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リィンカーネーションクエスト  作者: シュガーロック
クエスト6 港町動乱(集の大陸・イェルデン島編)
82/106

クエスト6-13 机を挟んで交わすもの

 





 昼下がり、デルタポートにて。






 諸々の理由が重なり、自由行動となった今日の俺達。





「自由行動にしたのはいいけど、何をするかな……」







 自分からこの状況を生み出しておいて言うのもなんだが、突発的に生まれた自由な時間というのは案外処理の仕方に困る。

 特に娯楽の充実していないこの世界では……





「あっ」

「あら、ごきげんよう」




 単身通りを歩いていると、メアシスさんと遭遇した。


「こんな所で会うとは、奇遇ですね」

「ええ。ズッカの件、前向きに考えてくださっているかしら?」

「俺は彼本人の意思を尊重しようと思います。ですので、彼が結論を出すまではこちらから言えることは特にありません」

「そうですか、分かりましたわ。ところで、今お時間はよろしくて?」





 え、急に何?





「構いませんが……」

「少し、聞きたい事がありましてね。立ち話というのも何ですし、どこか腰を落ち着ける場所へ行きましょう」

「分かりました」




 聞きたい事……?






 ……………………






 ………………





 誘われるがままやってきたのは、喫茶店のような場所。


 高貴な雰囲気の漂う店内には、何やら豪華な服やら高そうなローブやらを着ている人達が優雅にティータイムと洒落込んでいる。




 ……俺、場違いでは?




「ここは?」

「上質なお茶の楽しめる場、ですわ」



 お茶かぁ……




 俺達は窓際の席に案内される。

 海を眺めながらお茶を嗜む……ふむ、これは趣深いな。

 今にそれどころじゃなくなるだろうが。



「私が奢りますわ。好きなものを注文してくださってかまいません」



 そう言われてメニュー表を見てみるが、何が何やらサッパリだ。



 とりあえず上から下へ目線を動かしていると、ミザンのグリーンティーというものが目に留まる。


 白米のあったミザンだし、抹茶か何かだろうか? とりあえず他はよく分からないしこれでいいや。



「ブルーイーズティーをお1つ」

「ミザンのグリーンティーをお願いします」




 お互いに注文を終えると、メアシスさんの方に向き直る。



「それで、話とは何です?」

「他でもない、貴方自身の事です」

「俺の?」

「ええ。初めて会った時、ギルドカードを見せてもらいましたが……色々と気がかりな事がありましてね」



 そういやそんな事もあったな。



 フィンが言うには魔力0はイレギュラーだ。偽物の勇者を追う彼女達からすりゃ、俺もマークされる可能性はある。

 魔力0にカードでは勇者表記、怪しいところは結構ある。


 うーん、ここは洗いざらい喋った方が安全だろうか?




