クエスト6-12 貴方が欲しい
夜、デルタポートの冒険者ギルド。
その酒場の一角にて。
「えー、それではズズロウラ及び異形の魔物の討伐を記念して……」
「「「乾杯ー!!」」」
俺達ズズロウラ討伐隊は、祝杯をあげていた。
異形の魔物を倒した後、俺達はそのままデルタポートへと帰ってきた。
いつもなら魔物の解体作業があるが、どういうわけかあの魔物は死んだと同時に魔核以外はドロドロに溶けて無くなってしまったからだ。
また、ズズロウラと混沌の異形の討伐によって結構な金額の報酬が入った。
何でも、異形の魔物の魔核は絶賛研究中のようで、そういった機関にとっては大金をはたいてでも欲しいものだそうだ。
ズズロウラは……異形の魔物に比べればおまけみたいな金額だったな。
戻ってからというもの、タンデとズッカとリズは少々やつれていたので心配したが、今はすっかり元通りだ。
「よーし、そんじゃオレは酒初挑戦だけどサカの実2つ入れちまうぜぇ!」
「おっ、いいねいいねー!」
「おいタンデ、ほどほどにしとけよ」
「大丈夫だって!」
……タンデに至っては初めての飲酒ということで舞い上がっている。
ちなみに、この世界での成人年齢は大体15か16歳であり、飲酒可能な年齢も大体同じである。
また、この世界のお酒はサカの実と呼ばれるブドウっぽい果実を飲み物に入れる……といった具合だ。おそらくサカの実がアルコール成分を持っているのだろう。
抽出したら何か作れそうだ。
それと、数とか種類とか発酵具合によってアルコール度数が変化するらしいが……
「よぉ黒髪の。飲んでるかぁ?」
ダマスさんが来た。
……そういえばこの人覆面しっぱなしだけどどうやって酒飲んでるんだ? 逐一外すのか?
「なんだ泡ジュースか。酒は嫌いか?」
この世界では炭酸飲料は泡ジュースと呼ばれる。まあ確かに泡出るし……
ちなみに俺が飲んでいるのはサイダーっぽい無色のやつ。名前は夢水。
にしても水はともかく夢ってどっから出てきたのだろうか……
「嫌いというよりは……俺の故郷では酒の解禁が20歳からなんですよね。俺はまだ17ですし、別に故郷の決まり破ってまで飲もうとも思わないですし……」
俺はそう言って夢水を飲み干す。
ほんのりとした甘みと爽やかな飲み心地がたまらない。
17とは言ったが、正直なところ年月の経過をちゃんと把握していない。
カレンダーがあまり無いから今が何月何日かが把握できない。把握してなくても困らない分余計に。
「ほう、冒険者は酒飲むために生きてるような連中ばかりなのに珍しいな。酒はいいぞぉ、飲めば大半のことはどうでもよくなる」
「はぁ」
「もしかしてあれか? あの村の人達は散々な目に遭ったのにこうしてるのは納得できないってか?」
「そういうわけではありませんが……」
「そうか、だが覚えておけ。この世の中は殺伐としている。今こうしている間にも死人は出ている。全ての人々を救おうなんざ土台無理な話だ。結局は自分の手の届く範囲しか救えないのさ」
「……」
手の届く範囲しか救えない、か……
分かっている。分かってはいるが、ベレンを助けられなかった事に対して思う事が無いと言ったら、嘘になる。
「ペペロ村では4人の死者が出た。だが、4人で抑えられたとも言える。お前らが村の外に引っ張り出したおかげで、かなり被害は抑えられたんだ。大型の魔物が何の前触れもなく出て死者1桁は中々大したもんだぜ?」
「そうなのですか?」
「ああ。まあその……あれだ、あまり気負ったって仕方ねぇんだ。自分を褒めろ。もっと悪い結末を回避した、ってな。それから……」
「それから?」
「人が死んでるのに不謹慎だ、なんて考えてると祝い事なんて一生出来ねぇぞ。何かしらの理由で人は毎日死ぬんだからな」
「ええ……そうですね」
「まあ、楽しんでいってくれや。冒険者なんて騒いでナンボだぜ」
「大丈夫ですよ、こう見えて割と楽しんでますから」
飯も美味いし、こういうどんちゃん騒ぎを見るのは嫌いじゃないしな。
「そうか。ま、楽しんでるのならいいさ。んじゃ。俺は向こうへ行ってくらぁ」
ダマスさんはジョッキを片手に別のグループの席へ行く。
「シンヤ、隣いいかな? 用を足してたらリズに席取られちゃって」
今度はズッカが隣にやってきた。
「ははっ、そいつは災難だったな。俺が詰めようか?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
よいしょ、とズッカは席に座る。
頰に少し赤みが差しているところを見ると、彼もお酒を飲んでいるようだ。
「皆大はしゃぎだねぇ」
「だな」
冒険者達は皆、食べて飲んで歌って騒いでと大盛り上がりだ。
ピスはこんな時でも歌を披露している。いや、こんな時だからこそ?
