さんに招かれ、拝殿(便宜上そういうことにする)の中に入る。
面倒臭そうな顔をしていたタンデだったが、流石に死のインパクトには勝てなかったようだ。
建物内部は、祖父の三回忌の時に入った寺に少し似た構造だ。
とはいっても、祖父の三回忌は俺が5歳の頃の話なので、なんとなくでしか覚えてないのだが……まあ、寺っぽい感じだ。
神社の拝殿内部と似ているかどうかは……そもそも拝殿に入ったことが無いから何とも言えないな。
ともあれ、拝殿に招かれた俺達は座布団の上に座らされ、1人ずつ順番に巫女さんのお祓いを受ける。
巫女さんは錫杖を振りながら魔法の詠唱を行なっているようだが、その詠唱は何を言っているか全く聞き取れなかった。
……………………
………………
「これでお祓いは終わりです……それでは……お気をつけて……」
「ありがとうございます」
お祓いを受けた俺達は巫女さんに頭を下げ、炎の道と呼ばれる石畳の道を歩く。
その道は長く続き、ここからでは終わりが見えない。
これはまた長くなりそうな……