「そうですね……まずは、こちらに手を触れてみてくださいまし」



 メアシスさんは、テーブルの上に灰色の小さい石板のようなものを置く。



「これは?」

「魔力の属性を調べる時のものですわ」

「ふむ……」




 言われた通り手を触れてみるが、何も起きない。

 メアシスさんの方を見ると、普段銀色の彼女の瞳は青色に変化しており、淡い光を放っている。





「なるほど……魔力の隠蔽の類ではい、と……協力、感謝いたしますわ。手を離してもらって結構です」



 メアシスさんが石板をしまうと同時に、注文していたお茶が届いた。

 カラーリングは和風のそれっぽいが、普通に洋風のコップだった。うーん何だろうこのちょっとモヤモヤする感じ。まあいいか。



 ブルーイーズティーの方は紅茶とかで使われてそうなティーカップに収まった、青い薔薇の花弁っぽいのが浮かんだ香り豊かな……うわすっごい水色だなあれ。





 半ばメアシスさんの見様見真似で、グリーンティーを嗜む。


 香りは……緑茶っぽいな。色も同じく。




 飲んでみると……大方緑茶だが、どことなく抹茶の風味を感じる。

 お茶なら麦茶の方が好きだけど、これも中々良い。


 まあ、こんな店じゃ麦茶なんて大衆的なものは出てこないだろうが……






「さて……ひと息ついたところで、貴方の魔力が何故0なのかについて、教えていただけませんこと?」



 メアシスさんの目が今度は緑色に変わる。

 何かは分からないが、魔法を使っているのは間違いない。




「それに関しては、俺はこの世界で生まれた人間ではないからだと思います」

「……と言いますと?」




 メアシスさんの表情が変わる。




「信じてもらえるかは分かりませんが……俺は元々異世界の人間でした。ですが向こうの世界で死んだ後、ニヴァリスと名乗る女神から魔王を倒してほしいと言われて、この世界に飛ばされてきました。魔力が無いのは、俺の住む世界では魔法は存在せず、魔力を持つ人間もいなかったからかと」

「なるほど……事情は分かりました」




 メアシスさんは、そう言ってお茶を口に運ぶ。


 ……そういや何か妙にスラスラと話せたな?




「確かに突拍子もない話ではありますが、見たこともない魔物も出現している事を考えると……あり得る話ですわね」

「その、自分で語っておいてアレですが……信じるのですか?」

「世界を越えて現れる存在は、長い歴史の中で時折確認されていますわ。魔王軍もそうです」





 えっ、そうなの?





 サンドラールで読んだ本にはその辺は明記されていなかったが……





「ところで、女神ニヴァリスってどんな神様なんですか?」

「命の女神の従神で、生と死の狭間に立ち、希望を司る女神ですわ。誰もが知っているというわけではありませんが、神学に触れたことのある者であれば1度は耳にする名前ですわね」



 そこそこ有名な神様、ってところか。



「それで、貴方は魔王を倒すため旅をしている、ということですか?」

「はい。厳密に言えば、今は魔王軍の不意打ちで散り散りになった仲間を探しているところですが……」

「初めて会った時、そういう話をしていましたわね」

「シンヤ様ー!」




 メアシスさんが話していた時、ピスが妖精態で窓の外から現れる。

 ガラス等は無いので、ピスはそのままテーブルに着地した。




「どうした? 何かあったのか?」

「ニヴァリス様からの連絡なのデス!」


 ピスが少し後ろに下がった後、彼のモニターに砂嵐のようなノイズが走り、ニヴァリスの姿が映る。




「萩進也さん! あら? 前と人員が違うようですが……」

「色々訳ありだ。で、要件は?」

「ビリーを通じて、邪悪な魔力を感知しました。あの魔物の持つ魔力は、この世界のあらゆる生き物とも、魔王軍が率いる魔物の魔力とも一致しません」

「そういえば、ガイアエッジが起動しなかった上に指輪が黒ずんでいたが……」

「それも、その魔力の影響でしょう」




 マジか…




「あらゆる魔物の魔力と一致しない……ということは、あれは外部から来た生物ですの?」



 メアシスさんが気持ち身を乗り出して問う。



「ええ、恐らくは。ですが、あの魔力は何者かによって異様な変質を遂げた形跡があります。これは私の憶測ですが、その魔物は元々は別の姿であったかと」

「つまり、誰かが異形の魔物を生み出している、と?」

「はい」

「一体誰がそんな真似をなさっているのです?」

「……1つ、心当たりがあります」



 その時、モニターにノイズが走り始めた。




「混沌と悪意の神、ベリア・ロア。異様な魔力の中に、彼の力を感じ取りました」



 ニヴァリスがそこまで言った時、画面のノイズが強くなる。



「萩進也さん、奴は人間へと変身する能力があります。ですが、彼は絶対に目を見せません。もし……」






 ニヴァリスの姿と言葉を無数のノイズが飲み込み、ピスのモニターには普段通り何も映らなくなった。






「「……」」




 俺達の間に暫し沈黙が流れる。





 にしても、急に情報が入ったな……






「えー……ピーステール、貴方は一体何者なんですの?」

「フッフッフ……旅の吟遊詩人とは仮の姿、ボクは女神ニヴァリス様に仕える妖精、ピスなのデス! ボクはニヴァリス様に選ばれし勇者であるシンヤ様の旅のお手伝いをしているのデス!」