「異形の魔物が現れた時はびっくりしたけど、何とか倒せて本当によかったよ」
「ああ、そうだな」
「シンヤは、怖くなかったの?」
「と、言うと?」
「僕があの魔物を見た時、何て言うか……心が凍りつくというか……全身が内側から何か得体の知れないもので汚染されるというか……上手く言えないけど、そんな感じがあったんだ。タンデもリズも、似たような状態にあったと思う」
そういえば、異形の魔物には見た者の精神を蝕む特性があったな。
「俺は何ともなかったが……」
「そっか。タンデも平気そうだったし、魔法使ったら楽になったし……やっぱり、魔力の多さが関係してるのかな?」
「メアシスさんも言ってたしな。次出くわした際は、先に魔法を使ってしまうのも手だな」
「うん」
そう話していた時、ズッカは俺のジョッキを覗き込む。
「そう言えば、何飲んでるの?」
「ん? ああ、夢水っていう、ちょっと甘くてシュワシュワしたやつさ」
「へぇ、美味しそうだね。あれ、サカの実は入れてないの?」
「ああ。俺のいた世界は酒が飲めるのは20歳からなんだ。律儀に守ってるってわけでもないけど、破ってまで飲もうとも思わない……って感じかな」
「そっか。まあ、お酒以外にも美味しいものはいっぱいあるからね」
「俺としてはズッカが飲酒してるのがちょっと意外というか……」
「洞窟の民は酒飲みだからねぇ。こう見えても憧れはあったんだ。とはいっても、取れたてのサカの実を1つだけだから、薄いものだよ」
ズッカはそう言ってジョッキを傾ける。
洞窟の民ってドワーフみたいなものなのだろうか?
「ねぇ、シンヤ」
「ん?」
「あのさ、もし「シ〜ンヤぁ、ズッカぁ〜、飲んでるぅ〜?」
ズッカの話を遮り、顔の赤いリズが割り込んできた。
「お前もう顔真っ赤じゃねーか! どれだけ飲んだんだ!?」
「酔ってな〜いよぉ〜?」
「酔ってる奴は皆そう言うんだよ!」
「そぁんなことなぁ〜いもぉ〜ん!」
いや酔ってるだろお前。これがウワサの絡み酒ってやつですか。
「酔ってるって言うんならぁ〜、タンデくんはど〜なのぉ〜?」
リズの指差した先には、冒険者と酒飲み勝負をおっぱじめるタンデの姿が。
「ねぇ〜いいのぉ〜?」
紅潮した顔つきのジト目で若干不機嫌そうに聞いてくるリズ。
「いいと思うよ。タンデは痛い目見ないと覚えないからね」
ズッカはそう言ってジョッキの中のお酒を一口。
「……意外と薄情だね……」
予想外の返答だったらしく、リズはきょとんとした顔を見せた。
「……まあ、リズもほどほどにしとけよ」
とリズに釘を刺しておき、その後も宴を楽しんだ。
酒も飲まないのに何を楽しむって? 雰囲気。あと食事。
……………………
………………
夜も更け、宿に帰る頃。
「酒って……飲み過ぎると苦しいんだな……」
「ふにゃぁ……」
案の定潰れたタンデとリズを俺とズッカがそれぞれ背負って、宿へと戻る。
荷物はピスに任せた。
「まあこんな事だろうと思ったよ」
「ごめん……ああは言ったけど、本当は止められる自信が無かったんだ」
「まあ、これで懲りてくれるなら安いものだが……」
「宿はどちらデスか?」
「この先の角を左に曲がったところだ」
「がってんデス!」
部屋に戻るとまずタンデを部屋に転がし、今にも眠りそうなリズからなんとか泊まっている宿屋を聞き出す。
幸いにも同じ宿屋かつ隣の部屋だったので、かかる労力は最小限で済んだ。
リズを部屋に寝かせると、俺達も眠りに就く。
ピスは別の宿屋に宿泊しているらしく、荷物を届け終えると俺達に別れを告げて宿屋を出た。
そうだ、寝る前にギルドカード更新しておこう。
名前:シンヤ・ハギ 種族:荒野の民 階級:緋銅
属性:無 レベル:16 職業:勇者
体力:83 魔力:0
筋力:63 敏捷:78
創造:18 器用:77
あっ、レベルが上がってる。
あの魔物は結構な経験値を持っていたのだろうか?
