天使光臨7
ようやく長かった三章が決着
「ふむ、完全に始末をつけたとおもっていたんだがなぁ」
異端審問局本部、『黒金の檻』。その局長室で、冷めたコーヒーを口に運びながら、部屋の主、アレグリオ・ハイドマンは提出された書類に目を通し、机と放り投げる。
「あいつは、どうした?」
書類を提出した男性、ケイオスへと声をかけ、彼は椅子を回転させて、視界を外へと向ける。
「なんでも、急いで帰らなければならない用事があるとのことで、日本へと今日の飛行機で帰っていきましたよ」
「顔ぐらい見せていけばいいものを」
少し寂しげに、アレグリオは言葉をため息と共に吐き出す。
「今回の件に関して、処罰を受けるものは一人としていない。これは私の決定だ。以上、下がりたまへ」
「はっ」
短い返事と共に敬礼し、ケイオスは室内を出て行こうとするが、ドアノブをまわしたとき、思い出したことがあったのか、振り返り、
「局長。ハイドマン執行官の伝言を伝えておきます。用事を片付けたら、プレゼントを持って帰ってくるから、それまで息災でいろよ。っとのことです」
「プレゼントを受け取るのは立場として、逆だろうに」
アレグリオの言葉を聴いて、彼は微笑し、そのまま室内を後にする。
「それで、俺への説明はいつしてくれるんだ?」
室内に突然現れたウインドからの不躾な言葉を聴き、アレグリオは嘆息し、
「エカテリーナに言われただろう。それは、第一級秘匿事項だと」
「ああ、あの女には確かに言われた。だが、腑に落ちないことだらけでな。なったばっかりの執行官としてではなく、友人として聞きにきた」
彼は許しを得ることなく、ソファに腰掛、アレグリオの回答を待つ。
「ユヅルの力についてか?」
「ああ。あの女が言うには、無限書庫には、天使と悪魔は存在しない。だが、あいつは使うことができる。それはなぜだ。さらに言うなら、あの馬鹿げた力は?」
彼の問いかけに、アレグリオはすぐに答えることはせず、コーヒーを口に少しだけ含んだ後、
「厳密に言えば、天使と悪魔、聖獣と邪竜の四種類が無限書庫には存在しない」
「だが、無限書庫には、すべての魂が保管されているはずだ」
そう、無限書庫はすべての魂が行き着く終着点。その場所に、存在しない魂があることのほうが異常。
「ああ、表向きの無限書庫には、存在しない」
「表向き?」
彼の言葉に不信感を抱き、ウインドは首をかしげる。
「無限書庫には、鍵を持たぬものが入れぬ厳重封印が施されている。その先に、深奥室と呼ばれる、この星の魂に通じる場所がある。そこに、先に口にした四種類の魂が封印され、保管されている」
「ほう」
「鍵は全部で四つ。その鍵は星装具と呼ばれ、手にしたものは到達者と呼ばれている。もっとも、私はあいつ以外の到達者に出会ったことはないがな」
あっさりと、驚愕の事実を告げる。もし、彼が言っていることが真実であるなら、ユヅル以外に三人、魂吸収者が足元にも及ばない、桁違いの存在がいることになる。
「あいつは、なぜそれを持っている? 俺と一緒にいたときには、持っていなかったはずだ」
「それは、上手く隠していたからだろうな。あいつは、生まれながらに持っていたよ」
そう口にして、彼は過去に思いをはせる。
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異端審問局にユヅルを始めてつれてきたとき、星装具を持っている彼に対して、アレグリオは、
「お前は生まれながらにして選ばれた存在だ。そのことを誇りに思いなさい」
確かにそう口にし、彼を褒め称えた。だが、彼の反応は非常に冷めていて、
「どうした、もっと喜びなさい」
「なんで?」
純粋に、どうして喜べばいいのかわからないといった感じで、ユヅルは言葉を返してきた。それについて聞いてみたら、
「星に選ばれて、なんで喜ばなければならない。人より優れていることを誇るなんて、愚者のすることだ。人は、同じ人に出会うことはできない。なら、誰かと比べる必要ない。俺は、そんなものよりも、大切だと思える人が欲しかったよ」
酷く悲しい答えが返ってきて、彼を強く抱きしめたことを覚えている。
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「まぁ、なんにせよ。あいつがいる限り、異端審問局に攻めて来る馬鹿はいない。そういう意味では、最強の広告塔だな」
「あいつは、私の自慢の息子だ。兵器でも、化け物でもないし、ましてや、広告塔でもない。私が愛してやまぬ息子。それだけでいい」
「お互い、親ばかみたいだな」
「違いない」
二人はどちらからとも言わずに、声を上げて笑い出したのだった。
次からようやく日常編へ