 妖精態なので顔は見えない……いや顔は無いのだが、その姿は何となく自慢げに見える。




「あ、この事は出来ればご内密にお願いしますデス。変な人間に売られるのはもうこりごりデスから」

「別に構いませんが……」



 ……さっきの勢いはどうした。




 メアシスさんに視線を向けると、彼女は興味ありげにピスを見ている。




「にしても……ベリア・ロア……」

「ご存知なのですか?」

「遠い昔の魔王の侵攻に手を貸した力の弱い神……と文献で見た程度ですわ。その当時に魔王共々倒されたらしいですが……」

「復活した、って事ですかね?」

「魔力があったという事は、そういうことでしょうね。いずれにせよ、異形の魔物が何かから変化して発生するのであれば、その原因も突き止める必要がありますわ」

「偽の勇者も関係あるのでしょうか?」

「異形の魔物が出現する前に大抵存在が確認されていますから、その可能性は大いにありますわね。それはまた調査するとして……」




 メアシスさんはそう言うと、一冊の本を取り出す。




「これは?」

「マインドシールドの魔導書ですわ。異形の魔物に近付いた際の症状を抑える事ができます。情報の報酬として、受け取っておきなさい」

「ありがとうございます」




 マインドシールドの魔導書を受け取り、少しパラパラとめくってみる。

 魔法の効果や使用の際の注意点などが書かれていた。




 なんかこう、ルーン文字みたいな特殊な文字でズラーッと書かれているかと思いきやそうでもない。何というか……説明書のような感じだ。絵も付いてる。




 とはいえ俺が持ってても仕方がないし、後でリズ辺りに渡そう。





「異形の魔物も偽物の勇者も、旅において避けて通れない道となるでしょう。お気をつけなさい」

「ええ」





 その後も少し会話をした後、メアシスさんと別れた。







 ……………………






 ………………






 その後は鍛錬などに時間を使い、夜が訪れた。




 夕食のため再び冒険者ギルドの酒場に訪れると、その一角でズッカ、タンデ、リズが既に揃っていた。




「お、シンヤ来たよー」

「シンヤ、こっちこっち」

「遅いぜ全く。飯先に食べちまうところだったぞ」

「悪いな、鍛錬に熱が入りすぎた」




 3人に手招きされ、ピス共々席に座る。

 それからスタッフを呼び、料理を注文した。




「んでズッカ、決まったのか?」



 タンデの問いに、ズッカは頷いた。



「うん。僕、メアシスさん達と一緒に行こうと思う」

「そうか」

「本当に行くのか? ズッカ」

「皆と旅して、やっぱりまだまだ力不足なのを痛感したよ。だから、メアシスさんとロッソさんから色々学んで、もっと強くなろうと思う。それから……」

「それから?」

「襲われたピア村やペペロ村を見た時、心苦しい思いをしたんだ。だから、それに対して見て見ぬフリをするんじゃなくて、自分に出来ることをやっていきたいんだ」



 ズッカはそう言うと、少し照れ臭そうに頭を掻いた。




「っていうのは……変かな?」

「いや、俺は立派な心がけだと思うぜ。変じゃないさ」

「でも寂しいなぁ、これから皆でワイワイ旅が出来ると思ったんだけど」

「いやリズおめぇ一緒にいたの2日くらいじゃねぇか」

「だからこそだよぅ」



 そんな会話をするリズとタンデをズッカと共に見ていたが、ふとズッカが思い出したように口を開く。



「そういえばさ……メアシスさんは何かくれるって話してなかった?」

「そういえばそうだな。物資であれば何でも用意するって」

「そんな話もあったな。どうすんだ? 強い剣でも頼んでみるか?」

「いや、剣は間に合ってる」

「それに関してだけどさ、ぼくにいい案があるよ」

「お?」

「シンヤ、耳貸して」

「何で耳打ちなんだよ……」





 謎の耳打ちに呆れつつも、耳を貸してやる。






「えっとね……」



 彼女の提言した物資は、生命の水100個。




「どう?」