……………………
………………
翌朝、冒険者ギルド。
その酒場の一角にて。
「あー……頭が痛いぜ……」
「ぼくも……」
「そんなに飲むからだろ……」
「止めてよー……」
「俺は一応止めたぞ」
「すみません、シンヤ様、ズッカ様、タンデ様の席はここですか?」
タンデとリズが机に頭を伏している中朝食を取っていると、ギルドスタッフと思われる女性が現れた。
「そうですが……我々に何か?」
「昇級面接の通達に参りました。昇級をご希望であれば面接を行いますが、ご希望の日程はございますか?」
あー、そういえばリズが昇級面接がどうこう言ってたな。
「昇級するとどんなメリットがあるんですか?」
ズッカの質問に、ギルドスタッフは口を開く。
「昇級すると、より高額の報酬を貰える依頼に挑戦できる他、より良い施設を使えたり、武器防具ないし道具の割引、より良い道具の購入許可、階級の高い宿屋などが解禁されます。詳細は店舗毎に異なるので実際に足を運んでいたければと」
「え、売られる道具とかも変わるんですか?」
「あくまで店舗によりますが、そのような販売方式を取っている店舗もございます。転売等の防止ですね」
マジか……
「面接って何をするんですか? 必要な事前準備等はありますか?」
「いえ、準備物は特に必要ありません。面接官の質問に正直に答えていただくだけで結構です」
ふーむ、なるほど。こっちから何かをアピールする必要は無いらしいな。
「準備が必要ないならサッサと終わらせようと思うが、どうする?」
「僕はいつでもいいけど……」
「あ、明日まで待ってくれ……」
「では、明日でお願いします」
「かしこまりました。ご希望の時間帯はありますか?」
スタッフに問われて、顔を再びズッカとタンデに向ける。
「どうする?」
「朝でいいと思うよ。昼とかだと暇な時間とかできちゃうし」
「どうでもいい」
「では朝方でお願いします」
「かしこまりました。でしたら、この時間帯に受付にお越しください」
スタッフは時間を紙に書き記し、俺達に手渡す。
えー……明日の9時頃か。
「では、私はこれで」
「わざわざありがとうございます」
ギルドスタッフに頭を下げる。
さて、これからどうしたものか……何となく冒険者ギルドに来たのはいいけど、タンデとリズがこんな状態だし。
「シンヤ様ー! 遅れてごめんなさいなのデス!」
「今日は依頼を受ける予定は無いから構わないが……何かあったのか?」
「実はデスね……メアシス様がシンヤ様に会いたいとの事で……」
ピスがそう言うと、彼の後ろからメアシスさんが現れた。
「ごきげんよう。今日は話があって来たのですが、お時間の程はよろしいかしら?」
「構いませんよ。あれ、ロッソさんは一緒ではないのですか?」
「彼を同席させると脅迫紛いになりかねませんわ」
席を替える途中、メアシスさんはそう語る。
この人達仲いいのか悪いのかよく分からんな……
「まどろっこしいのは好きではありませんのでいきなり本題に入りますが……」
「ええ」
「彼、ズッカ・ロプカを引き抜きに来ました」
「え」
「「えっ」」
「「「ええええーーーーーーーっ!?」」」
ズッカとタンデとリズの、それはもう凄い叫び声が酒場中に響き渡る。
え、それにしても……え? 引き抜き?
