13
落ち着いた雰囲気の個室で薬師局の面々は賑やかに酒を飲んでいた。
後輩の1人にやたら酒を飲んですすめられて、ルート先輩は早々に潰れて眠ってしまっていた。
そろそろ閉店間際になろうという頃である。
「そろそろ出るか」
「そうですね」
「会計頼む」
「ルート先輩、自分が送っていきますよ」
やたら酒を飲ませていた後輩がそう言った。それにミーシャは首をふった。
「私がおぶって帰るからいいわよ」
「ミーシャ先輩、大変じゃないですか?」
「別に。私ブルック先輩でも余裕でおんぶも抱っこもできるから」
「ミーシャちゃん、頼もしいねぇ」
「それに帰るところ一緒だし」
「へ?」
「事情があって一緒に住んでるのよ」
「あ、そうなんですか……」
どことなく残念そうに後輩が頷いた。
「それじゃあ、お先に失礼します」
「おー、また週明けな」
「はい。お疲れ様でした」
ルート先輩を背負って、店の前で他の面々と別れた。
鼻唄まじりに家への道を歩いていく。
背中の温もりと重みが心地よい。
ミーシャは少し浮かれながら、家までのんびりと歩いた。
家の玄関を開けて入ると、そのままルート先輩の部屋に直行した。部屋のドアを開けたところで背中のルート先輩が身動ぎした。
「……ミーシャ?」
「お目覚めですか?」
「うん」
「ここルート先輩の部屋です。お風呂は明日にして、ベッドで寝てください。」
「うん」
ベッドの上にそっとルート先輩を下ろした。 座るルート先輩の足元に膝まずいて靴を脱がせてやる。
するとルート先輩の手がミーシャの肩に触れた。
「なぁ」
「はい」
「なんで俺なんだ?」
暗い部屋の中、俯いたルート先輩の表情はよく見えない。
「惚れちゃったから、ですかね」
「……そう。俺、男しか知らない」
「はい」
「家族になるって、俺家族なんていたことないから、どうしたらいいか分からない。子供をつくるのか?」
「できたら欲しいですね。3人くらい」
「父親なんて知らない。父親になれる自信ない」
「母が言ってましたけど、親って子供ができたからすぐ親になるんじゃなくて、子供と一緒に親として成長していくものらしいです」
「……成長」
「はい」
「俺、女とはキスもしたことないからできるか分からない」
「じゃあ、とりあえずちゅーしてみます?」
ミーシャはルート先輩の頬にキスをした。
「……頬っぺたかよ」
ルート先輩が忍び笑った。
「口にしてもいいんですか?」
「うん。試しに」
「はい」
今度はルート先輩の薄い唇に唇で触れた。触れるだけの子供じみたキスに胸が高鳴ってどうしようもなかった。
「……嫌じゃなかったですか?」
「……平気」
ルート先輩は何故かクスクス笑った。
(酔ってるなぁ)
ミーシャはルート先輩を寝転がらせ、布団をかけた。
「寝てください。おやすみなさい」
さらりと前髪をかき分けて額におやすみのキスをした。このくらいの役得ぐらい許されるだろう。
ルート先輩は大人しくされるがままだった。
立ち上がろうとすると、ルート先輩に袖を引かれた。
「……なぁ」
「はい」
「俺、薬作るくらいしか能がない男だぞ」
「料理も裁縫もできるじゃないですか」
「そうだけど……そうじゃなくて……剣もって戦ったりとかできない」
「その分、私が戦いますから問題ないです。それに、私にはできない外科治療も先輩できるじゃないですか。後方支援がなかったら、どんだけ強くても長く戦えませんよ」
「後方支援……」
「はい」
「なぁ、ミーシャ。本当に俺でいいのか?」
「ルート先輩じゃなきゃ嫌ですね」
「そうか……」
ルート先輩は大きくため息を吐いた。
「色々考えてみたんだ。俺はお前のこと好きだよ。でも恋愛かは分からない。けど、お前が側からいなくなるのは嫌だと思う」
「はい」
「この気持ちは何なんだろうな……」
ミーシャはベッドに腰掛け、ルート先輩の頭を撫でた。
「無理に名前をつけなくてもいいんじゃないですか?離れたくないと思ってもらえただけで嬉しいです」
「……ミーシャ」
「はい」
「もう一回キス」
「はい」
横になっているルート先輩に覆い被さるようにして、再びルート先輩の唇に触れた。今度はさっきよりも長く。
唇を離した後、またルート先輩が忍び笑った。
「子供みたいなキスだ」
「大人みたいなキスは知識しかないもので」
「初めてか?」
「はい」
「そうか」
それから少しの間クスクス笑っていたが、すぐに寝息が聞こえてきた。
ミーシャはルート先輩が眠ったのを確認すると、起こさないように静かに部屋を出た。
心臓がばくばくしている。
(これってどういう状況。私、フラれたんじゃなかったのかしら)
ミーシャはフラフラと自室に戻り、ベッドに倒れこんだ。
ルート先輩に触れた唇を触ってみる。
なんだか切なくなって、勢いよく布団を被った。
ーーーーーー
翌日。
昼前に空腹で目が覚めたミーシャは、朝食兼昼食を作っていた。
ルート先輩はまだ起きていないようである。
ベーコンを野菜と共に炒め、卵でとじる。ボリューム満点のオムレツができた。トマトのスープもいい出来である。
果物をカットしてヨーグルトであえ、フルーツサラダにした。
(そろそろ起こした方がいいかしら……)
使い終わったフライパンを洗いながら考えていると、ルート先輩がやってきた。
「おはようございます」
「おはよう。寝過ぎた」
「昨日だいぶ飲んでましたから。二日酔いの薬は要りますか?」
「いや、大丈夫だ」
「ご飯できたところですけど、食べます?」
「食べる」
テーブルに料理を運び、2人で食べ始めた。ルート先輩が美味しそうに食べてるのを見て、嬉しくなる。
「ミーシャ」
「はい」
「昨日のことなんだけどな」
「はい」
「嘘とかノリで言ったわけじゃなくてだな」
「はい」
「お前と離れたくはないんだ」
「はい」
「うまくいくか分からないけど、それでもいいなら結婚するか?」
「はい!」
「即答か」
ルート先輩が小さく笑った。
ミーシャは胸がいっぱいになって、どうしようもなくなった。ただ、嬉しいという気持ちでいっぱいいっぱいだった。
「ルート先輩」
「うん」
「幸せにします」
「うん」
ミーシャはテーブルに乗り上げて、ルート先輩に触れるだけのキスをした。




