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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第四章 Let`s Party
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第十三話 準備の日々1

ようやく学校生活に

―どうしてこんなところにいるんだ、俺?―

 ドイツでの半ば強制的に参加させられた任務を完了し、日本へと戻ってきたユヅルは、生徒会室のパイプ椅子に座らされ、室内にいる三人の生徒の視線にさらされている。

 事の発端すら、彼には理解できておらず、とりあえず呼び出されたので、出向いてきたのだが、彼が室内に入ってからおよそ十分。誰一人として言葉を口にしていない。

「えっと、俺になんか用でもあるのか?」

 無言の圧力に耐えられなくなったというよりは、このまま時間を無駄にすることの無意味さを考え、会話の糸口をユヅルは放り投げる。しかし、相手は会話に乗ってこない。

―帰りてぇ。今すぐ帰りてぇ―

 ただでさえ、ドイツに行っていたせいで、文化祭の準備は遅れていて、さらに、彼を取り巻く四人の女子の機嫌が悪い。ご機嫌取りをしようとは、彼自身考えてはいないが、自身の取り巻く環境がギスギスしているのは、精神的に好ましくない。それゆえ、どうしようかと考える時間も多少なりとも欲しいと考えている。

「無言で帰らない。意外と義理堅いんですね、ハイドマン君」

 そんな状況で、彼の対面、三人のうち真ん中に座る女子生徒がようやく口を開く。ただ、彼女の左側の少女は未だ、彼を睨んでいて、右側の少女は彼のことを見てすらいないので、室内の空気はあまりよくない。

「大丈夫ですよ、ヒメカ。彼はここで私たちに乱暴するような人ではないらしいから」

 真ん中の女子生徒に言われ、ユヅルを睨んでいた少女、ヒメカがようやく彼に対する敵対心を緩める。

「知っていると思いますが、私が生徒会長の二年一組、品川ヘキルです。彼女は副会長の志摩ヒメカで、こっちにいるのが、会計の犬塚アキホさん」

 自己紹介をし始め、多少空気が和んできたこともあり、ユヅルは体に入れていた力を抜き、パイプ椅子に体重を預ける。

「それで、生徒会長さんが俺みたいな奴に何のよう?」

 呼び出されたので、この室内にいる人間が生徒会の人間であることはある程度予想できていたが、彼は途中編入で、生徒会長の顔を知らなかった。むしろ、生徒会のメンバーを見たのが、今回始めてである。

「ハイドマン君は、確か転入してきたとき、黒髪だったはずですよね?」

「染めてたんだよ。これが地毛だ」

 彼は嘘は言っていない。両目の紋章まではごまかせないので、青のカラーコンタクトを入れているが、流石に金髪はごまかせないので、そのままにしておいた。

「そうですか。まぁ、いいでしょう」

 確認しておきたいことがそれだけなのか、ヘキルは満足そうに笑みを浮かべる。しかし、それが逆に彼の疑心を刺激する。

「ヘキル、遠まわしに相手の態度を観察するのは止めなさい」

 そんな彼女を戒めたのが、意外にも先ほどまでユヅルに対して敵対心を露にしていたヒメカ。

「ハイドマン、こちらの用件は単純だ。生徒会に入れ」

「何言ってんだ?」

「聞き取れなかったか? それとも意味がわからないのか? 安心しろ、どちらでもお前が取れる行動は限られている」

―ダメだこいつ、人の話し聞かないタイプだ―

 半ば諦めたように、ユヅルはため息をつく。タバコを吸って、落ち込んでいく気分を少しでも和ませたかったが、流石に、この場所で吸う気には彼もなれない。

「こちらはこういっているんだ、異端審問局所属の執行官、ユヅル・ハイドマン。貴様の正体をばらされたくなければ、我々に協力しろと」

「いや、別にばらされたところでなんも問題はないけど?」

 脅迫に近い言葉を聴きながら、彼はあっさりと返答を口にする。むしろ、彼にとって見れば、自分の身分を隠しているつもりすらない。ただ単純に、聞かれなかったから答えなかった程度のものでしかない。

「なんだと、貴様、それでもヘキルと同じ執行官か?」

「ふ~ん、俺があったことのない執行官てことは、席次の十一、称号『情報屋』ってとこか」

「なっ、どうしてそれを」

―こいつ、馬鹿だ。それも自分が馬鹿だってことを自覚してない馬鹿だ―

 自分から情報を開示しておきながら、相手がその情報に近いものを持っていない。心理戦においては、致命的とも呼べるミス。それを彼女は平然とやってのけた。だからこそ、ユヅルは完全にあきれていた。

「ヒメカ、ダメじゃない。あなたがこっちの情報を漏らしちゃ」

「うっ」

 戒めるヘキルに、自身の醜態を恥じるヒメカ。先ほどと立場が逆になった二人を見て、

「コントを見せるために俺を呼んだなら、用は済んだよな? これで帰らせてもらうわ」

 付き合っていられないといわんばかりに、椅子から立ち上がったユヅルの目の前にあったのは、ナイフ。しかも、突きつけているのは、先ほどまで会話に一切参加せず、彼に視線すら向けなかったアキホ。

「座って。話はまだ終わってない」

「お前が座ってろ」

 その言葉と同時、ナイフを突きつけていたはずのアキホが、先ほどまで彼の座っていた、パイプ椅子に腰を下ろし、その背もたれに、ユヅルが腰掛けている。

「見たとこ、そっちの馬鹿が表向きに、そんでここの間抜けが、裏向きにお前を守る盾ってことか。間違ってるなら訂正を、情報屋」

 意地の悪い笑みを浮かべ、ユヅルは告げる。

「俺を手ごまにするのは諦めろ。何考えてるか知らんが、俺は駒を動かす側であって、動く側じゃない。むしろ、動かしやすい駒が欲しいなら、席次の十二を紹介してやる」

「やっぱりそうですよねぇ」

 そんな彼の言葉に対して、何の動揺もしていないヘキル。それが、彼に疑惑を抱かせるものの、

「ああ、なるほど、合点がいった。お前の提案か、レベッカ」

 部屋の入り口に、ノックをして現れた執行官に対して、彼はつまらなそうに口にする。

「ばれちゃいましたよ、レベッカさん」

「品川先輩が鋭すぎるのがいけないんですよ」

 彼の位置を通り過ぎ、ヘキルと口論をはじめるレベッカ。彼女がどこの委員会に所属しているか聞いていなかった彼は、若干諦めモードへと移行する。

「はい、自己紹介よろしく」

「あっ、はい。生徒会書記のレベッカ・サウザードです。先輩」

 その紹介を聞いて、彼は頭を抱えたくなってきた気持ちを、どうにか押し戻し、平静を装う。

「あのなぁ、俺は三つ部活掛け持ちしてるんだ。しかも、面倒ごとになぜか好かれる性質だから、これ以上苦労したくないんだよ」

「大丈夫です。生徒会は、活動日が金曜日なので、先輩の入っている部活に影響はでません」

 堂々と胸を張ってレベッカが口にするので、彼は移動し、彼女の額にでこピンをおみまいしてやる。

「どうして俺の周りに面倒な奴らが集まる。本当に、ついてねぇ」

 そうして、苦労性の彼は、生徒会にも参入する羽目になったのである。

最後の執行官登場。

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