Life:20
やや短め。
TLO-BA統合コロシアムサーバー。
コロシアムを中心に関連施設が軒を連ね、街というよりは大型ショッピングモールの様な規模のエリアだ。
外部へのアクセスは無く、差し渡し1km程の円形の空間が塀に囲まれて存在している。
直径400m程のコロシアムと言う小さめの円の最長部を直径1kmの外壁の円が咥え込む構図だ。
唯一つ、コロシアムの正面広場から伸びたメインストリートのどんづまり、その外壁に閉ざされた門がある。
本格的にパブリック化された時にはゲームサーバーに接続される予定の門だ。
将来的にはこのエリア自体が1つの街として機能する予定だが、建物の多くはまだ公開されておらず門戸を閉ざしたままだ。
ただ、コロシアム正面広場に面した数箇所━数件のカフェ、レストラン、武器防具屋、道具屋が公開されている。近日中には(あくまでバーチャルだが)温泉を利用したSPAもオープンするらしい。
そんなコロシアム正面広場にアイカは足を踏み入れた。
広場はゆるいすり鉢状で、中央部は柵のない噴水になっている。外縁部はほとんど傾斜しておらず、面したカフェが屋根付の座席を設置してオープン席にしていて憩いの場を提供している。
そのオープンカフェに香がいるはずなのだが…いた。
だが、少し様子がおかしい。
連れはいないはずなのに、席の周りに何人か人影が取り巻いている。
何事か…近づくにつれ聞こえてきた会話で、なんとなく状況はつかめてきた。
「まぁ、いいじゃねぇか、そんなヤツほっといて仲良くしようぜ」
「そうそう、まだ来てないんだろ?そいつ。俺らが手取り足取りBAについて教えてやるからよぉ」
「…いりません、結構です!っもう、どっか行って下さい!」
ナンパか。
3人組の男達が座席に座った香を逃げられない様にか取り囲んでかき口説いている。
着ているのは大仰なプレートメイルだが、NPC販売の数打ち品だ。TLO組かランカーならモンスター素材の装備を入手できるが、そうでなければ量産品に甘んじるしかない。
放っておいてもハラスメント行為でアカウント剥奪モノだが、そういう訳にもいかない。
「その子に何か用?待ち合わせ相手なのだけれど」
「アイちゃん!」
嫌悪に歪められていた香の顔がパッと華やぐ。
対照的に男達はうろんげな視線を向けてくる。
「なんだ、お前は?」
「耳、わるいの?その子の待ち合わせ相手だって言ったでしょ」
タタタタタッ
「ぁんだぁとお、こらっ!」
タタタタタタダダダ!!
「ハイッ!そこまで。それ以上は不味いよ、君たち。ハラスメント行為で大事になるよ」
チッ余計な事を。
駆けて来たのはれじぇんどを筆頭にした数人のTLO組だった。
皆なにかしらかのモンスター素材を利用した装備を身につけている。
数打ちの装備とは違い、モンスター装備は特殊な能力が付与されている。TLOでモンスターを狩るかコネが無ければ現在は入手不可能だ。
アイカは上位ランクに食い込んでいるのでNPC契約者のリーブラの眼に止まり装備の提供を受けられたのだ。なんでも試作品とかでデータ提供を見返りにかなり勉強してもらった。
「う、む」
ハラスメント行為と聞いて、粋がっていたナンパ男達も現状を把握したようで言葉に詰まる。
加えて駆け付けた面々の装備がようやっと目に入ったのか、相手がTLO組もしくはランカーだということが判ったのか、一気に態度が軟化した。
「い、いや、親切のつもりだったんだ。誤解だ、うん」
「そうそう、誤解させたならわるかったな」
口々に棒読みな言い訳を並べながら立ち去っていく。
ハラスメント行為や規約違反でアカウント剥奪されると、アカウントの再取得はまず不可能だ。なぜなら遺伝子情報をスキャンするTLOではアカウント偽装取得が出来ないし、違反に関しては融通が利かない。もともと営利目的で無い『サナトリウム』を「公開してもらった」訳だから、不穏な人間に対する忌避感は相応なものがあった。
ナンパ共が立ち去った後には、アイカと香とTLO組が残った。
週末までにもうひと更新予定。




