エピローグ
あの激しくも最後はあっさりと終わってしまった代理戦争から今は三日も経っている。
あの戦争は、俺の活躍というかなんというか、学園長で天使でもあるミカエルの指導のおかげで力が使えるようになって、その力を使ったことで戦争に勝つことができたわけなんだけど……今のクラスの雰囲気は前とは少し変わってしまった。いや、変わってしまったわけではない。みんなはいつも通りに接してくれているし、叔母と言ってはなんだが、ミカエルも家族のように俺に接してくれていた。
だけど、なんなんだ? この感覚は……この風景を見ているだけで心の中の何かがズキズキと痛む。
「と言うわけで、学園が保持している戦力は最大でも戦争中に二つまでなら使用することが出来るようになったわけ。私たちの戦力はというと、狩亜の力とルーシィの力。でも、流石に他の天使たちからは、なるべくルーシィの力は使うなって言われちゃった……」
と、ソファに腰掛けるクラス全員にあの後に開かれた、大天使会議で決められた決め事を報告したミカエルなのだが、
「それはそうでしょ。綺兎部君の力が大きすぎるのは事実だし、それを他の天使たちに報告をしなかったミカエルも反省する部分があると思うわよ」
あの戦争の中で退場扱いとなった揮移が腕に包帯を巻かれた状態でソファに座りながら文句を口にしたのだ。そんな彼女と似たような恰好をしているのが、もう一人……姫こと、明日奈が俺の横で座りながら眠っている。そして、寝息を立てながら俺の名前を口にしているのだ。
夢の中に俺が出てきてるのか?
考えていると、心のどこかで何かが暴れている気がする。獰猛な感じの何か……能力を使っている最中に感じるあの悍ましい感覚。能力が使えるようになって以来、俺自身が変わった気がする。外見は髪以外は変わっている訳でもないし、変わったとしたら内面的かもしれない。
そんな風に考えていれば、由愛の定位置となってしまったのだろう一樹の膝の上から幼い声で話しかけられる。
「イッキ……難しそうな顔してどうしたのよ?」
この質問は何回目だろう……?
戦争中には一度、対峙するように座っている幸から言われ、その次には緑城から赤城へと戻る最中に三年の勾坂と栖偽、そして斬時にまで聞かれたほどだ。憐矢は何かしら気を使ってくれているのか、そう言ったことを聞いてこないが、妙に気になっている様子が時々窺える。そして、それに対する言葉は決まって、
「なんでもないよ」
それ以外に答えようがない。自分でも分かっていないことを話そうったって出来るはずがない。
「それよりも戦争の時から気になってるんですけど……一樹君の能力はどういったものなんですか? あの異常って言うのは悪いと思うけど、漆黒が戦場を覆った時の感覚がおかしかった……闇そのものが世界を覆ったみたいな感覚が……」
恐る恐ると言った感じに口にした勾坂を一樹は見ることが出来なかった。戦争中に勾坂へと放ってしまった言葉が心の中にまだ残っている。戦争が終わってからちゃんと頭を下げて謝った時には、勾坂も驚いたようで、
「いいよ、全然気にしてないから。それにしても凄かったね、一樹君の力。これなら世界を変えることも簡単なんじゃない?」
冗談交じりに話しかけてくれたのを思い出す。でも、許して貰えても心の中では何か思っているんじゃないかと思ってしまって、話しかけることもできなくなった。
少しずつ何かが変わっていく。ほんの少しずつだけど変わっていくのが実感できてしまう。
思考を巡らせているうちに話しは進み、
「そうね、確かにそろそろルーシィにも理解してもらわないといけない頃ね……」
大きく息を吸い込んだミカエルが次に口にした言葉は予想外のもので、自分自身の能力がどんなものなのかを知らなかった一樹自身は、それを聞いた途端に自分がどうしてこんな感情を抱いてしまっているのかを納得できた。
「ルーシィの能力は勾坂君が言った通り、闇そのものよ……一樹君自身の負の感情を力の糧にすることで力を使えるの。でも、その一方で副作用と言ってもいいことも起こるの」
「その副作用はどんなものなんですか……?」
それから一拍、ほんの数秒の間が空けられる。短くも長い数秒が空気を、一樹以外の全員を凍らせた。
「能力を使い続ければ、皆が知ってる一樹君は死んで、本物のルーシィに生まれ変わるの……」
その言葉が静寂に包まれた室内を山びこのように響き渡った。