「アリだな」



 リズは言葉の代わりにドヤ顔で両人差し指をこちらに向ける。

 脳裏に昔日本で見た見た芸人の姿が蘇るが……偶然だろう。






 まあそれはともかく、彼女の案は確かに良い。




 生命のは薬草の完全な上位互換であるアイテムであり、薬草よりも素早く、なおかつフィードバックも抑えて傷を回復できる。

 ズッカの薬も中々のものだが、フィードバック量では生命の水の方が優れている。


 加えて、回復アイテムはこのメンバー全員に恩恵がある。武器や防具なら1人分なら誰かが損するし、仮に全員分だったとしても俺とタンデはチャナ村で装備を更新済みだから、恩恵は薄くなる。

 そもそもラーバノさんが作った武器以上のものは中々置いてないし。強いて言うならミスリル製か……




 数の面においても、普通なら100個も持ち歩けないが、そこはピスの出番。

 持ち運びに関しては彼がいれば心配事は無い。





 ……などと考えている間に、リズは2人にも耳打ちする。


「なるほど、生命の水はいいね。でも100個も持ち運べるの?」

「そこはボクにお任せデス! ボクの扱うボックスという魔法は、どんな量でも収納できる魔法なのデスから!」

「それはすごいね! ボックスがあれば荷物の持ち運びの心配は無くなるのか……すごいなぁ」



 ズッカは肯定的なようだが、タンデは今ひとつな表情を浮かべる。




「ミスリル製の武器とかじゃダメか?」



 あ、タンデはそっちを取ったのか。



「ミスリル製なんて魔法使いとか魔戦士の武器だよ? ぼくは杖を変えるつもりはないし、タンデもシンヤも魔法苦手でしょ?」

「でも軽くて丈夫なんだろ?」

「確かにそうだけど、ミスリル製の真髄は魔法とよく馴染む事だから、それが無いならそんなに強くないよ」

「じゃあ鎧はどうなんだ?」

「鎧なんてダメダメ! ミスリルは鎧には向かないよ」

「何でだ?」

「確かに、軽くて丈夫だから普通の攻撃には強いよ。でも魔法は素通し! 魔法を撃たれた時の防御力は裸の時と同じだから危ないよ?」

「マジかよ」



 マジか……

 思い起こせば、ミスリル製の武器は売ってても防具は売ってなかったような。



「んじゃあ生命の水でいいんじゃねーの?」



 タンデはそう言いつつ、頭の後ろで手を組む。



「じゃあそれで行こうか」

「ああ」

「よーし、ズッカと居られるのが最後なら、今日くらいは盛大にやろうぜ! おーい、サカの実くれよ!」



 別に今日が最後と決まったわけではないが……まあいいか。



「皆……今まで」

「待った。そいつを言うのは最後の最後だ。飲むなら明るく行こうぜ」


 ズッカの言葉を遮り、タンデはそう言う。



「うん、そうだね」

「タンデー、羽目外しすぎると昇級面接辛いよ?」

「げっ、折角忘れてると思ったのに……」

「お前なぁ……」






 何だかんだ言いながらも、その日の夜は皆で楽しく過ごした。

 ノリ的には送別会か何かのそれと似たようなものだと思う。






 ……………………






 ………………







 夜、宿屋にて。



 流石にある程度制御する事を覚えたタンデであったが、部屋に戻るなり寝てしまった。




 とは言っても、俺もやる事ないし寝るか……





「シンヤ」



 そんな矢先、ズッカが声をかける。




「どうした?」

「今まで、ありがとう。それと……ごめんね、抜ける事になっちゃって」

「気にするな。遅かれ早かれこういう時は来ると思ってたし、それに……」

「それに?」

「目標に向かって頑張るのを応援するのは、友人として当然の役目さ」

「そっか、ありがとう。シンヤも頑張ってね。それじゃ、おやすみ」

「ああ、おやすみ」





 別れの時までもうちょいあるけどな、なんて事を考えつつ、眠りに就く。



 この島でやれる事も、そろそろ無くなってきたな。




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