「おいちょっと待てよ、どうすんだよシンヤ!?」
「ぼく聞いてないよ?」
「俺も初耳なんだけど……」
「ごめん、その……本当は昨日皆に話そうと思ったんだけど……寝ちゃって……」
昨日の時点で話すっても俺以外まともに聞かないだろ。
「とりあえず、理由についてお聞かせ願っても?」
「構いませんわ。我々グローリー・リリィは私とロッソで構成されています。彼は攻撃専門、私は一応補助も引き受ける事は可能ですが、後方支援のできる人員がいませんでした」
あっパーティ名あるんですね。
「酒場で募集すればいいんじゃないですか?」
「既に試しましたが、私達の求める人材がいませんでした」
「あー……」
質問に対する返答に、リズは何かを察したような受け答えをする。
ワーテルと一緒なら募集で来る人材は知れてるしなぁ……
「それで、ズズロウラの討伐戦で彼と組んだ際……そうですね、パズルのピースが埋まるような感触を覚えましてね」
「それで引き抜きをするに至った、と」
「そのようなところですわ」
うわー、どうすんだこれ、どうしようこれ。
いずれ今組んでるパーティは解散する予定ではあるが、ズッカは後方支援役として手元に置いておきたい。
可能であれば……そうだな、せめてフィンが戻るまで……
いや、違う。違うな。
俺がまずやるべき事は……
「ズッカ。お前はどうしたい?」
そう、本人の意思確認。
これを聞かなきゃそもそも話にならない。
「えっと……僕としては……その……」
即決できる段階ではない、と。
「メアシスさんの旅の目的は、偽勇者と異形の魔物の追跡と討伐……でしたよね?」
メモを取り出し、質問を行う。
「ええ、そのようなところですわ。相手は違いますが、凶悪な魔物を倒すため旅をしている事については、貴方達とそう変わりません」
「対価は何ですか?」
「物資であれば大体の物は渡せますわ。金貨でも武器でも道具でも魔導書でも、お好きなように」
「おいシンヤてめぇ、ズッカを売る気か!」
「そうじゃねぇよ。引き抜くだけ引き抜かれたらこっちは丸損じゃねぇかって話だよ」
えーと、他に聞いておいた方がいい事は……
「待遇については?」
「私とロッソは翠銀級ですわ。取る宿の品質は保証できます。報酬の取り分は基本的に当分式、必要な物資があればある程度は資金の融通は致しますわ」
「ていうか何でシンヤが聞いてるのさ」
「いや後でいるかなって……」
「おめーも抜けるんじゃねぇだろうな?」
「俺が抜けてどうすんだよ!」
俺達がやいやい言ってる中、ズッカが口を開く。
「あの、旅のきっかけというか、何故それの討伐に至ったかを教えてもらってもいいですか?」
「そうですわね……旅のきっかけは、我がラベンディア家の治める領地に件の魔物が現れた事、その時はまだ数が少ないとはいえ、世界の各地で同じような事が起きていた事ですわね。討伐の旅に至った経緯は……簡潔に言えば、大いなる地位には大いなる責任が伴う、といったところでしょうか」
ノブレス・オブリージュってやつか。
「理由としてはもう1つあります。我がラベンディア家の家系を遡ると勇者に辿り着くと代々語り継がれてきました。その真偽はともかく、そのような血筋であるというのならば黙って見ている訳にもいかないでしょう?」
「嘘なら別に行かなくてもいいんじゃねぇの?」
「その時は嘘を真実にするだけですわ!」
すごい自信だ……
「ともあれ、今すぐ決めてほしいわけではありませんわ。皆と相談して、じっくりと考えてくださいまし。私はこの酒場に毎日顔を出すので、聞きたい事があれば私に声をかけてくださいな」
メアシスさんはそう言うと、ピスにお礼を言って席を外す。
「何だか……すごい事態のようデスね……」
「おいおいおいおいおい、どうすんだよこれ」
「ズッカ、行っちゃうの?」
「今考えてるところ……」
ズッカは文字通り頭を抱えていた。
まあ、無理も無いな。
「そういう話は事前に無かったのか?」
「あったといえば、あったよ。でもその時は冗談だと思ってて……」
「なるほど……」
「シンヤ様」
ズッカが唸る中、蚊帳の外気味だったピスが俺に声をかける。
「どうした?」
「皆様の階級はいかがデス?」
「リズが黒鉄級、それ以外は当人含めて緋銅級だが……」
「ふむふむ。では、財政状況はどうデス?」
「この前ので実入りはあったが……まあ、メアシスさんと比べると天と地ほどの差はあるだろうな」
向こうは貴族らしいし。
「ふむふむ……ではズッカ様」
「あ、はい」
「ズズロウラの際、あのお二方と組んだ感想はどうでしたか?」
「うーん……2人ともすごく強くて、楽ではあったね」
「ふむふむ……シンヤ様、彼が抜ける事による戦力の低下についてはどうお考えデスか?」
「正直、後方支援役が抜けるのは手厳しいが……ピスも戻ったし、やれない事はないだろう、というのが正直な感想だな。まあ、トルカとフィンが戻ったらどの道今のパーティは解散の予定だが……」
「えっ?」
タンデが固まった。
「いやそうだろ。はぐれた仲間の捜索にお前もズッカも付き合うって話だっただろうが。リズもセデムにいる仲間と合流するまでって約束だし」
「うん」
「そうだっけか?」
「おい」
忘れるなよ!
「そんな訳だから、それより早く抜けるって事も一応は想定済みだ。もしその辺で悩んでるなら、そこは気にしなくていい」
「うん、分かったよ」
「そうだな、今日は自由行動の日にしよう。ズッカもじっくり考えたいだろうし」
若干2名は二日酔いだし。
「休暇ってやつだねー」
「ああ。そんじゃ、解散!」
俺の言葉と共に、皆はそれぞれの行動を取り始めた。




